本稿はショートメモです。日本の対韓輸出管理適正化措置を巡って、韓国が日本をＷＴＯに提訴している問題は、以前から当ウェブサイトで何度も取り上げています。ところが、韓国政府・産業通商資源部で舌鋒鋭く対日批判を展開してきた兪明希・通商交渉本部長がＷＴＯ事務局長選挙に出馬していることを巡って、彼女は再び、「日本は自分を支援すべきだ」などと述べたそうです。彼女は能力面もさることながら、中立性の面からも大きな問題がある候補と言わざるを得ないにも関わらず、です。

対日ＷＴＯ提訴は米国も「韓国を支持しない」

日本の対韓輸出管理適正化措置を「不当な輸出『規制』だ」と息巻く韓国は先月、日本を世界貿易機関（ＷＴＯ）に対して提訴しました。

この問題に関連し、昨日の『韓国メディア「ＷＴＯ提訴で米国は韓国を支持しない」』では、米国務省が韓国メディア『東亜日報』の取材に対し、改めて「韓国を支持しない」と明言した、とする話題を取り上げたところです。

いまさら指摘するまでもありませんが、韓国の行動は、やはりどう考えても異常です。輸出管理（おもに軍事上の理由に基づいて輸出に何らかの制限を設けること）は、ＷＴＯの定める自由貿易ルールの例外ですし、国際的に広く定着している慣行でもあるからです。

信頼に値する国に対しては輸出管理が緩くなり、そうでない国に対しては輸出管理が厳格になるのはあまりにも当然のことです。

それに、韓国は日本以外の先進国からも、輸出管理上の「（旧）ホワイト国」に類する優遇措置を受けていません。もし韓国が日本の輸出管理厳格化措置を「不当だ」と批判するなら、欧米諸国に対しても同様に批判しなければなりません。

さらには、日本は韓国に対してのみ、差別的に厳格な輸出管理を適用しているわけでもありません。もしＷＴＯが韓国の今回の訴えを許せば、日本はそれこそ全世界の国から「輸出管理を緩めろ」と要求を受けてしまうおそれもあるでしょう。

だからこそ、そもそも論として輸出管理案件をＷＴＯで扱うのも間違いであれば、韓国だけを優遇しろと日本の身に対して要求するのも筋違いなのです。

韓国政府の対日批判の急先鋒がＷＴＯ事務局長に？

さて、この韓国政府による対日ＷＴＯ提訴を扱っている部署は、「産業通商資源部」と呼ばれる役所であり、日本の経済産業省のカウンターパーティでもあります。つまり、輸出管理に関してはエキスパートの官庁である「はず」なのです。

それなのに、この「産業通商資源部」自体が、日本の経産省がしつこく求めている輸出管理における政策対話をかたくなに拒絶するだけでなく、日本の輸出管理適正化措置を「輸出規制」だと騙って批判しているというのですから、呆れて物も言えません。

そして、この官庁でとくに舌鋒鋭く日本を批判してきた人物のひとりが、兪明希（ゆ・めいき）通商交渉本部長その人でもあります。正直、輸出管理とＷＴＯが結びつかないということを、真っ先に理解していなければならない人物であるにも関わらず、です。

恐ろしいことに、そんな兪明希氏は現在、ＷＴＯの事務局長選挙に出馬しており、しかも、日本に対して支持を求めているのだそうです（『ＷＴＯ韓国人候補、「韓日協力」強調し日本の支持要求』等参照）。厚顔無恥も良いところでしょう。

能力も疑問、中立性にも問題あり

ただ、日本政府が兪明希氏を支持することがあってはなりません。

その理由は単純で、兪明希氏自身、これまでの言動に照らし、ＷＴＯの役割を正確に理解していないことは明白だからです。

そんな兪明希氏がＷＴＯの事務局長に就任しようものなら、ＷＴＯ改革が進まないであろうことは自明の理ですし、また、兪明希氏自身が日本をＷＴＯに提訴している韓国側の官庁の出身者であることから、中立性にも大きな問題があるからです。

つまり、能力面と中立性という２つの面から、彼女は「ＷＴＯ事務局長に就任させてはならない人物」なのです。

もっとも、日本政府としては、現時点においては、兪明希氏については基本的に放置で良いと思います。というのも、漏れ伝わる下馬評によれば、兪明希氏は現時点において事務局長選に立候補している８人のうち、泡沫候補と考えられるからです。

万が一、兪明希氏の当選の可能性が高まっているのであれば、日本としては公然とこれに反対しないといけないのですが、現時点においては下手に動いて韓国の恨みを買うよりも、様子見のスタンスで良いと思う次第です。

共同通信「兪明希氏が日本の指示に期待」

ところが、韓国・兪明希氏の側は、そうは考えていないようです。共同通信に昨日、こんな記事が出ていました。

韓国候補、日本の支持に期待／WTO事務局長選

―――2020/8/24 18:47付　共同通信より

※余談ですが、情報源が情報源だけに、どうも記事を読む前に身構えてしまうのはここだけの話です。詳しくは「毒水を垂れ流すインフラ屋」あたりをご参照ください。

それはさておき、共同通信の記事によれば、兪明希氏は24日までに、共同通信の書面インタビューに対し、次のように答えたのだとか。

（日本は）自由貿易と多角的体制の必要性について（韓国と）同じ立場をとっている

（輸出管理強化による通商対立は）事務局長選とは無関係なものだ

要するに、「私の立候補と輸出『規制』の対日ＷＴＯ提訴は無関係だから日本は私を支持しろ」と述べているようなものですね。ここまでくると、あまりにも話が通じなくて驚いてしまう次第です。

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もっとも、兪明希氏が一次選考の段階で落選すればよいのですが、一次選考をパスしてしまい、二次選考、三次選考で落選した場合には、「日本がわが国出身者のＷＴＯ事務局長就任を妨害した」などと逆恨みしてくる可能性もあります。

その意味では、韓国から日本に対する支離滅裂・意味不明な攻撃の数々は、まさに韓国という国が滅びない限りは続くのかもしれません（『日韓問題の「解決」は米韓同盟消滅でも達成可能なのか』等参照）。私たち日本にとっても覚悟は必要でしょう。