邦銀対外与信「5兆ドル」大台に

円安で膨らむ日本の国富

日本の対外与信(最終リスクベース)が、ついに5兆ドルの大台に乗りました。このすべてが米ドル建てであるとは申し上げませんが、円安のために日本の金融機関には巨額の「含み益」が生じていることが期待できることは間違いありません。こうしたなか、国際与信の内訳で見ると、やはりシンガポール、台湾向け与信が伸びる一方、香港、韓国向けの与信が伸び悩んでいる様子がくっきりと浮かび上がってきます。

ついに5兆ドル超え!

ついに、日本の金融機関による「最終リスクベース」の国際与信総額が5兆ドルを超えました。

国際決済銀行(BIS)は四半期に一度、各国の中央銀行からの報告計数などに基づき、国際与信統計(Consolidated Banking Statistics)と呼ばれる統計を作成し、公表しているのですが、これに先立って日銀が「日本集計分」を公表しています。

詳しい解説は日銀の『「BIS国際与信統計の日本分集計結果」の解説』などのページをご参照いただきたいのですが、まずは日銀が本日公表したデータに基づく計数のうち、「最終リスクベース」に基づく「債権合計」について、与信相手国上位20か国を眺めておきましょう(図表1)。

図表1 国際与信総額と上位20ヵ国(2022年3月末時点)
相手国金額前四半期比
合計5兆0216億ドル(100.00%)+1151.61億ドル
1位:米国2兆2190億ドル(44.19%)+1146.76億ドル
2位:ケイマン諸島6456億ドル(12.86%)▲295.59億ドル
3位:英国2359億ドル(4.70%)+8.65億ドル
4位:フランス2029億ドル(4.04%)+26.68億ドル
5位:豪州1523億ドル(3.03%)+112.49億ドル
6位:ルクセンブルク1318億ドル(2.62%)+8.36億ドル
7位:ドイツ1199億ドル(2.39%)▲76.55億ドル
8位:中国1039億ドル(2.07%)▲20.83億ドル
9位:カナダ1023億ドル(2.04%)+53.39億ドル
10位:タイ989億ドル(1.97%)+3.15億ドル
11位:シンガポール848億ドル(1.69%)+37.95億ドル
12位:オランダ755億ドル(1.50%)+14.37億ドル
13位:香港676億ドル(1.35%)+51.88億ドル
14位:アイルランド658億ドル(1.31%)+19.73億ドル
15位:韓国514億ドル(1.02%)+0.38億ドル
16位:インドネシア497億ドル(0.99%)+13.93億ドル
17位:イタリア489億ドル(0.97%)▲36.97億ドル
18位:スイス473億ドル(0.94%)+102.90億ドル
19位:インド433億ドル(0.86%)+17.40億ドル
20位:台湾428億ドル(0.85%)+9.50億ドル

(【出所】日本銀行『BIS国際資金取引統計および国際与信統計の日本分集計結果』データ等を参考に著者作成)

日本の与信の7割は先進国(欧米など)向け

相変わらず、日本の与信総額は巨額です。

そして、このうちの約44%が米国向けであり、これにケイマン諸国向けが続く、という構図です。

ちなみに先進国(米国、欧州、豪州、NZなど)向けの与信は日本の国際与信全体の約70%を占めており、これに「オフショア向け」、「アジア向け」などが続きます(図表2)。

図表2 日本の国際与信の地域別内訳
相手国金額前四半期比
合計5兆0216億ドル(100.00%)+1151.61億ドル
 うち、先進国向け3兆5566億ドル(70.83%)+1320.37億ドル
 うち、オフショア向け8432億ドル(16.79%)▲238.59億ドル
 うち、アジア向け4430億ドル(8.82%)+39.60億ドル

(【出所】日本銀行『BIS国際資金取引統計および国際与信統計の日本分集計結果』データ等を参考に著者作成)

いずれにせよすごい金額ではあります。

そして、これらの金額の多くがおもに米国や欧州諸国、豪州といった「先進国」に向けられているというのが日本の金融機関における国際与信の特徴といえるのかもしれません。

シンガポール向け与信が伸びる一方、脱香港傾向

こうしたなか、じつは米国向け、欧州向けなどに関しては、あまり本稿で報告すべき特徴はありません。

それよりも興味深いのは、アジア諸国の同じような経済圏に対する与信額の推移です。

たとえば、香港向けの与信とシンガポール向けの与信を比較すると、興味深いことがわかります(図表3)。

図表3-1 香港向け与信

図表3-2 シンガポール向け与信

(【出所】日本銀行『BIS国際資金取引統計および国際与信統計の日本分集計結果』データ等を参考に著者作成)

香港向けは直近四半期で多少伸びているにせよ、傾向としては低落が続いています。これに対し、シンガポール向け与信は右肩上がりです。

香港もシンガポールも、アジアにおけるオフショア金融センターとして知られているのですが、少なくとも邦銀の投資行動を見る限り、シンガポールに対する与信は順調に伸びているのに対し、香港に対する与信はこのところ停滞が続いています。いわば、「脱香港」の動きがくっきりしている格好です。

台湾↑韓国↓

また、これと同じく、台湾と韓国に関しても、興味深い相違がみられます(図表4)。

図表4-1 台湾向け与信

図表4-2 韓国向け与信

(【出所】日本銀行『BIS国際資金取引統計および国際与信統計の日本分集計結果』データ等を参考に著者作成)

これで見ると、邦銀の台湾向け与信は右肩上がりで増えているのに対し、韓国向け与信は2012年第3四半期ごろを境に明らかに伸び率が鈍化し、与信額自体は2017年第4四半期をピークに横ばいから減少傾向が見られます。

そのうち日本の対外与信でも、台湾と韓国の逆転が生じるかもしれません。

このあたり、金融は政治と無関係だ、などと指摘されることもあるのですが、やはり政治的・法的に不安定な香港や韓国ではなく、政治的に安定している、あるいは約束をちゃんと守ってくれるシンガポールや台湾に、日本のマネーがシフトしているように見受けられるのは、単なる偶然ではないのでしょう。

個人的には親日国でもある香港との関係が薄まるのは残念ではあるのですが…。

ロシア、ウクライナ、ベラルーシ向け

ちなみに、ロシアに対する国際与信は減少の一途をたどっており、日本の金融機関にとって2022年3月末時点におけるロシア向け与信は80.24億ドルにすぎず、2021年12月末の98.16億ドルと比較して、さらに17.92億ドルも減りました。

そもそも邦銀のロシア向け与信はもともと非常に少なかったのですが(図表5)、これがさらに減少した格好です。

図表5 ロシア向け与信

(【出所】日本銀行『BIS国際資金取引統計および国際与信統計の日本分集計結果』データ等を参考に著者作成)

なお、ウクライナ向けの与信は0.602億ドル(=6020万ドル)、ベラルーシ向けの与信は0.005億ドル(=50万ドル)ですので、いずれも日本の与信総額(5兆ドル)からしたら無視できる金額であると考えて良いでしょう。

もっとも、今回のウクライナ戦争が、無事にロシアの敗退で終了したあかつきには、日銀をはじめ世界各国が差し押さえているロシアの外貨準備が、そのままウクライナの戦後復興資金に充てられる、といった展開については、十分に考えられる話です。

その際には、世銀や欧州復興開発銀行(EBRD)あたりの保証に加え、日本政府のODA予算なども活用し、巨額の資金がウクライナの復興のために提供される可能性が高いでしょう。もしかしたら日本の金融機関もウクライナ向けにそれなりに巨額の与信を行うのかもしれません。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 引っ掛かったオタク より:

    香港は既に中共に呑まれた様に思われますが…
    PRCの政治体制が我々側の価値観にシフトしてこない限りは”魔都香港”再来は期待できないかと

  2. Sky より:

    このトピックはかなりのビッグニュースだと思うのですが、円安=庶民に悪影響=参議院選挙で与党に悪影響としたいのだろうマスコミは全く取り上げませんね。
    何れにせよ、円安=基幹産業回帰=国力回復かつ海外資産価値増大、という流れを実現して欲しい。

  3. より:

     この巨額を国内で運用できれば良いのに。失われた30年とは、国内で金を回せなくなった30年なのではなかろうか。

  4. 匿名 より:

    庶民の期待通り、ドル資産を処分して円に変えて円高に誘導すればいいんですかね?

  5. バシラス・アンシラシスは土壌常在菌 より:

    日本の低金利で金を借りて他国に投資するのが儲かるからね

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