価値と利益を共有する英国は日本にとって重要な相手国

日本時間の今朝、茂木敏充外相が「コロナ後初」の外訪先である英国で日英外相会談に臨み、ドミニク・ラーブ英外相との間で、経済、安保両面での日英連携を確認しました。ポストコロナ最初の外訪先に英国を選ぶという茂木外相のセンスは、なかなか大したものです。なぜなら、英国は日本が自由・民主主義の世界で存在感を高めるうえで、カギとなる潜在的な同盟相手国でもあるからです。

茂木外相にとってのコロナ後初外訪が「日英外相会談」

じつに、象徴的な話題です。

茂木敏充外相は英国時間8月5日午後6時、つまり日本時間の本日早朝2時に、訪問先の英国でドミニク・ラーブ英外相と日英外相会談(会談とワーキングランチ)に臨みました。

日英外相会談(令和2年8月5日)

8月5日午後6時00分(現地時間;日本時間6日午前2時)から約2時間、茂木敏充外務大臣は、ロンドンの「ランカスター・ハウス」において、ドミニク・ラーブ英国外務・英連邦大臣兼首席大臣(Rt Hon Dominic Raab MP, Secretary of State for Foreign and Commonwealth Affairs and First Secretary of State of the United Kingdom)と日英外相会談(1対1の会談を行った後、ワーキング・ディナー)を行ったところ、概要は以下のとおりです。<<…続きを読む>>
―――2020/08/06付 外務省HPより

茂木外相にとっては、武漢コロナ禍発生後の初の外訪でもあります。その初の外訪先に英国を選んだという点に、茂木外相、あるいは安倍政権のセンスを感じます。なぜなら、日英関係は、いまや単なる二国間関係ではないからです。

経済面では日英経済パートナーシップ、そしてTPPも?

まず、前提条件を踏まえておきましょう。日英は現在、お互いに軍事・経済両面において連携を深めています。

経済面においては、「日英経済パートナーシップ」の妥結に向けた交渉が行われています。といっても、これは、もともとは英国が欧州連合(EU)から離脱したことで、英国が日欧経済連携協定(EPA)の枠組みの対象外となることを受けたものです。

いちおう、現在は英・EU間での経過措置に基づき、2020年中は日英貿易はEPAの対象ですが、日経の2月8日付『経済協定「早期に」 日英外相が戦略対話』という記事によれば、このままだと来年以降は日英間の貿易で関税率が上がる可能性があります。

この点、外務省のリンク先記事によると、茂木外相はこの日英間の経済パートナーシップが欧州連合(EU)離脱後の英国との経済協力関係を深める基盤であり、早期妥結が重要であると強調。らーぶ外相も「早期決着に向けて日英で連携していくことが重要」と述べたのだそうです。

したがって、おそらく日英間の経済パートナーシップは、このEPAと同等以上の水準を目指すものと考えられますが、安倍政権のことですから、おそらく狙いはそれだけではなく、英国の環太平洋パートナーシップ(CPTPP)への加入の布石とするものでしょう。

軍事面では強力な対中牽制

一方で、茂木外相は安倍政権のキーワード「自由で開かれたインド太平洋」を持ち出し、安全保障上の視点からは、次のような事項を日英両外相が確認・一致したそうです。

  • ①「国家安全維持法」制定にともなう香港情勢につき、香港市民・各国国民・企業の権利や自由が尊重されるよう、引き続き連携して対応していく。昨今の立法会選挙を巡る情勢についても重大な懸念を共有する。
  • ②東シナ海・南シナ海問題について、日英両国の立場は一致していることを確認する。また、この問題で日英は引き続き緊密に連携していく。
  • ③日英安保・防衛協力の大幅な具体的な進展を歓迎するとともに、共同訓練、海洋安全保障、瀬取り対応、防衛装備品移転、共同研究を含むさらなる協力の推進で一致した。
  • ④日英双方がASEAN、アフリカを始めインド太平洋地域における開発支援で一層連携するとともに、インフラ支援について国際スタンダードが順守されるよう協力していくことでした。
  • ⑤次回の日英「2+2」について、できる限り早期に対面で協議を実施すべく調整していくことで一致した。

日英両国外相は、中国を名指しこそしていませんが、この①と②は、あきらかに中国が現在行っている、国際的な約束に反した行動(香港の自治をないがしろにするような行為や、東シナ海・南シナ海で国境を不法に変更しようとする行為)を強く牽制した格好です。

また、④については、習近平(しゅう・きんぺい)中国国家主席の肝いりによる「一帯一路構想」やシルクロード基金、アジアインフラ投資銀行(AIIB)などの在り方を牽制したものと考えても良いでしょう(AIIBについては『「時流を読み誤りAIIBに乗り遅れた日本」の末路』等参照)。

さらには、「自由で開かれたインド太平洋構想」という言葉が茂木外相の口から出てきたというのは、明らかに、英国に対して「もっとこの地域に関与して欲しい」という、強いメッセージでもあるといえるでしょう。

あるいは、旧英連邦4ヵ国と米国(いわゆるファイブアイズ)が参加する「UKUSA協定」に、将来的には日本が参加して「シックスアイズ」にする(『中国共産党が恐れる「シックスアイズ」こそ日本の進路』等参照)ための布石でしょうか。

英国は価値と利益を共有する同盟国になるのか

ちなみに英国という国が、EUからの離脱により「脱欧州(ブレグジット)」の道を選んだことは、彼らの選択であり、決断です。これについては、私たち外国人としては彼らの決断を尊重せざるを得ません。

日本としては引き続き、EUとの連携を維持・強化しなければならないことは当然ですが、ただ、英国が「脱EU」を果たすのであれば、日英連携の自由度が上昇する、という意味でもあります。英国にとっても、日英連携の自由度が高まることは、ブレグジットが「災い転じて福となす」のきっかけとなるかもしれません。

さて、『「我々はG11やG12を必要としていない」=独外相』などでも触れたとおり、個人の付き合いの世界で「ウマが合う人」と仲良くなるのと同様、基本的価値を共有する関係は、外交関係においても非常にスムーズです。

日英はまさに、自由・民主主義国であり、法治国家であり、また、立憲君主制国家でもあります。また、英国は太平洋にも海外領土を保有していますし、英連邦諸国はインド・太平洋地域にも存在しています。さらには香港に対し、英国は旧宗主国として利害関係を持つ資格があります。

そして、日英のように基本的価値を共有している国同士が、軍事・経済面でも利害関係を共有するようになれば、お互いの国にとって、まさに「ウィン・ウィン」の関係を目指すことができるでしょう。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

さて、安倍政権下で日本は、諸外国との関係を非常に改善し、強化しています。

ただ、個人的な感想を申し上げるなら、本来、価値と利益を共有する同盟国は、日本の近隣にももっといてほしいという気がしますし、その意味では、日本との連携を頑なに拒絶し、非合理・非友好的な行動を繰り返す某国は残念でなりません。

ただ、日本が連携すべき相手国は、国際法や国際的な約束をしっかり守り、自由・民主主義が定着する成熟した国・地域であるべきであり、その資格があるのは米国、英国、EU、豪州、ニュージーランドなどの西側諸国に加え、最近だと台湾もそうだと思います。

いずれにせよ、ポストコロナ時代において、中国の横暴が激化するなか、日本は自由主義国同士の連携という進路をしっかりと取るべきであると考える次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 豆鉄砲 より:

    日英同盟復活なら、とても素晴らしいニュースとなりますね!

  2. カズ より:

    『 暎 』という文字のように、

    両国の未来が自由・民主主義の理念に照らされ、輝くことを願います・・。

  3. はにわファクトリー より:

    堂々たる声明文をさらさらと執筆される会計士どの能力と決意に瞠目するとともに敬意を表します。
    UK国は今深夜ですので現地からニュース記事が出て来て日本メディアが転載するのは本日今夕と思われます。英国外務省のTwitter記事はこちらです。
    https://twitter.com/foreignoffice/status/1291041278281441280

  4. ボーンズ より:

    茂木外相、良い仕事しております。
    河野防衛相の動きと言い、対中国包囲網の構築につながるものになりそうです。
    (英国面への警戒は忘れずに)

  5. だんな より:

    キンペー「ちっ」。

  6. はぐれ鳥 より:

    英国のEUからの離脱は、英国自身にとっては利害が半ばする感じです。ただ自由主義の英国が、東アジアに戻ってくるのであれば、日本にとっては対中戦略上などから好都合です。これからの英国が、何を糧に生きている積りなのか良く知りませんが、本来の海洋国に戻り、地球上を自在に動き回ることで新たな価値を見つけ出そうとしているのかも。そしてそのような英国の姿は、置かれた条件の似た日本の将来を占う水晶球でもあるはずです。ですから日本にとっては、目先、将来的ともに利益の方が勝っているでしょう。

  7. めがねのおやじ より:

    更新ありがとうございます。

    茂木外務大臣、良い仕事をなされてますね。英国外務省のHPには冒頭『🇯🇵 is an important partner of the 🇬🇧, 』とあります(嬉しい!)。

    TPPへの加盟、中国への干渉など日本と行動を共にして欲しいものです。

    そら、近場で『日本と価値と利益を共有する同盟国になる国』が有ればそれに越した事は無いですよ。そこと第一に友好を深めれば良いんですから。

    でも昨日の下朝鮮の徴用工判決に対する日本資産の差押えや、日本漁船を尖閣列島という日本領土で追い回し、コロナウイルスで世界に意図的に迷惑かけた中国。こんな奴らしか周りに居ないんです!不幸!

    距離は関係ない。英国とは自由と民主主義で連帯して行きましょう!

  8. より:

    1923年の日英同盟失効は、結局のところ双方に不幸のみを齎しました。当時とは国際環境は待ったく違うし、両国の国力比も大きく違いますが、軍事同盟とまでは行かなくても、軍事・経済の両面において、イギリスとの連携強化は日本にとっても望ましいことであると思います。
    イギリスに往時の大英帝国のような力はないにしても、依然として金融や外交では大きな存在感を持っています。英連邦諸国への影響力も見過ごせません。そして非常に大きなポイントが、現在、アジア太平洋において日本とイギリスとは戦略的に競合することがほぼ無いという点です。イギリスとしても、EUを離脱した現在、日本との関係強化とその先にあるCPTPPへの参加は、大きなチャンスになることでしょう。さらに、東京とロンドンとの金融市場連携の強化は、世界の金融市場にも大きなインパクトを与え得ると思います。

    ただし、日本はもとよりイギリスも、提携しようがするまいが世界の覇権を狙えるような国ではありませんし、イギリスは二枚舌どころか三枚舌をも平気で駆使する国なので、完全に依存するような関係になってはお互いに不幸だと思いますが。

    えーと、これはパーマーストーン卿の言葉でしたっけ。(どなたか訂正をお願いします)
    「永遠の友好国も永遠の敵国もない。あるのは永遠の国益だけである」
    外交官のアルファでありオメガですね。

    1. ななよん より:

      もしもご存知でしたらゴメン下さいまし。

      パーマストン子爵・首相・外相は、欧州にあっては「パワー・オブ・バランス」により各国を互いに牽制させ、非欧州各国には砲艦外交で「自由貿易帝国主義」をを強要してイギリスの海洋覇権をふんだんに活用した、それこそパクス・ブリタニアを絵で描いたような人物です。

      「永遠の国益」とは、それをフリーハンドに追究できる時の、その象徴的な人物だからこその発言と思います。

      勿論、どこの国のリーダーも自国の国益を最大にしたいと考え、尽力していると思いますが(一部には異なる方も居られるかな?)、それを口に出せてアッケラカンとしているのは、やはり現在ではパクス・アメリカーナでしょう。その裏付けも能力も無いのにパクス・シノワーズなどと言う者は叩かれてしまいますね。

  9. 気分は黒田長政公の家臣 より:

    日英同盟復活して欲しいです。
    日露・第一次世界大戦は、この同盟のおかげで
    戦勝国となったと思います。

  10. 立ち寄り人 より:

    毎日の更新お疲れ様です。日英が接近すると中国人は表面的には不快感を出して裏では冷や汗でしょうね。何せ大国ぶっていた過去に日英両国に完敗してますからトラウマでしょう。もし国連の敵国条項撤廃を英国発で働きかけが出来ると改憲に絶大な援護になりますな。

  11. おとら より:

    20世紀の初め、中国内の混乱に乗じて出兵したイギリス・フランス連合軍は、大規模な破壊を行った。その痕跡が、北京の円明園遺跡公園。
    実は、2008年の北京オリンピックの際、マラソンコースがどうなるか、興味津々だった。が、中国政府は円明園を避けたコースを設定した。あのころは中国も「おとなになったなぁ」と思ったものだが。

    さて、中国侵略はイギリスが本家本元である。ところが途中から日本が乗り出してきて、ために中国にはいまでも日本人を嫌う言葉として「とんやんくいず 東洋鬼子」と言ったりする。
    どうかイギリスにはがんばっていただいて、19世紀の悪行を中国人に思い出させてもらいた。すれば、日本の立ち位置が少し良くなるかもしれない。

  12. 匿名29号 より:

    どこの国も隣国とは仲が悪いもので、そりゃ領土の奪いあいやら何かと確執があるので当然かと思います。一方、国境を接しない遠い国とは利害の衝突も少なくて上手くゆくことが多いようです。
    昔の中国人が言う「敵の敵は友達だ」というところでしょうか。もっとも、英国はコロナ前まではヨーロッパの中で中国と経済的に最も結び付きが深い国でもあり、話はそう単純でもなさそうです。

    英国は一度は世界を制した国であり、軍事力こそ世界一の座を他国に譲ったとはいえ、今も日本とは比べ物にならない程の外交力を有しています。英国のリップサービスに乗せられないよう注意が必要でしょう。

    ところで、日本の長距離ミサイルの配備案について、ある外務官僚OBが敵のミサイルを抑止するのは報復力でなく外交力だと言ったとか言わないとか。日本の外交力とは平身低頭、相手の言うがままが外交力なんですかね。学生の理想論みたいなことを久し振りに聞いて、日本の外務官僚は報復力でなく、相手を抱腹絶倒力に長けた人達なんだと改めて知りました。

  13. はにわファクトリー より:

    >抱腹絶倒力に長けた人達なんだと改めて知りました

    外務官僚に限らないことですが、彼ら()は「予定調和」を好みます。打ち合わせ済みの発言交換で打ち合わせ済みの結論を声明する。当方は外務省から出てくる公式情報は事実関係確認における参考くらいにしかならないと判断しています。相手国側発表のほうが情報量が多いことがあるの。裏を取らないといけない。すなわち国内向け報道とは実体においてずいぶん様相が違っていたりするのです。たとえば日印は良好な二国関係を長く続けており定期的な交流がありますが、インド側報道の中身の濃さは都度目がくらむばかりで当方はとても勉強になっています。

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