新聞業界の足元で新聞販売店従業員は20年間で4割減

少し古い話題で恐縮ですが、日本新聞協会の『新聞協会ニュース』というウェブサイトに、2月9日付で『販売所従業員数3.9%減 20年10月 26万1247人 販売委調べ』という記事が公表されていました。気になって調べてみると、データ相互間に細かい矛盾はあるにせよ、おおむね新聞業界自体がこの20年間で4割前後縮小しているというデータが得られます。

新聞社の苦境を新聞社が報じないのは当然?

あくまでも個人的な印象で恐縮ですが、新聞社やテレビ局の不祥事に関する話題が、大手メディア、とりわけ新聞やテレビにおいて、大々的に取り上げられてきたという記憶はありません。やはり、メディア自身がメディアの苦境や不祥事を取り上げるのには及び腰なのかもしれません。

もちろん、マスメディアのなかでも雑誌などは、早い時期から新聞社やテレビ局に対するネガティブな情報を積極的に報じて来たとは思いますが、それでも新聞・テレビと比べて雑誌の社会的な影響力は弱かったため、結果的に新聞社やテレビ局はさほど批判されてこなかったという事情もあるのかもしれません。

しかし、時代は大きく変わりました。いまや、インターネットの発達とデバイスの普及に伴い、情報源は多角化しているからです。

こうしたなか、インターネット上にあふれる情報も、現状では「出所は新聞社やテレビ局のウェブサイト」、「新聞社やテレビ局が存在しなければネット空間は成り立たない」という意見を述べる人もいますが、こうした意見は、半分は正解ですが、半分は間違いです。

たとえば先月の『NHK、職員の高給すら是正せず「割増金制度」導入か』などでも報告したとおり、現代社会ではその気になれば、誰でも気軽にNHKの財務諸表にアクセスし、必要な情報を入手して分析したうえで問題提起をする、ということができてしまうようになったからです。

インターネット化は「蟻の一穴」

なにより、個別の報道についての情報源が新聞社やテレビ局ウェブサイトだったとしても、インターネットのポータルサイト等で、複数の社の報道を「ヨコ串」で簡単に比較できるようになったという点は見逃せません。1社だけがおかしなことを報じていれば、そのこと自体、情報の信憑性に疑義を生じさせるからです。

その意味で、インターネットとは「既存メディアによる情報支配」というコンクリート構造に空いた「蟻の一穴」のようなものであり、おそらく今後はその穴から水が噴出するかのごとく、マスメディアによる情報支配構造はあっという間に崩壊していくことでしょう。

いや、「現在進行形で崩壊しつつある」、というべきでしょうか。

実際、新聞やテレビの社会的影響力には依然として根強いものがあるとはいえ、年々、その経営基盤は弱体化しています。これを受けて、当ウェブサイトでも以前からしばしば、「新聞社やテレビ局の経営状態が思わしくないのではないか」という話題を積極的に取り上げて来ました。

その一例が、先日の『退職給付会計と税効果会計、そして大手新聞社の経営難』や『毎日新聞社、あと10億円少々の赤字で債務超過状態か』などで取り上げた、大手新聞社の巨額損失の計上や減資という話題です。

正直、わが国の大手新聞社のなかで、財務局に有価証券報告書を提出している会社は朝日新聞社くらいなものであり、それ以外の各社(読売、毎日、産経、日経など)については、詳しい財務内容を知ることは難しいのが現状でしょう。

新聞の朝刊部数はこの20年で34%の減少

しかし、断片的に伝わる情報からは、新聞業界全体の苦境を少しずつ知ることができます。

日本新聞協会のデータについては、当ウェブサイトでもかなり以前から注目していて、直近では「2000年と比べて朝刊部数が34%、夕刊部数に至っては60%近く減少している」という話題を『日本新聞協会が発表する「セット部数」を分解してみた』などでも取り上げています。

具体的には、日本新聞協会が発表する数値のうち「セット部数」を「朝刊部数」と「夕刊部数」に分解し、それぞれ「朝刊単独部数」「夕刊単独部数」に合算して再集計するなどの加工を施したうえで比較したものが、次の図表1です。

図表1 新聞発行部数(2020年10月1日時点vs2000年10月1日時点)
区分2020年増減数(増減率)
合計4234万部▲2955万部(▲41.10%)
 一般紙3971万部▲2588万部(▲39.46%)
 スポーツ紙264万部▲367万部(▲58.19%)
 朝刊部数3432万部▲1757万部(▲33.87%)
 夕刊部数803万部▲1198万部(▲59.87%)

(【出所】日本新聞協会『新聞の発行部数と世帯数の推移』より著者作成)

新聞販売店の従業員数も減少

ただ、日本新聞協会が公表しているデータや調査は、これだけではありません。

その一例が、「一般社団法人日本新聞協会」が2月9日時点で公表した、次のような調査でしょう。

販売所従業員数3.9%減 20年10月 26万1247人 販売委調べ

―――2021年2月9日付 日本新聞協会HPより

これは、「2020年10月1日時点における新聞販売所従業員総数は26万1247人で、前年比1万631人(3.9%)減少した」とする調査結果を「新聞協会販売委員会」が取りまとめたとする話題です。販売所も3.3%減少の1万4839ヵ所だったそうです。

これについて日本新聞協会は、従業員数が最盛期(1996年)の54.1%、販売所数は最盛期(1989年)の62.3%に減少したと述べています。

これを多いと見るか、少ないと見るかは微妙でしょう。「あれだけ新聞業界の苦境が騒がれているにも関わらず、依然として新聞販売店従業員が26万人を超えている」、という言い方もできるからです。

こうしたなか、日本新聞協会が公表しているさまざまなデータの中から、販売店の従業員数、販売所数、さらには新聞用紙の新聞社向け払出トン数を比較したものが、次の図表2です。

図表2 新聞業界の状況(2001年と2020年の比較)
項目2020年の数値減少数・減少率
販売店従業員数26万人20万人・43.80%
販売所数14,839ヵ所7,025ヵ所・32.13%
新聞用紙・新聞社向け払出210万トン164万トン・43.81%

(【出所】日本新聞協会『新聞販売所従業員数、販売所数の推移』、『新聞用紙の生産と消費』より著者作成)

これらのデータについては、やや整合しない部分もあるにせよ、おおむね「新聞業界自体の規模がこの20年間で4割前後減少した」とする状況の証拠であると考えて良いでしょう。というのも、従業員数も新聞用紙払出トン数も、だいたいこの20年で40%少々、減少しているからです。

なお、従業員数が4割以上減っているのに販売所の数が3割しか減っていないのは、経営を合理化するなどして経営努力を続けているという意味なのか、それともかなりの無理をしているという意味なのかは、このデータだけではわかりません。

スマホ世帯普及率は8割を超えている!

そして、過去のデータは未来の姿を予言するものではありません。ことに、新聞業界の縮小がこれで止まるのか、さらに進むのかについては、予断を許さないところです。

一般にテクノロジーが進化していくと、昔には戻れません。

総務省・令和2年版『情報通信白書』(図表5-2-1-1)によると、スマートフォンの世帯普及率は2019年において83.4%に達しており、また、個人における保有率も67.6%だそうですが、このような状況で紙媒体の新聞紙にこだわる人が社会の多数派を占めるかどうかは微妙です。

実際、先日も紹介した『デイリー新潮』の記事によれば、これまで新聞のメインの購読層であったはずの高齢者でさえ、インターネットの利用率が向上しています。

朝日新聞の実売部数は今や350万部?新社長は創業以来の大赤字で前途多難の声

―――2021年2月18日付 デイリー新潮より

しかも、デイリー新潮によれば、(朝日新聞の場合は)「デジタル戦略でもうまくいっていない」としていますが、最大手である朝日新聞でさえこの状況なのだとしたら、日経を除く全国紙、あるいは全国の地方紙の状況も推して知るべし、といったところでしょうか。

なお、当ウェブサイトの読者コメント欄などを見ると、「地方では依然として、地元紙を購読するニーズは根強い」、「全国紙と比べて地方紙は根強く生き残るのではないか」、といったご指摘を戴くことがあります。その理由は、ひとえに「地域に密着した情報収集力」にあるのだそうです。

たとえば、「地元に住む人が亡くなった際、葬儀の記事を書いてくれるのはありがたい」、といったニーズがあるのだそうです。

逆にいえば、「ウェブ版・地元コミュニティ誌」などが創刊され、それなりの人気を博するようになれば、地方紙も徐々に存在意義を失うのかもしれません。このあたりは継続的にウォッチする価値がありそうです。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 引きこもり中年 より:

     独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
    (そう自分に言い聞かせないと、自分は間違えない存在と自惚れそうなので)
     (ふと思ったのですが)地元での葬儀の情報ですが、別に地方紙でなくても知らせる方法があるのではないでしょうか。(もちろん、直ぐにではないでしょうが)
     駄文にて失礼しました。

    1. りょうちん より:

      最近訃報は、LINE経由が多いw。ちょっと前まではe-mailでしたが。
      あとは出身校の同窓会の新聞です。

      1. 匿名 より:

        LINEって大丈夫?

  2. だんな より:

    >「地元に住む人が亡くなった際、葬儀の記事を書いてくれるのはありがたい」

    昔子供が、大会で入賞したりすると記事になりますので、コンビニに買いに行った事がありますし、人に頼まれた事も有りました。
    活字になるのが、嬉しかったんでしょう。
    もう、ネットで見る時代なので、メールかラインで、主催者のリンクを送るんじゃないかな。

  3. ミナミ より:

    昨年、実家の左翼老人の父母を説得し、毎日新聞を解約させました
    新聞は無いと困る世代だったので、相談した結果、日経に変えました

    何となく意気揚々と販売所に解約の電話をしましたが、
    相手は年配の女性で、疲れ切った様子、解約の電話に慣れてる感じの対応だったので、
    一気に意気消沈し、何か悪い事をしてる気分になりましたw

  4. めがねのおやじ より:

    更新ありがとうございます。

    私の街は坂がキツイんで、新聞配達はすべて原チャです。これだけ販売店が潰れたら、配布エリアは広いでしょう。ガソリン代払えんのかな(笑)?

    1. カズ より:

      めがねのおやじ様

      スクーターの燃費は、カタログスペックで60Km/L超え。
      ストップ&ダッシュで半減しても”どうってことない”のかもですね。

      でも、配達効率は悪そうです・・。

      1. めがねのおやじ より:

        カズ様

        L60km超え!そんなに燃費いいんですか。何しろバイクやスクーター乗った事無いので(笑)。ゴーストップ繰り返しても30km行きますネ。パワーアシスト自転車より経済的かな。パワーも要らんし(笑)。

  5. 恋ダウド より:

    販売所の数は部数に関係なく全地域をカバーするため減らせないのですが、経費削減、廃業等で複数地域を統合して居ることでの減少だと思います。自転車での配達が厳しくなってくると言うことですね。

  6. より:

    もうこういう時代ではなくなってしまったんでしょうね。
    https://www.youtube.com/watch?v=wq3ULVv6YxA

    1. りょうちん より:

      ていうか、貧乏家庭の少年が新聞配達をしていたという光景が、今やワープアのいい年した若者がUberやら宅急便でブラック労働している現実に悪化しているんですよね。
      歌にしたら、とんでもない鬱ソングですよ。

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