日本の輸出規制で困っていないはずの韓国が巨額投資へ

今朝の『貿易統計④貿易統計から見えてくる日本経済の「課題」』などを含め、当ウェブサイトでは不定期に取り上げている話題のひとつが、日本の貿易統計分析です。日本の輸出品目は「モノを作るためのモノ」(生産財、中間素材など)に特化しており、とくに対韓貿易に関していえば、輸出品目のざっと8割前後が「モノを作るためのモノ」に関連しています。こうしたなか、日本政府が発動した輸出管理適正化措置を頑なに「輸出『規制』」だと騙り続ける韓国政府は、「素部装」分野で自立するために、1兆ウォン近い予算を投じる、などとする報道がありました。

日本の貿易構造は「モノを作るためのモノ」に強み

貿易統計④貿易統計から見えてくる日本経済の「課題」』などでも総括したとおり、財務省が先週発表した『普通貿易統計』のデータに基づき、当ウェブサイトでは日本の貿易構造について、簡単に分析しました。

輸出に関して要約すると、「現在の日本の輸出品目は、生産財・資本財や中間素材などの『モノを作るためのモノ』に強みを持っており、『最終消費財』と呼べるものは自動車などに限定されている」、というのが当ウェブサイトなりの現状分析です。

また、輸入に関しては、「資源国(豪州、サウジ、UAEなど)からの鉱物等の資源購入も多いが、最近では中国などを中心に、最終製品(衣類、PC、スマートフォン、雑貨など)の輸入も増えている」というのが実情と考えて良いでしょう。

こうしたなか、よく日本国内では、「日本企業は中国や韓国とビジネス面での結びつきが深い」、「だからこそ中韓のような国であっても、我慢して付き合って行かねばならない」、といった言説が見られることもまた事実でしょう。

しかし、少なくとも「日本にとってビジネス上、中韓は絶対になくてはならない国である」という点に関しては、あまり同意できません。たしかに現状、日本の産業は中韓などアジア諸国との結びつきが強いのですが、どちらかといえば「中韓などにとって日本が欠かせない国」と呼ぶべきだからです。

といっても、このまま日本が中韓などとの関係を深めていくと、ごく近い将来、完全に日本と中韓は「切っても切れない関係」になってしまうかもしれません。逆にいえば、「引き返すなら今のうち」、というわけです。

「韓国政府がR&Dに8866億ウォン投じる」=中央日報

さて、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に月曜日、こんな記事が掲載されていました。

韓国、「素材・部品・装備の独立」に8866億ウォン投じてR&D課題公募

―――2021.02.01 07:14付 中央日報日本語版より

記事タイトルにもある「素材・部品・装備」とは、機械類、化学製品、原料別製品など、要するに当ウェブサイトの用語でいうところの「モノを作るためのモノ」(生産財や中間素材など)のことだと思います。最近の韓国語では「素部装」と呼ぶそうです。

中央日報によると、これは韓国政府・産業通商資源部が「日本の輸出規制によって触発された関連産業の危機を克服し、グローバルサプライチェーン再編に先制的に対応する」ために打ち出したものだとしています。

ちなみに記事にもあるとおり、韓国政府や、中央日報を含めた韓国メディアは、頑なに「日本の輸出規制」という誤った表現を改めようとしません。いうまでもなく、日本政府が2019年7月に打ち出した輸出管理適正化措置は、そもそも「輸出『規制』」ではないからです。

ただし、ここでふと気になって思い出しておきたいのですが、日本の輸出管理適正化措置に対する韓国政府の反応を著者自身の文責で要約しておくと、だいたい次の4点に集約されます。

【参考】日本の輸出管理適正化措置に対する韓国政府の反応の例
  • ①日本の対韓輸出規制措置は強制徴用問題に対する不当な報復である
  • ②韓国は順調に脱日本化を進めており、日本の輸出規制では困っていない
  • ③日本の輸出規制は不買運動などを通じ、むしろ日本に打撃を与えている
  • ④日本は今すぐこの輸出規制を全面撤回すべきだ

②と④が猛烈に矛盾しているのはご愛嬌ですが、韓国政府はこれまで、「日本の輸出規制でわが国はまったく困っていない」などと騙ってきたわりには、「素部装」の国産化にやたらと力を入れているというのも興味深いところです。

韓国の「素部装」の日本依存は変わらず

というよりも、韓国国内では「フッ化水素の国産化に成功した」だの、「脱日本が進んでいる」だの、「輸出規制でノージャパン運動が広まり、日本がむしろ困っている」だのとする言説が広まっているようですが、どうも実態を見る限りは、そうは思えません。

2020年を通じた日本の対韓輸出高は前年比▲2776億円(▲5.50%)と小幅減少ながらも、依然として5兆円弱の輸出高を誇っており、内訳は「一般機械」(半導体製造装置等)や「電気機器」(半導体等電子部品)、化学製品、原料別製品で8割弱を占めています(図表)。

図表 日本の対韓輸出高(2020年と構成比、2019年比増減)
品目名2020年と構成比2019年比増減
対韓輸出高合計4兆7662億円(100.00%)▲2776億円(▲5.50%)
 →機械類及び輸送用機器1兆9930億円(41.82%)+863億円(+4.53%)
   →一般機械1兆0535億円(22.10%)+1418億円(+15.55%)
   →電気機器8367億円(17.56%)▲112億円(▲1.32%)
 →化学製品1兆1073億円(23.23%)▲1496億円(▲11.90%)
 →原料別製品6711億円(14.08%)▲1229億円(▲15.47%)
 →雑製品3677億円(7.71%)+102億円(+2.85%)

(【出所】『普通貿易統計』より著者作成)

つまり、韓国政府が「わが国は日本の輸出『規制』でまったく困っていない」などと騙っているわりには、日本の対韓輸出構造についてはほとんど変わっておらず、相変わらず日本が韓国の産業に期間デバイスを提供し続けていることがよくわかるでしょう。

ジャパングループに備えた動きか?

さて、昨年の『輸出管理の仕組みをまとめてみた』でも説明したとおり、日本は輸出管理上、韓国を「グループA」(旧ホワイト国)という優遇対象国から除外したものの、依然として「グループB」という優遇対象国に置いています。

しかし、『先端技術の輸出管理が実現なら「ジャパングループ」』でも報告したとおり、日経新聞の昨年9月27日付『輸出規制枠組み、米などに提案へ 先端技術で政府検討』という記事によれば、日本は輸出管理の仕組みをさらに強化することを欧米各国などに提案しているそうです。

①AI・機械学習、②量子コンピューター、③バイオ、④「極超音速」の4分野が中心なのだそうですが、これがもし実現すれば、「日本の提案による輸出管理の仕組み」ということで、さしずめ「ジャパングループ」とでも呼ばれるのではないでしょうか。

こうしたなか、先ほど紹介した中央日報の記事には、こんな続きがあります。

  • 産業部はグローバル素部装サプライチェーン強化に1005億ウォンを投じる
  • 炭素中立など素部装のエコ化には608億ウォンを投資する
  • 産業部は低電力・環境負荷低減インク素材では、売上1兆ウォン以上を達成するという目標を掲げている
  • 再生可能エネルギー素材・部品の国産化には242億ウォンを投じる

このように考えていくと、韓国政府としては「ジャパングループ」を念頭に、日本の輸出管理がさらに強化されることを意識しているのかもしれませんね。

いずれにせよ、輸出管理に関しては、今年もテーマが多そうです。

本文は以上です。

読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。

にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ

このエントリーをはてなブックマークに追加    

読者コメント一覧

  1. 頓珍韓 より:

    過去に合った事例もありますし、日本から韓国への、人材の流出が懸念されますね。

  2. めがねのおやじ より:

    更新ありがとうございます。

    日本は韓国に対して輸出管理の適正化をやった。ある意味、グレーゾーンに覆われた、ましてや決定的な証拠も掴んだ日本政府が韓国に対して処分を施すのは当然です。グループCで良いでしょう。今の状況を見ると、まだ生ぬるいぐらい。

    しかしもう2年近く経つのに、今頃韓国は設備投資ですか(失笑)。「素材・部品・装備の独立に8866億ウォン投じてR&D課題公募」(プププーッ)。日本円で800億円かいな?(爆笑)

    たった800億円なーんて、半分ポッポナイナイしたら、400億円です。それで日本に対して対抗しようって、少なめに言っても、半万年は必要ではないですかぁ〜?中央日報さん、計算合わんゾー!

  3. 羊山羊 より:

    全然巨額じゃ無いです。国の開発費ならケタ2つ足りないです。サムスン電子ですら年2兆円ぐらいです。

  4. より:

    韓国のメディアで、よく「○○開発に巨額の投資!!」という記事が掲載され、世界に類例を見ない大事業であるかのように報じられることがありますが、ほとんどの場合、「桁が一つか二つ少なくないか?」と感じます。「戦闘機開発に3000億ウォンもの巨費!!」とか言われても、「ナメとんのか、ワレ」と言いたくなります。
    韓国が素材などの開発に注力するのは、まあ、結構だと思いますが、羊山羊様も仰るように、少なくとも桁が二つは足りないと思います。仮にフッ化水素だけだとしても全然足りないでしょう。

  5. 名無しのPCパーツ より:

    投資金額もさることながら、政権交代するたびに前政権の政策全否定してリセットするので長続きしない。

  6. めたぼーん より:

    たかだか1000億円で出来ると本気で思っているのかな。それも半分は個人の懐に。結果が透けて見えます。

  7. 阿野煮鱒 より:

    この「日韓海底トンネル」の話は、ずいぶん昔から出ては消えを繰り返しているものです。2chでは、「統一教会が糸を引いている」と言われていたこともありました。話だけは出ても一向に計画が具体化しない事からも、韓国が本気で考えていないことは明らかです。また、発言者が保守政党というのもポイントです。典型的な用日発言と見てよいでしょう。左派/進歩派はトンネルに興味がないと思われます。

    カイカイ反応通信を見ても、トンネル構想には否定的な韓国人が多数です。分析がずれているのは相変わらずですが、日韓共に、トンネル計画が多数派に支持されることはないでしょう。
    http://blog.livedoor.jp/kaikaihanno/archives/57660497.htm

※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。

やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。

※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。

※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。

当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。

めたぼーん へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました

自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。

【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました

日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。
関連記事・スポンサーリンク・広告