スリランカが外貨建債務のデフォルトを余儀なくされるようです。コロナ禍にウクライナ戦争が決定打となった、というのが同国の説明だそうです。そのスリランカといえば、「一帯一路金融」という話題が出たときに、典型的な事例に挙げられることが多い国でもあります。過大な債務を押し付けてインフラを取り上げるという中国式の「一帯一路金融」の問題点を巡っても、西側諸国はそろそろ正面から向き合う必要があるのかもしれません。
スリランカがデフォルト宣言
インドと海を隔てた隣国であるスリランカを巡っては、かなり以前から、過剰債務問題が取りざたされています。
当ウェブサイトでも今年1月に、『スリランカと中国・債務の罠:人民元経済圏の落とし穴』で取り上げたとおり、「コロナ禍により主力産業である観光業が壊滅的な打撃を受け、外貨準備不足のため、紅茶を使って石油を輸入しているようだ」とする話題を取り上げたところです。
スリランカといえば、南部の港湾を中国に取り上げられてしまった国としても知られます。そのスリランカは現在、コロナ禍により主力産業である観光業が壊滅的な打撃を受け、外貨準備不足のため、紅茶を使って石油を輸入する、といった状況にあるようです。いずれにせよ、人民元経済圏が拡大するとすれば、それは「経済的に弱った国を取り込む」という方法が最も手っ取り早いのかもしれません。中国の金融覇権には疑問当ウェブサイト『新宿会計士の政治経済評論』では以前から、「中国の金融覇権」に関する話題を取り上げてきました(そ... スリランカと中国・債務の罠:人民元経済圏の落とし穴 - 新宿会計士の政治経済評論 |
こうしたなかで、その外貨不足の状況に、「続報」があったようです。スリランカの中央銀行が12日、外貨準備の不足により、対外債務の支払ができない状況に陥ったと発表したうえで、石油などの輸入にも支障を来している、などとする声明を出したのだそうです。
Sri Lanka unilaterally suspends external debt payments, says it needs money for essentials
―――2022/04/13 01:22 GMT+9付 ロイターより
Sri Lanka warns it will default on its foreign debt amid crisis
―――2022/04/12付 BBC NEWSより
ロイターやBBCなどの報道によると、スリランカ当局はコロナ禍に加え、ウクライナ戦争が契機となり、外貨不足という状況に陥った、などとしています。また、BBCの方の記事では、スリランカにおいては近年、食糧不足、物価上昇、電力不足などに苦しんでいた、などとも記載されています。
急激に枯渇するスリランカの外貨準備
このあたり、IMFのウェブサイトからデータを取ってみると、たしかにスリランカの外貨準備高については急激に落ち込んでいることが確認できます。
IMFデータセットに収録されている最新データだと、2015年10月以降、2021年12月末時点のものが手に入りますが、これによると、同国の外貨準備は2021年12月末時点において31.39億ドルです(図表1)。
図表1 スリランカの外貨準備(2021年12月末時点)
項目 | 金額(ドル換算) | 構成比 |
---|---|---|
有価証券 | 0.44億ドル | 1.40% |
預け金(中銀) | 24.43億ドル | 77.83% |
預け金(外国銀行等) | 2.84億ドル | 9.03% |
IMF-RP | 0.67億ドル | 2.13% |
SDR | 1.24億ドル | 3.94% |
金 | 1.75億ドル | 5.59% |
外貨準備合計 | 31.39億ドル | 100.00% |
(【出所】International Monetary Fund, International Reserves and Foreign Currency Liquidity より著者作成)
つるべ落としのように減少
さらに、これを時系列に追いかけていくと、たしかにコロナ禍が深刻化した2020年以降、つるべ落としのように同国の外貨準備が減少していることがわかります(図表2)。
図表2 スリランカの外貨準備の内訳別変動
(【出所】International Monetary Fund, International Reserves and Foreign Currency Liquidity より著者作成)
とくに、外貨準備の構成項目は、基本的には現金・預金(キャッシュ)だけでなく、有価証券(米国債など)で運用されることが一般的ですが、スリランカの外貨準備高を見ると、有価証券の残高が急速にゼロに近づいていることが確認できます。
ちなみに健全な国の場合、有価証券の割合は外貨準備全体の80~90%前後を占めることが一般的であり、日本の場合も2021年12月末時点における外貨準備高1兆4057億ドルのうち現金預金の割合は全体の10%弱に過ぎません(図表3)
図表3 日本の外貨準備(2021年12月末時点)
項目 | 金額(ドル換算) | 構成比 |
---|---|---|
有価証券 | 1兆1439億ドル | 81.37% |
預け金(中銀) | 1344億ドル | 9.56% |
預け金(外国銀行等) | 1億ドル | 0.01% |
IMF-RP | 106億ドル | 0.76% |
SDR | 623億ドル | 4.43% |
金 | 495億ドル | 3.52% |
外貨準備その他 | 43億ドル | 0.31% |
外貨準備合計 | 1兆4058億ドル | 100.00% |
(【出所】International Monetary Fund, International Reserves and Foreign Currency Liquidity より著者作成)
スリランカの外貨準備の状況がいかに異例であるか、その問題点が垣間見えて来るのではないでしょうか。
(※ただし、日本の場合は「外貨準備が多すぎる」という問題もあるのですが、この点については機会を見ながら別稿でも触れていくつもりです。)
一帯一路金融の被害国としてのスリランカ
この点、冒頭に示した報道等によれば、今回のデフォルトを巡ってスリランカ側は「ウクライナ問題が決定打となった」、などと述べているそうですが、もともとスリランカが外貨不足に苦しむだけでなく、過剰債務問題にも直面してきたことを忘れてはなりません。
ことに、スリランカといえば、中国が主導する「一帯一路諸国」の代名詞でもあります。とりわけ、恒常的な高金利債務の負担に苦しむスリランカ政府から、中国が2017年12月に同国南部にあるハンバントタ港を取り上げたとする話題は有名です。
まるで高利貸し 借金のカタでスリランカの港を奪った中国のやり口とは
―――2018/1/5 09:00付 産経ニュースより
産経によると、スリランカ政府は最高6.3%にも達する高金利により債務の返済に窮してしまい、港を所管するスリランカ国営企業の株式の80%を中国の国有企業に99年間貸与することで合意した、などとしています。
問題は、それだけではありません。
この件については当時からインドや日本を中心に、「中国による軍事利用につながるおそれがある」との警戒も生じていたところ、スリランカ政府側は「中国側には港を軍事目的で使わせないことを確約した」などと表明したそうですが、相手国が相手国だけあって、そんな約束を守ってくれると素直に信じるには無理があります。
いずれにせよ、今後、スリランカは国際通貨基金(IMF)と来週以降、緊急経済支援を巡っての協議に入ると見られますが、ここでのポイントは、今回のスリランカのデフォルトがスリランカ特有のものなのか、それともそれ以外の諸国にも波及するのか、といった点でしょう。
新興市場諸国のデフォルトは珍しい話ではないが…
冒頭に示したBBCの記事によれば、スリランカの外貨準備は3月末時点で19.3億ドルにまで減少している一方で、今年に償還期限を迎える外貨建ての債務が40億ドルにも達しているそうであり、このままだと外貨建て債務のデフォルトは不可避でした。
ただ、新興市場諸国のデフォルトは、決して珍しい話ではありません。
たとえば、日産自動車の元CEOだったカルロス・ゴーン容疑者が逃げ込んだ先のレバノンの場合も外貨建ての国債のデフォルトを発生させていますし(『肉も食えないレバノン兵 恨みつらみはゴーンにどうぞ』等参照)、近年だとロシアが国債デフォルトの瀬戸際にあります。
以前より当ウェブサイトでは、レバノンがカルロス・ゴーン被告を匿っていること自体、日本の司法に対する深刻な挑戦であると申し上げて来ました。ただ、レバノンは今年に入り、12億ドルの外貨建て国債をデフォルトさせた国でもあります。この点、日本政府は否定しているものの、現地メディアによれば、「日本がIMFによるレバノン支援に反対している」といった報道もあったようです。これに加え、最近ではIMFによる支援が遅れていることで、レバノン経済が混迷の度合いを深めているという報道もあるようです。「逃亡犯を取り戻す... 肉も食えないレバノン兵 恨みつらみはゴーンにどうぞ - 新宿会計士の政治経済評論 |
また、アルゼンチンのように何度となく国債デフォルトを発生させている国もありますし、もしかしたら近い将来、日本の近隣国でもそのような事例が生じるかもしれません。
ここでのポイントは、「外貨建ての債務」であれば、たとえ国債であってもデフォルトするかもしれない、という点でしょう(※ちなみに日本の場合は日本国債が全額日本円建てで発行されており、市場金利も上昇基調にあるとはいえ、世界水準からすれば依然低金利でもあります)。
そして、今回のスリランカの件に関しては、中国による「過大な債務の貸付とインフラの取り上げ」というプロセスに歯止めをかけるという意味では、「一帯一路金融」に対する西側諸国としての一致した対応も必要かもしれない、などと思う次第です。
View Comments (5)
99年間というところに香港の恨みが感じられますな。
普通に考えればスリランカのインフラ案件は、一般金融機関(adb)で融資対象とされなかった事業計画(不採算案件?)。
高利貸し(aiib)にすがってまで夢を見たかったのでしょうか?
それとも「観光客を送るから」と、夢を見せられたのかな・・??
完成時:夢なら覚めないで欲しい。
完成後:夢なら覚めて欲しい・・。
>そして、今回のスリランカの件に関しては、中国による「過大な債務の貸付とインフラの取り上げ」というプロセスに歯止めをかけるという意味では、「一帯一路金融」に対する西側諸国としての一致した対応も必要かもしれない、などと思う次第です。
中国政府が台湾侵攻とかすればチャラに出来るなら、中国政府から借金しまくった方がお得かもですね!w
スリランカと言えば過激派タミルタイガーとクマラスワミ報告のクマラスワミさんの母国と言う程度しか不案内で知りません。
ちょっと前までスリランカ債を宣伝していた気がする