時価総額でビットコインがルーブルを上回る=制裁影響

実体経済の歪みは、たいていの場合、暗号資産(仮想通貨)市場に現れます。最近、ビットコインなどの暗号資産の価格が急騰しているのに加え、それらの資産のロシア・ルーブル建て、ウクライナ・フリブニャ建てなどの取引シェアが高まっているそうです。

市場の歪みは暗号通貨市場に出て来る

これまでに当ウェブサイトでしばしば取り上げてきた論点のひとつが、「韓国の資産バブルとコロナ禍直後の米FRBによる金融緩和の関係」に関するものであり、具体的なメカニズムを示すと、こんな具合です。

韓国資産バブルFRB主犯説
  • ①FRB等、主要国中央銀行による金融緩和
  • ②為替市場で韓国ウォンを含めたEM(※)通貨高
  • ③韓国の通貨当局が「ウォン高になり過ぎれば輸出業者が困る」と判断
  • ④韓国のウォン売り・ドル買い介入(→外貨準備の増加)
  • ⑤市中のウォン流通量が増大(→マネタリーベースの増加)
  • ⑥金融機関の家計向けローンが増大(→家計債務の増大)
  • ⑦カネを借りた家計がリスク資産(株式、不動産、暗号資産など)に投資
  • ⑧韓国ウォンがビットコイン取引通貨の第3位に浮上

(【出所】著者作成。なお、「EM」とは “Emerging Markets” 、つまり「新興市場諸国」のこと)

その詳しいロジックやこの説を裏付けるデータなどについては、以前の『不動産市場から「韓国資産バブル」を解説する鈴置論考』を含めてしばしば言及してきたとおりですので、本稿では繰り返しません。

ただ、ここで重要なことがひとつあるとしたら、「市場の歪みが暗号通貨市場で出て来る」、という点でしょう。

韓国ウォン、ビットコイン取引量で「世界3位」の衝撃』などでも取り上げたとおり、昨年9月には、なぜか韓国ウォンがビットコインの取引量で世界第3位を記録する、とった珍事が発生しています。

韓国ウォン自体はいわゆる「基軸通貨」でもなく、「国際的なハード・カレンシー」でもありませんし、基本的には世界的に広く通用する通貨ではない、という点を踏まえるならば、これは大変に異例なことです。

イレギュラーな現象の裏にあるもの

したがって、金融論の立場からいえば、「ビットコインの取引量で韓国ウォンが世界第3位を記録した」という現象は、「その時点において、世界と比べて韓国国内では大変活発にビットコイン取引が行われていた」、ということを意味しています。

逆に言えば、ビットコインなど暗号資産の市場で、国際的なハード・カレンシー(たとえば米ドル、ユーロ、日本円、英ポンドなど)ではない通貨での取引のシェアが高まるときには、なにか「異例なこと」が生じている証拠でもある、というわけです(韓国ウォンの場合は韓国の資産バブル、ということでしょう)。

こうしたなかで、『COINPOST』というウェブサイトに昨日、こんな記事が掲載されていたのを発見しました。

ルーブル建てのビットコイン取引量急増、制裁逃れに仮想通貨が利用されるリスクは

―――2022/03/02 11:25付 COINPOSTより

同サイトによると、とくに先週24日のロシアによるウクライナ侵攻開始後から、ロシア・ルーブル(RUB)建ての暗号資産の取引量が、それまでの平均的な日間取引量と比べ、3倍以上に急増しているのだそうです。

また、仮想通貨データ分析サイト『Kaiko』によれば、ウクライナの通貨・フリブニャ(UAH)建ての取引量も急増しており、これに加えてフリブニャ建ての取引では、ユーロ(EUR)建てやルーブル建ての取引などに対し、6%程度の価格乖離(プレミアム)が生じている、などとしています。

また、フォーブズが昨日配信した次の記事でも、ロシアのウクライナ侵攻から6日目を迎えた3月1日、ビットコインなど主要な暗号資産の価格が急上昇した、などと述べています。

ビットコイン急騰、時価総額がロシアのルーブルを上回る

―――2022/03/02 10:45付 Forbs JAPANより

その結果、『CoinGecko』のデータによると、暗号通貨市場全体が過去24時間で10%も成長し、時価総額が2兆ドルを突破。また、『CoinMarketCap』のデータによると、1日時点でビットコインの時価総額は約8200億ドルで、ロシアのルーブルの時価総額の6380億ドルを上回っているのだそうです。

どうして暗号資産の価格がここまで急騰したのかといえば、その理由はおそらく、多くのロシア国民が自国への経済制裁を見越し、ルーブル建ての資産を暗号資産に退避させる動きに出ているからではないでしょうか。

欧米諸国は追加制裁余地を残す

さて、こうしたなかで、フォーブズの記事には若干の注意点もあります。

ウクライナに侵攻したロシアに、各国の政府が厳しい経済制裁を発動した結果、ロシアは世界の金融システムから孤立し、経済は停滞し、同国の通貨であるルーブルは史上最安値まで急落した」。

この点には、若干の事実誤認があります。

あくまでも現時点の報道から判断する限り、ロシアの「すべての」銀行がSWIFTNetから除外されたわけではなく、ロシアの金融システムが世界の金融システムから完全に孤立しているというものではありません。

ただし、言い換えれば国際社会はロシアに対する追加制裁の余地を残している、ということでもありますし、これに加えてクレジットカード会社などに続き、暗号通貨取引所がルーブル建ての取引を停止するようなことがあれば、今後は暗号通貨の価格が逆に暴落する可能性もあります。

したがって、「ロシア要因」に基づく暗号通貨市場の高騰は、一時的と見て良いのではないかと思う次第です。

国際制裁の本丸は外貨準備凍結+起債禁止

さて、『外貨準備の使用制限でロシアは通貨防衛ができなくなる』などを含め、当ウェブサイトでは何度となく指摘してきたとおり、欧米諸国の経済制裁の「本丸」は、SWIFTNetからの排除だけでなく、外貨準備の凍結や外債の起債制限などにあります。

つまり、ロシアにとっては、通貨安が生じ、それを外貨準備による為替介入で防衛することもできず、また、新発債の発行が禁じられているがために外貨そのものを借りて来ることができなくなっているため、ロシアの通貨は下落するに任せるより方法がなくなります。

実際、国際決済銀行(BIS)のデータによると、ロシアの通貨・ルーブルは1ドル=100ルーブルを越える史上最安値水準にあります(図表)。

図表 USDRUB

(【出所】the Bank for International Settlements, US dollar exchange ratesより著者作成)

また、WSJのマーケット欄によると、ロシアの通貨・ルーブルは1ドル=100ルーブル台を挟んで行き来するような展開が続いていますが、今後、実効性のある経済制裁措置が具体化していくと、ルーブルの価値はさらに下落する展開も続きそうです。

読者コメント一覧

  1. 元ジェネラリスト より:

    ルーブルの時価総額ってなんだろうと思ったんですが、マネーサプライのドル建て表記のことですかね?

  2. 匿名 より:

    物品を販売しても、お代の替わりにパンチを返してくるような国の通貨、誰が信用するかね。

  3. りょうちん より:

    そういえば最近は戦時国債とか出さないのですかねえ。
    ウクライナが起債すれば、帰ってこない寄付のつもりで1万円くらいなら買ってあげたいのに。

    1. 匿名 より:

      ウクライナ出していますよ。
      機関投資家向けで、売れているようですよ。

      1. 元ジェネラリスト より:

        実は利回りが下がっていたり、なんて思って見てみましたが、既存のウクライナ国債1年物の市場での利回りは今45%で、日々上昇してますね。さすがに。
        戦時国債は11%(多分額面)だそうです。

        この記事によると個人でも買ってるようですが。
        https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-03-02/R83CBWT0AFF801

        どうやったら買えるのだろう。

  4. はにわファクトリー より:

    実体経済の歪みが暗号通貨市場に現れる、すばらしい表現です。

    実数と虚数が交差して実体空間に形を持ったり、この世の向こうに入って行ったりする様子が、波やうねりとして目に触れるのでしょうか。ロマンがあります(違うか)

  5. がみ より:

    それでもロシアには食い物があるから、小麦・トウモロコシ・ヒマワリの種での物々交換でなんとかなるんだよな…
    中国あたりホイホイ買うし。

    最後は食糧と燃料か…

    1. 匿名 より:

      中国も ウクライナ騒動に紛れて台湾狙うより
      終戦処理に失敗したロシアの資産を狙った方が果実が大きいと思い始めた気がする

      1. 伊江太 より:

        台湾に持っていかれた故宮博物館の至宝を取り戻すよりは、エルミタージュ美術館の名画を手に入れる方が安上がりかも知れないですね(笑)。

      2. がみ より:

        匿名様

        なんかもやもやなんですよね、その辺が。

        今回ロシアのプーチン氏が跳ねても、中国の習近平氏にはなんにもメリットが無い。
        根こそぎ困る事もないけど味方をして得られるものがまるで無い。
        オリンピッ・パラリンピック開催中にロシアに面子汚されただけ。二重三重に。

        日米はじめ西側敵に回して台湾獲るよりアメリカが躊躇するなかで反プーチン急先鋒になった方が遥かに大きな面子がたつ。

        ロシアのおかげで国際経済不透明だし石炭価格上がるし…
        不動産政策の失敗も含め世界の批判を一身に受けていた中国にとっては渡りに舟みたいな。

        多分露中の連携が取れていないのはウクライナからの中国人避難が拙速なのを見ても不思議。

        同じくらいのリスクとコストかけるなら台湾はとりあえず置いといてプーチン政権のロシア倒した方がメリットでかい。
        下手すりゃ世界の救世主扱いされる。

        プーチン氏も習近平氏もレジェンド作りしてるなら、ロシア倒して乗っ取った方が中国史上も大偉業。
        台湾は言いかた悪いけど中国の言い種なら「国内」問題でしかない。

        いくらなんでも変過ぎる戦争だなぁ。
        今世紀に重車両によるノロノロ侵攻とか…
        出来の悪いミリタリーチェスというか軍人将棋や古い戦史もの映画観ているみたいだ。

        1. バシラス・アンシラシスは土壌常在菌 より:

          世界の救世主?
          中国人は世界の救世主になれるとは思わんだろ
          狡兎死して走狗煮られるという中国の諺があってだな

  6. 伊江太 より:

    通貨の本質が,財の交換手段という、人間社会に不可欠で、今後ますます増大することはあっても決して消滅することのないニーズに対応するものである以上,無闇にその量が増えないことさえ保証され、トレーサビリティが担保されている限り、金だの国家の信用だのといった具体的な裏付けは必要ないというのが、暗号通貨が公認されている理由だと聞いたことがあります。

    だけど、その価値(額面)を決めているのは。あくまでリアル通貨との交換情況を反映したもののはずだと思うのですが、それがロシアルーブルだの、韓国ウォンだのといった、将来性の怪しい通貨を大量に呑み込んで膨れ上がっているとするなら、それってその暗号資産の実質的価値をドンドン毀損していることになるんじゃないでしょうか。

    まあ、暗号通貨なんてアブナイものに手を出すつもりはないんで、個人的にはどうでもいい話ではあるんですが、それでも好奇心はそそられます。

    1. 元ジェネラリスト より:

      >それがロシアルーブルだの、韓国ウォンだのといった、将来性の怪しい通貨を大量に呑み込んで膨れ上がっているとするなら

      ビットコイン特有の話ではなく一般論ですが、
      ビットコインとルーブルの取引は、ルーブルとビットコインのそれぞれの所有権が移転しているだけです。
      ルーブル札を燃やしてビットコインにしているわけではありませんしね。

      ビットコインの時価総額は、現時点での(主に米ドルとの)交換比率で掛け算しただけの仮想の価値です。
      ルーブルが暴落しても米ドルとの交換比率には直接は影響しません。
      ルーブルが暴落するということは、過去にビットコインを売ってルーブルを所有している人が損をするだけの話だと思います。

  7. より:

    SWIFTからの排除と言っても、結局最大手銀行であるズベルバンクとガスプロム傘下のガスプロムバンクは排除対象から外されたそうです。理由はもちろん「ロシアから購入するエネルギー代金の決済」のためだとか。まあ、予想された展開ではありますけれども。

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