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【インチキ論説】日本は法に固執せず韓国に譲歩すべき

「綺麗事」では物事は進まない:日本は寛大な大人の態度を取れ」

「日本は寛大な大人の態度で韓国に譲歩せよ」。本日は、こんな立場から執筆してみたインチキ論考を紹介したいと思います。しかも、優れた韓国観察者である鈴置高史氏が執筆した論考を「批判する」という大変無礼な記事です。ただ、このインチキ論考を踏まえたうえで、あらためて鈴置氏の最新刊を読めば、「正義」だの「道徳」だのを持ち出すのは無法者の常套手段であると気付くでしょう。

鈴置氏の論考

鈴置氏が「アベなきキシダのチャンス狙う韓国」を警告』でも取り上げましたが、昨日はウェブ評論サイト『デイリー新潮』に、優れた韓国観察者である鈴置高史氏が、こんな記事を寄稿しています。

「アベなきキシダ」なら騙せるはずが… 韓国は安倍元首相死去で右往左往

韓国が一喜一憂する。安倍晋三元首相の死去で日本が再び言うことを聞く国になると喜んだり、岸田文雄政権は思いのほか右傾化すると怯えたり……。右往左往する様を韓国観察者の鈴置高史氏が報告する。<<続きを読む>>
―――2022年07月16日付 デイリー新潮『鈴置高史 半島を読む』より

普段の鈴置氏の論考と比べると、ボリュームはやや少なめですが、それでも読後感に関しては普段の論考とまったく同じか、むしろ鮮烈です。リード文にあるとおり、まさに「右往左往する姿」を観察すること自体が目的だからです。

とくに18日には朴振(ぼく・しん)韓国外交部長官が来日しますが、その意図を含め、かなり深いところまで抉り取った指摘は圧巻というほかありません。もしまだ読んでいないという方がいらっしゃれば、ぜひともご一読ください。

本稿も、この鈴置論考を踏まえた議論です(※ただしインチキ論説ですが)。

本日のインチキ論説

日韓歴史問題は道義的解決を図れ

日韓間には癒えることのない歴史問題があることは、読者の方もご存じのとおりだろう。

日韓間のすべての歴史問題をめぐって、日本政府は公式には1965年の日韓請求権協定で解決済みだと主張するし、強制徴用問題などの歴史問題をめぐっても「韓国側が解決策を持ってくる必要がある」と主張する。法的には、たしかにそうかもしれない。

ただ、それと同時に当たり前の話だが、過去の歴史は「加害者」よりも「被害者」の方が覚えているものであるし、人間社会においてはすべての問題を法で解決することができるものでもない。「条約で解決済みだ」、「法で解決済みだ」で済ませるのが「誠意のある行動」といえるのか、いま一度問いかけたい。

これに関しては、やはり「被害者」である韓国の側の意見が参考になろう。韓国メディア『中央日報』(日本語版)に3月23日付で掲載された『<危機の韓日関係、連続診断25>』という記事にあった、こんな趣旨の記述を読み返してもらいたい。

  • 韓日関係は水平的に変わったが日本の法曹界と交流してみるとまだ韓国の変わった地位が受け入れられていないと感じる
  • 日本も韓国に対する認識を再確立し関係改善の「宿題」をしなければならない
  • 慰安婦・強制徴用など過去の問題は法的手段が究極的解決策になれない

とくにこの「過去の問題は、法的手段が究極的解決策になれない」とする主張、非常に心に響くものだ。世の中は法律、国際法、国際合意だけで動くものではない。人間社会を動かすのは人間であり、人間を動かすのは感情だからだ。

そして、私たちは韓国には韓国の「正義」があることを知っているはずだ。日韓関係の特殊性に照らすなら、日本が韓国に対し、「法」だけを前面に押し出す議論が正しくないことは、今さら指摘するまでもない

韓国が日本を「騙す」?失礼な!

こうした私たち日本人が持つべき贖罪意識を無視した、大変に無礼な記事を発見した。

「アベなきキシダ」なら騙せるはずが… 韓国は安倍元首相死去で右往左往

韓国が一喜一憂する。安倍晋三元首相の死去で日本が再び言うことを聞く国になると喜んだり、岸田文雄政権は思いのほか右傾化すると怯えたり……。右往左往する様を韓国観察者の鈴置高史氏が報告する。<<続きを読む>>
―――2022年07月16日付 デイリー新潮『鈴置高史 半島を読む』より

執筆者は韓国観察者の鈴置高史氏という人物らしいが、記事を読んでいただければわかるとおり、「安倍晋三元首相の暗殺により、韓国が宏池会の岸田文雄首相を騙そうとしている」、など、大変に無礼な記述をするものである。こんな記事が、一部の日本人には大変に受けているというから、世の中困ったものだ。

いちおう、鈴置氏の主張の要点を紹介しておこう。鈴置氏は論考の1ページ目で、さっそく、こんなことを言い出す。

  • 佐渡金山の世界遺産登録の件でもわかるとおり、「自民党の宏池会は言うことを聞いてくれる」というのが中国と韓国での定説だが、外務省はしきりに「日韓関係改善を求める米国から怒られる」とリークしていたが、岸田文雄首相が佐渡金山の登録申請を決めた後もそんな現象は起きていない
  • 厳密に言えば、韓国政府とつるんだ日本の外務省に騙された部分が大きい

外務省が長年、日韓関係の重要性にかんがみ、日韓関係を良好なものに維持しようと腐心してきたという事実に照らすと、こうした記述自体、外務省の努力を無に帰させようとする、大変に無礼なものである。

佐渡金山の件も、強制徴用という負の歴史に蓋をしようとする日本の一部右翼勢力の声が大きかったものであり、その意味では、近隣国との和解がまだ終わっていない日本にとって、過去の清算という動きをますます遠のかせることにつながりかねないのである。

日韓関係の重要性

こうした鈴置氏の主張の続きを読む前に、ひとつ、大事な事実関係を指摘しておきたい。

それは、日本にとって韓国との関係は、切っても切れないものであり、日本自身にとっても韓国との関係性は非常に大切である、という点だ。

そもそも日本にとって韓国は3番目の輸出相手国であり、産業面ではサプライチェーンを通じた密接な結びつきがある。

日本政府が強制徴用判決の意趣返しとして、2019年に韓国に対する輸出規制を導入した際には、当時の文在寅(ウェン・ツァイイン)大統領の旗振りもあってか、韓国で素材・部品・装備の国産化が進み、却って日本企業が輸出先を失うという事態が生じたことは、記憶に新しい。

また、日韓の人的往来もかつては非常に多く、2018年には日韓双方で合計1000万人を超える人々がお互いの国を訪れたが、2019年の輸出規制で日韓間の往来は激減し、2020年のコロナ禍以降は往来がほぼ停止してしまった。大変に残念なことである。

日本では若い女性を中心に韓流ファンも多く、韓国大使館前には韓国への渡航ビザを求める人がひっきりなしに訪れているとも聞く。日本にとって韓国は基本的価値を共有する、かけがえのない友人であり、パートナーだ。一刻も早い相互往来の自由化が求められるゆえんでもある。

そのうえ、地政学的な要因で見ても、日本にとって韓国との関係は大変に重要だ。

北朝鮮の核問題に加え、日本にとっての積年の課題である日本人拉致事件の解決を図るうえでも、韓国との協力は欠かせないし、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続くなか、価値観を共有する日韓両国が深く結びつくことは、将来的な台湾有事のリスクを減らすうえでも重要だ。

歴史を直視しない日本に改憲を議論する資格はあるのか

このように考えていくと、厳しさを増す国際環境は、日本が日韓関係の改善をためらううえでの時間的な余裕を与えてくれていないことは、明白だろう。

韓国側もその事情を理解しているからこそ、日本に対し日韓歴史問題での早急な日本の譲歩と一括妥結を求めているのであり、韓国側が差し出してくれている手を握らないのは理解に苦しむ。

しかも、日本の側の問題点は、ほかにもある。憲法改正だ。

前述の鈴置氏は問題の記事で、次のような主張を展開する。

  • 憲法改正に前向きな「改憲勢力」が、国会発議に必要な3分の2を参院で維持したことを受け、岸田首相は「できる限り早く発議に至る取り組みを進める」と表明した
  • 驚いた韓国各紙は、社説で一斉に日本の改憲を批判し牽制した

このあたりの指摘、鈴置氏はなにか勘違いをしているのかもしれないが、歴史問題の被害者である韓国が加害者である日本の改憲の動きに重要な関心を持つのは、当然のことだ。なぜなら、日本はまだ韓国側が納得するかたちでの謝罪を行っていないからだ。

その鈴置氏自身、記事のなかで、いみじくも韓国メディアのこんな指摘を引用している。

日本の軍事強国化は、周辺国の警戒心を刺激するほかない。帝国主義侵略の歴史を持つ日本が、第2次世界大戦の敗戦後に経済的繁栄を成し遂げることができたのは、憲法9条が象徴する『非武装平和』を受け入れたからだ。過去の反省と謝罪がない日本が再び軍事大国に浮上することに対して、周辺国が懸念するのは当然だ」。

ご自身で引用しておきながら、どうしてこの韓国側の当然の懸念を理解しようとしないのだろうか。

「日本は歴史を直視するどころか回避することに汲々としている」、「右傾化への疾走の前に平和に対する信頼から築かなければならない」とする韓国紙の指摘を、鈴置氏、あるいは同氏の議論を喜々として読むすべての日本人こそ、もっと噛み締めなければならない。

原理原則にこだわり続けるのはいかがなものか

さて、くどいようだが、日韓歴史問題をめぐっては、ややもすれば韓国側が「被害者利権」を振りかざしているフシもみられるし、なかにはそれらがやや行き過ぎているというものもないわけではない。ただ、もしそうであったとしても、それらの原因を日本の側が作ったという点については、我々も直視しなければならないだろう。

なにより、日本がいつまでも国際法の原理原則にこだわり続け、日韓歴史問題の解決から逃げ続けようとするならば、長い目で見て日韓関係を損ね、却って日本の国益に反するという事実については、改めて指摘しておきたい。

もちろん、法的に見れば、現在の日韓歴史問題の多くは、たしかに日本の方に軍配が上がる側面もあるかもしれない。しかし、「法的にはこうだから韓国が全面的に悪い」、だと、進むものも進まなくなる。物事は綺麗事だけでは動かないのだ。

いずれにせよ、日本には、「寛大な大人の態度」に基づく決断が必要な局面である。

幸い、18日には朴振(ピャオ・チェン)韓国外交部長官が訪日し、林芳正(リン・ファンチョン)日本外相との会談が予定されている。尹錫悦(イン・シーユエ)政権の対日関係改善に向けた覚悟が示されるかどうか、そして韓国が差し出した手を日本が握り返すかどうかについて、注目したい。

お詫びと宣伝

いちおう付記しておきますが、上記の「論考」(?)は当ウェブサイトのオリジナルのものであり、引用も転載も、出所さえ示していただければ自由です。大手新聞社の方であっても、どうかご遠慮なくそのまま転載していただいて結構です(※出所は示してくださいね!)。

なお、パロディ目的のインチキ論説とはいえ、大変無礼な引用の仕方をしたことにつきまして、鈴置氏に心より謝罪申し上げます。お詫びがてら、ついでにもうひとつ勝手に宣伝しておきます。

正義は対立する双方にある。だからこそ話し合って妥協点を見つけ、それを守ろうと約束する。これが条約だ。『正義は韓国にある』と言い出して条約を破るのなら今後、韓国とは一切、約束できないことになる」(『韓国民主政治の自壊』P118)。

これは、鈴置氏が先月刊行した『韓国民主政治の自壊』という書籍に含まれる記述です。

今回のインチキ論説でも「正義」だの「無礼」だの、「道徳」だの、はたまた「法的手段では解決できない」だのといった表現を多用してみましたが、こうした「礼儀」に関する単語を多用して相手を批判するのは、法を破る無法者が理屈で反論できない場合の常套手段である、とだけ指摘しておきましょう。

新宿会計士:

View Comments (21)

  • いつもながら、隣国、韓国の幼稚さ、欺瞞、たかり根性を暴くご指摘、誠にありがとうございます。
    彼の国は、いつか独立自尊の気概を持った先進国になる日が来ると思ってたら、間違いでしょうねえ。
    日本は、きっぱりと手を切ることが最上なのでしょう。

  • イムさんw

    今回の鈴置さんの論考って、観察者の立場を離れて外務省に対する怒りが結構あからさまになっている感じ。

    • 匿名 様へ
       韓国では「林」を「イム」と読みます。よって「イム外相」です。

  • 残念ながら?最近は朝日も毎日も東京も、こういう「日本が譲歩しろ!」と言う記事は
    書いていないみたいですね(それ程厳密にチェックした訳ではありませんが)。

    安倍政権終了を切っ掛けとして、親韓派達は自信を失い随分大人しくなった印象があります。
    あまりにも「韓国側が悪い、韓国が間違っている」”証拠”が強すぎて、
    それをくつがえそうとしたら藪蛇になるのが怖くて、何も出来ないのでしょうか?

    韓国がいよいよ「もうダメだ!」状態になった時、彼らはどうするのやら……?

    • 安倍氏のご遺体が自民党本部を回ったとき、親韓派の代表格の2F氏の隣に(おそらく)今は民間人のk村元議員がいましたネ。いやいや親韓派は死んでいない、まだまだ油断は禁物ですね

  • >韓日関係は水平的に変わったが日本の法曹界と交流してみるとまだ韓国の変わった地位が受け入れられていないと感じる

    *先進国入りを自負するのであれば、それに見合った責任(遵法意識)も果たさないとですね・・。

  • 日韓にまたがる用日一派が見たら、嫌な記事でしょうね。
    今回は日本のメディアというより、韓国メディア風ですね。日本のメディアは客観的風を装うせいか(客観的だとは言ってない)、あまり「無礼」とか書かないですね。

    鈴置論考ですが、韓国側で何度も何度も代位弁済案が出てくるのも、日本の外務省内に誤ったメッセージを送る人間がいるから、と考えるとスムーズなんですよね。
    ネット世論で政治が動く局面が増えた今は、彼らの古いやり方が通用しなくなってきているとは思います。
    楽韓さんやシンシアリーさんで、韓国側で流される韓国に都合の良い情報が、日本で紹介されるようになったのも嫌でしょうね。

    何の脈絡もなく(ありますけど)この記事を思い出しました。

    姜昌一氏へのアグレマンは昨年末に出ていた=韓国政府
    https://shinjukuacc.com/20210912-01/

    青山繁晴氏ブログ: 韓国をめぐって護る会が岸田総理に提言その2
    https://shiaoyama.com/essay/detail.php?id=4168

  • インチキ論説、とてもおもしろいですが、、、
    ここの読者なら、ジョークとわかっていますが、そうでない人たちには「正しい主張」と誤解される恐れがあると思います。
    ちょっと手直しして朝〇新聞や毎〇新聞の社説や識者のコメントとして使えそうで怖いです。

  • ガイム省に「大鳳会」というグループがあり、ある宗教団体の目指す「総体革命」の一環として活動している。
    ガイム省で「ある宗教団体」の意思で動いていて、「国」や「ガイム省」以外の意思で外交が壟断されている可能性があるのではないでしょうか?

  • 【独自】と読み間違いそうで、うひゃひゃです。
    ほかに【特報】とか【配信加工記事】とか【とくだね】とか、記者自らどうどう冠をつける風潮が広まると、ジャーナリズムっぽくてより価値が高まると思います。

  • 道徳には道徳を
    恨みには恨みをぶつけるのが効果的です
    さぁ、いまこそ統一教会問題を日韓問題に昇華させるべき時がきました
    隠したり誤魔化すよりも、積極的に政治問題化するほうがお得です

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