「日韓関係改善は避けられない課題だ。なぜなら米国がそれを望んでいるからだ。日本も韓国に譲歩しなければならない」――。予想どおり、こんな主張が最近になって増えてきました。その多くは韓国メディアに見られるのですが、本邦メディアも似たような主張を垂れ流しています。しかし、果たしてそうした見方は正しいのでしょうか?
目次
日韓関係改善論
日韓関係改善論と基本的価値
「日韓関係は良好であるに越したことはない」――。
これは、昔から多くの人によって指摘されてきた内容ですし、総論としては、おおむね正しい議論でもあります。
自由・民主主義を信奉し、法の支配と人権を尊重する近代国家・日本にとっては、こうした基本的価値を共有してくれる相手国が、地理的に遠く離れた米国、豪州、英国、欧州連合(EU)諸国だけでなく、日本のすぐ近所にもいれば、これほど心強いことはありません。
もっとも、著者自身に言わせるならば、日本が「基本的価値」を共有していない相手国とお付き合いすることは、じつは日本社会全体に対して大変大きな負担をもたらす行為でもあります。
いや、「自由・民主主義」だ、「法の支配」だ、「人権」だといった大きな話を持ち出す必要もありません。「ウソをつかない」、「約束を守る」、「相手と誠実に向き合う」、「ギブアンドテイクを理解する」といった、日本社会における標準的な社会人であれば誰しも当然視している価値観が通用しない相手との付き合いは負担です。
日韓関係改善論の3つの類型
とはいえ、外交は人間関係と同じで、「好き嫌い」だけで決めることはできません。基本的価値を共有していない相手であっても、隣人であれば、何とかうまくお付き合いしていかねばならないことはあります。
しかし、この「隣人だからうまく付き合わなければならない(こともある)」という命題が、いつの間にか、「隣人だから何があっても必ず関係を改善し、関係を深めていかねばならない」という主張にすり替わっていることが非常に多い点には気を付ける必要があります。
もっといえば、日韓関係完全論者の皆さんは、日韓関係が「改善」されなければならない理由を、無理くりにでもでっち上げているフシがあるのです。
ここで、著者自身が見たところ、日韓関係改善論には、大きく「①日韓両国は一衣帯水の関係にある、②日本にとって韓国は経済・産業上非常に強いつながりがある、③日本にとって韓国は外交・安全保障上重要な国である」、といった論拠があるようです。
日韓関係改善論の論拠の例
- ①一衣帯水論…日韓両国は一衣帯水の関係にあり、歴史的にも関係が深く、お互いに助け合わねばならない宿命にある。
- ②経済産業論…日韓両国は経済・産業面でともに深く依存する関係にあり、したがって良好な関係は欠かせない。
- ③韓国生命線説…韓国は日本の国防にとって必要不可欠な地理的関係にあるため、日本はあらゆるコストを払い、韓国を友好国に引き留めなければならない。
(【出所】著者作成)
上記の①と②はまったく理由になっていない!
どれも、一見するともっともらしい、しかし冷静に考えると、まったく理由になっていないものばかりです。
そもそも①については、日韓両国が地理的に近いことは事実でしょうし、歴史的にも間違いなく交流の歴史があります(※それが良好なものだったか、あるいは密接なものだったかは別として)。
しかし、地理的・歴史的に近い関係にあるからといって、なぜそれが「お互いに助け合わねばならない」につながるのか、意味がよくわかりません。このあたり、論理的につながっていないのです。
次に②については、日韓の貿易がお互いにとって重要であることも否定できません。貿易統計上、日本にとって韓国は、長らく3番目の貿易相手国であり続けているからです(※もっとも、2021年に関しては台湾が僅差で韓国を上回り、3番目の貿易相手国に浮上していますが、この点については脇に置きます)。
2021年の貿易統計で、輸出、輸入ともに台湾が韓国を上回った結果、台湾が日本にとっての3番目の貿易相手国に浮上しました。外務省は昨年の『外交青書』で、台湾を「基本的価値を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する極めて重要なパートナーであり、大切な友人」と位置付けています。そんな大切な友人である台湾との関係が深まることは、日本にとっても重要な意味があります。貿易高で台湾が3番目に浮上ついに貿易高で台湾が「3番目の相手国」に浮上しました。財務省税関が先週金曜日に公表した『普通貿易統計』によれば、日本... 「日本の友人」である台湾が3番目の貿易相手国に浮上 - 新宿会計士の政治経済評論 |
しかし、「現在の」経済・産業上のつながりが密接であるからといって、これが未来永劫、日韓両国が産業・経済において密接なつながりを維持し続けなければならない、という理由にはなりません(※ちなみに同じことは中国に対しても指摘できます)。
朝鮮半島生命線説は、部分的には正しい
ただ、日韓関係改善論の論拠のうち③については、ちょっと注意が必要です。地政学的に見れば、たしかに韓国は日本にとって、防衛上は非常に重要な場所でもあるからです。
これに加えて、仮に日韓同盟が存在したとしたら、たしかに中国、ロシア、北朝鮮との関係では、彼らを強く牽制するという効果は期待できるでしょう。
安倍晋三総理、菅義偉総理、あるいは岸田文雄・現首相ら日本政府関係者がしきりに「日韓・日米韓3ヵ国連携が重要だ」と主張し続けているのは、地政学的に見れば当然の話でもあるのです。
また、仮に朝鮮半島が日本と敵対する国の勢力に入ってしまい、対馬から直線距離で50㎞ほどしか離れていない釜山に軍事的拠点ができてしまえば、日本にとっては非常に困ったことになります。いざというときに釜山の敵対勢力の艦隊が対馬や九州北部を急襲すれば、日本としてはひとたまりもない、というわけです。
だからこそ、明治維新を経て文明開化と富国強兵にいそしむ日本が、まだまだ国力を増強しなければならない時期であるにも関わらず、無理をして清国、ロシアという当時の大国を相手に次々と戦争をしたのも、当時の日本が「朝鮮半島生命線説」に従って行動していた証拠ではないかと思うのです。
もっとも、この「朝鮮半島生命線説」にも、いくつかの欠点があります。
そもそも現代戦では、地理的に近かろうが、遠かろうが、「脅威」という意味ではあまり違いはありません。ミサイル技術の進歩もあり、その気になれば、地球の裏側にいる原子力潜水艦が発射した核ミサイルが相手国を攻撃することもできる時代だからです。
韓国は信頼に値するのか?
旭日旗騒動を振り返る
この点、地理的に近い釜山に「人民解放軍」の基地ができるのは困りものであること自体は間違いありません。
ただ、だからといって、韓国を日本の「友好国」にするためのコストがその便益を上回ってしまうのであれば、やはり本末転倒でもありますし、さらには、そもそも論として韓国が日本の「同盟国」に値するのかについても、深刻にとらえるべき論点のひとつです。
2018年10月、韓国海軍が主催した済州島での国際観艦式では、韓国は日本に招待状を送付しておきながら、自衛艦に対し艦旗(いわゆる旭日旗)を掲揚しないように要求してきたところ、日本側はこうした要求に屈せず、観艦式そのものの参加を見送ったという「事件」がありました。
その背景には、韓国で旭日旗が「戦犯旗」などと認識されている、という事情があるのですが、その経緯もまた噴飯物です。
というのも、2011年1月25日に開催されたサッカーのAFCアジアカップ日韓戦で、韓国の奇誠庸(き・せいよう)選手が猿の物真似を行い、その際の弁明として同選手がツイッターで「観客席の旭日旗に涙した」などと述べたことがきっかけだからです。
その後、韓国メディアを中心に、「旭日旗はナチスの旗と同じく戦犯の象徴」などとする、事実無根の主張が広まり、やがては韓国内外の韓国人が旭日旗そのもの、あるいは旭日旗と似たような模様・絵画などを攻撃するようになったのです。
ちなみに外務省はウェブサイトに『旭日旗』というページを設け、韓国を名指しした、「特定の政治的・差別的主張である等の指摘は当たらない」とする、2021年5月18日付の加藤勝信官房長官(当時)の発言を掲載しています。
ただ、日本政府がこのような発信をしているにも関わらず、韓国側は2018年の国際観艦式騒動について日本に対し謝罪もしていませんし、それどころか、最近だと『LAの学校の壁画が修正へ 被害者でなく加害者としての韓国』などでも触れたとおり、韓国は無関係の人たちを巻き込んで、世界中で騒ぎを起こしています。
昨年、『旭日旗騒動再び 多くの人々を傷つけた韓国人の罪深い行動』で報告した、米ロサンゼルスの学校の壁画塗り潰し問題に「続報」がありました。米LAタイムズによると、焦点の壁画を巡り、作者のボー・スタントンさんが自身の監修下での修正に合意したとのことです。旭日旗と無関係の壁画に…当ウェブサイトでは昨年、『旭日旗騒動再び 多くの人々を傷つけた韓国人の罪深い行動』のなかで、米ロサンゼルスの学校の壁画を巡る騒動について取り上げました。https://shinjukuacc.com/20181218-04/「事件」のあらましは、壁画家のボー... LAの学校の壁画が修正へ 被害者でなく加害者としての韓国 - 新宿会計士の政治経済評論 |
火器管制レーダー照射、日韓GSOMIA破棄騒動
こうした旭日旗騒動は、じつはまだかわいいほうであり、安全保障という面ではもっと深刻な事案がいくつも生じています。その一例が2018年12月20日に発生した火器管制レーダー照射事件であり、また、2019年8月22日に発生した「日韓GSOMIA破棄」騒動でしょう。
前者は『ブチャ事件と火器管制レーダー照射事件の共通点とは?』などで、後者は『GSOMIA破棄騒動巡る「韓国側からの答え合わせ」』などで、それぞれ詳しく振り返っていますので、本稿ではこれについては繰り返しません。
火器管制レーダー照射自体、ときと場合によっては準戦闘行為とみなされ、一歩間違えば開戦のきっかけにもなりかねない、大変に危険な行為ですが、韓国側は依然として火器管制レーダー照射の事実を認めてもおらず、関係者の処罰もしていなければ、日本に謝罪すらしていません。
それどころか、いまだに「むしろ日本が低空威嚇飛行を仕掛けてきた側だ」といったウソを公然とつきつづけている始末です(『「低空威嚇飛行」の捏造が3年で事実になってしまう?』参照)。
今から3年前の「日本が低空威嚇飛行を仕掛けてきた」とする捏造が、いつのまにか完全に事実として定着しているのかもしれません。2018年12月に発生した火器管制レーダー照射事件、もちろん、事実関係は「韓国が加害者、日本が被害者」ですが、どうもこれが完全に逆転しているのではないかと思しき記事を発見してしまったのです。たった3年で捏造が事実になってしまうとは、おそろしい話です。火器管制レーダー照射事件何かと不自然な「火器管制レーダー照射」少し、古い話をします。今から3年前少々の2018年12月20日、石川県能登半... 「低空威嚇飛行」の捏造が3年で事実になってしまう? - 新宿会計士の政治経済評論 |
また、GSOMIAは日韓、日米韓の連携を円滑化するための協定であり、本来ならば政治利用してはならないものですが、これを対韓輸出管理厳格化(適正化)措置の報復として、堂々と破棄しようとしたこと自体、経済問題と安保問題を混同しているとしか言いようがありません。
外交機密文書公表、政策対話拒絶、対日WTO提訴
旭日旗騒動、火器管制レーダー照射事件、GSOMIA破棄騒動だけではありません。
慰安婦合意に関する外交機密文書を日本政府の了解なく勝手に公表した件(2017年12月の「慰安婦合意タスクフォース」事件)、輸出管理に関する政策対話に2016年6月以来まったく応じず、輸出管理適正化措置発動後に2回の対話を経ていきなり対日WTO提訴した件などもあります。
「外交機密文書を勝手に公開する」、「日本の艦旗を『戦犯旗』と侮辱する」、「日本の哨戒機に火器管制レーダーを照射する」、「輸出管理で不適切な事案を発生させる」、「国際協定を破棄しようとする」、「いきなりWTOに提訴する」――。
日韓両国は現在「同盟関係」にはありませんが、それと同時に韓国が「同盟関係」を結ぶに値する、つまり信頼に値する相手国なのかどうか、そもそも論としてしっかり認識しておく必要があるのではないでしょうか。
「米国の意向」論を疑う
「米国の意向だ」「不本意であっても対韓譲歩が必要」
もっとも、このような視点を指摘すれば、「日韓関係改善論」の論者たちは、決まってこう言います。
「日米韓3ヵ国連携は米国の意向だ」。
つまり、日本にとっては韓国との協力を進めることに不満はあるかもしれないが、米国の意向もあるので、ここはひとつ、日本が韓国に譲歩する形で日韓関係を改善しなければならない、といったロジックでしょう。
著者に言わせれば、「米国の意向は米国の意向」、「日本は主権国家だから、どの国と連携するかは日本が主体的に決断しなければならない」と反論してお終い、といったところですが、それでも「米国の意向」論者たちは、しつこくこうした主張を繰り返します。
たとえば、韓国で尹錫悦(いん・しゃくえつ)政権が発足した直後の5月11日付で、時事通信がこんな記事を掲載しました。
元徴用工、慰安婦で認識ずれ 関係改善で一致も日本に不信感
―――2022年05月11日07時11分付 時事通信より
じつは、この記事自体、当ウェブサイトでは『密室行政の終焉:国民無視の「日韓関係改善」は不可能』でも取り上げていますので、本稿ではこれについて詳しく繰り返すことはしません。
日韓関係「改善」を巡って、外務省も国民の声を無視した強引な「密室行政」を進めるのが難しくなってきたのでしょうか。時事通信に今朝、韓国の新政権における自称元徴用工問題への対応を巡り、日本政府側にも不信感がある、とする記事が掲載されていましたが、看過してはならないのは、そのさらに裏側にある「日本国民の韓国に対する不信感」でしょう。日韓関係「改善」の罠尹錫悦政権で高まる日韓関係「改善」への期待韓国で昨日、尹錫悦(いん・しゃくえつ)氏が大統領に就任しました。その就任演説については『【資料】尹錫悦大統... 密室行政の終焉:国民無視の「日韓関係改善」は不可能 - 新宿会計士の政治経済評論 |
ここで指摘しておきたいのが、時事通信の記事に、こんな記述があった、という点です。
「一方、核・ミサイル開発を活発化させる北朝鮮に一致して対応するため、米国は日韓関係の早期改善を強く求めている。米政府関係者は『日本は戦略的視点に立つべきだ。韓国と仲良くしない理由がない』とくぎを刺した」。
ここでも「米国が日韓関係改善を望んでいる」、といった言説が見て取れます。
「米国が日本に圧力」、本当?
もっとも、少し厳しい言い方ですが、果たして時事通信の記者さんは、本当に「米政府関係者」とやらに取材をなさったのでしょうか?米政府高官の発言などを振り返ってみると、米国は韓国による国際合意破りに対し、批判的な立場を取っているのではないでしょうか?
たとえば『アジア系女性記者に報道官「米国は慰安婦合意を歓迎」』でも取り上げたとおり、米国務省のネッド・プライス報道官は昨年7月20日の記者会見で、この2015年の慰安婦合意を引き合いに出し、米国としてはこれを歓迎する立場だと強調しています。
韓国では大統領に対する名誉棄損で訴えられますさきほどの『「不等号の向き」を盛大に勘違いする「加害者・韓国」』や『日韓首脳会談見送りの3つの要因』では、文在寅(ぶん・ざいいん)韓国大統領の訪日断念に関連し、最近の日韓関係を巡る話題をいくつか取り上げたところですが、本稿ではその補遺として、少し気になる記事を2つほど取り上げておきます。ひとつは米国のネッド・プライス国務省報道官の慰安婦合意などに対する言及、もうひとつは駐韓日本大使館の相馬弘尚総括公使が市民団体から告発された、とする話題です。プライ... アジア系女性記者に報道官「米国は慰安婦合意を歓迎」 - 新宿会計士の政治経済評論 |
暗黙の裡に、慰安婦合意を反故にした韓国を批判している格好です。
また、韓国政府が日本を世界貿易機関(WTO)に提訴した件を巡っても、『【資料編】7月29日に開催されたWTO会合の議事録』で取り上げたとおり、米国は「輸出管理の問題に安全保障の問題を持ち込むな」と述べています。
本稿は資料編です。韓国が日本の「輸出『規制』」を不当だとして世界貿易機関(WTO)に提訴している問題で、WTOのウェブサイトに紛争解決小委員会(DSB)の定例会議の要旨が公表されていましたので、その概要について紹介しておきます。なお、参考訳が誤っている可能性がありますが、その責任は当ウェブサイトに帰属します。また、当ウェブサイトに掲載した内容につきましては出資を示していただければ自由に転載・再利用等をいただくことが可能ですが、その際には自己責任にてお取扱いください。WTOパネルのリンク該当す... 【資料編】7月29日に開催されたWTO会合の議事録 - 新宿会計士の政治経済評論 |
こちらのWTOの件に関しては、米国が露骨に韓国を批判しているのです。
ちなみに『「李朝の世界観」:鈴置論考で考える「韓国の特殊性」』でも取り上げたとおり、日本を代表する優れた韓国観察者である鈴置高史氏は、最近の米国が韓国に対し、「保守政権に戻ったというのなら、クアッドにちゃんと参加できるかを見極めようとしている」フシがあると指摘しています。
日韓関係がうまくいかない理由は、「日韓関係の特殊性」ではなく「韓国の特殊性」に求められる――。これは、日本を代表する優れた韓国観察者である鈴置高史氏の重要な指摘です。では、その特殊性はいったいどこに求められるのでしょうか。鈴置氏の最新論考によると、それは中国への朝貢国としての歴史に加え、戦後、1948年に独立して育穗の韓国の歩みとも密接に関わっているのです。日韓関係「改善」論政権交代間際の韓国で深まる「関係改善期待」韓国で政権交代の日が近づいてきました。こうしたなか、日韓外交に関するここ数日の韓国... 「李朝の世界観」:鈴置論考で考える「韓国の特殊性」 - 新宿会計士の政治経済評論 |
ちなみに該当する鈴置論考は、デイリー新潮『鈴置高史 半島を読む』シリーズで5月4日付に掲載された、『早くも米日とすれ違う尹錫悦外交 未だに李朝の世界観に生きる韓国人の勘違い』という記事です。
米政府系メディア・VOAの報道などをもとに、「クアッドから逃げ腰の韓国」、「それを見透かす米国」という構図が鮮やかに描き出されている様子は圧巻ですので、まだお読みになられていない方は、是非ともご一読を願います。
このあたり、日本国内でも、「米国から日本に対し、日韓関係を『改善せよ』とする圧力が働いている」、などとしたり顔で指摘する人もいるのですが、むしろ米国は韓国に対し非常に冷ややかであり、こうしたなかで日本が下手に対韓関係改善に踏み出すこと自体がむしろ危険である、という点は読み取れるのではないでしょうか。
(※もっとも、だからこそ鈴置氏が外務省から疎まれているフシがあるのだと思いますが…。)
出所は韓国メディアなのか
こうしたなか、「米国が日韓両国に対し、日韓関係改善の圧力を加えているぞ」、とする主張を見かけることが大変に多いのは事実ですが、それらの主張の出所を慎重に探っていくと、やはり韓国メディアに辿り着くことも多いようです。
その意味では、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に昨日掲載された、『韓国経済新聞(韓経)』のこんな記事も、そのひとつといえるかもしれません。
韓日を訪問するバイデン米大統領、両国関係正常化を仲裁か
―――2022.05.14 09:37付 中央日報日本語版より【韓国経済新聞配信】
韓経は記事冒頭で、日韓両国を訪問するジョー・バイデン米大統領にとっての「大きな課題」が「悪化した韓日関係の改善」にあると主張。バイデン氏は「強制徴用賠償と慰安婦および歴史歪曲など過去の問題で最悪の状況を免れなくなっている」現在の日韓関係と「無関係ではない」、などと述べます。
このあたり、この期に及んで韓経が「日韓関係が悪化した原因」が「日本の歴史歪曲」にある、などとうそぶいている点については、正直、「もはや事実認識すら正確にできなくなっているのか」と呆れざるを得ません。
ただ、本稿で触れておきたいのが、こんな記述です。
「(バイデン大統領と)両国指導者との会談では、いかなる形であれ関係改善を促すと専門家らはみている」。
この記述、非常に興味深いものです。
著者自身の予測を述べるならば、バイデン氏は尹錫悦氏に対し、日韓関係改善の必要性について力説するでしょう。しかし、岸田首相に対して同様にそのような圧力をかけるかどうかについては、微妙だと考えています。
なぜなら、バイデン氏は2015年の日韓慰安婦合意の米国側における立会人だったからであり、岸田首相は当時、外相として、この慰安婦合意を取り交わしてきた直接の当事者だったからです。
万が一、バイデン氏が岸田氏に対し、韓国への「さらなる譲歩」を要求したならば、岸田氏はこれに対し敢然と言い返さねばなりません。
(※なお、本稿は「岸田リスク」が皆無であることを期待していますが、それを保証するものではありませんので、この点についてはご了解ください)。
話はむしろ逆:「ウィークリンク」を避けるべし
しかも、韓経は「韓日関係が悪化すれば安全保障の側面で弱点になる」、と述べていますが、ここも話は逆です。
米国にとって、対中牽制、対北核問題対応、ウクライナ情勢への対応などにおいて、同盟国の結束はこれまでで最も重要な課題のひとつですが、このことは同時に、同盟の結合の環に「弱い部分」(ウィークリンク)を作ってはならないということを意味しています。
もちろん、表面上は、日本も米国も「日米韓3ヵ国連携が重要だ」、と口先では述べていますし、米国にとっても北京から直線距離で1000㎞前後の場所にある、韓国・烏山(うさん)空軍基地を使用できる状況が好ましいことは間違いありません。
しかし、それと同時に、現在の米国にとっては、米韓同盟・日米韓連携とは別の枠組みが存在していることもまた事実です。その代表例が日米豪印「クアッド」であったり、米英豪の「AUKUS」と呼ばれる仕組みであったりします。
ちなみにAUKUSには最近になって、日本を加えて「JAUKUS」の4ヵ国の連携に発展させようとする機運も見られますが、間違ってもここに韓国を加えて「KAUKUS」にしよう、などの発想は出て来ないでしょう。韓国が米国から信頼されているとも思えないからです。
米国にとって日本は極めて重要な国ですが、韓国がその日本の地位を代替し得るほどに重要視されていないのです。
こうした見立てが正しいのか、はたまた韓経を含めた韓国メディア、さらに韓国の意向にそった主張をする日本の某経済新聞の編集委員氏の見立てが正しいのかについては、さほど遠くない未来に判明するでしょう。
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いつも知的好奇心を刺激する記事の配信ありがとうございます。
英米の二枚舌やダブルスタンダードは平常運転ですので管理人様の見解も真逆の見解も十分にありえると思います。
結論は歴史での結果だけが答を示すと思います。
但し、人種差別主義の目で敢えて見ると実は中国の台頭や有色人種の引き起こす問題の根源はある意味日本に起因します。
日本が知識や文字を支配の手段でなく国民の幸福増大の為の糧として自国以外の一般人に与え、国際社会に参入後に大国を何度も実際に打ち負かした事は白人という生まれだけで支配的位置にいられた状況をひっくり返したパラダイムシフト、ある意味「黄禍」の元凶とも言えるからです。
ウィークジャパンという外交政策から言えば一旦日本を韓国の支配下に置いた上で挑発に乗った韓国と日本を「まとめて再建不可能になる迄皆殺しにする」のは有効な手と思います。
現在岸田文雄の外交政策は牛後ばかりでアメリカの国際社会戦略に無貢献に見えるのです。
日本が従来行っていた様々な改善をAIが代替可能になれば日本を再度「アメリカに振られたクラブ」に入れて民主主義と自由の「強力な」敵と言うレッテリングを貼ることでアメリカの国民団結の為の「生贄」にされるリスクが出てくると思います。
今のアメリカは外部に「自由と民主主義の敵」を国民団結の為に必要とする事を忘れてはいけません。
FOIPはアメリカにとっての「自由と民主主義の敵」の地位を中国に押し付ける事ですが、日本が今の様に努力無しだと日本が中国の努力によって気がつけばレッテリングされる可能性があるのですよ。
故に真逆の見解が正しいリスクもありえると思うのです。
当方は外交的に岸田リスクの放置は危険と考えます。
以上です。駄文失礼しました。
誤字です。
誤:自国以外の一般人に与え、
正:自国民だけでなく自国以外の一般人に与え、
誤字失礼しました。
「違った見方」を提示していただき感謝します。
そういえば直近も日本の外交官がMLBの始球式に呼ばれ計画的に辱しめを受けたとか ナントカ
結論的には、今のロシアとウクライナに対する国交同様に考えるのと同じ、と思います。
ただ、ホワイト国騒ぎの輸出管理に関する一連の問題は日韓だけの問題で無く、また自ら禁を破った事に対する自覚が無いのは問題としか言えません。仮に日韓友好のためにツートラックで対応するのは百歩譲って是としましょう。国際的に輸出管理に注意を払っているにも関わらず、自らその平和を乱す行動を取る、またその是正も示せないのはどうなのでしょうね。
最低限を守れないなら、守れないなりの措置を取る。そこは日韓共に同様の措置を取っているのは言うまでもありません。それが韓国でいう慰安婦合意、徴用工問題にも表れているとも言える。国民の意に添えない、故に措置を取る。それが現金化なりに繋がるので無いでしょうか。
やってることは、北朝鮮のミサイルと何ら変わらないのです。彼等は世界に向けて行動していない。延々と日本に対して駄々をこねる赤子でしかないのですよ。故に、大人として…もとい、国家として正直どうなのよ、としか言いようが無いですね。
米国が「日韓関係改善を望んでいるのか」と問われれば、答えはyesでしょう。一方「日米関係がギクシャクしても、日韓関係改善を望んでいるか」と問われれば、noでしょう。米国にとっての日韓の重要性の優劣は明らかだと思います。従って、米国の意向というより、日本政府および国民が、この問題をどう考えるか、の方が大事だと考えます。「米国の水面下の意向もあるから、意に添わないけれど、韓国と仲良くするか」と考えるのか、「米国の意見だから無視するわけにはいかないけれど、今度ばかりはそうはいかない」と考えるのか、です。私は、明確に後者です。今回中途半端な妥協をしてしまえば、それが先例となり、日韓の国家間の縛りの総てが崩壊しかねません。「日本の不法な植民地支配に対する慰謝料請求権が韓国民にある」「それは日韓請求権協定の枠外」というなら、韓国の”おねだり請求”は永続するでしょう。茂木前外相が言ったと伝えられる「日米韓はきちんとやるから、日韓については、日本側に立つのでなければ、余計な介入はしないでくれ」を、岸田政権および外務省は、米国に対し、きちんと伝えて頂きたい、と考えます。何なら「(米国が水面下で仲介した)慰安婦合意を、韓国に守らせてから、言ってくれ」でも良い、と思います。
だからこそ鈴置氏が外務省から疎まれているフシがあるのだと思いますが…。の記述が気になりました。外務省の中にまさか外国人はいないとは思いますが 帰化人はいるのでしょうか。?
赤ずきん さま
元外務省のノンキャリア外交官で、今は文筆家の佐藤優氏が、過去にこういうことを言っています。
「私の知っている外務省の職員でも、日本国籍を取得した人がいます。元々韓国籍だったとか。親が在日韓国人、在日朝鮮人で日本国籍を取得した人は何人もいますよ。」
「外務公務員法にはかつて外国人条項があったんです。・・今はその身分条項はなくなっているわけです。」 とも。
佐藤優氏は、彼ら帰化人職員たちの身分を守れ!と主張しています。
情報ありがとうございます。国籍も気になりますが 純粋日本人も 武士は食わねど高楊枝から 金がすべての越後屋思考の人たちが増えてきているのも気がかりです。古すぎますねえ。(自省)
>一方、核・ミサイル開発を活発化させる北朝鮮に一致して対応するため、米国は日韓関係の早期改善を強く求めている。
「改善」って言葉が、韓国の約束破りに対する「韓国が解決策を用意すべき」という日本の主張を引っ込めることなんかを意味してるんだと思うんだけど・・・・
別にそんなことしなくても、北朝鮮に一致して対応すれば、米国は満足するんじゃないのかな?
韓国の日本に対するさまざまな不法行為の理由の背景にあるのは第一に“反日をやれば国民に受ける”という国内世論と 第二に “アメリカは日韓の離反を望んでいない ―>日本はアメリカの意向に逆らわない ―>日本に対しては何をやっても許される”という同盟関係に対する見方でしょう。日韓基本条約で韓国に金を払ったのはまさにこれ。当時の東アジアをめぐる国際情勢ではアメリカに逆らうことなどできなかった。GSOMIAで2匹目のどじょうを狙ったが、おそらくアメリカに相当脅されたらしく腰くだけに終わった。隣国との関係の悪化の行きつく先は普通は「戦争」だが日韓の間にはこれはありそうもない。これも安心して反日を行わせている理由の一つだろう。
大国の間をうまく立ち回って(本人たちはうまく立ち回っていると思っている)利を得ようとするのは朝鮮半島の伝統。北朝鮮も敵(アメリカ)の敵(中ロ)は味方という基本を踏まえながら、あるときはロシア、ある時は中国、ある時は両方から中ロの関係を見ながら援助をせしめてきた。建国以来援助なしの年は1年もないという。
長年つちかった民族の習性はそう簡単には変わらない。これからもアメリカを利用しようとするだろう。
米国が日本に対し、日韓改善圧力をどの程度加えてくるかは、韓国次第だと思います。
尹錫悦大統領の就任演説は、その大部分が国内向けで「真実が歪曲され、各自が見て聞きたい事実だけを選択したり、多数の力で相手の意見を抑圧する反知性主義が民主主義を危機に陥れ、国民の極端な分裂と対立が社会の発展を阻害している」と指摘し『反知性主義の克服』を呼び掛けています。
『反知性主義』は、韓国の保守・革新双方に共通した問題で「旭日旗騒動」「ノージャパン運動」「自称元徴用工問題」「自称元日本軍性奴隷問題」などを見れば「真実が歪曲され、各自が見て聞きたい事実だけを選択し、多数の力で相手の意見を抑圧する『反知性主義』」は広範囲に見られ、韓国主要紙の主張も左右を問わず『反知性主義』に溢れていると思います。
この『反知性主義』が米国政府に向けられた最大のものが「THAAD基地への住民による妨害問題」で、未だに外部電力利用や必要物品搬入に対する住民妨害活動が継続し、前政権が実施したTHAAD基地への環境影響評価も6年以上最終報告が出されておらず、本格配備も中断状態です。
尹錫悦政権がこの問題を解決できるか否かが、バイデン政権の尹錫悦政権に対する評価を左右する課題の一つだと思いますが、個人的には、5年後もほとんど現状維持のままだと思いますし、「クアッド」加入問題も、5年後も実現しないと思います。(「自称元徴用工問題」も「自称元日本軍性奴隷問題」も未解決のまま5年後を迎えると思います。)
その理由は、尹錫悦政権が国内の『反知性主義』を克服することは、大韓民国建国後を含めた朝鮮民族の長い歴史を見れば、5年程度で克服できるとは到底考えられないからです。
従って、米国政府が日本政府に対して強力な日韓改善圧力を加えてくることは無いと思います。
2002年の日韓W杯の時点で韓国の対日ヘイトっぷりは明らかでしたが、旭日旗の一件は『韓国では「正しい歴史認識」の下で歴史的事実が創造される』というのがよく分かる一件でしたね。
自衛隊哨戒機への火器管制レーダー照射事件も、韓国では政府レベルでも『韓国では「正しい歴史認識」の下で歴史的事実が創造される』を実践している事がよく分かりますし。
>これに加えて、仮に日韓同盟が存在したとしたら、たしかに中国、ロシア、北朝鮮との関係では、彼らを強く牽制するという効果は期待できるでしょう。
韓国は米韓同盟を対北朝鮮のみに限定して捉えようとしており、ロシアや特に中国には捉えたくない姿勢を見せているので、日韓同盟が仮に存在しても中身は対北朝鮮だけになるんでしょうね。
>安倍晋三総理、菅義偉総理、あるいは岸田文雄・現首相ら日本政府関係者がしきりに「日韓・日米韓3ヵ国連携が重要だ」と主張し続けているのは、地政学的に見れば当然の話でもあるのです。
なので、日韓両国が共有している筈の戦略的利益も対北朝鮮のみであり、対ロシアや対中国には機能しないでしょうね。
タイトルの『米国は日本に「日韓関係改善圧力」をかけてくるのか?』について考えると、
①現時点でかけてくるか?→かけてこない
②日韓の諸問題がどの程度解決したらかけてくるか?→韓国の対米重要度の向上とも絡む。韓国が米韓間の諸問題を解決すればする程、日韓間の諸問題の解決は必要最低限の解決で済むようになっていく。
ってところでしょうか。
ただ、韓国が日韓慰安婦合意の遵守やTHAAD配備などを完遂出来るとは思えないので、米国が日本に圧力をかけ始めるハードルは越えれないと考えます。
いまは日米同盟が対中戦略で双務的なものにならざるを得ない時期です。
日米間の軍の統合運用も深まってきています。
韓国の言い分を米国が山科道理として日本に押し付けてくるようなことがあれば日本人の対米感情は大きく低下します。
米国がこうした資産を放棄してまで韓国の持つ戦略価値を優先させるのは合理的ではありません。
ただ、米国も常に合理的な判断をしてきた国ではありません。
韓国絡みでおかしな動きをしてきた場合に備えていくつかのプランは検討しておくべきでしょう。
例えば国会前で反米デモを展開させて、世論に迎合するふりをして日米同盟を以前のような片務的な実質に戻してしまう、とか。
しかし、米国との関係はいつでも修復可能な形にはする必要はあると思います。
現時点で日米の共通戦略は中国の脅威の排除であり、そのために我々が求める韓国の戦略的価値は「戦場」としての南朝鮮です。
>間違ってもここに韓国を加えて「KAUKUS」にしよう、などの発想は出て来ないでしょう。
米国も現状維持の発想だと思います。「日米韓連携」は既定のものなので、機能してもらわないと色々困ります。
クワッドは新たな枠組みですが、韓国にも一応打診はしたものの反応が悪かったので「じゃあいいよ」で既に手仕舞いとなりました。
米国は今後の新たな枠組みに韓国が何が何でも必須とは考えていないと思います。
米国が韓国を必要としているので日本に頭を下げさせる、というのは韓国の願望でしょう。