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バイデン訪韓でむしろ浮き彫りになった韓国の米国離れ

クアッド・IPEF巡り揺さぶり強める中国

バイデン米大統領の日韓両国訪問は、むしろ韓国が「米国陣営」から脱落しそうになっているという現状を浮き彫りにしたのかもしれません。米韓共同声明と日韓共同声明の「温度差」もさることながら、中国からの「クアッド牽制」「IPEF牽制」の動きに対し、韓国側では「4強外交から抜け出せ」などの主張も出てきたからです。それも、韓国を代表する保守メディアで、です。

クアッドを警戒する中露両国

先日東京で行われた日米豪印「クアッド」首脳会合の成果のひとつといえば、日米豪印4ヵ国があらためて「自由、民主主義、法の支配、人権」といった基本的価値を共有していることを確認した、という点にありますが、それだけではありません。

といっても、『「できるところから協力する」クアッド会合のスタイル』でも触れたとおり、正直、「対中牽制」「対露牽制」という意味では、必ずしも十分とは言い切れない部分がありました。中国を名指しせず、また、ロシアに対する非難のトーンも不十分だったからです。

昨日は東京で日米豪印4ヵ国(クアッド)の首脳会合が開催されました。前回に続き、中国を名指しした批判などは盛り込まれませんでしたが、ロシアによるウクライナ侵略については「ロシアを批判する」とする文言はなかったにせよ、「力による一方的な現状変更を許さない」とする声明が盛り込まれ、また、宇宙空間、サイバーセキュリティ、5Gなどの重要技術・サプライチェーン、さらにはリアルタイムでの海洋監視などのさまざまな分野で合意がなされました。成果としては、上々でしょう。もりだくさんのクアッドクアッドの2回目の対...
「できるところから協力する」クアッド会合のスタイル - 新宿会計士の政治経済評論

もっとも、少なくとも中国、ロシアの政府、国営メディア等の反応を見る限りにおいては、むしろ彼らの側が「クアッド諸国」、とりわけ日本に対する警戒を強めていることは、明らかでしょう(『中露の反応を見ればクアッドが成功だったことは明らか』等参照)。

日米豪印クアッド首脳会合が対中・対露牽制の観点から成功だったか失敗だったかについては、相手国の反応を見るのが手っ取り早いでしょう。昨日はクアッドを巡って中国が日本に対し「強烈な不満」を表明した、とする話題を取り上げましたが、ほかにも興味深い話題がありました。ロシアのメディア『イズベスチヤ』が、「インドを反ロシアに引き入れる米国の試みは終わった」などとする論評を掲載していたのです。中露牽制という視点では物足りなかったクアッド昨日の『「できるところから協力する」クアッド会合のスタイル』でも取り上...
中露の反応を見ればクアッドが成功だったことは明らか - 新宿会計士の政治経済評論

日韓に対する米国側からの「温度差」

ただ、こうしたなかでもっと気になったのは、ジョー・バイデン米大統領が韓国、日本を相次いで訪問したなかで、日韓両国に対する米国の「温度差」が浮き彫りになったことです。

バイデン氏は今回、日本よりも先に韓国を訪問したのですが、これに関して韓国メディアでは事前に「日本より先に韓国を訪問するのは異例だ」などと歓喜していたフシがあります。

もちろん、米国側からは、「訪問する順序に意味はない」といった見解が出ていたことは間違いありません。実際、ホワイトハウスのジェニファー・サキ報道官は5月2日の会見で、「日本を差し置いて韓国を先に訪問すること」については「とくだんの深読みをすることではない」と述べています。

Press Briefing by Press Secretary Jen Psaki, May 2, 2022

―――2022/05/02付 ホワイトハウスHPより

ただ、蓋を開けてみたら、訪問順序に意味はないどころか、米韓共同声明と日韓共同声明の「温度差」が浮き彫りになった格好です(『大変濃厚な日米共同宣言と「新時代」を迎えた日米関係』等参照)。下手をしたらバイデン氏の訪韓は、訪日の「前座」のようなものだったのかもしれません。

ことに、韓国側が求めていたとされる「米韓通貨スワップ」(ないし米韓「為替」スワップ)については、事実上のゼロ回答であっただけでなく、米国からは「為替介入をするな」との牽制を受けた格好ともなりました(『完全な勘違いに立脚した米韓通貨スワップ待望論=韓国』等参照)。

米韓首脳共同宣言を受け、一部の韓国メディアが再び「通貨スワップ待望論」に火を付けました。ただ、韓国政府はこの「通貨スワップ待望論」を巡って、何とか水面下に押しやろうとしているフシがあります。米国が韓国と通貨スワップ(あるいは為替スワップ)を締結する可能性は、極めて低いからです。したがって、そろそろ「韓米通貨スワップ待望論」が「韓日通貨スワップ待望論」に化ける可能性への備えをしておいても良いのかもしれません。「韓米通貨スワップ待望論」の実際中央日報「韓米共同宣言は常設通貨スワップ構築の土台か」...
完全な勘違いに立脚した米韓通貨スワップ待望論=韓国 - 新宿会計士の政治経済評論

韓国にとって、米韓首脳会談は「成果」に乏しいものだったといえるかもしれません。

日韓間を「仲介」しなくなった米国

ただ、これが米韓間の問題にとどまれば良いのですが、そうとも限りません。

従来であれば、日韓関係がギクシャクしているときには、米国が積極的に「仲介」の労を取ろうとしていたフシがありましたが、今回、こうした「米国の仲介」という動きが、(少なくとも表向きには)まったく見られないのです。

さらには、『日本の輸出「規制」解除と米国の仲介に期待示す韓国紙』でも触れたとおり、韓国側からはバイデン大統領が日韓関係の「間を取り持つ」ことへの期待感が示されていたフシがあります。

口を開けば「輸出規制解除」だ、「韓日通貨スワップ」だと主張する韓国メディア。これに対し、日本の側でも「韓国との関係は大切だ」、「日韓関係改善が必要だ」などとする主張が相次いでいるようです。ただし、少なくとも「対韓輸出『規制』解除」は、現時点では絶対にありえない選択肢です。そもそも日本が輸出「規制」を韓国に適用している事実もありませんし、また、対韓輸出管理適正化措置の原因を作ったのは韓国の側だからです。対韓輸出規制解除に期待を示す韓国メディア昨日の『待望の通貨スワップは「完全ゼロ回答」=米韓首...
日本の輸出「規制」解除と米国の仲介に期待示す韓国紙 - 新宿会計士の政治経済評論

しかし、大変残念なことに、現実の日米共同声明を読むと、韓国について触れられている箇所は「日米韓3ヵ国連携」という表現のみに留まり、「日韓関係改善が必要だ」、といった趣旨の文言は含まれていませんでした。

というよりも、米国の現在の対アジア外交の姿勢は、日米豪印「クアッド」を中核としつつ、そこに米英豪「AUKUS」やインド太平洋経済フレームワーク「IPEF」などが重層的に重なる、といった構造です。

米国から見た韓国の重要性は、どうしても薄まらざるを得ません。

「クアッド」「IPEF」を強く牽制する中国

こうしたなか、韓国が日米両国の側につくのか、中国の側につくのかを巡る動きは、むしろ首脳会合後に激しくなってきたようです。韓国メディア『朝鮮日報』(日本語版)の報道によると、24日に韓国で行われた国際セミナー「インド太平洋と韓中日関係」で日中韓3ヵ国の「専門家」らが「正面衝突」した、というのです。

「クアッドはアジア版NATO」VS「力による現状変更を阻止するのは当然」…ソウルで韓中日の識者が激論

―――2022/05/25 18:59付 朝鮮日報日本語版より

これによると、中国・復旦大学国際問題研究員の林民旺(りん・みんおう)教授が「クアッドは『アジア版NATO』であり、台頭する中国を牽制しようというものだ」などと主張し、「韓国も参加するつもりなのか」と畳みかけたのだそうです。

一方、これに対し米ハドソン研究所研究員の村野将氏は「中国は既存の規範に基づいた国際秩序を力によって変更しようとしている」と述べたのだとか(なお、中国側の主張に対し、韓国側の参加者がどう反論したかについては、記事を読んでもよくわかりません)。

ちなみに朝鮮日報の記事をもとに、中国側参加者の発言を列挙しておくと、こんな具合です。

クアッドとIPEFは経済安保同盟であり、科学技術分野で脱中国をもくろむ排他的な国際秩序だ。韓国と日本が米国の力を借りて中国牽制という戦略的な目標を達成しようというものだ」(中国社会科学院日本研究所の張勇(ちょう・ゆう)研究員)

中国のアジア太平洋戦略の核心は開放であり、中日韓はすでに地域的な包括的経済連携(RCEP)に加入している。IPEFに参加することでRCEPを放棄すれば、韓国や日本にとっても不利に作用するだろう」(中国社会科学院アジア太平洋・グローバル研究院の王俊生(おう・しゅんせい)研究員)

一方で村野氏は「中国、ロシア、北朝鮮は、核の脅威を基に、米国が介入の意思を固める前に従来型の戦力によって現状を変えようという共通の戦略を保有している」と指摘。

そのうえで、「米国とその同盟各国は、現状変更を画策する三つの核武装国を同時に抑止しなければならないという未曽有の状況に置かれている」、「中国の核戦力については備蓄・配備の状況や運用の実態も不透明だ」、などと述べたのだそうです。

まさに、日韓両国が米国と団結するのを防ごうとする中国と、中国による不透明な軍拡を牽制する日本、そして日中の間でおろおろする韓国、といった構図ですね。

韓国保守系メディア「4強外交を抜け出せ」

その一方で、同じく韓国メディアに、現在の韓国の姿勢を示すうえで興味深い記事が、ほかにもありました。今度は韓国メディア『中央日報』(日本語版)のこんな記事です。

「サプライチェーン・食料難対応…韓国、北方国家と協力強化を」

―――2022.05.26 09:36付 中央日報日本語版より

潘基文(はん・きぶん)前国連事務総長が25日、「第2回韓半島-北方文化戦略フォーラム」なる会合で、「韓国は4強中心の外交から抜け出し、北方地域の国家と互恵的な協力を通じ、政治・経済的利益を確保する必要がある」と述べたのだそうです。

このセミナーは、中央日報が韓国外国語大学国際地域研究センターHK+国家戦略事業団、世界テコンドー連盟、大韓貿易投資振興公社と主催したものだそうです。

また、ここでいう「北方地域」とは、「アゼルバイジャン、ウズベキスタン、ジョージア、カザフスタン」などをさすのだそうです。これらの諸国、地理的に見て「韓国の北方」なのかどうかはよくわかりません(少なくとも地理的には真西に近い関係にあります)。

ただ、米国から「半導体同盟に加われ」と要求された直後に、有力紙である中央日報や「大韓貿易投資振興公社」という公的機関が堂々とこのようなセミナーを共催するというのも驚きます。いや、もちろん中央アジア諸国との連携は良いのですが、「4強外交から抜け出せ」という主張はなかなかに強烈でしょう。

世間的には「尹錫悦(いん・しゃくえつ)政権は5年ぶりの保守政権だ」、「米韓関係は好転するだろう」、といった評価をする人も多いのですが、むしろ今回の米韓首脳会談自体、韓国が「米国陣営(?)」にコミットできない国であることを露呈させたという意義があったのではないかと思えてならないのです。

(※そうした意義をもたらすことを、ジョー・バイデン米大統領自身が意図していたかどうかは別として。)

新宿会計士:

View Comments (12)

  • 出典サンケイ。@岸田バイデン首脳会議。「首相はいわゆる徴用工訴訟や慰安婦問題を抱える韓国について、国家間の合意を無視してきた過去の経緯を挙げながら、日韓の関係改善に前のめりになるバイデン氏を説得した」。-----本当なら、検討士から格上げせねば。

    • 今度失敗したら許さないからな

      国民からの声なき声がようやく耳に届いたのかのかも知れません。
      されば彼は難聴だったのだろうか。

  • >「韓国は4強中心の外交から抜け出し、北方地域の国家と互恵的な協力を通じ、政治・経済的利益を確保する必要がある」

    米中の対立に巻き込まれたくないってのはわからないでもないのです♪

    ただこの言説のいちばんの突っ込みどころは、「互恵的な協力」というとこだと思うのです♪

    韓国に、目先の利益のために相手を利用するとかじゃない、「互恵的な協力」というものが可能だと思ってるのでしょうか?

    (ヾノ・ω・`)ムリムリ 
    と、思うのです♪

    • 七味様
      仰られるように、彼らに「互恵的な協力」は無理ですね。
      握手で始まり悪手で終わるまでがお約束なんですものね。

      身勝手な振る舞いの末に周辺国からハブられ、"弾除け" を求めて中央アジアへ・・。
      他国からの干渉を受けない”真の独立国(ひとりっこく)”へとまっしぐらなんですよね。
      きっと。

  • 北方って、タンタン共和国集団の事ですか?
    北方というから、露か北国かと読んでいて混乱しました。
    ところで、タンタン区共和国連合に、南国が何か影響を
    およす事ってありました?
    遼河付近の一部が南国人になったからという理屈ですかね~?
    お金も技術も無いのに、ど~するんだろう?
    中共の腰ぎんちゃくで活動するのか、はたまた。
    まさか、いつものように日本の中央アジア向けプロジェクトに、
    名前を偽装して潜り込むのかな~。

  • 「ただ、蓋を開けてみたら、訪問順序に意味はないどころか、米韓共同声明と日韓共同声明の「温度差」が浮き彫りになった格好です」の文中の「米韓共同声明と日韓共同声明」は「米韓共同声明と日米共同声明」のタイプエラーではないでしょうか?

  • 米国の日韓関係についての基本スタンスは「両国に関係改善を促しつつも、日韓の交渉には直接関与しない」というものだと思われます。いわゆる慰安婦合意における水面下の働きかけと同じですね。これだと万一どちらか(韓国しかありませんが)が、「前政権のやったことで国民の同意を得ていない」と反故にしても、もう一方の国(日本のことです)から、表立って責められることはありませんから。また、米国の外交当局は、日本の一貫した立場や、日本国民の感情を十分に理解してはいると思いますが、対中国包囲網という全体像からみて、日韓和解が望ましいと考えていることも確かでしょう。従ってこの問題は、米国の意向ではなく、日本国民が日韓関係をどう考えるか、だと思います。韓国の対応に問題はあるが全体像を見て保守政権のうちに和解しておくか、いやいやここで中途半端な妥協をしては”河野談話”の二の舞になると考えるか、です。私は断じて、後者の見解です。米国が表立って介入してこない限り、韓国が全面的に非を認めない(そんなことはありえないでしょう)限り、テーパリングで良し、です。韓国の新外相が訪日を検討しているようですが、具体的な解決策を持ってこない、先だっての”政策協議団”なるものと同レベルなら、岸田首相は面談してはいけません。

  • >まさに、日韓両国が米国と団結するのを防ごうとする中国と、中国による不透明な軍拡を牽制する日本、そして日中の間でおろおろする韓国、といった構図ですね。

    韓国はオロオロしているのではなく、日米と中国の双方から手を引かれるモテモテ状態だと勘違いしてるんじゃなかったでしたっけ?

    結構前ですが、尹炳世氏が韓国の国会だかでそう答弁してたような。

    • >ただ、米国から「半導体同盟に加われ」と要求された直後に、有力紙である中央日報や「大韓貿易投資振興公社」という公的機関が堂々とこのようなセミナーを共催するというのも驚きます。いや、もちろん中央アジア諸国との連携は良いのですが、「4強外交から抜け出せ」という主張はなかなかに強烈でしょう。

      韓国人の視点では、米国からの「半導体同盟に加われ」との要求は韓国に価値があるからであり、加わる事を外交カードにして米国から何かを受け取って当然なんじゃないですかね?

      文在寅政権のGSOMIA破棄未遂でも米国から破棄するなと繰り返し言われてますけど、韓国にとって其れは警告では全く無く、言われれば言われる程に外交カードとしての有効性を確信する方向へ働いたようですし。

      韓国的思考回路は独特ですよね。

      曖昧な言い方では希望的観測が最大限炸裂してナナメウエに行くわ、はっきりした言い方ではツンデレな言動だと勘違いして暴走するわ。

      • > 米国からの「半導体同盟に加われ」との要求

        に、明確に「No」と答えたのではないでしょうか。

        その証拠は、直後の寒損の、「450兆ウォンの投資、内8割は韓国国内、韓国で8万人新規雇用。」という発表でしょう。
        8割が韓国内向けという事は、残り2割は米国と中国に半分ずつという事かな?

        要するに、対米投資は、情報等を盗む為だけのもの、主たる製造は韓国内で行い、売れる技術等は売れる内に中国へ売って行く、という経営方針を固めたのでしょう。

        米国で現地人を採用するより韓国人を米国に送った方が、修得後に呼び戻し易い。

        • 墺を見倣え さん

          双方からモテモテだと勘違いしているのだから、米国から満足する利益を得られなければ米国に「No」と言う事に違和感はないと考えます。

          GSOMIAの破棄の時みたいに破棄後にあれこれ言われなけば、踏み絵では無かったと理解して終わるのではないかと。

          北朝鮮みたいに分かり易くは無いですけど、してる事は瀬戸際外交ですよね。

  • もうどうでもいいでしょう、こんな国。今回の一連の首脳会議を通じ、流石の岸田ー林ラインも最低限言うべきは言ったとされているし。

    それよりも岸田政権には対中国を見据えた安全保障体制の構築(防衛費倍増、憲法改正とそれに続く自衛隊活動に対する各国並みの法整備などを通じ、米国に「すがりつく」宏池会流安全保障からの脱却)を早く進めて欲しいものです。

    それが実行に移せた時こそ、岸田政権に対する不安も払拭出来ようと言うものです。

    でも無理だろうなあ… 宏池会の政治資金パーティに中国人が参加している段階で…