毎日新聞「1億円への減資」と資本剰余金の「使い道」
本稿は、ショートメモです。日経電子版に一昨日掲載された記事によれば、毎日新聞社は資本金を1億円に減額し、資本剰余金勘定に振り替えるそうです。一般論としていえば、資本金が1億円以下となれば、さまざまな税制優遇を受けることもできますし、資本剰余金はそのまま配当(金銭分配)に使うこともできるのですが、近い将来欠損金が生じることを見越して減資するというケースもあります。
毎日新聞社の1億円への減資
実名は伏せますが、昨日ある方からメールで、日経新聞に一昨日掲載されたこんな記事について、お問い合わせをいただきました。
毎日新聞社、資本金1億円に減資 節税目的
―――2021年1月19日 19:29付 日本経済新聞電子版より
リンク先は有料会員限定記事ですので、全文の引用は控えますが、無料で読める部分にはこんな記述があります。
「毎日新聞社が3月に資本金を現在の41億5000万円から1億円に減資する(中略)資本金を、税制上は中小企業の扱いとなる1億円以下にすることで節税する。」
これは、いったいどういうことでしょうか。
おそらく論点は、大きく2つあります。
ひとつ目は、資本金区分で中小企業となった場合にいかなる税制優遇があるかという点であり、ふたつ目は資本金を取り崩して純資産の部の「その他の資本剰余金」に計上することの意味点です。
税制優遇はさまざま
まずは、最初の論点です。
税制優遇についてはとても簡単で、資本金が1億円以下となれば、次のような税制優遇を受けることができます(※あくまでも一般論です)。
- ①法人税について、所得800万円までの部分については15%の軽減税率が適用される(800万円を超える部分については23.2%)
- ②法人税について、年間800万円まで交際費の損金算入が認められる
- ③過去10年内に発生した税務上の繰越欠損金について、100%の損金算入が認められる(大法人の場合は50%)
- ④欠損金の繰戻還付、つまり課税所得がマイナスとなった場合に、前事業年度に納めた法人税の還付を受けることができる
- ⑤地方税の一種である法人事業税について、外形標準課税が適用されない
基本的に資本金の額が少ないと、税制上の優遇を受けることができる、というわけです。
無償減資をする目的(※あくまでも一般論)
一方、ふたつ目の論点については、少し複雑です。
あくまでも一般論として申し上げるならば、減資には有償原資と無償減資がありますが、多くのケースでは「有償原資」(会社財産の払い戻しを伴う減資)ではなく、「無償減資」、つまり単に会計上、資本金勘定から資本剰余金勘定への振替が発生するだけです。
では、なぜそんなことをするのでしょうか。
とくに、企業会計基準委員会(ASBJ)が公表する『自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準』第19項によると、資本剰余金から利益剰余金への振替は、原則として認められません。資本剰余金と利益剰余金の混同は禁止されているからです。
資本剰余金と利益剰余金の振替が行われるのは、自己株式の償却などに伴い資本剰余金がマイナスとなった場合に利益剰余金から補填する場合(同第12項)や、利益剰余金がマイナスとなった場合に資本剰余金を取り崩して補填する場合(同第61項)など、例外的なケースに限られます。
(※なお、資本剰余金のままで配当を実施すること自体は可能です。この場合、配当金を受け取った株主の側は、資本剰余金を原資とする配当については『その他資本剰余金の処分による配当を受けた株主の会計処理』等に従い、株式の帳簿価額の減額、つまり「出資の払戻」として認識されます。)
巨額損失に備えた動きというケースも
以上より、減資により資本金を資本剰余金に振り替えるメリットは、単純に「資本剰余金から配当すること」だけではなく、巨額の損失を計上するなどして欠損金が生じた場合に、その欠損金の「穴埋め」をすることができる、という点にもあるのです。
さて、新聞社といえば、昨年は『朝日新聞社「退職給付に係る繰延税金資産取崩」の意味』で、朝日新聞社が退職給付債務にかかる繰延税金資産の取崩などにより、400億円を超える中間損失を計上した、とする話題を取り上げました。
毎日新聞社のケースでは、有価証券報告書などを公表していないため、いかなる決算となるのかについてはよくわかりません。
ただ、業界の最大手の一角を占める朝日新聞社でさえ、税効果会計を適用するうえでのタックス・プラニングができなくなる(=将来収益を見込めなくなる)という状況にあるのですから、それより経営体力が弱い社のなかにも、このコロナ禍で最終損失に転落するケースが続出する可能性はあるでしょう。
(ちなみに日経新聞によると、毎日新聞社は直近で赤字決算が続いており、最終損失は2019年3月期で約5億円、2020年3月期は約70億円の赤字に達したのだとか。)
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
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減資について自分なりに調べたのですが、デメリットが「会社の信用が低下する」程度しか書いていません。少し前にシャープも目論んでいましたが、大企業が帳簿資本金の数字をいじって損失補填、中小企業の恩恵を受ける事に違和感を覚えます。もう少し踏み込んだ実務上の解説をしていただけると嬉しいです。
haduki様
>デメリットが「会社の信用が低下する」程度
お調べした内容で基本的に合っていると思われます。
信用が低いという事は、資金調達(銀行から借入など)を行う場合に不利(利率が高くなる)になるという事です。
詳細は公表されていませんが、信用保証協会のリスク評価にも影響を与えると思われます。
また、特定の業種の特定の業務(免許が必要なもの等)を行う場合に、最低資本金の要件が課されている場合があります。
あとは、見栄です。資本金が少ない会社はカッコ悪いという価値観があります。
>大企業が帳簿資本金の数字をいじって損失補填
単なる帳票上の操作で、税金が減るわけでなし、あまり目を吊り上げないでもよろしいかと。
>中小企業の恩恵を受ける事
今回の報道段階では、まだ無償の減資で、税法上の特典は受けられません。
資本金を振り替えた資本剰余金を、配当する事で有償減資となり、税法の特典が受けられます。
ここまで来れば、実際に資金も流出し、株価も下がりますから、中小企業の扱いになります。
蛇足ですが、上記は法人税法上の議論であり、他の法律では、従業員数や売上高で大企業か中小企業かを測る場合もあります。
おっしゃる通り、特典を与えるべき中小企業とは何ぞや、という問題は常に考える必要があります。
牛人様
コメントありがとうございます。
このあたりの分野は見識が浅く現状をどう理解すれば良いのか戸惑っていたので、非常に助かりました。
何となくなのですが、
退職給付引当金の取崩しや減資、保有資産の評価替えなんかで財務諸表上の体裁を整えただけでは状況の改善には繋がらないと思うんですよね。
一時しのぎにはなるのかもですが、資金繰りの原資が〔新たに〕増える訳ではないのですから・・。
との書き込みを以前にしたんですけど、
“税務上の優遇”ってのもあるんですね。
でも原資って、融資も増資も得られなくなったときの最後の手段なのかな?と、思ってたのですが、非上場だとその限りではないのかな?
それとも、毎日は本当にそう〔厳しい〕なのかな・・??
恥ずかしい誤植がありました。
最後の段、「でも原資って・・」は「でも減資って・・」と読み替えて下さい。
毎日の字にもニンベンが・・〔侮日〕
カズ様
>財務諸表上の体裁を整えただけでは状況の改善には繋がらない
>資金繰りの原資が〔新たに〕増える訳ではない
然りであるかと。
>減資って、融資も増資も得られなくなったときの最後の手段
融資や増資のように、資金繰りの為の減資という事は無いかと思われます。
一般に、減資の目的は、配当可能限度額の引き上げ、または節税です。
基本的に資金は流出する方向です。
牛人様
減資による可処分額捻出の効用は、欠損金を圧縮するだけでは無く、配当維持や節税のためでもあったのですね。
*返信ありがとうございました。
会計素人が勉強したところ、2006年の法改正で資本金は1円から可能になっています。
ただ疑問なのは、株式会社の場合の原資は資本金と関係していそうで、41分の1にされたら株式の値段に大きく影響する様な気がしますが、その辺はどういう風になっているのでしょうか。
解説キボンヌ。
りょうちん 様
いつもコメントありがとうございます。
無償増減資の場合、株式会社の資本金と会社の簿価純資産ないし株式の市場価格には直接の関係はありません。
上場会社の場合は株式が常々マーケットで取引されているため、「増減資をする」という事実をもって、市場参加者がその増減資の意図を予想することで株価が上がったり、下がったりするかもしれませんが、それはあくまでも市場参加者の「思惑」による株式価値の変動であり、「資本金を増やした(減らした)」ことで必然的にもたらされるものではありません。
さらに、非上場会社の場合、市場価格自体が存在していませんので、「株式の価値」を「1株当たりの簿価純資産」と仮定すれば、増減資自体でそれが動くことはありません。「1株当たりの簿価純資産」は「純資産の部」の合計額を単純に発行済株式総数で割ったものだからです。減資すれば資本剰余金が同額増えるため、純資産の部は変動しません。
ただし、上記はあくまでもJP-GAAPの議論であり、US-GAAPやIFRSの場合は非上場株式であっても何らかの方法で時価評価が義務付けられています。このため、増減資にともない社外流出が可能になったという事実をもって、株式の理論価格に影響を与える可能性はありますが、このあたりはまた別の議論でしょう。
引き続き当ウェブサイトのご愛読並びにお気軽なコメントを賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
会計士様
科目が変わるだけで、実態が変わらないことは理解しました。
以下の点について解説いただければ幸いです。
減資の方法によると思うのですが、有償減資&自社株の自己償却では額面維持、無償減資では額面変更(この場合41分の1)となると思うのですが。
自己フォローです。
>平成13年6月の商法改正により、額面株式が廃止・・
となったのですね。要は株式は議決権の配分度合いを表すもので出資度合いを表すものではないという事ですね。
減資をしたところで株式の持ち分(解散価値の配分)割合に変化が生じる訳ではないのですから、⦅帳簿上での保有株式は減少した額面総額のなのだとしても⦆仮に資本金を41分の1に減資した時点での1株当たりの実質価値は、単純に41倍になるのかと・・。
上場株式が半額減資をすれば、持ち株が半分になったうえで倍額からの取引開始ではなかったでしょうか?
りょうちん様
>41分の1にされたら株式の値段に大きく影響する様な気がします
理論上、株式の値段は変わりません。
資本金が減った分、資本剰余金が増えているからです。
配当できますので、正確な例えではないですが、
HDDのパーテーションを動かしてもトータルの容量が変わらないように、
当該減資も、資本金と資本剰余金のトータルの価値は変わらないからです。
毎日新聞社は非上場なので関係ないですが、理論上の価値は変動せずとも、
実際は、資本金が変動した事で憶測を呼び、相場に影響を及ぼす事はありえます。
新宿会計士様のコメントの焼き直しです。
なるほど、なんとなく掴めました。
既存企業の場合、特に非上場では資本金の額面など飾りでしかないのですね。
みなさまありがとうございました。
更新ありがとうございます。
もう毎日新聞社はアウトでしょう。誰も金出して読んでない。ホテルに山積みでも、ビジネス客自体、激減なのに、捨てる手間を考えたら、ホテル側も「今までの1割でいい」と(笑)。
完全に沈没する前に、新聞社は廃止、スポーツ紙も廃刊、資本出資している放送局(TBS、MBS、RKB等)は、ヨソに売れば?今なら買い手が付くでしょう。価格によるけど。
残りの不動産部門はあるでしょうから、リーシング(コレもコロナ禍で退店ラッシュですが)で人員減らしまくって生き残るぐらいしか無いと思います。ま、武家の商法に近いかと。
まあ単純に『大企業のプライドを捨てて優遇措置を貪らなければならないレベルの苦境』と捉えることにします。
で、帳簿上の操作で苦境から本質的に抜け出すことは例外なく不可能です。会計はまさしく会計であり本業の状況を正しく記録したものにすぎません。
まあ、何かしらの本業を改善させるための方策はこれから出てくるんでしょうけど。
われわれは助けたいなんて思ってませんから、ニヤニヤしながら見てるだけ〜
しょうもない追加ですが、
『コロナのせい』と全部言えてしまう現状は、責任を取らなきゃいけない経営陣としてはラッキーかも。多少の同情はもらえます。
ただ、左派とか在日の方とか日本の中でも少数派にベットしてしまった毎日新聞は、「ああ助けたい」と思う人の少なさに苦心することでしょうね。
独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
(だから自分に「素人のお前が、正しいとは限らない」と言い聞かせてます)
素人の素朴な疑問ですが、(新聞社を含む)報道機関を名乗るからには、重要なのは資金力ではなく、信頼ではないでしょうか。つまり、国民からの信頼があれば、資金力が乏しくても倒産することはないのです。(もっとも、その信頼性をどうやって判断するのかは分かりませんが)
駄文にて失礼しました。
信頼される報道機関の発するコンテンツ(形態問わず)には信頼に相応した需要が有りそう…デス
そう仮定すると…
すみません。追加です。
業界全体が縮小しているなか、ATMの一角のMが落ちれば、残りのAやT(もしかしたらYも)Mのシャアを奪いにいくのではないでしょうか。
駄文にて失礼しました。