韓国地裁、日本政府からの訴訟費用取立を否定する決定
事前の搖動によれば、自称元慰安婦問題を巡って日本政府が被告となっている2本目の訴訟の判決が、本日、出て来るようです。こうしたなか、1本目、つまり今年1月8日の判決に関連し、訴訟費用を日本政府から取り立てることはできないとする判断が出て来ました。これについては「韓国にもマトモな判決を出す裁判官がいる」と見るべきなのか、それとも「瀬戸際戦術の部分的な修正」と見るべきなのかについては、判断が割れるところでしょう。
瀬戸際外交ないし瀬戸際戦略
北朝鮮や韓国は、「瀬戸際外交」ないし「瀬戸際戦略」が大好きな国です。
当ウェブサイトなりの説明で恐縮ですが、「瀬戸際外交」とは、越えてはならない一線を「越えるぞ」と脅すことで、相手から譲歩を引き出そうとする、インチキ外交戦略の一種のことです(あるいは、「越えてはならない一線」を探るために、わざとこのような戦略を取ることもあります)。
たとえば、北朝鮮が弾道ミサイルを発射して米国の気を引くのはその典型例でしょうし、また、自称元徴用工判決において、敗訴した日本企業が賠償に応じないことを受け、わざと換金し辛い資産を狙って差押、「売却するぞ、売却するぞ」と脅すのも瀬戸際戦術の一種です。
ただし、瀬戸際外交にはひとつ、致命的な欠点があります。それは、「相手から無視されれば機能しない」、という点です。
その典型例が、「GSOMIA破棄騒動」でしょう。
2019年8月、韓国政府は日韓間の軍事情報に関する秘密保護協定である『秘密軍事情報の保護に関する日本国政府と大韓民国政府との間の協定』(日韓GSOMIA)の破棄を決定し、日本政府に通告しました。
この目的は、もちろん、日本政府が発表した韓国に対する輸出管理の適正化措置(フッ化水素など3品目を個別許可に切り替え、韓国を「ホワイト国」という優遇対象国から除外した措置)を撤回させるためです。
これなど、韓国政府には当初、「GSOMIAを破棄すれば、日本が驚いて交渉に応じるに違いない」、といった目論見があったように見受けられます。
瀬戸際外交には「無視」が一番効く
しかし、当ウェブサイトをこの2年以上閲覧していただいている方であればご承知のことと思いますが、韓国政府のGSOMIA終了通告に対し、日本政府は「残念だ」を繰り返すのみで、まともに取り合おうとしませんでした。
この日本政府の態度、意訳すれば、「破棄したければどうぞ」、といったところでしょう。
それどころか、GSOMIA終了通告に対しては、日本ではなく、むしろ米国が強く反発しました。当時のドナルド・J・トランプ政権関係者らが、入れ替わり立ち替わり韓国を訪れ、GSOMIAを破棄しないように説得しました。
いや、「説得」どころか、私たち一般人の目に見えていないところでは、「韓国で文在寅(ぶん・ざいいん)政権を排除するための軍事クーデターが発生したとしても、米国はそれを容認するぞ」、といった恫喝でも行われていたのかもしれません。
このあたりの真相はよくわかりませんが、いずれにせよ、GSOMIAの効力が切れる数時間前、2019年11月22日になって、韓国政府は突如として、「GSOMIAの終了通告の効力を停止する」などと言い出しました。
その韓国政府の言い分が国際法に照らし、いかにデタラメであるか、などについては、『あれから1年:いまだにGSOMIA破棄できない韓国』でも詳述していますので、ここでは繰り返しません。
いずれにせよ、GSOMIA破棄騒動は、「韓国や北朝鮮の瀬戸際外交に対しては無視するのが一番良い」ということがよくわかったという意味では、間違いなく日本外交の勝利だったと述べて良いでしょう。
今年1月の主権免除違反判決の続き
さて、事前の報道によれば、本日、自称元慰安婦らが日本政府を訴えている件で、2本目の判決言い渡しが予定されている、個人的には今年1月8日に続き、再び主権免除違反判決が出て来るかどうかには注目しているところです。
この点、1本目の主権免除違反判決の問題点については、『【総論】韓国主権免除違反判決の現時点におけるまとめ』あたりで詳述しているつもりですが、先日の『文在寅政権も残り1年:日本政府の資産差押えはあるか』でも触れたのが、日本政府の資産差押えという論点です。
自称元徴用工判決問題では日本企業の資産差押えが相次いでいることは事実ですが、当ウェブサイトとしては、日本政府の資産を差し押さえた瞬間、「外交に関するウィーン条約」第22条第3項違反が確定することになるため、むしろこちらの方が大きなインパクトをもたらしかねないと報告しました。
ただ、これに間接的に関連する話題として、こんな報道が出ています。
「日本政府、慰安婦訴訟費出す必要ない」 韓国裁判所、強制執行に初めてブレーキ
―――2021.04.21 07:20付 中央日報日本語版より
韓国メディア『中央日報』(日本語版)の今朝の報道によれば、1月8日の主権免除違反判決に関連し、韓国のソウル中央地裁が先月29日、「(韓国政府)国庫による訴訟救助取立決定」を下したことが20日になって判明したのだそうです。
この決定は、「被告人の日本政府が訴訟費用を負担する必要はない」とするもので、中央日報は2017年9月に金命洙(きん・めいしゅ)大法院長が就任して以来、「日帝強占期被害者に不利な内容の判断が出て来たのは初めて」と述べています。
この点、1月8日の判決では、日本政府に主権免除(または国家免除)を認めず、自称元慰安婦ら原告側に各1億ウォンずつ支払うように命じた際、あわせて「訴訟費用は日本政府が負担する」とされていたのですが、この部分については否定された、ということです。
単なる「例外」という可能性が、いまのところは最も高いのではないか
いったい何があったのでしょうか。
中央日報によると、今回の決定を下したのは、今年2月の裁判所の定期人事で新たに着任した裁判長であり、また、旧裁判長が下した判決について、次のように批判しているのだそうです。
- 本案訴訟は日本政府の国家免除を認めず、原告勝訴判決を確定した
- しかし、外国に対する強制執行は該当国家の主権と権威を傷つける恐れがあり、慎重なアプローチが必要である
- 同事件の訴訟費用を強制執行することになれば国際法に反する結果を招くことになる
- 外国政府の財産に対する強制執行は現代文明国家の間の国家的威信に関連することで、これを強行すれば司法府の信頼を損なうなど重大な結果につながりかねない
- 今回の事件は、記録に残されたすべての資料を見ても、国連の国家免除条約上の外国政府に対する強制執行要件を満たしていない
…。
これを「マトモな決定が出てきた」と見るのか、それとも単なる「瀬戸際戦術の部分的な修正」と見るのかについては、判断がわかれるところです。というのも、今回の決定はあくまでも「訴訟費用の取立」に関するものであり、資産差押えそのものに関する判断はこれから行われると考えられるからです。
いちおう、中央日報の記事を読むと、今回の決定を下した裁判長は、両国政府が2015年の日韓慰安婦合意の有効性を確認している点に言及したうえで、自称元慰安婦の「相当数が『和解・癒し財団』から金銭を受け取り、残額は日本に返還されていない」、と指摘。
さらには、戦時中の朝鮮半島が「武力紛争の当事者ではなかった」ために国際司法裁判所(ICJ)の戦後処理慣行に関する判断などを「援用することはできない」と結論付けているのだそうです。
韓国にもこういうマトモな判決を下す人がいたのかという素直な驚きとともに、正直、この判決自体は当該裁判官の「独走」という側面が強いように思えてなりません。
その意味では、個人的には今回の決定自体は単なる「例外」に過ぎないと思いますし、韓国のことですから、この裁判官は今後、国会議員やメディアなどからの総攻撃を喰らうというオチが付くのではないか、などと思う次第です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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> 個人的には今回の決定自体は単なる「例外」に過ぎないと思います
例外というよりも、韓国政界の潮目が変わったためだと思います。
文在寅大統領の支持率は日に日に低下していますし、先のソウル・釜山両市長選では与党候補が惨敗しました。さらに文大統領の任期も残り1年を切りました。このような状況を受け、韓国司法はこれ以上政権や与党に忖度する必要はないと見切ったのだと思われます。ならば、わざわざ論理的アクロバットを演じる必要などなく、”常識的に”判断した末の結果なのでしょう。次期政権が親米非反日路線を取ることを見越してのことだと思われます。
これまで文在寅政権は、国会を抑え、司法を抑え、検察を委縮させ、メディアまで抑え込んで好き放題やってきました。それが綻びつつあるということなのかもしれません。
これで従北左派はますます次期大統領選に敗けるわけにはいかなくなりました。しかし、このままの情勢では、よほどのことが無ければ次期大統領選で敗けてしまいます。そろそろ「非常手段」を検討し始めるのかもしれません。
龍さま
文政権レームダックの影響という見方は、有りますよね。
非常手段は、楽しみです。
韓国の国際法違反の状態に変わりは有りません。
増えなかっただけ。
一応、日本の裁判所なら、元の変な判決が確定してても下級審の判断に拘束されないので、別な裁判官が別の判断することはあり得るんですよね。まあ、ここまで矛盾する判断は普通の法治主義国家じゃ考えられないですけど。一応決定に対しては抗告出来るのでやれば良いんじゃないかと。
でも、何ら請求もないのに職権で決定が出てくるってなんか変ですし、組織的な軌道修正な感じしますね。
先ほど次の判決がでて、請求棄却らしいですね。まあよくわかりませんが。
本格的に軌道修正するなら、処理水騒動も押さえ込まなきゃ変ですし…
>これを「マトモな決定が出てきた」と見るのか、それとも単なる「瀬戸際戦術の部分的な修正」と見るのかについては、判断がわかれるところです。
ただ単に司法がブレてるだけだと思うのです♪
そういうのを無くすためにも、ちゃんと立法をしなきゃいけないと思うんだけど・・・・
韓国って、国民情緒法とかあって、いくら立法措置をしても、その時の情勢しだいで、司法判断までもがぶれまくるから意味ないようにも思えるのです♪
韓国は、三権分立がとても厳密な民主主義先進国だそうですね。立法府が司法府に介入を一切できないそうなので、司法側は「介入して頂かずに済むように、大統領様にとって良い判決を出さねば!」と、判決を下すのでしょう。
今回は司法が国際情勢を判断して、立法行政が介入・影響せぬよう、国際法を遵守する形の判決を出したのですね。
ウン書いてて頭おかしくなりそう。三権分立を習ったときは何も疑問に思わず覚えましたが、ここまで誤用濫用が可能な概念だとは思いもしませんでした。
> 中央日報によると、今回の決定を下したのは、今年2月の裁判所の定期人事で新たに着任した裁判長であり、また、旧裁判長が下した判決について、次のように批判しているのだそうです。
つまり、前任者のやったことの否定は何であれ正しいという風潮のある韓国では、人事異動に伴う普通の対応だったということではないでしょうか?
ほら、いわゆる慰安婦に関する日韓合意も政権が変わったらひっくり返してきましたし(あまり関係ない?)
なんとなく、司法としての判断が確定しないことを理由に、在韓日本政府資産の”仮差押え”の手続きに入りそうな気がしてます。
国内世論の要求に沿いつつも、決定的な判断を下さないのが彼らの様式美。
判例が意味を持たず、例外が適用されないのが例外な状況では、法は無いのと同義なのだと思うんですけどね・・。
かの国は、解釈が法の上に立つ「超法規的国家」ですね。
これって地裁レベルでの話では。確定ではないですよね。
「今回の事件は、記録に残されたすべての資料を見ても、国連の国家免除条約上の外国政府に対する強制執行要件を満たしていない」
としたのが唯一の司法判断。(これはこれで革新的ともいえるかも)
その前段の文言は「このままでは韓国にとって都合が悪いから」とくだくだ言ってるにすぎません。
法治と関係ない、国民感情への言い訳を並べてるだけ。
原告勝訴としないのは日本(や米国)からの報復を避けるためであると。
いまは状況が悪いから我慢しておきましょうって話でしょう。
法理ではなく、そのときの強弱関係で判決されるのが韓国の司法ですね。
いまは引いて、強く出れるときがきたら上告法廷で引っくり返すつもりの判決と思います。
最終審ではギッチリ決めてくるんでないですか。それ以外の選択肢はないのだから。
そのうえで、強制執行の手続きを一時停止するとか。
抜刀したら居合一閃で斬られるとわかっているので、抜くに抜けず。
とにかく強制執行してしまったら「解決」してしまうというジレンマ。
さらに「解決に向けた努力」とかいうものが一人舞台と化して、もはや自分自身で解決するしかない状況に追い詰められてしまっているという現状。