【読者投稿】ロシア問題で認識すべき「独裁国リスク」

「世界はロシアだけでなく『独裁国リスク』を認識した」。そんな指摘が出て来ました。出所は、『夏は涼しく過ごそう ~快適節電ライフ~』と題する個人ブログです。「ウクライナ侵攻後に中国から前例のない資本流出が発生した」とする趣旨の報道をもとに、事実関係を時系列に整理すると、興味深いことがわかったとしています。

読者投稿につきまして

当ウェブサイトは「読んで下さった方々の知的好奇心を刺激すること」を目的に運営していますが、当ウェブサイトをお読みいただいた方々のなかで、「自分も文章を書いてみたい」という方からの読者投稿につきましては、常時受け付けています。

投稿要領等につきましては、『【お知らせ】読者投稿の常設化/読者投稿一覧』等をご参照ください。また、読者投稿は専用の投稿窓口( post@shinjukuacc.com )までお寄せ下さると幸いです。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

さて、さて、本日は『夏は涼しく過ごそう ~快適節電ライフ~』という個人ブログを運営される「イーシャ」様という方から、『世界はロシアだけでなく独裁国リスクを認識した』という記事の転載依頼をいただきました。

以下が本文です(※ただし、転載にあたっては、当ウェブサイト側にて文意を変えない範囲内において文章を変更している場合があります)。

世界はロシアだけでなく独裁国リスクを認識した

ブルームバーグが、「ウクライナ侵攻後に中国から前例のない資本流出が発生した」と報じています。

これについて、引っ掛かることがあったので、時系列を振り返って確認してみたところ、興味深いことがわかりました。

ブルームバーグが報じたウクライナ侵攻後の中国国債売り

読み流してしまいそうな記事ですが、ブルームバーグが以下のような報道をしていました。

中国から「前例のない」資本流出、ウクライナ侵攻後?IIF

――― 2022年3月25日 9:15 JST付 Bloombergより

同記事は「公式データによると、2月は外国人投資家の中国国債保有が過去最大の減少を記録」した、「ロシアによるウクライナ侵攻が世界の債券投資家の償還に拍車を掛けたことが一因だ」としつつも、「外国人投資家が新たな観点で中国を見ている可能性があるが、この点に関して明確な結論を出すのは時期尚早だ」とも記しています。

たしかに、「明確な」結論を出すのは時期尚早でしょう。

しかしながら、時系列をたどって事実関係を確認すると、その可能性が高いように考えられるのです。

対ロシア制裁発表後、2月に市場が開いていたのは 2月28日 だけ

プーチンがウクライナ東部で「軍事作戦」を開始すると発表したのは、2月24日午前5時頃(ウクライナ時間)でした。日本時間では正午頃に当たります。この日、中国市場で売買するには十分な時間がありました。

しかし、欧州委員会がロシア主要銀行の SWIFT からの排除と、中央銀行の外貨準備使用の制限を含む、対ロシア制裁を発表したのは、2月26日 のことでした(”Joint Statement on further restrictive economic measures” ,European Commission 26 February 2022 を参照)。

これが市場に反映され得たのは、2月では、週明けの2月28日だけです。

この 1 日だけで、外国人投資家の中国国債保有の月額が過去最大の減少を記録したとするなら、極めて異例です。

異例ではあるものの、ウクライナ侵攻と対ロシア制裁の内容の重大さを考えれば、あり得ないことではありません。

ただ、そうだとすると、ブルームバーグの報道が、「対ロシア制裁発表後」ではなく「ウクライナ侵攻後」としているのは、不自然なのです。

対ロシア制裁が発表される前から、中国国債売りが急増していたと見るべきでしょう。

これを、どう解釈すべきでしょうか。

中国国債売りの原因として考えられるのは

中国国債が売られた原因を考える際、そのタイミングがウクライナ侵攻後であることについて、(1) 原因は他にあるが、たまたまタイミングが重なっただけ、(2) ウクライナ侵攻が原因である、の2つの場合に分けて考えるのが、わかりやすいでしょう。

順に追って行きましょう。

原因が他にある可能性

タイミングが重なっただけの原因として考え得るのは、米国の利上げでしょう。

0.25% に留まらず 0.5% の利上げもあり得るという話は 1 月にも出ていましたが、2 月後半にその話が改めて報道された最初のものの一つは、以下のロイターの報道のようです。

米0.5%利上げ、物価高進継続なら3月検討=アトランタ連銀総裁

―――2022/2/28付 ロイターより

日付をご覧下さい、2月28日です。しかも、米国時間でです。

この大幅利上げが原因である可能性は消えました。

ほかにも、タイミングが重なっただけの可能性があるのかもしれませんが、残念ながら、私には確認できませんでした。

ウクライナ侵攻が原因である可能性

次に、ウクライナ侵攻が原因である可能性について考えてみましょう。

世界の投資家ではなく、ロシアが大量の中国国債を売った可能性はどうでしょうか。

ロシアは、SWIFT からの排除までは予想していたでしょう。

それに備えて、外貨準備を積み上げ、米ドルとユーロの保有割合を下げ、ゴールドの保有割合も高めていました。

しかしながら、外貨準備の凍結までは予想していなかったという見方が、世界の大勢のようです。

この見方に従えば、ロシアが慌てて外貨の獲得のため中国国債を売ったとしても、制裁発表後の 2/28 以後だったはずです。

やはり、ブルームバーグの報道が、「対ロシア制裁発表後」ではなく「ウクライナ侵攻後」としていることと、整合が取れないようです。

世界がロシアだけでなく独裁国リスクを認識した

最後に考えられるのは、世界の投資家が、ウクライナ侵攻を見て、対ロシア制裁発表までに、すでに中国国債売りに動いた可能性です。

恒大集団の破綻など、中国から資本が逃避する理由は以前から積み上がっていました。

しかし、ウクライナ侵攻後に、中国単独のバブル崩壊リスクが急激に高まったという報道は見つけられませんでした。

ならば、ロシアのウクライナ侵攻そのものが、世界の投資家に中国リスクを強く認識させたと考えるのが妥当ではないでしょうか。

すなわち、ロシアや中国のような、領土拡張主義の独裁国家に投資することは、他国へ侵攻するための軍備拡大に組することに他ならないと。

脱中国を加速せよ

武漢肺炎後、企業や投資家の脱中国の動きが続いています。

しかし、ロシアのウクライナ侵攻は、独裁国家に投資することは、その国に軍事侵攻のための資金を提供してしまう可能性があると、世界に再認識させるきっかけになったと思います。

対ロシア制裁で当初異論が強かったドイツも、ある程度まで利害関係よりも共通の価値観を重視する姿勢に転じました。

対中国でも、そうした動きは強まるでしょう。

地理的にも近く、経済的結び付きが強い日本は、これまで以上に脱中国を加速すべきです。

ウクライナ事態がロシアの明白な敗北で終わると同時に、中国からの資金流出を加速させ、台湾や尖閣諸島・南シナ海への中国の領土的野望を未然くじくことを願ってやみません。<了>

読後感

転載コンテンツは以上です。

「独裁国家に投資することは、その国に軍事侵攻のための資金を提供してしまう可能性がある」。まったく、そのとおりでしょう。とりわけ「地理的にも近く、経済的結び付きが強い日本は、これまで以上に脱中国を加速すべき」とする指摘は、もっと多くの人に届くべきでしょう。

イーシャ様、大変ありがとうございました。

今回の論考でイーシャ様の議論に関心をお持ちになった方は、『夏は涼しく過ごそう ~快適節電ライフ~』というブログを直接フォローしてみてください。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

少しだけ余談です。

今回の論考、当ウェブサイトで今朝掲載した『西側、制裁逃れのロシアに今度は外貨準備の金取引規制』で、「わずか半年でロシアの外貨準備に占める人民元建ての資産が倍増した」とする「からくり」とも少し関わっている可能性はありますが、これについて現時点で結論付けるのは控えたいと思います。

※読者投稿の当ウェブサイトでの採用を希望される場合、直接に記事を執筆していただく場合だけでなく、今回のイーシャ様のように、ご自身のブログにアップロードしていただいた記事の転載をご依頼いただくという形式でも受け付けております。

本文は以上です。

読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。

にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ

このエントリーをはてなブックマークに追加    

読者コメント一覧

  1. 引きこもり中年 より:

    独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
    (そう自分に言い聞かせないと、素人が舞い上がってしまうので)
    今回のウクライナ危機で、中国の国債だけでなく、思わぬ国の国債が売られる可能性もあるのではないでしょうか。
    駄文にて失礼しました。

  2. トシ より:

    独裁国で中国、ロシアに決して引けを取らないのが北朝鮮。

    https://www.youtube.com/watch?v=34MQVwM_cjY&t=5s

    新型ICBM『火星17』発射映像!

    企画、撮影、演出、編集、脚本、人物、衣装、音楽…

    すべてにおいて独裁国家を象徴している。

    恐らく何度もリハーサルやリテイクをしているはず。
    その上でこの映像が完成したのだろう。

    個人的にツボに入ったのは

    ・サングラスを外しカメラ目線の総大将
    ・4回にわたる「発射」

    この映像を見るだけで独裁国リスクが理解できる。
    全世界がそう認識したはずだ。

  3. gommer より:

    筋立てに引っ掛かりを感じますが、中国に投資するリスクを大きく見積もった結果なのはその通りなのでしょう。

    投資家心理として、片棒を担ぐ事の忌避感などと言う情緒的なものはさほど重要ではなく、単純にセカンダリー・サンクションの可能性の様な損得がメインだと思います。

  4. しおん より:

    投資家や起業家の基本は、事の善悪等どうでも良く、「自分が儲かりさえすればよい」だと思います。

    今回の事は、確かに独裁国家のリスクを認識した事は間違いないと思いますが、その心情は単に「制裁で自分が大損をかぶりたくない」と言う事に尽きると思われます。

  5. カズ より:

    >ウクライナ事態がロシアの明白な敗北で終わると同時に、中国からの資金流出を加速させ、台湾や尖閣諸島・南シナ海への中国の領土的野望を未然くじくことを願ってやみません

    *ロシアへの制裁が、「明日は我が身」と、対中牽制に繋がって欲しいですね。

    意義:中国への”見せしめだ!”
    行動:中国での “店閉めだ!!”
    m(_ _)m

  6. イーシャ より:

    新宿会計士 様
    この度はつたない考察を取り上げていただき、ありがとうございました。

    今回は、ブルームバーグの記事を読み、カレンダーをふと見たとき、何か時系列が合わないと感じて調べたことを、ほぼそのまま書いてしまいました。
    対ロシア制裁の発表までに中国国債が売らたれ背景としては、パラリンピック終了と同時に中国も台湾へ侵攻する可能性があり、その結果として、対イラン制裁などから予め想定できる SWIFT 排除などで資産が毀損することを恐れた投資家が売り急いだ可能性も考慮すべきだったかなと思っております。

    改めて自分で読み直して、そうした考察不足は感じますが、独裁国家に対するリスクが強く認識されるようになったなら、それを未来に生かしてゆかねばならないと考える次第です。

    1. 新宿会計士 より:

      イーシャ様

      今回はご投稿を賜り大変にありがとうございました。
      現在進行形の事象ですので、どうしても現時点で判明している内容には限界もあるとは思います。ただ、新たな情報などが判明し、続編を執筆されることがあれば、是非ともまた転載依頼をお願いできますと幸いです。

      引き続き当ウェブサイトのご愛読並びにお気軽なコメントを賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。

  7. だいごろう より:

    度々の再投稿で恐縮ですが、以下のコメントを再度書いておきます。
    私なりに頭の体操をしたつもりです。

    ———-

    ロシアへの経済制裁が今後の中国の対外政策に与える影響が気になります。

    https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM04CLX0U2A300C2000000/

    日経記事によると、東側諸国の中銀資産はこの10年でドル依存率を減らしており、今回のロシア中銀への海外資産凍結制裁の甚大な影響を受けてそれが更に加速しているようです。

    専門外ながらこれまで新宿会計士様の論説を読んできた私の物凄くざっくりとした理解は、「外貨としてソフトカレンシーを保有していても意味が無い」と言うものです。
    幸いにしてハードカレンシーは西側諸国のみで占められており、新宿会計士様曰く人民元は「国際収支のトリレンマ」理論により今のままではハードカレンシーたり得ないので、中銀の海外資産凍結の威力を目の当たりにした中国が台湾に軍事侵攻するリスクは一旦後退したのではないでしょうか。

    以上を踏まえ、習近平が中国夢を実現するためにこの後取りうる(既に取っている?)方法は二つあると思います。

    一つは「制裁に耐えうる中国経済圏の確立」です。
    西側諸国のハードカレンシーが凍結されようとも、中国経済圏だけで経済を回せれば少なくとも同圏内ではハードカレンシー国として振る舞うことができます。
    これにより制裁の影響を緩和できるので、安心して台湾に攻め入ることが出来ます。
    もちろん、東側諸国の面々を見ると中国経済圏がまともに機能するかは心許ないのですが、だからこそアジア・中東・東欧・南米などの日和見国への多数派工作が今後さらに激化する可能性もあります。
    (対露制裁で日和ったインドも油断できないですね。ロシアとの国境問題を解決した実績のある中国からすれば、インドとの国境問題を解決することで同国を対中包囲網から引き剥がすことは戦略的に十分検討の価値があります)
    また、ウクライナ侵攻後のロシアが東側に残ってしまった場合、地下資源を安く買い叩ける中国経済圏の籠城耐久力に大きなプラスとなります。

    もう一つは、「制裁されない形での台湾支配」です。
    国際法上イギリスから正式に返還された香港と完全に同じには行かないでしょうが、台湾の政界・財界・司法・論壇に大陸寄りの人間を送り込んで(あるいは籠絡して)台湾を少しずつ赤く染めることで「民主的に」支配すれば、制裁を課されるリスクはほぼ無いでしょう。
    (余談ですが、『サイレント・インベージョン ~オーストラリアにおける中国の影響~』によると中国は豪州で民主的支配の実戦経験を大いに積んでいるようです。最終的にはFOIPという形で失敗していますが)
    その過程で、香港のように人権を無視した拘束や言論統制は当然発生するでしょうが、香港の時に制裁を受けなかったことが中国にとって大きな自信となっているはずです。
    少なくとも地政学的に影響の小さい欧州は経済的繋がりを優先させるでしょうし、ウイグル・チベット・香港を指をくわえて見ている日米も制裁には踏み切れないでしょう。
    ある意味ウクライナ同様に台湾の方々がどこまで抵抗できるか(中国の非人道的な実態を国際世論に晒せるか)にかかってきそうです。
    香港の雨傘運動があれだけ頑張って国際的な注目を集めても結局駄目だった現実を見るにつけ、悲観的にならざるを得ませんが。

    今後は、これら二つの方法のいずれか、あるいは両方を駆使した台湾支配を追求する中国の動向が注目点になるのではないでしょうか。

  8. 愛読者 より:

    いやー、やはり日本は民主主義の国であるべきですね!
    中国もデフォルト問題をうまく処理することは不可能でしょうし経済停滞からの衰退は免れません
    中国サッカーも完全に日本に負けました
    第二の教訓となる日も近いでしょう

    1. バシラス・アンシラシスは土壌常在菌 より:

      サッカー関係無いだろ

※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。

やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。

※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。

※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。

当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました

自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。

【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました

日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。
関連記事・スポンサーリンク・広告