あの国の通貨の決済シェアはタイバーツ・マレーシアリンギット以下
SWIFTがほぼ毎月公表している通貨別決済シェアランキングについて調べていくと、大変興味深いことが判明します。「あの国の通貨」が、過去にただの一度もランキングに登場したことがないのです。また、人民元の国際化が2015年を境にピタリと止まっているという当ウェブサイトの仮説は、このSWIFTのデータからも説明できるようです。
目次
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RMBトラッカーとは
『SWIFTシェア落とした人民元:ルーブルはランク外』を含めて、当ウェブサイトでかなり以前から取り上げてきた話題のひとつが、国際的な決済電文を運営するSWIFTが公表している『RMBトラッカー』という統計データに関するものです。
国際的な金融制裁を受けるロシアにとって人民元は貴重な決済手段なのでしょうか。SWIFTの最新データで見ると、ロシアの通貨・ルーブルが決済シェアランキングから完全に姿を消す一方、人民元の決済シェアについても2022年1月と比べて減少していることが判明します。もっとも、人民元の決済シェアについての解釈は、なかなかに複雑です。国際化がまったく進まない人民元中国の通貨・人民元は2016年10月に国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)構成通貨に指定されましたが、そのわりに国際化が全然進んでいないことについ... SWIFTシェア落とした人民元:ルーブルはランク外 - 新宿会計士の政治経済評論 |
この『RMBトラッカー』は国際送金(顧客を送金人とする取引や銀行間の取引)の通貨別シェアなどから構成される、ほぼ毎月公表されているレポートです。また、SWIFTが過去に公表したRMBトラッカーについては、ウェブサイト “RMB Tracker document centre” で確認できます。
(※ただし、公表形式はPDFファイル形式であり、また、フォーマットがバラバラであることに加え、過去データについては公表されていない月があるなど、データとしては非常に扱いづらい代物ではありますので、ご注意ください。)
ちなみに著者自身はこのPDFファイルをひとつずつ確認し、データベース化して簡単に抽出できるかたちに加工しているのですが、ただ、個人的にその入力が大変に面倒だという事情もあり、2015年ごろまでしかデータの入力を行っていませんでした。
RMBトラッカーに関する事実
こうしたなか、先日、時間があったので、いったいいつからデータが公表されるのかを調査がてら、過去に遡って公表されているデータをすべて入力し、データベース化を完了しました。その結果、次のことが判明しました。
- 毎月の上位20通貨に関する決済シェアデータで最も古いものは2012年1月のもの
- 連続データとして存在するのは2012年8月分以降で、現在のところ、2022年4月分まで公表済み
- ただし、2013年8月分、2013年11月分、2014年11月分の3つのデータが欠落している
- 2015年12月以降はユーロ圏を除外した決済シェアランキングデータについても公表されるようになった
- ただしユーロ圏を除外したデータについては2016年9月分のデータが公表されていない
このあたり、国際決済銀行(BIS)や国際通貨基金(IMF)などのデータと異なり、データの完全性という点ではやはり不足があります。また、公表されているのは「決済シェア」であって、「決済金額」ではありませんので、この点についても分析上はどうしても限界が生じるポイントでしょう。
(※なお、以下の議論では、シェアやランクをグラフ化する際には、データが存在しない月は前月のデータをそのまま使用しています。)
人民元の国際化は2015年で止まった!
もっとも、公表されているデータが不完全なものであるという前提を置いたうえで、改めてこのデータを眺めていると、なかなかに興味深いことがいくつか判明することも事実です。
そもそも論として、RMBトラッカーは、その名のとおり、もともとは「人民元(Ren Min Bi)」が世界の国際送金に占めるシェアを喜々として公表するものだったはずなのですが、肝心の人民元の決済シェア自体、2015年でほぼ成長が止まってしまっていることがわかります(図表1)。
図表1 人民元(CNY)の決済シェアとランキングの推移(ユーロ圏を含めたデータ)
(【出所】RMBトラッカーより著者作成)
これで見てみると、RMBトラッカーの通貨別ランキングの公表が始まった2012年8月頃は、人民元の決済シェアはわずか0.5%であり、ランキングも14位でしたが、これが2013年以降急浮上。
2013年12月にランキングでヒトケタ台(8位)に浮上し、決済シェアも1%を超え、2014年12月にはランクで5位、シェアで2%を突破。2015年8月にはシェアが2.79%に達し、ランクも日本円を抜いて史上初の4位にまで浮上しました。
ところが、日本円を追い抜いたはずの人民元の決済シェアは、翌月には再び日本円に追い抜かされ、2016年以降は決済シェアが2%を割り込んだり、2%を再び超えたりを繰り返しながら、決済シェアランキングも7位から5位の間を行き来するようになったのです。
このあたり、「中国の通貨・人民元は2015年以降、国際化への動きがピタリと止まった」(『数字で読む「人民元の国際化は2015年で止まった」』等参照)とする当ウェブサイトの仮説は、こうしたSWIFT統計から導き出されている、というわけです。
本稿は、昨日の『中国当局には人民元の国際化を容認する覚悟はあるのか』では取り上げ切れなかった統計データをまとめて収録しようというものです。昨日の議論に関連し、これまで当ウェブサイトで解説してきた内容を一気に紹介しています。まだの方は是非、昨日の議論を確認したうえでご一読くださると幸いです。結論的には「人民元国際化の動きは2015年前後でいったん止まったが、油断はできない」、というものです。人民元決済・データ編本稿の位置づけは「統計データのまとめ」昨日の『中国当局には人民元の国際化を容認する覚悟は... 数字で読む「人民元の国際化は2015年で止まった」 - 新宿会計士の政治経済評論 |
「人民元が一時的にシェア急増」の不自然さ
ちなみに2021年12月には人民元が再び日本円を抜いて4位に浮上し、翌・2022年1月には決済シェアが史上初の3%の大台を突破したのですが、2月以降は再び市場シェアが低下し、日本円に追い抜かれてしまいました。
これに加え、2015年12月以降、公表が始まった「ユーロ圏を除外した場合の通貨別決済シェア・ランキング」については、人民元のシェアとランキングは、図表1の場合と比べ、いずれも低下します(図表2)。
図表2 人民元(CNY)の決済シェアとランキングの推移(ユーロ圏を除外したデータ)
(【出所】RMBトラッカーより著者作成)
なぜユーロ圏内のデータを含めた場合の方が、それ以外の場合と比べて決済シェア、ランキングがともに上昇するのかについては、著者自身、残念ながら現時点において明確な原因を特定するには至っていません。ただ、敢えて仮説を挙げるならば、パッと思いつくのは次の2点でしょう。
- 中国企業のユーロ圏内における支社・子会社、あるいは在欧華僑などが、何らかの事情で欧州(※ユーロ圏)から中国本土に対し、旺盛に送金している
- 中国と関係のない国(たとえばロシアなど)が、米ドル建ての取引を敢えて忌避し、西側諸国の通貨ではない人民元を取引に使おうとしている
この2つの仮説、どちらも説明としては不十分ですし、また、これらの仮説が正しいかどうかを証明する手段も少ないのが実情です。
もっとも、この2つの仮説のうち、とくに2番目のものに関しては、ロシアの行動とある程度は整合するものでもあります。
というのも、『開戦準備の証拠?ロシア外貨準備でドルが急減していた』でも触れたとおり、ロシア中央銀行のデータによれば、ロシアは2022年1月時点において、外貨準備に占める人民元建て資産の割合を、1年前と比べて大幅に増やしていることが確認できるからです。
中露は金融の世界で「一蓮托生」の関係になってしまったロシア中央銀行がつい先日公表したレポートを読んでいくと、中露両国が金融面で一蓮托生になってしまった可能性が浮かび上がりました。つまり、中国はロシアに対し、最大で1250億ドルを支援しなければならない可能性があるのです。また、ロシアはとくにこの1年間で米ドルの資産を571億ドル分減らしていたことも判明しましたが、これはロシアがウクライナ侵攻の事前準備をしていたという間接的証拠でもあります。外貨準備で増える人民元外貨準備で米ドルの割合は徐々に低下以前の... 開戦準備の証拠?ロシア外貨準備でドルが急減していた - 新宿会計士の政治経済評論 |
したがって、人民元の決済シェアが2022年1月に膨張しているように見受けられる点については、ロシア中央銀行の行動と、何らかの関係があるのかもしれません(※このあたりは現時点においてはあくまでも想像の域を出ませんが…)。
いくつかの通貨はシェアを落とした
さて、次に興味深いのは、いくつかの通貨において、シェアとランキングが大きく変動しているケースがあるのです。その典型例として挙げておきたいのが、豪ドル、スイスフラン、ロシアルーブルです(図表3)。
図表3-1 豪ドル(AUD)の決済シェアとランキングの推移(ユーロ圏を含めたデータ)
図表3-2 スイスフラン(CHF)の決済シェアとランキングの推移(ユーロ圏を含めたデータ)
図表3-3 ロシアルーブル(RUB)の決済シェアとランキングの推移(ユーロ圏を含めたデータ)
図表3-4 ロシアルーブル(RUB)の決済シェアとランキングの推移(ユーロ圏を除外したデータ)
(【出所】RMBトラッカーより著者作成)
人民元の台頭の影響でしょうか、豪ドルとスイスフランの2つの通貨に関しては、2015年以降、明らかにシェア、ランクともに落ちています。
一方、ロシアの通貨・ルーブルに関しては、ユーロ圏を含めたデータでは2012年8月頃はランキングで13位に食い込んでいました。しかし、これが2015年以降はランク外に押し出されることが増えたのです(ちなみにウクライナ領であるクリミア半島の強制併合が行われたのが2014年3月のことです)。
また、ユーロ圏を除外したデータでは、その後もほぼ20位圏内に入っていたのですが、2月24日に始まったウクライナ軍事侵攻への制裁措置として、西側諸国がロシアの主要銀行をSWIFTNetから遮断する措置を講じたためでしょうか、3月以降、ルーブルはランク外に消えています。
過去に一度でも登場したことがある通貨
上記の議論に加え、もうひとつ興味深いのが、このSWIFTシェアランキングに登場したことがある通貨です。これを列挙すると、次のとおりです。
2012年8月から2022年4月の間にRMBトラッカーに一度でも登場したことがある通貨
- AUD…豪ドル
- CAD…加ドル
- CHF…スイスフラン
- CLP…チリペソ
- CNY…人民元
- CZK…チェココルナ
- DKK…デンマーククローネ
- EGP…エジプトポンド
- EUR…ユーロ
- GBP…英ポンド
- HKD…香港ドル
- HUF…ハンガリーフォリント
- ILS…イスラエルシェケル
- JPY…日本円
- MXN…メキシコペソ
- MYR…マレーシアリンギット
- NOK…ノルウェークローネ
- NZD…ニュージーランドドル
- PLN…ポーランドズボティ
- RUB…ロシアルーブル
- SEK…スウェーデンクローナ
- SGD…シンガポールドル
- THB…タイバーツ
- TRY…トルコリラ
- USD…米ドル
- VEF…ベネズエラボリバル
- ZAR…南アフリカランド
(【出所】RMBトラッカーを参考に著者調べ)
…。
これは、大変に興味深い結果です。
全部で27通貨ありますが、この10年間で上位20位圏内に入ったことがある通貨は、これら27種類しかない、という意味です。
アジア通貨でいえば、日本円、人民元、香港ドルに加え、東南アジア諸国連合(ASEAN)の通貨であるシンガポールドル、タイバーツ、マレーシアリンギットがランクに入っています。しかし、ASEAN最大の人口を誇るインドネシア、中国に次ぐ人口を誇るインドの通貨は含まれていません。
台湾や韓国の通貨は登場しない
ところで、半導体王国である台湾や韓国の通貨も、上位20位圏内に入った実績は、ただの一度もありません。いわば、SWIFTランキングだけで述べるならば、韓国ウォンはタイバーツ、マレーシアリンギットよりもさらに地位が低い、というわけですね。
これなど、「経済大国が通貨大国とは限らない」、という典型的な事例といえるのかもしれません。
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お隣さんの通貨は
街の商店街でしか使えない
地域振興券を巨大にした感じ?
の通貨だったんですねw
それなりなGDPあるのに
自国民に信用されてないから
海外取引でも好んでは使われないww
インドネシアの通貨ルピアは現在でも為替レートが0.0087円=1円です(もっと昔は0.005円以下だったような)。更に1ルピア=100センと細かくなります。現地で両替すると大量の紙幣をもらえて、急に金持ちになった気分を味わえます。でもビジネスの上では桁数が多くなりすぎてエクセルの枠内に入りきれないのが難点でした。
一万円札が登場したのは昭和33年1958年だそうですが、日本円通貨圏である釜山あたりでは一万円札はたいそう厚遇されたとどこかで読みました。万札で支払うと喜ばれる。蓄財性が桁違いに高く(当時)、そもそも欲しいもの、手に届く贅沢は日本製ばかりだったからでしょう。
台湾と韓国は産業構造が似ているばかりでなく、自国通貨よりも外貨に重きおく蓋然性とセンチメントが国民の間にありそうです。今般の為替変動で日本円を少しでもたくさん持とうとする動きが両国で発生したそうですし。
データでお示しいただいたように
G8?どころかG20の中でも
脆弱通貨グループの
韓国ウォンなのです。
それを、
崩壊しそうだからと偉そうに
対等にスワップニダとの
厚かましさが
まさしく韓流ですなあ。
まずは国際法違反の
解消してからですが
もし反日を謝罪解消しても、
ローンにも審査があるように
「残念。審査に通貨として不合格でした」
と言ってあげることといたしましょう。