英BBC「受信料廃止議論」がNHKに与える影響は?

英BBCを巡り、受信料廃止が議論され始めた、という報道がありました。英国と日本だと受信料制度や公共放送の在り方自体が大きく異なるため、単純比較は難しいのですが、それでも英国の議論の事例は大変に参考になります。そして、Netflixやアマゾンプライムなどの動画配信サービスが隆盛になるにつれ、「視聴していないのに強制的に受信料を取り立てること」の是非に社会的関心が向くのは当然のことでもあります。

例外をどこまで認めるか

「日本は自由・民主主義国家である」、というのは、おそらく日本人であればたいていの人であれば、知っている論点でしょう。そして、自由・民主主義国家においては、民間企業は市場原理で動きますし、政治の最高権力者は民主主義の手続を経て選び出されるはずです。

このように申し上げると、「なんでもかんでも、市場主義・多数決主義で決めるのは間違っている」、といった趣旨の反論をいただくことがありますし、それらの主張のなかには、傾聴に値すべきものもないわけではありません(※賛同できるかどうかは別として)。

たとえば、市場競争が行き過ぎれば、「貧富の格差が限りなく開いてしまう」、「儲け至上主義となり、消費者が騙されてしまう」、といった指摘がありますし、多数決主義が行き過ぎれば、「社会的少数派の意見が切り捨てられてしまう」、「ポピュリスト権力を握ってしまう」、などの主張も見られます。

じつは、このあたりについては自由・民主主義国にありがちな「永遠の課題」のひとつなのかもしれません。

だからこそ、たいていの自由・民主主義国では、社会主義的な政策を部分的に取り入れていますし、また、選挙で選ばれた政治家以外にも、選挙の洗礼を受けない官僚機構というものが発達する傾向にあるのは間違いありません。

さらには、「自由・民主主義」を名乗るたいていの国では、「三権分立」と称し、司法、行政、立法の三権が並立していますが(※稀にそうでないケースもあります)、多くの場合、このうち「司法」に関して、裁判官は選挙ではなく試験によって選ばれています(※日本がその典型例でしょう)。

したがって、選挙で選ばれたわけでもない官僚が政治権力を握ったり、市場原理に基づく経済競争を勝ち上がったわけでもない企業が存続していたりするのは、ある程度は止むを得ない話なのかもしれません。

原理から逸脱したNHK

例外は限定的でなければならないのだが…

ただし、それでも自由・民主主義国である以上は、やはり「最終権力者」は選挙で選ばれた政治家でなければなりませんし、「従業員に高給を支払うようなエクセレントカンパニー」は経済競争に勝ち残った企業でなければならないのは間違いありません。

そして、選挙で選ばれたわけでもない官僚が政治家をも上回る権力を握ることがあってはなりませんし、経済競争と無縁の企業が職員に対し1人あたり1600万円近い人件費を計上する、といったことについては、なおさらあってはならない話です。

ところが、この日本において、こうした「自由・民主主義」の鉄則から外れた組織が、いくつか存在しています。

民主主義の原理から逸脱した組織の典型例は財務省でしょう。なにせ、国のサイフの入口(国税庁)と出口(主計局)を一手に握り、カネの面から政治家を締め上げることもできてしまいますし、この30年間、増税という誤った政策で日本経済を最も痛めつけてきた主犯でもあるわけですから。

その一方で、自由主義の原理から大きく逸脱している組織の典型例が、NHKです。

NHKは自身を「公共放送」だと騙り、放送法第64条第1項本文の規定(※下記参照)を振りかざし、テレビを設置した人(や、ときとしてテレビを設置していない人)に、受信契約の締結を迫ります。

放送法第64条第1項本文

協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。

NHKと受信契約を締結してしまえば最後、その人は、NHKの番組を、それこそたった1秒も視聴していなかったとしても、NHKに対して年間13,650円(地上波のみの契約で、口座振替やクレジットカードでの1年一括払いの場合)の受信料を支払う義務が生じるのです。

やりたい放題のNHK、その根拠は「公共放送」

これをNHKの側から見れば、いったん受信契約を締結させることに成功すれば、その人がテレビを廃棄でもしない限りは、契約を破棄される心配はなく、半永久的に受信料を取り立てることが可能です。極端な話、どんなにくだらない番組を作ろうが、どんな下品な番組を作ろうが、やりたい放題できてしまう、というわけです。

ちなみにNHK自身が述べる『公共放送』とは、「①営利を目的とせず、②国家の統制からも自立して、③公共の福祉のために行う放送」なのだそうです。

公共放送とは何か

電波は国民の共有財産であるということからすると、広い意味では民放も公共性があるということになりますが、一般的には営利を目的として行う放送を民間放送、国家の強い管理下で行う放送を国営放送ということができます。これらに対して、公共放送とは営利を目的とせず、国家の統制からも自立して、公共の福祉のために行う放送といえるでしょう。/NHKは、政府から独立して 受信料によって運営され、公共の福祉と文化の向上に寄与することを目的に設立された公共放送事業体であり、今後とも公共放送としての責任と自覚を持って、その役割を果たしていきます。
―――NHKウェブサイト『よくある質問集』より

しかし、『NHKの紅白歌合戦視聴率が史上最低?何か問題でも?』などでも取り上げましたが、2006年の『紅白歌合戦』では、出演したダンサーが全裸(に見える服?)で踊り狂うという、大変に下劣なコンテンツが流れました。いったいこれのどこが「公共の福祉」なのか、疑問です。

また、NHK自身が「国家の統制から自立している」と騙っているわりには、NHKが存続できるのは放送法第64条第1項本文という条文を国家が準備してくれているからであり、その意味では、NHKは「国家の統制から自立」していないのです。

さらには、昨年末の『「公共放送の3要件」から明らかに逸脱する紅白歌合戦』などでも述べたとおり、『紅白歌合戦』なる番組自体、ポップ・ミュージックの歌手(や、最近だとユーチューバーなど)を出演させているという点では、どう考えても商業放送ではないか、といった疑念を払拭することができません。

まだまだある、NHK問題

しかも、NHKが公共性から著しく逸脱するようなコンテンツを垂れ流しても、NHKにはペナルティなどありません。

なにせ、放送の質を担保しているとされる「放送倫理・番組向上機構(BPO)」なる組織自体、NHKと民放と共同で設立した代物であり、基本的には業界から独立していません。結局、放送業界は「身内の論理」で固めてしまっているわけです。

そんなNHKですが、百歩譲って職員の人件費が公務員並みであれば、まだ納得できる人もいるかもしれません。しかし、『NHK「1人あたり人件費1573万円」の衝撃的事実』でも述べたとおり、NHKは少なくとも職員1人あたり1600万円近い人件費を計上しています。

それだけではありません。『NHKの「隠れ人件費」600万円のケースもあるのか』でも触れたとおり、「職員が格安の家賃で都心部などのとても豪奢な社宅に入居することができる制度が設けられている」、との報道もあります。

さらには、過去に受け取った受信料の残余財産がNHKには有り余っており、金融資産のかたちで確認できる資産は連結ベースで1.1兆円を超えており(※年金資産を含む)、ほかにも簿価ベースで計上されている土地・建物などの資産も、時価に引き直せば、下手をすれば数兆円レベルに達している可能性があります。

すなわち、NHKには次のような問題があります。

  • 公共放送を騙っているわりには、放送内容が公共の福祉に合致しているかどうかを担保する仕組みがない(※過去には全裸ダンサーを放送したという実例もある)
  • 国家公務員と比べて異常に高額な人件費を野放図に計上している
  • 金融資産だけで1兆円を超える資産の存在は、過去に受領した受信料をNHKが適正に使用していない証拠であるとともに、受信料水準が過大である証拠でもある

NHK廃止論?英国の場合は…

NHKを巡る議論が必要だ

そもそも論ですが、「この世に公共放送というものが必要なのかどうか」という論点と、百歩譲って公共放送が必要だったと仮定して、「現在のNHKに公共放送を担う資格があるのか」、という論点は、別物でしょう。

さらに百歩譲って、NHKに公共放送を担わせることが妥当だったと仮定して、これを「見ない人」からも徴収する、という制度が妥当なのかどうかについても、本来ならば、国会が徹底的に議論しなければなりません。

見ない人から徴収するのならば、その公共放送の範囲について厳格に制限しなければなりませんし、少なくとも『紅白歌合戦』や大河ドラマのような番組なども、公共放送の範囲に含めて良いのかどうか、国民のコンセンサスを得るのが筋でしょう。

さらには、職員1人あたり1573万円という非常識に高額な人件費、連結集団内で金融資産だけで1兆円を超える資産、といった状況を踏まえるならば、受信料水準が高すぎるのではないか、といった点についても、議論の対象とすべきです。

結局のところ、NHKが現在のような「公共放送」であり続けるのならば、放送自体を「スクランブル化」するのが筋でしょうし、また、スクランブル化をしないのであれば、少なくとも私たち国民・有権者が、NHKの存廃自体を直接に決定することができる仕組み(国民投票など)が必要ではないかと思います。

NHK自体の廃止も国民投票で可能にすべきでは?

ではなぜ、自由・民主主義社会において、そのような仕組みが必要なのでしょうか。

自由主義経済では、儲からない会社、不良品を出した会社(再利用乳を使って集団食中毒を発生させた会社、慰安婦問題や福島第一原発事故に係る吉田長所を捏造報道した新聞社など)については、最終的には「倒産」などを通じ、社会から排除する仕組みが働くはずです。

また、民主主義社会では、ウソの公約で政権を握った政党(旧・民主党など)のような政治家は、与党からは排除され、また、長年有権者の信頼を裏切り続けた政党(社民党など)についても同じく選挙を通じて国会から排除される仕組みが働くはずです。

しかし、官僚の場合は選挙で選ばれていないため、選挙を通じて財務官僚らを霞が関から追放する、ということができません(※だからこそ、政治の指導力を強めるためには、衆議院の議員定数を大幅に増加しなければならない、というのが著者自身の持論でもあります)。

同様に、NHKの場合も、私たち視聴者が「NHKを視聴しない」という形を通じ、NHKをこの社会から排除する、という権利が認められていません。NHKに存続を許すならば、少なくともその権利を、たとえば国民投票などの形で認めるべきでしょう。

そのうえで、受信料水準はNHKが決めるのではなく、NHKと無関係な第三者が決めるべきではないか、といった議論も成り立ちます。

英BBCの事例:受信料制度はどこへ行く?

こうしたなか、英国ではBBCの受信料制度の廃止などが議論され始めたようです。

英文化相、BBCの受信料制度廃止を示唆

―――2022/01/17付 BBC NEWS JAPANより

BBCによると、英国のナディーン・ドリス文化相は16日、ツイッターで「BBCの受信料について次回の発表が最後になる」、「素晴らしい英国のコンテンツを売るための新しい方法を話し合う時期だ」などと述べ、受信料制度そのものの廃止を示唆したのだそうです。

これに加え、「一部の未確認報道」によれば、ボリス・ジョンソン政権は、現在は年間159ポンド(約2.5万円)に設定されている受信料を今後2年間凍結する方針だ、などとしています。

このあたり、日本とはずいぶん制度が違うようです。

BBCによると、英国の受信料(厳密には「視聴契約料」)制度は、BBCと政府が取り決めるロイヤル・チャーター(王室認可)に基づくものであり、現在の認可は2017年1月1日に開始されたもので、少なくとも2027年12月31日まではその存続が保証されている、としています。

このあたり、「有期契約」というのは、大変に興味深いものです。

日本の場合だと、NHKの受信料の根拠は「放送法第64条第1項本文」にありますので、受信料制度を廃止しようとすれば、放送法自体を改廃しなければならない、ということでもあります。

BBCによれば、ジョンソン政権による受信料凍結議論は、BBCの受信料の支払が低所得者層や年金生活者にとって「重大な負担」であるとの認識に加え、ドリス文化相自身が「BBCはNetflixやアマゾンプライムなどの動画配信大手と競合できるようになる必要がある」、などと述べていたことと関係しているのだとか。

動画サービスとNHK

いずれにせよ、英国と日本だと、公共放送や受信料制度の在り方が大きく異なるため、単純比較は難しいのですが、こうした英国の議論自体はそれなりに参考になります。

冷静に考えてみると、Netflixなどの動画配信サービスは、NHKとは異なり、「視聴する人だけが契約する」というものであり、こうしたサービスが出現してくるということは、NHKがどんなに屁理屈をこねたとしても、なし崩し的に「一律で受信料を集金する」という仕組みへの社会的疑問を強めることにつながっていきます。

予想するに、NHKは英国でも受信料議論が生じているという事実を報じようとしないか、報じたとしてもとても小さい扱いに留めるのではないでしょうか。

しかし、残念ながら、現代社会においてはインターネットがテレビをも上回る社会的影響力を持つようになりました。NHKが隠したとしても、多くの人が受信料制度に疑問を持つのを止めることは難しいのではないかと思う次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. カズ より:

    >公共放送とは営利を目的とせず、

    見かけ上の利益を計上しないがための高額人件費だから本末転倒なのです。
    本来は発生した剰余金分だけ受信料を引き下げるべきなんですけどね・・。

    今現在:「本日の放送は、終了いたしました。 ℕ・H・K 」
    近未来:「本日で放送は、終了いたしました。得ぬ・英知・傾↘

  2. コメント55号 より:

    >NHKは英国でも受信料議論が生じているという事実を報じようとしないか、
    >報じたとしてもとても小さい扱いに留めるのではないでしょうか。
    BBCは自分自身の問題について、メディア担当編集長の見解も含めて
    詳細に報じているので、NHKが上記のようなことになれば、
    BBCの姿勢はNHKよりも数段上等ということになりそうです。

  3. JJ朝日 より:

    NHKは誰がなんと言おうがスクランブル有料化放送(WOWWOWとかと同じ)にすべきです。聞きたい人、見たい人がお金を払えば良いだけでしょう。

  4. 門外漢 より:

    身を切る改革が旗印の維新は、この問題を取り上げないんでしょうか?
    N党と手を組んでも良いと思うんですが。

    1. タナカ珈琲 より:

      門外漢様。

      真面目にコメントすれば、維新(支持のワタシの立場では)がN党とくっつくんは、それだけは堪忍や。それだけはヤメテ、、、。小池百合子の都ファと一緒になるんと、おんなじの大悪手です。過去で例えるなら石原慎太郎と一緒になった時、橋下徹はもう、私たち庶民とは住む世界がちゃうんやと、思いました。

  5. バシラス・アンシラシスは土壌常在菌 より:

    それはそうと
    N党はまだあるのだっけ?

    1. 裏縦貫線 より:

      なんかまた党名が変わったみたいです。

  6. 裏縦貫線 より:

    一週間遅れですが日本国内メディアでも報道されました。
    2022/1/24 19:50産経ニュース
    https://www.sankei.com/article/20220124-PQ6BR2TSSJLR3DJNC5S2JWI4AI/

    「BBC改革は他国での放送の在り方をも変えかねない」が日本にも波及するかどうか…

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