ウォン小康状態も韓国紙「ウォン安恐怖いつでも再来」
中国が対韓通貨スワップ停止なら韓国はどうなるのか
韓国の為替市場は小康状態を取り戻しました。韓国の不透明な為替介入を牽制したはずの米韓共同声明が、なぜか「米国が通貨スワップに準じた協力をコミットしてくれた」とする勘違いも根強いようです。ただ、いつまた為替相場が不安定化するかわかりません。こうしたなか、当ウェブサイトとして現在、可能性のひとつとして考えているのが、中国が対韓制裁として、4000億元の通貨スワップを停止するかどうか、という論点でもあります。
目次
共同宣言で韓国の為替介入を強く牽制した米国
当ウェブサイトでここ数日、何度となく取り上げている話題のひとつが、5月21日の米韓共同声明における「とある一節」に関するものです。この声明文では、米韓両国が「秩序ある、そして機能的な外為市場」を実現するために協力するとともに、市場を歪めるような慣行に対処する、と謳われました。原文は次のとおりです。
“To promote sustainable growth and financial stability, including orderly and well-functioning foreign exchange markets, the two Presidents recognize the need to consult closely on foreign exchange market developments. The two Presidents share common values and an essential interest in fair, market-based competition and commit to work together to address market distorting practices”.
この文章、韓国における外為市場の実情、そして米国がそれについてどう考えているかを知ったうえで読むと、じつに味わい深いものです。
『米国財務省が「韓国は為替介入を行っている」と認める』などを含め、これまでに何度となく指摘してきたとおり、米国財務省は議会向けの為替監視レポートのなかで、韓国が不透明な為替介入を常態化させていることを指摘したうえで、同国を潜在的な「為替操作国」に含める可能性があると、繰り返し警告しているからです。
つまり、米国としては、韓国の政権交代を機に、長年の課題である「韓国の為替操作慣行」をやめさせようとして、このような文言をねじ込んで来たのではないか、というのが著者自身の現時点における仮説のひとつ、というわけです。
韓国の受け止めは真逆
ところが、昨日の『完全な勘違いに立脚した米韓通貨スワップ待望論=韓国』などでも触れましたが、韓国側ではこの一節を、あたかも「米国が外為(ウォン)市場の安定にコミットした証拠」であるかのごとく、取り扱われてしまっているのです。
酷いケースだと、米国が近い将来、韓国との間で、例の「永久スワップ」を締結してくれる兆候が出てきた、などと報じているものもあるようですが、さすがにこうした解釈には非常に無理があります。
ただ、予想どおり、通貨スワップに関する続報については、待てど暮らせど、米国側からはまったく出て来ません。スワップに関して取り上げたメディア報道を調べてみると、それらの圧倒的多くは韓国メディアが発信源です。
たとえば、英文の “currency swap” で調べてみると、昨日も「韓米両国は首脳会談を経て、通貨スワップ合意に近づいた」などとする記事が出ていたのが見つかりますが、配信したのは米メディアではありません。韓国の英字紙『コリア・タイムズ』です。
Korea, US get closer to currency swap deal after summit
―――2022-05-24 16:06付 The Korea Timesより
記事の書き出しでは、こうあります。
“The latest summit between the leaders of Korea and the United States has raised expectations that the two allies will soon sign a currency swap agreement, since they agreed to cooperate closely to develop the foreign exchange market, according to experts, Monday.”
意訳すると、「専門家によると、韓米両国が外為市場の発展に向けて合意したことで、両国が近いうちに通貨スワップ協定を締結するとの観測が高まっている」、といったところでしょうか。
為替スワップを通貨スワップと誤記している時点で…
しかも、この記事では「声明ではこの外為市場に関する協力がいかなるかたちで行われるか、具体的なことは記載されていない」、「2021年に失効した通貨スワップ協定が復活するのかについても明らかではない」、などとしつつも、エコノミストの言葉を引用し、次のように主張します。
“Nevertheless, the fact that a commitment to cooperation was addressed by the two heads of states ‘sends a strong signal that a currency swap or equivalent measures can be implemented if the dollar gets too strong for the market to withstand,’ said Park Chong-hoon, the head of economic research at Standard Chartered Bank Korea.”
つまり、「共同声明で協力するとのコミットメントが謳われたという事実自体、通貨スワップか、それと同等の、市場が耐えられないほどのドル高となったときに備えた措置」に向けたシグナルを送るようなものだ、とするコメントです。なんだか、韓国国内では「米韓通貨スワップ」が「既定路線」と化した感があります。
2021年に失効した米韓為替スワップを「通貨スワップ」と誤記している時点で、この記事の執筆者の方が外為市場のことを理解しているのか、非常に怪しいところではありますが…。
USDKRWは小康状態を取り戻す
もっとも、週明け以降、韓国の外為市場は小康状態を取り戻しつつあることは事実でしょう。
韓国銀行のデータによると、韓国ウォンの対米ドル為替相場(USDKRW)は、5月12日には一時、約2年2か月ぶりの安値水準である1ドル=1291.50ウォンを付け、その後は為替介入のためでしょうか、1290ウォンを割り込んだものの、ウォン相場の不安定な地合いが続いていました。
ただ、終値ベースで見れば、週明けの23日(月)には1264.10ウォン、翌・24日(火)も1266.20ウォンで、とりあえず1260ウォン台に戻している状況にあります。ちなみにニューズメディアなどでチェックすると、本日午前中も1ドル=1260ウォン台で取引されています。
こうした状況を受けて、韓国メディア『中央日報』(日本語版)は今朝、こんな記事を配信しています。
外為市場の急な火は消したが…「ウォン安の恐怖、いつでも再来」
―――2022.05.25 08:08付 中央日報日本語版より
中央日報は先週金曜日から3日連続で、USDKRWが(終値ベースでは)1260ウォン台を維持していることに言及したうえで、こう述べます。
「ウォンが1ドル=1300ウォン台まで急落するだろうという恐怖はある程度おさまった。21日の韓米首脳会談共同声明に含まれた『外国為替市場協議』メッセージが市場に影響を与えたためだ」。
つまり、この記事でも、あの米韓共同声明を「為替相場には良い影響を与えた」と位置付けている、というわけです。
韓国側の認識に甘さ
もっとも、中央日報の記述は、こう続きます。
「だが安心する状況ではない。韓米首脳会談などで当面の問題を回避した程度にとどまったという評価が出ている。ドル高ウォン安をあおる米連邦準備制度理事会(FRB)の金利引き上げ、量的緊縮基調が依然として堅固なためだ」。
そのうえで、韓国の証券市場では外国人投資家の資金の離脱基調も続いていることに加え、「韓米通貨スワップのような確実な安全弁もない」、とも指摘。これを巡って延世(えんせい)大学経済学部の名誉教授の次のような発言を紹介しています。
「首脳会談共同声明に含まれた外国為替市場協議はとても包括的な内容にすぎない。韓国側からの通貨スワップ要求を事実上米国側が断ったものと解釈できる部分だ」。
このコメントも、明らかに踏み込み不足です。米韓共同声明自体、「韓国からの通貨スワップ要請を事実上米国が断った」どころか、「米国が現在の韓国の為替介入政策にNOを突き付けた」ようなものだからです。
いずれにせよ、韓国側の認識の甘さを痛感してしまいます。
中国さん、4000億元のスワップを停止しないでくださいね!
こうしたなか、中央日報の記事で興味深いのは、こんなくだりです。
「NH先物のキム・スンヒョク研究員は『中国を排除して半導体やバッテリーの供給網を構築するために(米国主導で)インド太平洋経済枠組み(IPEF)が結成され、韓国もこれに合流したため中国政府の反応を待つ必要がある。中国の反発が再度(米国との)対立につながるならば人民元の流れの変動にともなうウォンの動きも変わる公算が大きいため』と分析した」。
たしかに、東京で23日に始動が宣言された「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」を巡っては、韓国を含めた13ヵ国が参加しましたが、それと同時に、中国がこれに強く反発していることも間違いありません。
韓国が2016年7月、高高度ミサイル防衛システム(THAAD)の在韓米軍への配備で米国と合意した際には、中国はこれに強く反発し、韓国に対し、いわゆる「THAAD制裁」を発動。中国人観光客が激減するとともに、ロッテマートも中国からの事実上の撤退を余儀なくされました。
こうしたなか、韓国が保有しているとされる二国間通貨スワップ7本を昨日時点の為替レートでドル換算すると966億ドル程度ですが、そのうちの約6割を占めているのが、中国との4000億元(約600億ドル)に達する人民元スワップでもあります(図表)。
図表 韓国が保有している二国間通貨スワップ協定
(【出所】各国中央銀行ウェブサイト等を参考に著者作成。為替レートは昨日時点のものを使用)
韓国がIPEFに参加表明したことに対し、中国が手っ取り早く発動できる対韓制裁があるならば、この通貨スワップの停止なのかもしれません。
外貨不足に極端に弱いという韓国の基本構造は通貨当局者の間では有名でしょうし、韓国メディアがこのところ、「スワップ」、「スワップ」などとやたら叫んでいるのを、中国共産党としてもしっかりと見ているはずです。
あるいは、中国人民銀行当局者が当ウェブサイトのこの記事を読んで、「韓国に対する4000億元の通貨スワップを停止する」、などと言いださないかどうかが心配で心配でならない今日この頃です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
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(素朴な感想ですけど)韓国に限りませんが、自分たちの希望的観測で、相手の動きを決めつけるということは、亡国への第一歩ではないでしょうか。もちろん、奇跡が起きて、逆に栄えるという可能性も、ないわけではありません。
韓国ウォンって単位をやめて韓国ドルにしてみたらどうだろう?
香港ドルとかの例もあるし。
ガンビアと通貨スワップ締結しても(韓国)ドル建てと主張出来る。
市場統制されてて、売るに売れない中国人民元。
売られれば窮する、やわらか通貨の韓国ウォン。
*「スワップを行使するぞ!」も、有効な脅し文句だと考えれば、あえて中国側から停止する理由は無いのかもですね。
韓流メディアがこぞって煽った
韓米通貨(?)スワップが
ご紹介のようにゼロ回答だったのに、
週明けウォン安小康状態は
マーケットの流れとしては
不思議に感じます。
理由を推測するに、
1 マーケットは「韓米スワップ」なんて
ナンセンス(笑)と端から相手にしておらず
その分失望もなかった
2 米韓会談すぐあとにウォン売られ崩壊だと
さすがにまずいと米国が助けるだろうなあと
今は頃合いを待っている。
といったところでしょうか?
ところで今回のバイデンさんの
日韓訪問について
韓国の掲示板でアイゴーの叫びが
溢れているのを鑑賞できます。
勝手に盛り上がってた
「韓米常設通貨?スワップニダ」も
「日本に米国から圧力ニダ」も
まるでなかった上に、
「日本より先に韓国訪問は格上の証ニダ」
の自尊心も、バイデンさんの
日本常任理事国入りプッシュ発言で
阿鼻叫喚うらみつらみの嵐です(笑)
なるほど、中国とのスワップが効きそうですねえ。
既に中国よりジャブが入っているかもしれませんねえ。
新大統領はどうするか。だてにに高学歴(世界が見える?)なので中国から逃げるタイミングを図るのが難しいのかもしれません。学生運動圏だったムンは楽だったんですねえ。
さて夏の参議院選後が日本に対する要求が本格的になりそうな気がします。
此方も気を引き締めて政府・自民党への要求を続けたいと思います。
ウォンって、ドルウォン1250ウォンで輸入企業も輸出企業も赤字になると聞いたことがある。
1260ウォンになってもただ死ぬのがゆっくりになるだけではないの?