朝日新聞社OBが明かす「新聞ビジネスの限界」と未来

朝日新聞OBの方が執筆した『創業以来最大の赤字:朝日新聞社で今、何が起きているのか』と題した記事が話題です。インターネット普及で紙媒体の衰退がくっきりしてきたなか、この論考の執筆者の方自身が早期退職に応募したという経歴もあるのだとか。

株式会社朝日新聞社の創業以来の赤字

昨年の『株式会社朝日新聞社の有報を読む』では、株式会社朝日新聞社の有価証券報告書(有報)をベースに、同社が2021年3月期決算では連結ベースで441億9400万円という巨額の最終損失を計上した、という話題を取り上げました。

ただ、この「400億円を超える赤字」が発生した原因は、基本的には同社が2021年3月期において、退職給付に係る繰延税金資産を取り崩したことなどによるものであり、一過性の要因です。もちろん、新聞の部数は継続的に減少し続けているのですが、それでも同社は優良資産を多数抱え、経営基盤は盤石です。

実際、『株式会社朝日新聞社の中間決算は黒字化するもまた減収』でも取り上げたとおり、同社は2021年9月の中間決算で、部数の減少傾向が続いているとはいえ、決算は黒字化しました。

朝日新聞OBの方の論考

これについては、一過性の要因が剥落したことに加え、同社の売上原価、販管費が大きく圧縮されていることで最終利益を確保したものと思われるのですが、この前期末の赤字と今中間期の黒字化について、「内部」から解説した記事がありました。

『nippon.com』というウェブ評論サイトに先週、朝日新聞社の元編集委員でジャーナリスト・シンクタンク研究員の谷田邦一氏が、こんな記事を寄稿していたのです。

創業以来最大の赤字:朝日新聞社で今、何が起きているのか

―――2022.02.16付 nippon.comより

記事タイトルにある「創業以来最大の赤字」とは、2021年3月期決算のことを指しています。

同サイトによると、谷田氏は2021年1月に朝日新聞社が始めた「選択定年」という希望退職者の募集に応じ、5月に退社されたそうです。

谷田氏によると、季刊で発行される同社の社内報には、末尾に退職した人の顔写真やコメントが掲載されるコーナーがあるのだそうですが、2021年夏の社内報には、谷田氏を含め「選択定年」に応じた方が79人も並んでいたのだそうです。

谷田氏は、こう指摘します。

  • 異様なほどのその人数の多さが、まさに社内で進行しつつある危機の大きさを如実に物語る」。
  • 『大赤字、デジタル化、大量退職』。同じ社内報に収容された3つの話題は、今の朝日新聞が直面する現実をくっきりと浮き彫りにしている」。

このうち、本稿でとくに確認しておきたいのは、「デジタル化」です。

当ウェブサイトでもしばしば取り上げているとおり、スマートフォンの急速な普及などのデジタル革命に、新聞各社が乗り遅れていることを意味します。

朝日新聞社はネット化に先行していたはずでは…?

ただ、ここで一点、記事を読んでいて、やや疑問に感じる部分があります。

じつは、朝日新聞社は1990年代には「アサヒ・コム」を開設し、ネット上で速報などを流し始めているという経緯がありますが、その朝日新聞が「デジタル化に乗り遅れた」とは、一見すると不思議な記述です。

しかし、これについて谷田氏は、明快な答えを出します。それは、「ネット収益化戦略の失敗」です。

谷田氏は、「購読者数が減少するのと反対に、ウェブのページビューは急増」し、「ネット利用者の間にはすでに『ニュースはタダ』という先入観が根付いてしまった」と指摘。

さらには新聞各社が自前のネットサイトでニュース配信をするなか、新聞業界が一体となったポータルサイトの創設に失敗し、記事に紐づく広告を『Yahoo!ニュース』などのニュースポータルに奪われてしまった、というのが、谷田氏の見立てなのです。

しかも、窮余の一策として、朝日新聞は2021年7月に27年ぶりの購読料値上げに踏み切ったのですが、これについても谷田氏は「景気低迷のさなかの唐突な値上げを読者がどうとらえたかは、いずれ購読者数の変化で明らかになるだろう」と突き放します。

なお、値上げに踏み切ったのは朝日新聞だけでなく、毎日新聞(2021年8月)や読売新聞(2019年1月)も同様ですので、「購読者数の変化」という意味では、やはり新聞全体での話と見るべきかもしれません。

(※ちなみに値上げに際し朝日新聞は、「ネット上にフェイクニュースが飛び交う今、新聞の役割は増している」などとして、値上げに理解を求めたのだそうですが、じつに面白いブラックジョークだと思う次第です。)

新聞業界の将来は?

ただ、このように考えていくと、ふと疑問に感じるのが、「果たして新聞業界の将来はどうなるのか」、です。

最大手の朝日新聞社でさえ、ここまで本業が不振に陥っているわけですから、日経などの「特殊な事例」を別とすれば、基本的に今から10年後、いや、下手をしたら5年後にも、大手全国紙や大手地方紙のなかには廃刊を決断せざるを得ない事例が出て来るかもしれません。

実際、日本新聞協会が公表しているデータによれば、新聞の発行部数はこの20年間で(データの取り方にもよりますが)40~50%も減少していることが確認できます(『データで読む:歯止めがかからない新聞の発行部数減少』等参照)。

また、現時点において、全国の地域紙のなかには休・廃刊に追い込まれる事例が相次いでおり、「新聞がないエリア」が出現し始めている状況です(『新聞社幹部「新聞には正確な情報源として需要がある」』等参照)。

著者自身の見解ですが、新聞業界がこうした状況に直面している理由は、結局のところ、社会のテクノロジーの進歩により、新聞に「紙媒体」としての需要が激減してきたという側面に加え、日本の新聞業界が記者クラブ制度に安住し、進歩を怠ってきたことにあると考えています。

「新聞には正確な情報源としての需要がある」という新聞社幹部の発言にも呆れます。

慰安婦捏造報道などを含め、最近だと、「むしろ新聞こそフェイクニューズの発信源ではないか」との疑念が、一般社会に渦巻いているのではないかと思う次第です。

もっとも、財務論的な立場に基づけば、朝日新聞社については今後も売上高のジリ貧が続くと思われる反面、本業を「不動産賃貸業」にあると考えて、新聞事業の経費を「本業の範囲」に抑えることに成功すれば、同社はビジネスモデルの転換に成功するはずです。

このあたり、粉飾に次ぐ粉飾で、いまや倒産寸前にあると思われる某同業他社と比べれば、条件は遥かに恵まれています。新聞業界全体の今後の展開には要注意、といったところでしょうか。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 雪だんご より:

    この朝日OBの記事、「デジタル化、ネットの台頭」については細かく解説している一方で
    「朝日その物の問題、質の低下、政治的スタンスへの批判など」には一切触れていませんね。

    そりゃそうだよ、と納得出来はします。だって今更引き返せないんだから、
    そんなどうしようもない問題はなかった事にするしかない。
    だけどやっぱりこういうスタンスを見ると、朝日の関係者は
    「いかにして自分の引退まで逃げ切るか」しか考えていないのかなあ、としみじみします。

    数十年後の朝日新聞は彼らの論調を好む少数派向けのマニアック新聞を発行しつつ、
    本業は不動産であり新聞はもはや余興、と言う状態になるのかなあ……?

  2. はにわファクトリー より:

    新聞紙の消費期限を考えると最大24時間。それを超えるとどんなに貴重な報道記事が含まれていようが古新聞として処分されてしまい人目に触れることなくその価値を主張する機会は失われてしまいます。新聞紙という媒体によるサーキュレーションがなくなっていいとは考えませんが、収益手段としては命運が尽きているとしか言いようがありません。

  3. 元ジェネラリスト より:

    今や巨大な印刷工場や放送設備を構えなくても、マスメディア業をやれる時代なんですよね。なので、会社が巨大である必要がない。
    社員をたくさん抱える必要もないので、少数精鋭で良質コンテンツを提供できる体制のほうが動きも早くて有利でしょう。

    巨大な体制なら凡人をプロ記者に育て上げる育成システムを抱えたり、金をかけて遠距離長期間の取材をしやすくなるでしょうし、それを無駄とは思いません。
    ただ、その力を背景に捏造報道や角度を付けた報道をするんであれば、「いらん」と思ってしまいます。
    筆者の朝日OB氏は、マスメディアが信頼を失っている点には触れていませんが、重要な要素だと思います。

  4. M1A2 より:

    >(※ちなみに値上げに際し朝日新聞は、「ネット上にフェイクニュースが飛び交う今、新聞の役割は増している」などとして、値上げに理解を求めたのだそうですが、じつに面白いブラックジョークだと思う次第です。)

     その面の皮の厚さに驚きを禁じ得ない、怒りどころか呆れすら通り越してもはや理解不能。
    捏造報道しまくりの新聞社がこんな事よく言えたなぁ。
    で、結局K・Yって誰だったんですかね朝日新聞さん?

  5. 引きこもり中年 より:

    次の自分に自信をもって、早期退職に応じた朝日新聞のOBだから、感情ぬきに朝日新聞の現状を分析できる、ということでしょうか。

  6. トシ より:

    スマホの普及によって年々新聞の発行部数が減少。
    それに合わせて新聞広告も大きく減少。

    ここでコロナが登場。

    新聞各社はコロナをこれでもかと煽った。

    それで新聞広告に加えて販売店の収益の源泉である折込広告も激減。
    折込広告の減少で販売店も「押し紙」を受ける余裕がなくなり更なる発行部数減。

    スポンサーももはや新聞を有力な広告媒体とは思わなくなった。

    コロナによって新聞業界は自分で自分の首を絞める結果となった。
    自分たちの業界の寿命を自分たちで大きく縮めたのである。

    これとまったく同じことがTV業界でも起こったことは言うまでもない。

    1. haduki より:

      トシ様
      加えて読者の気を引くためにテレビと一緒に東京五輪中止を煽った結果
      メダルのご祝儀広告が殆ど来なくなったのも記憶に新しいですね。

      1. トシ より:

        haduki様

        そんなこともありましたよね。

        新聞社の経営陣や現場記者はこの状況を疑問に思わないのでしょうか?
        新聞各社一同がこの愚行で売上、利益、発行部数を落としている。

        自分たちで読者やスポンサーを切り捨てている。
        コロナが収まっても、一度離れた彼らはもう戻ってはこない。

        外野から眺めている利害関係もない一般人ですが、新聞社が何を考えているのかまったく理解できません。

  7. haduki より:

    以前も書き込みましたが
    新聞各社は今後ニッチな需要の受け皿として紙媒体の発行を細々と続けながら
    ネットのニュースサイトに記事を買って貰う下請けになる運命でしょうね。

  8. ダージリン より:

    ニュースそのものの需要は、ネットが台頭したことで増えたのではないかと思います。ただ、紙に印刷して家庭に届けるという形を望む人は、今後もいるでしょうけど、コストや閲覧・携帯性、整理などの面から考え、比率として下がるだけでしょう。普通に考えて、新聞社は通信社化し、紙の新聞はさらに減っていくのではないですか。

  9. 通行人 より:

    今から10年前、ネット化の早いアメリカで、新聞社の経営不振と倒産の危機が日本でもニュースになっていました。あれから10年、(倒産した社もありますが)ニューヨークタイムズ、ウォールストリートジャーナル等は健在で、記事や社説が日本の報道にも引用されています。

    紙媒体からネットへの移行が見事に成功している訳で、ではなぜ日本でうまくいかなかったというと、紙でやっていたことを、そのままネットでやっていたから、と個人的には思っています。

    ネットに代われば、できること、できないことが変わるわけですが、「できないことはそのまま」「新しくできることも面倒くさいから手をつけない」等があって、ダメなニュースサイトがそのままになっている気がします。

    原因は①新聞社がド文系の集団で、コンピューターやネットに疎いこと。②いままでうまくいっていたから、このままでいいやと、変化を怠ったこと、と勝手な邪推をしています。

  10. バシラス・アンシラシスは土壌常在菌 より:

    藤井が将棋で十代初の五冠王だか七冠王だかになったらしいが
    タイトル戦の日程に違和感を感じた素人はどれくらいいるでしょうか?
    素人でも案外「昔からずっとそんなもの」とスルーしているかもしれませんが
    結論を言うと、将棋(と囲碁国内戦)の変則日程は新聞社に配慮したもの
    どういう配慮かと言えば、新聞で一試合を数日に分けて観戦記連載しているため
    新聞社が潰れたら、別のスポンサーを探して今のタイトル戦を維持するにしても、日程の大幅見直しは必至になる

  11. だいごろう より:

    まともな野党の台頭が不可欠であるのと同様に、まともなマスメディアの確保も喫緊の課題だと思います。

    新宿会計士様が予てよりご指摘の通り個人ブログや論評サイトにおけるWeb論評はかなり充実しており、数人の論説委員が定型文を垂れ流しているだけの新聞各紙など今や足下にも及びません。
    他方、現場での取材についてはまだまだマスメディアに代わる存在が無いのが現状だと思います。

    政治経済社会文化に大小の変化をもたらす世の出来事に関する第三者の視点からの調査報道は、情報インフラとして欠かせません。
    前述のWeb論評も、大半は議論の前提となる事実関係を当事者機関の公式発表かマスメディアの報道に依存しているため、まともなマスメディアが育たないと情報源が大本営発表のみに限られてしまうリスクが有ります。

    辛うじて光明が有るとすれば、一つはSNS、もう一つは各業界の第一線で活躍している専門家による論評でしょう。

    白昼発生した事件事故であれば、偶々居合わせた個人によるSNSは「いつ・どこ・で何が」起こったかを世に知らしめる最速の情報源となり得ます。
    しかし、「何故・どのように」起こったかを調べるのは素人の手に余り、ましてや政治経済文化に関する情報源としての役割は望むべくも無いため、やはり調査報道のプロフェッショナルとしてのマスメディアは必要でしょう。
    また、SNSによる拡散・炎上はかつてのメディアスクラムによる加害行為を大衆化してしまっているため、個人的には当事者(特に事件事故の被害者及び罪が確定する前の容疑者)のプライバシーを守るための規制が必要だと思っています。

    各業界の専門家による論評は最も信頼が置ける情報源で、私自身も個人的に一番読む機会が多いのはこの手のWeb記事です。
    (このサイトの金融関連の記事も私の中ではここに分類されます)
    しかしこれにも難点があり、正確性と客観性がトレードオフの関係にある点には注意が必要です。
    優れた論評が書くには業界内部で実務に当たる専門家で有ることが望ましいですが、個々の事象の現場に近くないと正確な情報が得られない一方、近すぎると専門家としての利益相反が発生して当事者となってしまい、ポジショントークのインセンティブが働く恐れがあるからです。

    以上を踏まえると、第三者として当事者の中に斬り込んで、正確かつ客観的な取材が出来る専業のマスメディアは無くてはならないものだと思います。
    個人的に、我が国で一番その理想に近いのは日経新聞だと思います。
    (異論は認めます)
    同氏の電子版が国内で唯一黒字化できている理由もそこにあるのでは無いでしょうか。

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