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米FRBが為替スワップ・FIMAレポの再延長を発表

米連邦準備制度理事会(FRB)は日本時間の今朝未明のFOMC声明文で、金融緩和のスタンスを維持すると発表し、あわせて為替スワップとFIMAレポという、外国中央銀行に対する2つの流動性ファシリティを2021年9月まで再延長すると述べました。もっとも、為替スワップ自体の借入残高は現時点において100億ドルを割り込んでいる状況にあります。

FRBが為替スワップとFIMAレポを再延長

米国の事実上の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)は日本時間の今朝未明の連邦公開市場委員会(FOMC)で、「FIMAレポ」ファシリティや諸外国の中央銀行・通貨当局との間の時限的為替スワップを、来年9月末まで延長すると発表しました。

Federal Reserve announces the extension of its temporary U.S. dollar liquidity swap lines and the temporary repurchase agreement facility for foreign and international monetary authorities (FIMA repo facility) through September 30, 2021
The Federal Reserve on Wednesday announced the extension of its temporary U.S. dollar liquidity swap lines and the temporary repurchase agreement facility for foreign and international monetary authorities (FIMA repo facility) through September 30, 2021. <<…続きを読む>>
―――米国時間2020/12/16(水) 14:00付=日本時間2020/12/17(木) 04:00付 FRBウェブサイトより)

これらのファシリティはいずれも新型コロナウィルス感染症が拡大していた2020年3月に導入されたもので、FRBが米国内外の金融市場に米ドル資金を供給するための仕組みです。

このうち「FIMAレポ」については『FIMAレポは「為替スワップと並ぶ安全弁」なのか?』でも説明したとおり、外国の中央銀行・通貨当局(FIMA)が保有する米国債などを担保に資金を貸すという、一種のレポ(債券貸借取引)です。

つまり、「FIMAが外貨を得るために米国債を売る」ことを避け、米国債市場などの秩序を維持しながら米ドル資金を市場に供給するという目的があると考えられますが(著者私見)、ただ、このFIMAレポについてはあまり使用実績はありません。

為替スワップの性格

その一方で、米ドル為替スワップ(US dollar liquidity swap)は、米FRBが相手国の通貨を担保に取り、相手国の中央銀行を通じて相手国の金融機関に対し、直接、米ドルの短期資金(7日物、84日物)を貸し出す、というものです。

この為替スワップ、いわゆる「中央銀行間通貨スワップ(Bilateral Currency Swap Agreement)」とよく似ていますが、相手国の通貨当局に対してではなく、相手国の市中金融機関に対して直接資金を貸し出すという意味では、通貨スワップと為替スワップは別物です。

(なお、通貨スワップや為替スワップの違いなどについて、詳しくは『あらためてスワップについてまとめてみる』あたりにまとめていますので、適宜ご参照ください。)

もともと米FRBは日本、英国、カナダ、スイスの4ヵ国の中央銀行と欧州中央銀行(ECB)を相手に常設型・金額無制限の為替スワップを保有しているのですが、この5つの常設型為替スワップに加え、3月に導入したのが次の9ヵ国のFIMAとの時限的スワップです。

具体的には、豪州、ブラジル、韓国、メキシコ、シンガポール、スウェーデンとの間で上限600億ドル、デンマーク、ノルウェー、ニュージーランドとの間で上限300億ドルの時限的為替スワップを導入し、当初は2020年9月までの協定としていたのです。

米FRBとのFIMA為替スワップ
  • 常設・金額上限なし…日本、英国、欧州、スイス、カナダ
  • 期間6ヵ月~・金額上限600億ドル…豪州、ブラジル、韓国、メキシコ、シンガポール、スウェーデン
  • 期間6ヵ月~・金額上限300億ドル…デンマーク、ノルウェー、ニュージーランド

米FRBが9中銀との為替スワップを来年3月まで延長』でも触れたとおり、FRBは7月のFOMCでこの協定を2021年3月まで延長すると発表していたのですが、今回のFOMCではさらに2021年9月まで延長する、と述べた、というわけです。

借入額はどうなっているのか

ただし、この為替スワップの借入残高は、ピーク時と比べればかなり落ち着いており、現時点(12月17日時点)における各国中央銀行等の借入残高は、図表1のとおりです。

図表1 為替スワップの引出残高(2020/12/17時点)
FIMA 借入残高 平均金利/平均日数
スイス国民銀行 70.55億ドル 0.33%/8382.99日
シンガポール通貨庁 6.19億ドル 0.33%/8432.31日
欧州中央銀行 5.42億ドル 0.33%/8392.62日
メキシコ銀行 4.75億ドル 0.33%/8400.00日
デンマーク国民銀行 2.00億ドル 0.33%/8400.00日
合計 88.91億ドル 0.33%/8388.30日

(【出所】ニューヨーク連銀 “Central Bank Liquidity Swap Operations” のページに掲載されているエクセルファイル “Operation Results” をもとに著者作成)

これで見ると、現時点で借入額のトップは70億ドル以上を借り入れているスイス国民銀行(SNB)ですが、それら以外には4つの中央銀行が数億ドルずつを借り入れており、平均金利はいずれも0.33%前後です。

もっとも、この為替スワップ、ピーク時には4500億ドル近くが引き出されており、意外なことに、その最大の借り手は日本銀行(※正確には日本銀行を通じて借り入れている日本の金融機関)でした(図表2)。

図表2 為替スワップの最大借入額とその時点
FIMA 最大額 最大となった時点
日本銀行 2258.39億ドル 5/27(水)
欧州中央銀行 1449.81億ドル 6/10(水)
イングランド銀行 376.95億ドル 4/2(木)
韓国銀行 187.87億ドル 5/8(金)
スイス国民銀行 114.03億ドル 4/20(月)
シンガポール通貨庁 100.28億ドル 5/27(水)
メキシコ銀行 65.90億ドル 4/8(水)
スウェーデンリクスバンク 54.00億ドル 4/27(月)
デンマーク国民銀行 52.90億ドル 4/17(金)
豪州準備銀行 11.70億ドル 5/1(金)
全体 4489.46億ドル 5/27(水)

(【出所】ニューヨーク連銀 “Central Bank Liquidity Swap Operations” のページに掲載されているエクセルファイル “Operation Results” をもとに著者作成)

このあたり、日銀が巨額の借入を行っていた理由は、日銀はFRBから無制限に為替スワップを引き出すことができるという点に加え、おそらく本邦金融機関を中心に外債投資が活発化しており、ヘッジニーズなどを満たしていたからだと思います(※著者私見)。

また、無制限為替スワップの締結国(日欧英瑞加)以外でも、たとえば韓国銀行が187.87億ドル、シンガポール通貨庁が100.28億ドルと、それぞれ100億ドルを超える資金を引き出していましたが、これも上限額(それぞれ600億ドル)の範囲内に収まっていました。

個人的にはFRBがこれらのツールを延長する必要があるのかどうかはやや疑問ではありますが、ただ、FRBとしてはコロナ禍に対応するために金融緩和のスタンスを維持すると明言しており、そのためのツールは残しておこうとする判断なのだと思います。

新宿会計士:

View Comments (4)

  • いつでも停止可能な状態での短期更新を定例化することで、基軸通貨としての影響力を幅広く保持したいとの考えからなのでしょうか?

    とも思ったのですが、自国企業・金融機関の資本回収をショートさせないための安全弁に過ぎないんですよね。きっと。

  • 韓国の残高がなくなっていたのは知ってたのですが日本も今なくなってたんですね。調べたら最後12月10日に完済になってましたね。
    日本の場合単に安価なドル調達として為替スワップを利用していたみたいですね。平時ではそういう使い方をしないようにお達しがあったか、そういう使い方ができないように歯止めを設けてたかしてたのでしょうが、コロナの折、金利も下げて、そういった利用制限もなくしたので日本のスワップ利用が急増しました。ここの記述にある通り、ピーク時2000億ドル以上とそれはそれは膨大なものになりました。日本の残高がここにきてなくなったのは、撤廃されていた利用制限の何かが復活したのでしょう。

    日本(の金融機関)はなんのために為替スワップに応じたか。まあ単純に言えば利鞘取りです。「投資」で利益を得るには資金調達を少しでも安くしたいのです。

    「投資」といっても銀行にとっての投資は証券投資とかではありません。彼らは間接金融が仕事ですから、現地に進出した日本企業などに融資して利鞘を稼ぐのです。本来日本に拠点を置く銀行にとってドルの安い資金調達手段は限られます。資金調達の王道は預金受け入れですからね。だから日本国内での外貨預金を頑張ったり、地場の預金を多く集める銀行を買収したり努力はするのですが安い資金は慢性的に不足します。コロナ禍による特例措置でだいぶ稼げたのではないでしょうか。

    翻って韓国。韓国の銀行は日本に比べて海外部門は圧倒的に弱くて、そんな間接金融を繰り広げようという力はありません。しかも韓国企業は自前で直接金融でドル資金を得てしまうからそこに韓国の銀行の出番はないわけです。
    そこで今回の為替スワップ。ここの読者ならご存知の通り、アメリカの為替スワップはあくまで地場金融機関がドルを受けるので、韓国の中銀や政府は1セントたりとも資金を受けることができません。FRBによる厳密な監視がついています。
    ドルでの間接金融のない韓国の銀行がスワップの資金を受けたって、使い所はないのです。間接金融じゃなく直接証券投資することはできますけど、リスクに比してたいした利益も上がりません。だから今回の措置で韓国の金融機関はドルを弄んだっぽいですね。たいして活用出来ないドルを受けるために、適格担保を大量に積んでしまっていて、せっかく韓国中銀が緩和的にウォン資金供給したくてもそれに応じられないという苦しい状況だったようです。だから結局枠を使い切るどころかさっさと返済して一切おかわりしませんでしたね。「スワップの実績作り」のために無理して応じてたのアリアリ。

    まあ、コロナ禍はさらに続くので、FRBの韓国向け為替スワップも延長にはなりましたが、実際のところ1セントたりとも資金が動くことはないでしょうね。

    • Gさんの投稿で思い出したのですが,コロナ以降アクチュアリーの人達との交流が途絶えました。この人達の感触を確かめておかないと危ないです。特に債券と為替は。最近の相場は,私の理解を超越するところがあります。

  • スイスは米国との「常設、金額上限無しの為替スワップ」があるのに、市場でのドル買い入れを増やしたのでしょうね。 ベトナム同様、米財務省に為替介入国に認定されました。
    https://news.yahoo.co.jp/articles/8ea20bfbfcd81cecee6d0a0cf19defc4061222e3

    今回の為替スワップ再延長は、この辺を睨んでのことかもしれません。 確か、Kの金利は他国と比べかなり高めだったと記憶していますが、、、、。
    春先の市場ではもっと高かったのでしょうね。  真綿で首を絞めるように、、、。

    こうやって、Kから「甘い汁」を吸い続けられるから、ここは破綻しないのかなと思っています。