数日前、雑誌『FACTA』のオンライン版に、「号外速報」と称して、朝日新聞が「創業以来の大赤字」、「社長が来春に退任」、などとする記事が掲載されました。この記事に対し、ネット上では「朝日新聞の部数だけが大きく減っている」、「朝日新聞社の倒産が近づいた」、といった書き込みも見られたのですが、手に入る数字を冷静に分析していくと、ものごとはそこまで単純ではありません。
朝日新聞は財務内容を公表している
日本は自由・民主主義国家であり、本来ならば私たち日本国民が消費者として、有権者として選んだわけでもない勢力が多大な社会的影響力や政治権力を持つことは望ましいことではありません。
しかし、残念なことに、わが国には選挙で選ばれたわけでもないくせに絶大な政治的権力を握っている勢力や、自由経済競争で勝ち残ったわけでもないくせに甚大な社会的影響力を持っている組織がいくつか存在しています。後者の典型例は、新聞業界でしょう。
日本の新聞社は企業や官庁に対し、非常に詳細な情報開示を求める報道姿勢を取ることで知られています。とくに、霞ヶ関には「記者クラブ」なる特権組織を置き、私たち日本国民の知り得ない情報に、日々、アクセスしています。
しかし、そのわりに日本の新聞社の経営実態は不透明であり、基本的な財務諸表すら公表していないケースが圧倒的に多いのは不思議と言わざるを得ません。
こうしたなか、朝日新聞といえば、一連の慰安婦捏造報道、福島第一原発の吉田調書捏造報道、古くは沖縄のサンゴ礁をわざと毀損した記事など、さまざまな報道不祥事で知られていて、インターネット上では一般国民の朝日新聞に対する怒りの声を、日々、見かけることができます。
そういえば、朝日新聞を巡っては慰安婦問題を巡る一連の報道に関し、つい先日も、「同社の植村隆・元記者がジャーナリストの櫻井よし子氏らを訴えた件で、最高裁での敗訴が確定した」、といった話題もありました。
元朝日新聞記者の敗訴確定 最高裁、慰安婦記事巡り
―――2020.11.19 17:12付 産経ニュースより
ただ、当ウェブサイトとしては、そんな朝日新聞社を巡って、ひとつ、評価している点があります。それは、朝日新聞社はほかの新聞社と異なり、有価証券報告書(有報)で財務諸表(単体・連結)や新聞の発行部数といった情報を公表していることです。
(※といっても、朝日新聞社が自発的に経営内容の透明性を高めているのではなく、おそらくは株主数が一定数を超えているため、金融商品取引法の規定で仕方なしに公表せざるを得ないだけだと思いますが…。)
同社の2020年3月期決算に関する有報を読んだ結果については、以前の『朝日新聞ですらメディア部門が営業赤字に転落する時代』で簡単に報告していますので、ご興味がある方はこの機会にぜひ一度、ご一読を賜ると幸いです。
「朝日新聞社長が経営責任を取り退任」=FACTA
こうしたなか、雑誌『FACTA』のオンライン版に数日前、「号外速報」と称し、こんな記事が掲載されていました。
朝日新聞が「創業以来の大赤字」/渡辺社長が来春退任/「後継は中村副社長」と示唆
―――2020/11/25 07:20付 FACTA ONLINE号外速報より
同記事はFACTAの購読者限定のオンライン会員サービスだそうであり、読者でない場合は全文を読むことができませんが、それでも無料で閲覧できる部分だけを読むと、次のような趣旨のことが記載されています(大意を変えない範囲で文章を修正しています)。
- 朝日新聞社の2020年度決算は約170億円という創業以来の大赤字に陥る見通しとなり、この経営責任を取り、朝日新聞の渡辺雅隆社長(61)が来春に退任する意向を示した
- 2014年夏の慰安婦誤報問題・福島第一原発の吉田調書記事取り消し問題で辞任した木村伊量氏に代わって緊急登板して以来の6年間の長期政権となったが、新聞部数の減少や影響力低下に歯止めを掛けることはできなかった
…。
この、「170億円という創業以来の大赤字」という見通しが事実なのかどうかはよくわかりません。得てしてこの手の記事は、「内部情報をもとにして書かれた」と称していながら、かなりあとになって検証すると、実際には正しくなかった、というケースもあるからです。
通常、巨額の赤字を計上するのは、固定資産の減損会計適用か、割増退職金の支払など、大規模なリストラクチャリングの実施、というケースが多いのですが、後述するとおり、朝日新聞社は不動産事業が儲かっているため、「減損会計適用」というのも考え辛いところです。
ただ、「新聞部数の減少」という点については事実です。同社有報によると、朝日新聞の朝刊の発行部数は、2014年3月期の753万部から、6年後の2020年3月期には537万部へと、およそ215万部減少していることが確認できます。減少率は28.6%、つまり3割弱という計算です。
「業界と比べても朝日の減りが大きい」は本当か?
このFACTAオンラインの記事を受け、ツイッターなどのインターネット上では、「朝日新聞の部数は大きく減った」といった点に対する反応もさることながら、「朝日新聞が一人負けだ」、といった指摘もあったのですが、これは本当でしょうか。
一般社団法人日本新聞協会が公表する『新聞の発行部数と世帯数の推移』によれば、「セット部数」と「朝刊単独部数」の合計は、2013年10月に4595万部だったものが、2019年10月には3698万部へと897万部減っていますが、減少率は19.5%です。
つまり、新聞業界全体において紙媒体の新聞の発行部数は落ち込んでいるものの、その減少率は朝日新聞と比べるとマシだ、という理屈です(図表)。
図表 新聞業界全体と朝日新聞の部数の落ち込み(6年間)
区分 | 6年間の部数の推移 | 減少部数と減少率 |
---|---|---|
新聞業界全体(セット部数+朝刊単独部数) | 4595万部→3698万部 | 897万部(19.5%) |
朝日新聞朝刊 | 753万部→537万部 | 215万部(28.6%) |
(【出所】一般社団法人日本新聞協会『新聞の発行部数と世帯数の推移』および株式会社朝日新聞社有価証券報告書より著者作成。ただし、朝日新聞の部数は2014年3月期と2020年3月期の比較であり、日本新聞協会の部数は2013年10月と2019年10月の比較)
なぜ朝日新聞の部数の減少率が、業界全体よりも大きいのかについては、データだけではよくわかりません。いちおう、「一連の慰安婦捏造報道により、朝日新聞の読者が大きく離れたからだ」、などとする分析もありますが、個人的にはその点については慎重に判断しなければならないと考えています。
というよりも、そもそも日本新聞協会が発行しているデータそのものについて、信頼して良いのか、という問題があります。「個別の不祥事があれば部数が減る」という説明もわかるのですが、それ以上に、「時代の流れ」として、紙媒体の新聞の発行部数は、もっと大きく落ち込んでいるような気がしてなりません。
実際、『「新聞業界の部数水増し」を最新データで検証してみた』でも取り上げたとおり、この日本新聞協会のデータには不自然な点が多く、結論的には新聞業界全体が「押し紙」と呼ばれる不透明な販売慣行を続けているのではないかとする疑惑は払拭できません。
というのも、この20年間でスポーツ紙や夕刊単独部数、セット部数などが50%以上減少しているにも関わらず、朝刊の単独部数はわずか15%しか減少していないからです。
さらには、『埼玉県民様から:「日本の広告費2019」を読む』でも触れたとおり、株式会社電通が作成している『日本の広告費2019』というレポートによれば、新聞広告費はこの20年間で約65%(!)も減少しています。
つまり、朝日新聞の部数が業界全体と比べて大きく落ち込んでいる(かに見える)理由が、本当に朝日新聞の部数「だけ」が落ち込んでいるからなのか、それとも朝日新聞以外の新聞社が部数の水増しをしているからなのかについては、軽々に決めつけるべきではありません。
いや、もっといえば、新聞業界全体も朝日新聞もともに部数の水増しをしているという可能性があることを考えると、巷間でいわれている「朝日新聞の部数『だけ』が落ち込んでいる」という俗説については、もう少し慎重に判断する必要があるのではないでしょうか。
いっそ、不動産会社になれば?
さて、朝日新聞の有報の分析に話題を戻しましょう。
じつは、朝日新聞社はすでに、「メディア・コンテンツ事業」で稼ぐ会社ではなくなっています。有報のセグメント別開示を見ると、2020年3月期においてメディア・コンテンツ事業は売上高3118億円に対し、営業損益は約50億円の赤字に転落してしまっているからです。
しかし、不動産事業に関しては、売上高は385億円と小ぶりではありますが、68億円の営業利益を叩きだしており、メディア・コンテンツ事業の赤字をカバーしてしまっているのです。冷静に考えたら、これはもうTBSと同じ、「不動産業者」と見るべきではないでしょうか?
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ただ、新聞業界が低迷していることは事実ですが、こうした事情は新聞に限られません。地上波テレビでも同じようなことがいえます。
この点、以前の『テレビ局「今すぐ事業をやめて解散した方が儲かる」?』でも取り上げたとおり、正直、日本の地上波テレビ局は収益性が非常に低く、株価純資産倍率(PBR)も軒並み1倍を下回っているという惨状です。
こうしたなか、米系投資ファンドがテレビ朝日に対し、資本再編と地上波テレビ免許の返上の検討、持分法適用関連会社である東映との関係強化などを提案した、という話題については、『米系投資ファンド「日本の地上波テレビに将来性なし」』などでも紹介しました。
経営分析の立場からすれば、不採算事業を切り捨て、採算性の高い部門に人員をシフトしていくのが、会社として生き残っていくための当然の戦略です。かつての電話産業の大手・NTTは、いまや携帯電話やシステムソリューションなどが収益の柱となっています。
残念ながらテレビ朝日はこの株主提案を蹴ったようですが、同じことは朝日新聞社にもいえる話です。
いずれにせよ、今回の『FACTA』の記事に含まれていた、同社の「170億円という大赤字」については、同社の有報が出てきた時点でじっくりと分析してみたいと思う次第です。
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社長が辞めようが関係ない。
事実を報道しないマスコミの未来はない。
新聞を個人のイデオロギーの実現のための道具にしか考えない社内に巣食うガンを一掃しないと会社そのものが無くなってしまう。
ひょっとすればガンを切除したら何も残らなくなったりして。
朝日新聞社が大幅な人員削減・給与削減を強行。従業員がスト・デモに走り、社長室を破壊する等の騒ぎになる日が楽しみです。
その為にも、朝日系の不動産は「借りない・買わない・かかわらない」ようにしましょう。
双子ビルの東棟、中之島フェスティバルタワーの入居企業はこんなだそうです。
主な入居テナント
https://downtownreport.net/db/nakanoshima-festival-tower/#office
双子ビル西棟、中之島フェスティバルタワーウエストの入居企業はこんなだそうです。
https://downtownreport.net/db/nakanoshima-festival-tower-west/#office
独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
(なにしろ、朝日新聞と違って自分は間違う存在であると自覚しているので)
どうやって測るかは分かりませんが、将来の報道機関は、発行部数ではなく、信頼性をもって、格(?)を誇るようになるのではないでしょうか。
駄文にて失礼しました。
現在の有様を踏まえ、朝日新聞社の不動産部門の社員たちにはどのように映り、何を想っているのかちょっと気になるところではあります。
想像するに、彼らの社内での立ち位置は、傍流とすら呼んでもらえない、"おまけ""番外地"もしかすると"流刑地"ですらあったかもしれません。なにしろ「新聞社」ですから、編集部門の社員が一番デカい面をし、広告を扱う営業部門と続き、さらに印刷部門があって、不動産を扱う部署なんて、下手をすると総務の一部くらいに思われていそうです。
そんな不動産部門が社内の稼ぎ頭になってしまい、日頃エラそうにしている他部門の赤字を補填してやっているとなった時、さて不動産部門の社員たちはどのように感じるでしょうか。会社として望ましい状態でないのは明らかなので、急に肩で風を切って社内を歩くような真似はしないでしょうが、何やら暗い想念を密かに抱いたりしないでしょうか。
......なぁ~んて、下司の勘繰りですね、きっと。
不動産のうちのひとつに関する情報を発見しました。
http://www.asahi.com/festivaltower/common/pdf/pamphlet.pdf
9~12Fにブーメランが突き刺さり、それの事故をもってして本社襲撃事件という捏造報道をする未来が水晶玉に浮かび上がっているかのようです(かも)
龍様へ
>朝日新聞社の不動産部門の社員たちにはどのように映り、何を想っているのかちょっと気になるところではあります。
「朝日新聞不動産部門で横領。朝日新聞は被害届を出さず。管理職は誰も気が付かず」という新聞記事の幻影が見えました。
おあとがよろしいようで。
素人的再建策
・不動産チラシに記事を掲載して紙代カット。
・新聞社員の給与を押し紙で現物支給。
・メモ帳やトイレットペーパーは購入停止。自社印刷物で代用。
新聞社の収入は新聞紙の販売額より広告収入の方が多いと聞いたのは約30年前です。その新聞広告も、より広告効果の高いテレビやらネットの広告に蚕食された結果のようにも思えます。
更に発行部数が減れば広告単価も安くせざるを得ないので負のスパイラルに陥ってしまったんでしょう。
単純に図表の業界全体の数値から朝日のみの数値を差引けば朝日以外での減少率が推計できるのかと・・。
朝日の減少率は28.6%
他での減少率は17.7%
*差別化戦略の達成事例ですね。(?)
更新ありがとうございます。
朝日新聞の販売部数だけが落ちたわけじゃなく、ATM筆頭に読売、日経、産経、中日、中国、西日本、沖タイまで、すべて減っているでしょう。
まず電車、バスで新聞を読んでいる人がいない。あと、私の家のゴミ捨て場は、新聞紙と雑誌類が捨てる日が同じなのですが、5年前に比べ、量は圧倒的に少なくなっています。
およそ110軒分のゴミ捨て場ですが、以前の半分以下。もっと言うと回収直前でも20個(軒)ぐらいの紐で括った束があるだけです。管理人さんに聞いたら「前はほぼ全世帯が捨ててたが、今はスペースが無駄になった。新聞屋さんのバイクも少ないでしょ」と。夕刊がポスティングされている宅は、ほとんどありませんね。
新聞紙については資源ごみとして出すのではなく、販売店が回収して
トイレットペーパーと交換してくれるケースもありますので
地域によって差が出るかもしれません。
https://www.nikkei.com/nkd/disclosure/ednr/20200625S100ITP9/
まあ当然今年のが出るのは来年なワケですが、
第163期→第167期の推移だけでおなかいっぱいですわな。
これにコロナ不況での解約が加わるわけで。
朝日新聞は毎年40万部くらい減少しています。購読料の何割が新聞社の取り分か不明ですが、おおよそ60%だとすると年間3万円、40部減ると120億円の減収になります。押し紙の問題も絡んでそのまま減収にはならないまでも約100億円の減収にはなるはず。経営的に毎年100億円の固定費削減を迫られるということです。資産売却は答えになっていない。本業での出血を止めないといけない。新聞業界でどんなコストダウン策があるんでしょうか? 野次馬根性で見ていきたいと思います!
メディア事業セグメントで固定資産2800億もあれば
キャッシュフローもマイナス見込とみなされて
減損もあるのでは?
前にも書きましたが、朝日新聞は、社内のみならず、OBからの圧力が凄いんだそうです。客観公正中立な記事を書くと、OBから「もっと角度を付けろ」と注文がつくとか。
こんなことでは、社長が交代しても大して社風は変わらないでしょう。経営責任・結果責任のないOBにかき回されているようでは、コンプライアンスもへったくれもありません。「総理大臣なんて誰がやっても同じだ」に倣って言うなら「朝日新聞の社長なんて誰がやっても同じだ」です。
ところで、築地にある大新聞と言えば、山岡さんと栗田さんが務める「東西新聞社」です。同社のトップは大原社主、「社長」ではなく「社主」です。
それで、朝日新聞社主でググったらこんな記事を見つけました。
朝日新聞の「社主」が死去…歴代社長も恐れた「深窓の令嬢」の素顔
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/71288
朝日新聞が村山美知子社主に書かせた「遺言書」
https://bungeishunju.com/n/n681dc80cd0a0#yRrsp
朝日新聞は、OBだけでなく、創業者一族からも隠然と支配されていたのですね。