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東アジア版トルコ目指す獅子身中の虫・韓国=鈴置論考

鈴置高史氏は韓国を「獅子身中の虫」にたとえ、「東アジア版のトルコ」を目指しているとする仮説を提示しました。長文ながらも大変読みやすく、そして非常に説得力が高い分析です。ただ、お叱りを覚悟で申し上げるならば、個人的には「東アジア版のトルコ」ではなく、「東アジア版のベラルーシ」を見てみたかったな、という気がしないではありません。

米国の同盟国としての韓国

尹錫悦政権でも日韓関係の基調は変わらない

「韓国で尹錫悦(ユン・ソギョル)政権が発足した。5年ぶりとなる保守政権だ」――。

日韓を問わず、韓国の尹錫悦(いん・しゃくえつ)政権について報じるメディアの記事を読むと、だいたいこんな文章で始まります。そして、たいていの記事がその続きで、「文在寅(ムン・ジェイン)政権下で悪化した韓日関係にも修復の期待がかかる」、などと主張しています。

この手の主張、韓国メディアではそれこそ一時、毎日のように見られましたし、韓国の朴振(ぼく・しん)外交部長官が訪日するという報道(たとえば『竹島不法調査受け、日本政府は韓国外相来日を拒否せよ』等参照)でも、やはり文在寅(ぶん・ざいいん)政権下で「悪化」した日韓関係改善への期待が示されています。

抗議では済まされません。韓国が日本の排他的経済水域(EEZ)で日本の許可なく勝手に調査を行っていたとして、日本政府が韓国政府に抗議したそうです。しかし、韓国が新政権になってもこの手の不法行為を日本に仕掛けてきたという事実は、日本が求める「国と国との約束を守る」かたちでの日韓関係正常化があり得ないことを意味します。とりあえず、日本政府は韓国国民に対するビザ免除措置再開を見送るとともに、韓国外相の訪日受入を拒否すべきです。韓国の二重の不法行為とゼロ対100理論日韓諸懸案といえば、基本的には韓国の日本...
竹島不法調査受け、日本政府は韓国外相来日を拒否せよ - 新宿会計士の政治経済評論

この点、文在寅政権下で日韓関係がさらに「悪化」(?)したことは間違いありません。ただ、当ウェブサイトでは「事実関係」を何よりも重視しており、こうした立場からは、日韓関係「悪化」の全責任を文在寅氏になすりつける態度はいただけません。

たとえば、『【総論】韓国の日本に対する「二重の不法行為」と責任』でも詳述したとおり、現実には「保守政権」であるとされていたはずの、李明博(り・めいはく)、朴槿恵(ぼく・きんけい)両政権下においても、今日にまで続く諸懸案の源流は、いくつもいくつも発生している、という事実を無視するのはいかがなものかと思います。

世間では少し勘違いしている人が多いようですが、日韓諸懸案とは韓国の日本に対する「二重の不法行為」の問題です。解決する全責任は、韓国側にあります。そして、日本が議論しなければならないことは、「どうやって韓国に譲歩して折り合いをつけるか」、ではありません。「約束を守らない韓国を、どうやって罰するか」、です。本稿では「総論」として、これまでに当ウェブサイトで触れてきた「韓国の対日不法行為」の数々を、大ざっぱに振り返っておきます。韓国の対日不法行為、尹錫悦政権発足後に「風化」していないか?2022年5月1...
【総論】韓国の日本に対する「二重の不法行為」と責任 - 新宿会計士の政治経済評論

これに加えて、現実に韓国側から日韓諸懸案を巡る解決策がほとんど出てきていない、という事実については見過ごせません。尹錫悦政権が発足してそろそろ1ヵ月が経ちますが、尹錫悦氏自身、スピード感をもって仕事をしているようには見えないのです。

いずれにせよ、当ウェブサイトの見立ては、「尹錫悦政権下でも日韓関係が劇的に変わることはない」、とするもので一貫しているつもりです。

対日外交だけではない、対米外交も同じ

ただ、こうした見立てを敷衍(ふえん)するならば、韓国が新政権下で文在寅外交を完全に転換する可能性もまた、非常に低い、という意味でもあります。

そのことがよくわかるのが、『「均衡外交だけが韓国の新しい千年を開く」=韓国紙』でも取り上げた、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に掲載された、「韓国は米国だけでなくロシアとも関係を深めるべき」とする記事でしょう。

今度は「米露二股外交」、でしょうか。韓国メディア『中央日報』(日本語版)に本日、私たち日本人の多くにとっては理解し辛いであろう記事が掲載されていました。「韓国は米国だけでなく、ロシアとも関係を深めねばならない」、と主張する記事です。のっけからボタンの掛け違いも目立つ記事ですが、これを読めば、日本が基本的価値を共有しない国との関係を深めるリスクの一端が見えるかもしれません。リセットコリアシリーズは「日本人必読」以前から韓国メディア『中央日報』を眺めていると、『リセットコリア』、あるいは『危機の...
「均衡外交だけが韓国の新しい千年を開く」=韓国紙 - 新宿会計士の政治経済評論

記事のリンクを再掲しておきます。

【コラム】沿岸国の呪いを解くには…韓国、米露両国と関係増進すべき(1)

―――2022.05.30 13:50付 中央日報日本語版より

【コラム】沿岸国の呪いを解くには…韓国、米露両国と関係増進すべき(2)

―――2022.05.30 13:50付 中央日報日本語版より

この記事、中央日報にしてはやたらと長文であるだけでなく、議論がとっ散らかっていて、文章の途中でいったい何が言いたいのかわからないくだりなども出てくる、ある意味では難解な代物ではあります。

完全な勘違いに立脚した議論

ただ、我慢して何とか精読し、著者の方が言いたい内容を汲み取るならば、「米国の同盟国であっても米国と完全に歩調を合わせているわけではない」、「だから韓国も自らの判断でロシアとの関係を構築すべきだ」、といったものが、主張の要諦であろうと思われます。

なかでもとくに重要な主張が、次のようなものだと思います(※日本語表現については意味が通じるよう、原文を修正している箇所があります)。

  • ドイツでは石油、天然ガスなどの対ロシア依存度が50%を超えており、そのドイツを含む欧州連合(EU)諸国のロシア制裁とエネルギー輸入の中段措置は長く続かないだろう
  • 米国は友邦の対ロシア制裁にも例外を黙認している
  • 米国の同盟国イスラエルは対ロシア経済制裁に参加せず、ミサイル防衛用のアイアンドームと情報用ペガサスに対するウクライナの輸出要請も拒否した
  • インドは対ロシア制裁どころか、ロシア産石油の輸入を倍に増やした
  • インドネシアは米国の反対にもかかわらず、ロシアのプーチン大統領をG20首脳会議に招請した
  • 日本は対ロシア経済制裁に積極的に参加しているものの、石油・天然ガス開発事業であるサハリン1・2プロジェクトなど、自国のエネルギー安全保障関連事業については放棄しないという点を明確にしている

…。

そのうえで、この著者の方は、「均衡外交だけが韓国の新しい千年を開く」として、「現在のウクライナ戦争で再編されるかもしれない国際秩序がいつか北東アジアの地政学的生態系の復元に決定的な障害にならないよう世論を喚起し、賢明な対外政策を進めていく必要がある」、と主張します。

記事のタイトルや文脈から判断する限り、この方のおっしゃる「賢明な対外政策」とは、米国に全面的に従うのではなく、ロシア、あるいは中国とのバランス外交を展開すべきである、とするものなのでしょう。

記事の間違いが翌日に証明されるというスタイル

このあたり、先日の繰り返しになりますが、この記事に根本的な欠陥があるとしたら、「方向性」という議論を完全に見落としている点です。

まず、西側諸国の対露制裁に全世界が賛同しているわけではない、という点に関してはそのとおりですし、ロシアに対する厳しい制裁を主導するEUでさえ、ロシア産のエネルギーの輸入をすぐにストップすることができなかったのも事実です。

ただ、G7などがロシアに対する厳しい制裁を課している理由のひとつは、ロシアが国際法を踏みにじったからであり、今回のロシアの暴挙を許せば、地球上のそこここで国際法が破られる前例を作ることになりかねないという危機感にあるのです(おそらくその最大の脅威を感じているのは台湾でしょう)。

だからこそ、G7を中心とする西側諸国は、ロシアによるウクライナ侵略という暴挙を可能な限り全力で止めなければなりません。

この点、ウクライナがNATO非加盟国であり、ロシアが国連安保理常任理事国・核保有国・資源国であるという事実を踏まえるならば、西側がロシアに軍事侵攻できないのは止むを得ません。しかし、西側諸国が現在可能なあらゆる手段を講じているという事実を、この中央日報の記事はあまりにも軽視し過ぎです。

とくに、この論考では「欧州連合(EU)諸国のロシア制裁は長く続かない」などと決めつけていますが、はたしてそれは正しいのでしょうか。その答えは、このコラム記事が出た翌日に出てきました。

EU leaders agree to ban export of Russian oil to the bloc – EU’s Michel

―――2022/05/31 07:16 GMT+9付 ロイターより

EU agrees on partial embargo on Russian oil, cutting Sberbank off SWIFT

―――2022/05/31 09:01付 タス通信英語版より

ロイターによると、欧州理事会のシャルル・ミシェル議長は月曜日、欧州連合(EU)各国がロシア産の原油の輸入を禁止する方向で原則合意したと述べたそうです。

これに加えてタス通信の記事によると、これまでSWIFTNetから切断されていなかった、ロシア最大手のズベルバンクについても、今後はSWIFTNetからの切断措置が講じられるそうです。

「EUによる対ロシア制裁は長続きしない」と断言した中央日報の記事が出てきた翌日に、こんな話題が出て来ること自体、韓国の「識者」がいかに西側諸国の動向を読めていなかという証拠でしょう。

「韓国=獅子身中の虫」論

さて、先ほどのコラム記事自体、中央日報としての社説ではありません。あくまでも外部者の意見として、中央日報が寄稿を受け入れた格好です。

しかし、いかに外部者の意見であったとしても、社是と根底から頃なる議論をわざわざ掲載するはずはありませんので、この記事の意見自体、ある程度は中央日報の社内の考え方を代弁したものと考えて良いでしょう。

いや、もっと視野を広げるならば、中央日報だけでなく、韓国社会全体で、「米国の同盟国」という現在の立場を利用しつつも、中国やロシアなどと仲良くしていこうとする姿勢が見られます。これが後述する「獅子身中の虫」論です。

このことを、もう何年も前から強く主張してきた人物がいます。日本を代表する優れた韓国観察者である鈴置高史氏です。

その鈴置氏の偉業は、何といっても韓国・朝鮮半島を観察する際に、「中韓関係」と「米韓関係」という視点を追加したことにあります。

私たち日本人の目からすれば、やはり日韓関係が非常に目立ちますし、日韓関係自体が重要だと思う人が多いのも間違いありません。しかし、日韓関係自体はしょぜん、日米関係の従属変数のひとつに過ぎません。

このあたり、韓国が米国をテコとして日韓関係を自国に有利な形に持って行こうとしてきたことは間違いありませんが、それと同時に見落としてはならないことは、米国が中国を明確な「敵」に位置付けたことにより、こうした手国の戦略自体が破綻したことです。

このことは、鈴置論考を10年来読み続けていたら、勘の良い人なら気付くはずです。

「獅子身中の虫」論

鈴置氏「東アジアのトルコを目指す韓国」

ただ、韓国が「米中二股外交」を繰り広げてきた事実を米国が問題視していることに、韓国自身が気付いていないフシがありますし、日本の一部の政治家や外務省関係者のなかにも、このことを意識していない人がいるのは困った話だと思います。

だからこそ、基本的に鈴置論考は「日本人必読だ」、というのが当ウェブサイトとしての意見なのですが、その「必読論考」がまたひとつ出てきました。

「東アジアのトルコ」になりたい韓国、「獅子身中の虫」作戦で中国におべっか

米国回帰を謳う尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権。だが、韓国観察者の鈴置高史氏は「それは口だけで米中二股外交に変化はない」と見切る。証拠はIPEF(インド太平洋経済枠組み)である。<<続きを読む>>
―――2022年05月31日付 デイリー新潮『鈴置高史 半島を読む』より

6000文字ほどの論考です。

先ほど紹介した中央日報の記事よりも少し長いですが、読みやすさでいえば、こちらの鈴置論考の方が圧勝しています。というのも、文章の方から私たち読者に語り掛けて来るからです。

今回のテーマは、米国が主導する「IPEF」、つまり「インド太平洋経済フレームワーク」です。

このIPEFに尹錫悦大統領自身が「参加する」と表明したことで、さっそく中国が強く反発し、『環球時報』(英語版)が韓国を強く牽制する記事を相次いで出し、韓国メディアからも中国の報復を警戒する意見が掲載された、などとするやり取りが詳述されています。

いつもながら豊富な証拠と平易な(しかしハイレベルな)解説、本当に度肝を抜かれることばかりです。本当にどこまで広く資料をかき集めているのかといつも驚かされますし、それらの資料をひとつの論点に集約する力量は、まさに超一流のジャーナリストのなせる業と言わざるを得ないのです。

優れた韓国観察者は、優れた中国観察者でもあった!

ちなみに、個人的には鈴置氏のことを「韓国観察者」と称すべきではない、と考えています。その理由は、鈴置氏が韓国だけでなく、中国、米国などさまざまな国の反応を鋭くえぐり取る能力を持っているからです。たとえば、こんな具合です。

――中国は怒っているでしょうね。

鈴置:『怒る』というよりも『恐怖』でしょう。中国は経済的な自立を目指し、半導体などハイテク産業を育成中です。IPEFの発足により、この計画が頓挫する可能性が高まった。中国からすれば、首にかけられたロープがこれから締まっていくのです」。

少し前までなら『仮想敵だからと言って商売まで止めはすまい』とタカをくくっていられました。でも、ロシアがウクライナに侵攻した瞬間、西側は直ちに半導体などの対ロ輸出を止めました。西側の国は米国が掲げた『自由と民主主義を守る』との旗印の下に結束したのです。この団結ぶりは予想外だったでしょう」。

この部分だけでも良いので、国会議員の全員、そして外務省の全職員に、是非とも読ませたいと思ってしまいます。ここを踏まえておかなければ、さまざまな潮流を読み誤ります。IPEFに13ヵ国が参集したのも、「ウクライナ効果」だったからです。

まさに、鈴置氏は「優れた中国観察者」でもあるのです。

韓国「獅子身中の虫」作戦

それはさておき、鈴置論考の本領は、記事のタイトルにもある「獅子身中の虫作戦」、という表現です。

韓国自身がIPEFに参加すると述べてしまった手前、引っ込みがつかなくなっているなか、鈴置氏は韓国政府がIPEFを無効化する小陰謀を凝らしている、と指摘します。それが、中韓FTAの深化です。

中韓FTAは2015年12月に発効、2017年12月からはFTAをさらに深化するための交渉に入りました。当初はサービス貿易や投資の自由化に関し話し合っていましたが、ここに来て商品の供給を円滑にするための交渉を始めた、というのです」。

では、その目的は一体なにでしょうか。鈴置氏はこんな趣旨のことを指摘します。

  • 中国の台湾侵攻などで中国と西側の対立が深まれば、米国はIPEF加盟国に対し対中半導体供給を絞るよう命じるだろう
  • その際、「商品の円滑な供給を約束した韓中FTAがあるので、米国の要求には応じられない」とはねのける仕組みを韓国は作り始めた

いわば、「獅子身中の虫作戦」、というわけです。

それだけではありません。

韓国がいち早くIPEFへの参加を決めたのは、「IPEFに創業メンバーとして入ることで発言権を確保し、対中包囲網の色合いを薄める」、という狙いがある、というのです。

この作戦について複数の新聞がさりげなく報じていることから見て、政府高官が匿名を条件にメディアにレクチャーしたと思われます。韓国人特有の対中恐怖心により、IPEF加入への反対が盛り上がるのを政府は防止したかったと思われます」。

そして、こうした韓国の動きに対し、環球時報英語版が5月26日付の “China, South Korea to embrace larger devt; hope Seoul ‘does what it says’: ambassador” のなかで、次のような記載で応じました。

“South Korea stressed that it will join the IPEF based on principles of openness, transparency and inclusiveness, and we hopes it could do what it says, Xing noted”.

鈴置氏によると、この記述は、「尹錫悦大統領の参加表明発言を引用し『開放性・包容性・透明性の原則に基づいてIPEFを推進する』と約束した以上、それが実行されることを望む、と念を押した」ものだとしていますが、こうやって畳みかけるテクニック自体、「宗主国」としての中国の本領のようなものでしょう。

東アジア版トルコ

ここでもうひとつでてくるのが、タイトルにもあった「東アジア版トルコ」です。鈴置氏は「獅子身中の虫」としてIPEFに飛び込むという「せこい手」を使う韓国について、こうも指摘します。

韓国はトルコに似ています。トルコは、フィンランドとスエーデンがNATO(北大西洋条約機構)加盟を希望すると難色を示しました。既存の加盟国の全会一致が必要条件ですから、トルコが決定権を握った形です。『クルド人テロリストを両国が匿っているから』との名分を掲げていますが、NATO拡大の阻止に動くことでロシアにいい顔をしたい、というのがトルコの本音でしょう」。

なかなかに興味深い視点です。

そういえば、「トルコ」という国名で思い出すのは、トルコと韓国が通貨スワップを締結しているという事実と、トルコが中国から通貨スワップで人民元を引き出した国である、という事実です。

前者は『トルコと韓国が「ローカル通貨建てのスワップ」を締結』で触れたとおりですが、その後、トルコの通貨・リラが暴落し、韓国にとっての通貨スワップの価値が半減してしまったという「オチ」もついています。また、後者については『トルコが中国との通貨スワップを実行し人民元を引出す』などでも触れたとおりです。

自称専門家さん、韓国のクアッド参加は断られましたよ

ちなみに5月のジョー・バイデン米大統領の訪韓時には、韓国が「日米豪印クアッド」の枠組みに入るという話は出てきませんでしたが、これに関しても、じつは鈴置氏の以前からの見立て通りでもあります。

鈴置氏は今回の論考でも、韓国が「獅子身中の虫」になろうとしていることを米国が見抜いているからこそ、クアッドに参加させない、という見方を示しています。

鈴置:十分に知っているからこそ、Quadに入れないのでしょう。もし加入させれば、中国と呼応して内側からQuadを揺さぶるのが明らかだからです。韓国は中国とは敵対しない『準メンバー』などというムシのいい資格で潜り込もうとしましたが、米国ははっきりと拒絶しました」。

鈴置氏がその証拠として用いているのは、当ウェブサイトでもこれまでしばしば引用してきた、ホワイトハウスのジェニファー・サキ報道官の5月2日の会見 “Press Briefing by Press Secretary Jen Psaki, May 2, 2022” です。

“There are many ways that we engage with South Korea.  It’s an incredibly important partnership, relationship.  But the Quad will remain the Quad.  We will continue to engage with South Korea through a range of mechanisms and — and continue to work on our — the strength of our relationship.”

これに関する鈴置氏の見立てがまた秀逸です。

『韓国との関係改善を急ぐ』と表明している岸田文雄首相も、5月24日に東京で開いたQuad首脳会議の冒頭挨拶で『地域諸国と歩む』として『ASEAN(東南アジア諸国連合)、南アジア、太平洋島嶼(とうしょ)国』を挙げましたが、韓国は無視しました。『韓国を入れるつもりはないから、甘い顔をするな』とのお達しが米国から来ていたのかもしれません」。

これは、いったいどういうことでしょうか。

鈴置氏はこう続けます。

『Quad入りを日本が邪魔したら、米国に怒られるぞ』といった情報を韓国政府が流しては日本政府にQuadの扉を開かせようとしていたからです。それを真に受け『大変だ。米国に怒られる!』と言って回った日本の専門家もいたほどです」。

…。

まるで「韓国はこちら側に戻ったぞ」、「このチャンスを生かすために日本は譲歩しなければならない」、などと叫ぶ人たちを牽制しているかの記述に見えるのですが、気のせいでしょうか?また、その自称「専門家」とはもしかして、韓国が約束を破ってきたという事実を無視する、某新聞社の編集委員あたりでしょうか。

日経新聞に週末、『時代が要請する「日韓同舟」』と題したコラム記事が掲載されていました。この記事からは、日韓関係改善論者の典型的な思考パターンを読み取ることができます。韓国の日本に対する一方的不法行為の数々をことごとく無視し、「安保上の理由で日韓関係改善が必要だ」、などと主張しているものだからです。しかも驚いたことに、これを執筆したのは日本経済新聞社の編集委員の方だそうです。日韓関係改善論の詭弁当ウェブサイトで常々取り上げている「日韓関係改善論者の思考パターン」とは、「日本にとって韓国は大事な...
韓国の約束破り無視する「関係改善論」=日経編集委員 - 新宿会計士の政治経済評論

日本がどうかかわるのか

裏切りの結果は通貨でお仕置き?

さて、鈴置氏の言う「韓国=獅子身中の虫」仮説が正しければ、早晩、韓国は何らかの形で米国を「裏切る」でしょう。これに対し、米国は一体どう対処するつもりなのか気になりますが、鈴置氏は次のように述べます。

鈴置:日本と組んで半導体素材の供給を絞る手があります。また、韓国が通貨危機に陥った際にドルを貸さない、といった手口も有効です。これも日本と歩調を合わせる必要がありますが」。

米国が韓国と通貨スワップ(Bilateral Currency Swap Agreement)や為替スワップ(Foreign Exchange Liquidity Swap Agreement)を締結する可能性が皆無に近い点については、当ウェブサイトでも『なぜ米国は韓国と通貨・為替スワップを締結しないのか』などで詳述したとおりです。

「通貨スワップに準じた協力」は「FIMAレポ・ファシリティ」を意味するのだとしても、正直、FIMAレポ・ファシリティは為替スワップの代替とはなり得ません。韓国では現在、米韓通貨スワップ待望論がやたらと高まっている状況ですが、結論的にいえば米国が現状、韓国との通貨スワップ協定に応じる可能性は非常に低いです。そして、近日中にこうした期待はそのまま「日韓通貨スワップ待望論」に変化するのではないかと予想します。米韓通貨スワップ論米韓通貨スワップ待望論、あるいは「スワップに準じた協力」最近、なぜか韓国...
なぜ米国は韓国と通貨・為替スワップを締結しないのか - 新宿会計士の政治経済評論

ただ、米国との通貨スワップの可能性の芽がないなら、おそらく韓国は日本との通貨スワップ締結を模索するでしょう。

こうしたなかで、日本が韓国との通貨スワップを再開する可能性も、同様に、極めて低いです。2015年の慰安婦合意で含まれた「日本大使館前の慰安婦像問題の解決」が実現していないどころか、2016年には日本総領事館前に新たな慰安婦像まで設置されたからです。

国と国との約束を反故にされた状態を韓国が解決することなしに、日本が韓国と通貨スワップを再開するのは、極めて困難でしょう。いわば、裏切りの結果は「通貨でのおしおき」という形で出て来るかもしれません。

韓国のベラルーシ化を見てみたい?

さて、今回の鈴置論考、末尾はなかなかピリリと風味が効いた記述が含まれています。

尹錫政権は『親米』を謳いますが、『従中』に変わりはない。『東アジアのトルコ』にお灸を据えるのか。2022年3月の大統領選挙で文在寅氏以上の反米政治家、李在明(イ・ジェミョン)氏が当選していれば、韓国は『ベラルーシ』になっていた。それと比べればましなので、とりあえずは見逃すのか――。米国の判断がカギとなります」。

…。

敢えてお叱りを覚悟で申し上げるなら、「李在明(り・ざいめい)大統領」が実現し、韓国が「ベラルーシ」化するシナリオについて、見てみたかったという気もします。なかば「怖いもの見たさ」ではありますが…。

しかし、現実にはトルコであれ、ベラルーシであれ、韓国が米国にとって信頼がおけない相手国であるという意味では同じでしょう。いや、むしろ「ベラルーシ化」の方が、米国の目から見て、いっそのことスッキリしていたのかもしれない、などと思う次第です。

新宿会計士:

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  • トルコが決定権を握ったとは見事な喝破です。エルドアン大統領はロシア衰退は必至とみてオスマン帝国復興を夢見ているのかも知れません。未完の An-225 二号機竣工をゼレンスキー大統領に開戦前に持ちかけていたという記事も目にしました。遼寧は元はウクライナの未成艦でもありました。繰り出す手だてを持つトルコほど韓国が老獪とは思えませんが、トルコからはほんとうに目が離せなくなっています。イスタンブール記者にはがんばって欲しいものです。

  • 韓国のベラルーシ化もですが、オーストリア化をもう一度観てみたいですね。
    まぁ、韓国は米中戦争で中国が負けたら「脅されたから仕方なくなんだ!私は悪くない!中国が悪い!」と自己弁護するでしょうけど。

    「商品の円滑な供給を約束した韓中FTAがあるので、米国の要求には応じられない」という名分は、使えるかどうかと通るかどうかは別問題なんですよね。
    韓国が中国に対し「使う」と述べた場合、中国にしたら「使ったけど通らなかった、供給出来ません」なんて結果になるようでは受け入れられない訳で、韓国は日米に対しその名分で通す、というか押し通す事が前提な訳で。
    確か《日本人の「できません」韓国人の「できます」中国人の「できました」は、信じるな》ってジョークがあるのですが、まさに此れだなぁと。

  • 身中の害虫。
    やはり韓国の保守派大統領誕生は厄介ですね。
    表立って反日してくる文と違って、周りに良い顔を見せつつ裏では反日する、これに呼応する日本国内の連中も多い。
    まだ大統領が保守派なだけで中身は左派だらけだから、まだ見極めが必要という声が多いのは安心かな。

  • 韓国はどこへ行くのか、ですが、私は①歴史的経緯から反中意識は韓国民に根強いこと(半面、恐中でもありますが)②政治・経済体制は、民主主義・資本主義であること③日米・西側陣営が、中国・専制陣営に勝利する可能性が高いこと(勝ち馬に乗る気質あり)、から、ブルーチームに入るのだろう(その一員である)と、考えています。ただ、隣に金正恩というプーチンより何をしでかすか分からない危険人物を抱えている割には、危機意識が希薄で、もどかしく思っている次第です。このような国ですから、クアッドというような主要国・コアメンバーに入れる必要は、ありません。またIPEFのような広く薄く参加国を募りたい時には、”賑やかし”メンバーとして、歓迎すればいいのではないでしょうか(ベトナムやフィリッピンと比べれば、さほど韓国だけが二股と非難される筋合いではない)。それよりも、IPEFの中身を、具体的メリットをどう構築していくか、日米外交当局の腕の見せ所なのではないでしょうか。

  • フィンランド、スウェーデン両国のNATO加盟にトルコが難色を示している理由としては、確かに鈴置さんが指摘するようなロシアへの「忖度」もあるかとは思いますが、どちらかといえば、一種のゴネ得を目論んでいるためではないかと考えています。
    トルコは長年にわたってEU加盟を目指してきましたが、EUからはずっとぶらかされてきました。細かな宗派の違いはあれど基本的にキリスト教を文化的基盤とするEU諸国としては、世俗国家を謳ってはいるもののイスラム教を文化的基盤とするトルコはちょっとねという思惑はわからんでもありませんが、トルコとしては大いに不満だったでしょう。ならば、ここで一つゴネておいて、飴玉を引き出すチャンスと捉えても不思議ではありません。結局のところ、EU諸国としては、トルコの「譲歩」を引き出すために、何らかの飴玉を与えざるを得ない状況になりつつあると思います。

    そのように考えると、韓国が「トルコ化」を目指しているのではないかという見立ては、過大評価なのではないかと思います。韓国がそこまで考えるほどしたたかであるようには到底思えないからです。韓国が求めているのは、ひたすら甘やかしてくれ、甘い汁を吸わせてくれるような「親分」だけであり、その場その場の目先の損得だけであると見ているからです。従って、どの陣営から見ても「獅子身中の虫」になる得るという、とても困った存在にしかならないと考えるべきだと思います。
    尹錫悦政権が前政権とは異なる外交方針で臨もうとしているのは確かでしょうが、韓国人の特性や国内事情を考えると、そう簡単に大胆な方向転換を為し得るのかはわかりません。さしあたり、THAAD運用正常化を実施できるかどうかが最初の試金石になると思います。それすらもできないようでは、その先を期待することなどできません。

    • 龍様

      ロシアに恩をうるというのもあるとは思いますが、私もメインはごね得狙いの条件闘争だと思います。フィンランドとスウェーデンのNATO加盟は既にEU内では既定路線で、これに反対し続ければトルコもEU内で孤立します。どこかの時点で折り合うと見ています。
      韓国についてはひたすら目先の損得だけ見ているというのはその通りと思います。

  •  韓国が自国の国益を最大化するにはどうしたら良いのかを考えた結果がそれで、日米とは価値基準が異なる以上その判断が正しいとか間違いだとか言ったところで意味はない。そういう国とどう付き合うのかが日米が考えるべきこと。
     それよりも、
    Q)Are you willing to get involved militarily to defend Taiwan if it comes to that?
    A)Yes. That’s the commitment we made.
    このやり取りを横で聞いていて無反応だったひとがこれからどうするつもりなのかの方が日本にとってよほど重要。

  • トルコには、自らに大国化の意思があると思います。欧露の仲裁をしようとするのもその一環と思います。他に対抗馬もいませんけど。
    北欧2国のNATO加盟にミソをつけたのは、今の有利な立場を利用した思いつきだと思います。事前には賛成していたそうですし。

    韓国には表面的なプライドはあっても、大国化を目指した行動は出てきません。政権を維持するためにロシアの言いなりになる選択をしたルカシェンコ(ベラルーシ)のほうが合ってると思います。今の大統領でもそうでしょう。

    中韓FTAの獅子身中の虫説は初見でした。露骨すぎですね。
    新大統領にその意図があるかはわかりませんが、結果的にその機能を果たしていきそうな気がします。w

  • 南国はトルコになり得ません。
    トルコが何故EUに加盟できあにかといえば、単なるアジア差別です。
    NATOに入っているのは、黒海問題を抱えているからです。
    (ボスポラス海峡に軍艦を通させない為)
    更にトルコは技術大国であります。
    翻って南国は自称技術大国であり、軍事大国ですが
    戦車の一つも完成させる事ができません。
    (エンジン・トランスミッションが造れないし、5cmの段差も
    乗り越えできません)
    又、南国は中共の配下であり、自由主義国同盟に入るのは、
    中共の指示により、その組織を内側から破壊する事が目的です。
    地政学的な場所にいると思っているから、米国が見捨てられない
    と思っているだけです。

    • >>5cmの段差も乗り越えできません

       こういう下らない嘘を書くのは止めたら?

  • お疲れさまです。

    川添恵子さんのユーチューブ動画をみました。
    中国の収容所で身体検査として連れていかれて、二度と戻ってこない。臓器移植の病院には、火葬場があるそうです。
    ヨーロッパは、本気でこの非人道的行為に反対するとおっしゃってました。

    どちらにつくかです。

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