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「北のウラン濃縮」で気になる日本産フッ化水素の行方

本稿は当ウェブサイトとしてはかなり異例なのですが、今から2年ほど前に掲載した議論を、基本的にはそのまま再掲したいと思います。日本政府がフッ化水素を含めた3種類の品目を輸出管理上の「包括許可」の対象から外し、「個別許可」に切り替えたのが2019年7月のことですが、それに先立つ8ヵ月前に、『韓国へのフッ酸禁輸報道は北朝鮮核開発の関係があるのか?』という議論を掲載していたのです。

議論再掲について

当ウェブサイトでは基本的に、毎回、新規に議論を書き起こす、ということを重視しています。このため、過去に掲載した記事をそのまま再掲する、ということは、基本的にはしていません。

だいいち、当ウェブサイトでは基本的に過去記事を削除しないので、リンクを示したうえで「これを読んで下さい」という形にしておけば済むからです。

ただ、本稿では少し思うところがあって、今から約2年前に掲載した『韓国へのフッ酸禁輸報道は北朝鮮核開発の関係があるのか?』という記事を、まずはそのまま再掲したいと思います(理由は後述します)。

執筆した時点で「フッ化水素」と「フッ化水素酸」、「輸出管理」と「輸出規制」の区別がついていないなど、現時点の当ウェブサイトの議論と比べれば少し不勉強な部分もあります。

ただ、「対韓輸出管理適正化措置は自称元徴用工問題とはまったく無関係である」とする当ウェブサイトなりの持論は、じつは、この2年前の論考で、すでにその片鱗が出ていたのではないかと思う次第です。

※ここから先が、2018年11月11日付の過去記事『韓国へのフッ酸禁輸報道は北朝鮮核開発の関係があるのか?』の本文です。

フッ酸禁輸報道の続報

一昨日、『フッ酸禁輸報道の真偽 資本財輸出を止めれば韓国産業壊滅も』という記事の中で、半導体産業に不可欠なフッ酸の韓国に対する輸出を日本政府が差し止めているのではないか、とする話題を紹介しました。

情報源は『電子新聞』という韓国の新聞に掲載された記事で、電子版は次のリンクで読めます(※ただし韓国語ですので、韓国語が読めない方が原文を読む場合、翻訳エンジンなどを活用することをお勧めします)。

半導体業界フッ酸需給大乱生じるのか… 日本当局の輸出ブレーキ(2018/11/07付 電子新聞より【韓国語】)

これについて世間では、「10月30日の徴用工判決に対する制裁として日本政府がフッ酸の輸出を差し止めた」という認識があるようですが、私は、「その可能性は低い」と申し上げました。その理由は簡単で、リンク先の記事に「10月26日に既報のとおり」、と読める下りがあるからです。

では、仮にこの韓国メディアの報道が事実だとすれば、なぜ日本政府がフッ酸の輸出を差し止めたのでしょうか?

これについて、読者の方からのコメントを読んでいると、某まとめサイトなどで「核兵器の製造工程でフッ酸が使われるからだ」、という指摘があった、という情報を頂きました。

事実関係はどうなっているのか?

フッ酸は軍事転用可能?

そのまえに、事実関係を確認しておきましょう。

外為法(正式には『外国為替及び外国貿易に関する法律』)という法律があります。

外為法第48条第1項

国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物の輸出をしようとする者は、政令で定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならない。(※下線部は引用者による加工)

この条文が、いわゆる「軍事転用可能な物資の輸出」を規制する根拠として機能しているのです。

また、この法律の条文に「政令」という言葉が出て来ますが、これは『輸出貿易管理令』のことです。この政令の「別表1」や関連省令に指定された品目を外国に輸出しようと思えば、経済産業大臣の許可を受けなければなりません。

この関連省令の名前は少々長いのですが、『輸出貿易管理令別表第一及び外国為替令別表の規定に基づき貨物又は技術を定める省令』という経済産業省令です(長いので「省令」と略します)。輸出貿易管理令と省令をあわせてみましょう。

輸出貿易管理令 別表1 第3項

(一)軍用の化学製剤の原料となる物質又は軍用の化学製剤と同等の毒性を有する物質若しくはその原料となる物質として経済産業省令で定めるもの 全地域

省令第2条第1項第1号

輸出令別表第一の三の項(一)の経済産業省令で定めるものは、次のいずれかに該当するものとする。

一 軍用の化学製剤の原料となる物質として、次のいずれかに該当するもの又はこれらの物質を含む混合物であって、いずれかの物質の含有量が全重量の三〇パーセントを超えるもの

(中略)

ヘ フッ化水素

(以下略)

ここで、「全地域」とは、「日本国外」という意味です。つまり、外為法上、フッ化水素は「軍事転用が可能な品目」と位置付けられており、日本企業が日本国外に輸出するときには、経済産業省の許可を受ける必要がある、ということです。

非常に参考になりますね。

六フッ化ウランの製造

さて、もう1つ重要な論点は、「六フッ化ウラン」です。

核燃料にウランが使われていることは有名ですが、天然のウラン鉱石がそのまま核燃料になるわけではありません。なぜなら、天然ウランの成分は核分裂を起こさないウラン238が99.3%を占めており、核分裂を起こすウラン235は0.7%に過ぎないからです。

参考:イエローケーキ

(【出所】資源エネルギー庁

日本原燃『ウラン採掘から発電までの流れ』によると、

天然ウラン鉱石の採掘→製錬により粉末状のウラン精鉱(イエローケーキ)を取り出す→イエローケーキを六フッ化ウランに転換→六フッ化ウランの濃縮→二酸化ウランに再転換→成型・加工

という段取りを踏むそうですが、この工程で生成されるのが「六フッ化ウラン(UF6)」と呼ばれる物質です。

いったんウランをフッ化する理由は、これは沸点が約56℃と非常に低く、気体の状態を維持しやすいからだそうです。つまり、気体の状態に置き換えてやることで、ガス拡散法、遠心分離法などの手法を使って徐々にウラン235の比率を高めてやるのです(これがウラン濃縮)。

そして、一般財団法人高度情報科学技術研究機構のウェブサイトで『六フッ化ウランの製造』という項目によれば、イエローケーキを硫酸に溶かすなどの工程を経て二酸化ウランを製造し、その二酸化ウランにフッ化水素(つまりフッ酸)ガスを吹き込んで反応させる、という工程を経るのだそうです。

ウラン濃縮工程では必需品

以上の話をまとめてみましょう。

ウラン鉱石があったとしても、天然のウラン鉱石に含まれているウラン235の比率が低すぎるため、それだけでは燃料として使うことはできません。したがって、ウラン鉱石が大量に埋蔵されている国であっても、それを濃縮する技術力がなければ、理屈の上ではその国が自力で核武装する心配はありません。

しかし、ウラン鉱石を濃縮する技術力があれば、理屈の上では、どの国でも核燃料を製造することができます。とくに、ウランをいったん六フッ化ウランに転換すれば、沸点が約56℃と非常に低くなるため、温度をそれ以上に維持する技術力さえあれば、ウラン濃縮が可能だ、ということです。

一般財団法人高度情報科学技術研究機構の『濃縮ウラン』という項目の説明によれば、原発の燃料に使う目的であれば、ウラン235の濃縮度は3~5%もあれば使用可能だとしています(同機構以外の複数のウェブページによると、兵器に転用するためには、純度は9割以上必要だと記載されています)。

外為法がフッ酸(フッ化水素)の輸出について経済産業大臣の許可を求めている理由は、まさにフッ酸自体、軍事目的への転用(たとえば核開発など)の恐れがあるからでしょう。

なぜ「韓国へ」禁輸?

事実関係はよくわからない

さて、冒頭の話題に戻りましょう。

韓国メディア『電子新聞』(韓国語版)が先週、「日本政府がフッ酸の韓国への輸出にブレーキを掛けた」と報じたことは事実ですが、これに関しては、いまのところ日本語で確認できる情報源はありません。

このため、『電子新聞』の報道が誤っていたとすれば、ここからあとの議論はすべて意味がないということになりますので、その点についてはくれぐれもご了解ください。

ここではいま1度、冒頭に示した記事のリンクを、翻訳エンジンなどを活用して解読し、私の文責で語順を整理し、日本語を整えたうえで箇条書にしておきましょう。

  • 日本政府は最近、フッ酸の韓国への輸出許可を見送ったことが判明した
  • 韓国の半導体産業関係者が7日明らかにしたところによれば、サムスン電子、SKハイニックスなどの半導体メーカーに供給される予定だったA社のフッ酸の輸出許可が下りず、半導体業界ではすでに原料供給の逼迫が生じている
  • フッ酸は半導体製造の原料として使われるものだが、戦略物資に分類されており、輸出入のためには当局の事前承認が必要とされており、使用量から供給先まで詳細を当局に報告した後、承認を受けている
  • 業界では日本が戦略物資であるフッ酸の韓国への輸出に急ブレーキをかけたとの見方も広まっている
  • 日本政府がA社に輸出許可を与えなかった理由については確認されていないが、半導体業界ではその背景について神経を尖らせている
  • フッ酸は金や白金を除くほとんどの金属を溶かすという腐食性の強さを利用して、半導体ウェハーの洗浄工程に使用されるため、フッ酸が不足すれば、ただちに韓国の半導体製造には支障が生じる
  • 半導体製造用の高濃度のフッ酸は日本企業が独占的に生産しており、これらの供給が中断された場合、韓国国内の半導体工場は稼動を中断しなければならないほど依存度が非常に高い

ここで重要な点は、「使用量から供給先まで詳細を当局に報告したうえで承認を受ける必要がある」、という点ではないでしょうか。

半導体ではなかった可能性がある

私自身、『フッ酸禁輸報道の真偽 資本財輸出を止めれば韓国産業壊滅も』を執筆した時点では、どうしても「半導体産業」に目が向いてしまっており、「理由はよく分からないにせよ、時間的前後関係から考えて、徴用工訴訟とフッ酸禁輸は無関係ではないか?」と申し上げました。

しかし、改めて法律を読み込み、事実関係を調べてみれば、フッ酸がウラン濃縮工程に欠かせない製品であること、外為法上の「軍事転用物資」に指定されていることが明らかになりました。このことから導き出せる仮説があるとすれば、

日本政府は韓国に輸出されたフッ酸が申告された本来の目的とは違う用途にフッ酸が使われているとの情報を掴んだ

というものです。

敢えて踏み込んで申し上げれば、北朝鮮に横流しされた、という可能性ですね。

もちろん、この仮説に確たる根拠はありません。ですが、現在の韓国が、北朝鮮を公然と支援していることもまた事実です。

北朝鮮石炭輸入問題、米国は「とりあえず様子見」なのか?』でも触れたとおり、韓国は北朝鮮産の石炭を公然と密輸していましたが、輸入していたのが実質の国営会社である韓国電力公社の関連会社であったことなどから、韓国が国連安保理制裁決議違反を国家ぐるみで行っていることは明白です。

当然、さまざまな戦略物資が北朝鮮に横流しされていたとしても、まったく不思議ではありません。

フッ酸は半導体産業においても重要な物資ですが、核開発においても重要な物資であり、韓国に重要な品目を輸出すれば、北朝鮮の核開発などに転用される可能性があるとなれば、影響は甚大です。

フッ酸に留まらない!

つまり、現段階では単なる仮説ですが、私は、「日本政府が韓国へのフッ酸の輸出を禁止した」という報道が仮に事実だったとすれば、その理由は、「核開発などの軍事転用のリスクが高いと日本政府が判断したから」ではないかと疑っているのです。

そして、もしその仮説が事実ならば、外為法に基づく制裁は拡大する可能性があります。

経産省令第2条第1項第1号だけでも、次のような物質が指定されています。

▼三―ヒドロキシ―一―メチルピペリジン▼フッ化カリウム▼エチレンクロロヒドリン▼ジメチルアミン▼塩酸ジメチルアミン▼ベンジル酸メチル▼三―キヌクリジノン▼ピナコロン▼シアン化カリウム▼一水素二フッ化カリウム▼一水素二フッ化アンモニウム▼一水素二フッ化ナトリウム▼フッ化ナトリウム▼シアン化ナトリウム▼五硫化リン▼ジイソプロピルアミン▼二―ジエチルアミノエタノール▼硫化ナトリウム▼トリエタノールアミン塩酸塩▼亜リン酸トリイソプロピル▼ジエチルチオリン酸▼ジエチルジチオリン酸▼ヘキサフルオロケイ酸ナトリウム▼ジエチルアミン

さらに、外為法だと、物資の提供だけでなく、「役務の提供」(つまりノウハウの輸出)も規制されています。

それらを一つ一つ列挙して行っても良いのですが、ちょっときりがないので、ここでは「かなり広範囲に及んでいる」ということだけを指摘しておきたいと思います。

つまり、徴用工問題とはまったく別次元で、実は、日本はすでに韓国に対する「外為法制裁」を発動する準備ができているといえるのかもしれません。

外為法制裁に注目する理由

さて、私自身、『徴用工判決「毅然たる措置」ビザ厳格化と外為法金融制裁は?』で申し上げたとおり、現実的には韓国人に対する観光ビザ免除プログラムに制限を掛ける、韓国への資金持ち出しに外為法に基づく規制を掛ける、といった「制裁措置」の検討も必要だと考えています。

ただ、私自身も一部、認識が欠落していたのですが、外為法は別に「金融」だけの規制ではありません。外国に軍事転用されかねないリスクがある物資やノウハウを提供することを規制するための法律でもあります。だからこそ、財務省だけでなく経産省も外為法を管轄しているのでしょう。

この1週間少々、私は「徴用工判決」を根拠として、日本政府が韓国を経済制裁する可能性に注目していたのですが、冷静になって考えてみれば、現在の韓国は北朝鮮の手先のようなものであり、「徴用工判決」はむしろ、日韓関係を破壊する材料のうち、付随的なものに過ぎないとも思うようになりました。

いや、もちろん、徴用工判決のような国際法の基盤をひっくり返す行為を韓国がしでかしたことは許されません。

しかし、もっと許されないのは、韓国が「日米両国の友好国である」などとうそぶきながら、北朝鮮の利益を実現させようと動いたことです。事実、現在の文在寅(ぶん・ざいいん)大統領は、明らかに北朝鮮の代理人として動いています。

私は、早ければ文在寅氏が大統領でいる間に、米韓同盟が消滅し、日韓関係も断絶に近い状況においやられ、南北赤化統一への道筋が見えてくるのではないかと懸念しています。

文在寅氏は「南北統一への立役者」として崇め奉られ、落ち着いたところで盧武鉉(ろ・ぶげん)元大統領のように不審死を遂げるのだと思いますが、それは文在寅氏の自業自得であり、私を含めた日本国民が関知するところではありません。

しかし、もし本気で韓国が南北統一を目指しているのならば、日本政府は四の五の言ってないで、さっさと外為法に基づいて韓国へのさまざまな物資の供給を禁止すべきなのかもしれません。

こうした「北のエージェントとしての韓国」という側面については、当ウェブサイトとしても、今後は深い関心を払っていきたいと考えているのです。

北朝鮮がウランを隠匿か?

北朝鮮と高濃縮ウラン

さて、どうして過去の記事をいきなり再掲載したのかといえば、フッ化水素がウランの濃縮工程に使われる物資である、という点を確認しておきたかったからです。こうしたなか、昨日は韓国メディア『中央日報』(日本語版)に、こんな記事が掲載されていました。

遊園地にHEU隠した南アフリカ…北朝鮮元魯里の地下が怪しい

北朝鮮の新しい核弾頭開発場所として議論される平壌(ピョンヤン)・元魯里(ウォンロリ)の施設が実際に核関連施設であれば、ここで高濃縮ウラン(HEU)が密かに生産されかねないという観測が提起されている。<<…続きを読む>>
―――2020.07.12 13:22付 中央日報日本語版より

中央日報によると、北朝鮮の首都・平壌(へいじょう)の近郊の元魯里(げんろり)の地下で、高濃縮ウラン(HEU)が密造されている可能性がある、というのです。

では、なぜ高濃縮ウランなのでしょうか。

中央日報によれば、同じ核物質であっても、プルトニウムは大規模再処理施設が必要であるのに対し、ウランの場合は比較的少ないスペースで設置できるため、隠しやすいという事情があるそうです。これに加えて中央日報にはこんな記述もあります。

北朝鮮が知られているより多くのHEUを保有し生産できるという疑惑はこれまでも出ていた。北朝鮮は2010年11月に米国の核専門家であるジークフリート・ハッカー博士に寧辺で2000個ほどの遠心分離機が作動しているウラン濃縮施設を公開した。この施設は韓米情報当局が遅れて把握したところだ。

また、ほかにも外国メディアや米韓情報当局などの情報源として、さまざまな地下ウラン濃縮施設がある、といった情報も掲載されているのですが、なかなか興味深いところです。

実際、中央日報によれば、1993年に南アフリカでは遊園地の簡易建物の小さな地下空間(!)に遠心分離機が設置されていた、という事例もあるらしく(※これがタイトルの「遊園地にHEU隠した南アフリカ」という意味です)、それだけ発見が困難だ、ということでもあるのでしょう。

HEUあるところにフッ化水素あり

ただ、中央日報もせっかく「北朝鮮とHEU」の関係に言及しているのに、「その先」がないのは少し残念です。日本原燃『ウラン採掘から発電までの流れ』によると、遠心分離器にかける前に、ウランは沸点が低い「六フッ化ウラン」に化学処理されるのですが、その際、フッ化水素が使われます。

ということは、ウラン鉱石だけでウラン濃縮ができるわけではなく、必然的に、フッ化水素をどこかの国から調達して来なければならない、ということです。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

こうしたなか、『日本産フッ化水素、韓国が全世界にばら撒いていた?』でも紹介したグラフを再掲しておきたいと思います。

まず、日本が外国に輸出している「HS番号2811.11-000」(フッ化水素、フッ化水素酸)のうち、2019年6月までは、金額、数量ともに韓国向けが全体の8~9割を占めていた、という事実を踏まえておきましょう(図表1)。

図表1 日本からの「2811.11-000」の輸出高全体に占める韓国のシェア(数量、金額)

(【出所】財務省『普通貿易統計』より著者作成)

次にチェックすべきは、日本が韓国に対する輸出管理適正化措置を発動し、フッ化水素が個別許可の対象に指定された2019年7月以降、日本から全世界に対する「HS番号2811.11-000」の輸出が数量、金額ともに激減している、という事実です(図表2図表3)。

図表2 2811.11-000の日本から全世界への輸出高(金額)

(【出所】財務省『普通貿易統計』より著者作成)

図表3 2811.11-000の日本から全世界への輸出高(数量)

(【出所】財務省『普通貿易統計』より著者作成)

しかも、図表2、図表3を見ていただければわかりますが、2017年後半から2019年4月ごろまで、「2811.11-000」の外国への輸出が金額、数量ともに膨らんでいて、輸出管理適正化措置発動後にそれが急激にしぼんだ、というのも気になるところです。

韓国が世界を代表する「半導体王国」であることはたしかですが、もし韓国向けの輸出のすべてが半導体産業に使われていたならば、日本から台湾や中国などに対して輸出されたフッ化水素が、数量、金額ともに少なすぎるのです。

これらのすべてが北朝鮮に流れていた、などと根拠なしに述べるつもりはありませんが、それと同時に、輸出管理適正化措置発動前に日本が韓国に輸出していたフッ化水素は、本当に韓国の半導体産業に使用されていたのか、はなはだ疑問だ、と思います。

ちなみにウラン濃縮に悪用されるフッ化水素が日本産である必要はないのですが、あえて何らかの理由で日本産のフッ化水素が北朝鮮に流れてウラン濃縮に悪用されるとしたら、その理由は、北朝鮮に横流しした人物ないし国が、

日本から直接、北朝鮮に密輸出された。わが国は関係ない

と言い張るためではないか、という可能性を申し上げたうえで、本稿を締めたいと思います。

(なお、韓国を巡る不正輸出に関する話題は、昨日の『「韓国企業による書類偽造・不正輸出」は氷山の一角?』でも紹介しておりますので、あわせてご確認ください。)

新宿会計士:

View Comments (10)

  • 韓国のSKマテリアルズは、半導体の生産工程で使うフッ化水素ガスの量産を始めたと発表した。(日経 2020.06.17)

    北朝鮮の首都平壌近郊にあるこれまで公表されていなかった施設が、核弾頭の製造に使われている疑いがあることが分かった。(CNN 2020.07.09)

    最近のこれらの動きは連携してるのかも知れません。北は核のニュースがなくてもっぱらミサイルばかり報じられていました。南は自国製の5Nのフッ化水素は足がつきやすいので北への密輸出を嫌っていたが、北がしびれをきらしたのでは。

  • >イエローケーキを硫酸に溶かすなどの工程を経て二酸化ウランを製造し、『その二酸化ウランにフッ化水素(つまりフッ酸)ガスを吹き込んで反応させる』、という工程を経るのだそうです。

    素材・部品・設備の国産化「半分は成功」…サムスンが使うフォトレジスト、あと5年は日本に依存 2020/07/08 朝鮮日報
    http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2020/07/08/2020070880059_3.html

    >実際にフッ化水素でも 『気体フッ化水素の国産化にはかなりの時間を要する』 見通しだ。SKマテリアルズが最近、関連技術を確保したことを明らかにしたが、生産量を増やすには追加投資が必要である上、企業がそれを適用するためにはテストも行わなければならない。ある業界関係者は「SKマテリアルズが2023年までに国内シェア70%を目標としているが、現在のシェアは0%に近い」と話した。

    *「韓国には気体フッ化水素の製造技術が無い」かのような記載があります。
    *わざわざこれに言及するくらいなのですから、本当にそうなのでは?

  • 中央日報の記事
    「北朝鮮は(中略)米国の核専門家であるジークフリート・ハッカー博士に」
    しゃれか、おふざけか、それともセンスあるウィットか、判断に悩むところです。引用した英文情報がひねってあったのかも知れませんが。

  • 韓国の法律では、韓国の会社が北朝鮮に軍事物質を輸出しても、法律に問われないのでしょうか?
    なにか分からず輸出していた。と言い張るのしょうか?

    日本は半導体材料を、韓国の会社に輸出しました。

    そこから先は、韓国政府と韓国の会社の責任です。

    それを輸出した日本が悪いと言う、人間関係なら普通は関係を断つとおもいます。厳しい人なら、国連に訴えるとおもいます。

    • > 韓国の法律では、韓国の会社が北朝鮮に軍事物質を輸出しても、法律に問われないのでしょうか?

      問う法律は、一応あるそうです。
      韓国の国会に、百数十件摘発したリストが提出された事がありました。
      但し、細川昌彦氏の御発言によると、韓国の輸出管理は、モノが相手に届いてから摘発する。
      日本の輸出管理は、モノが日本の外へ出る前に差し押さえる。
      根本的に考え方が異なるらしいです。

      > 日本は半導体材料を、韓国の会社に輸出しました。
      > そこから先は、韓国政府と韓国の会社の責任です。
      > それを輸出した日本が悪いと言う、

      それは国際的に通用しません。生産国が最後までフォローしなければならないのがルールです。
      即ち、横流しした国よりも、横流しされる様な所へ輸出した生産国の方が問題にされます。

  • 更新ありがとうございます。

    いつもの韓国紙の常套句ですね。『北朝鮮の核弾頭開発場所として平壌・元魯里の施設が核関連施設であれば、高濃縮ウラン(HEU)が密かに生産されかねないという観測が提起されている』。

    提起されてんの?(笑)誰から?まわりくどくて、ハッキリしたエビデンスも出さない。でも何かある、みたいな書き方。北侵入の工作員からでも聞いたのか。

    ま、北ならやりかねないが、何も今、カードも金も無い状態なのに、妙に不安を煽るのは半島メディア両方の特徴だ。「コッチ見て!」。核心に近いソースが出たら、またコメントさせていただきます。

  • >盧武鉉(ろ・ぶげん)元大統領のように不審死を遂げるのだと

    木っ端みじんに粉砕され、全世界の目に見える通りの破片となって飛び散った大統領に、抗日闘争および反帝国闘争の継続能力なしと見限り裁断があったとき、彼はきっと粛清されるのではないでしょうか。代わりがいつ見つかるかで命の長さが決まります。

  • イエローケーキを見て2000年に流行し世界で2400万部売れた名著スペンサージョンソンの「チーズはどこへ消えた?」を思い出しました。

    今回の場合はさしずめ「フッ化水素はどこへ消えた?」といったところでしょうか。
    あらすじとしましては
    2匹のネズミと、2人の小人の話です。彼らはある日、大量のフッ化水素がある場所を発見します。
    そこで暮らし始めるうち、フッ化水素がある毎日が当然だと思い始めます。
    ところがある日、フッ化水素が消えてしまいます。小人のキムとパクはフッ化水素がなくなった現実を受け入れようとせず、わめき散らします。
    「こんなことがあっていいわけがない!」「われわれは〇〇人だぞ、特別なんだ。こんなことあっていい訳がない。少なくとも何か得することがなくちゃならない。」「どうして変わらなきゃならないんだ?」我々には権利がある。この事態はわれわれのせいじゃないんだ。誰かほかのもののせいなんだから、われわれはこうなったことで何かもらうべきだ。」

    彼らはフッ化水素がなくなった。その状況をなかなか受け入れられずに右往左往します。
    キムは言った。「腰を下ろして、事態を見守っていたほうがいいんじゃないかな。いずれフッ化水素は戻ってくるはずだ。」

    パクも「これは何かの間違いだ」「明日になればフッ化水素は戻ってくる」「フッ化水素はを誰かが持っていったのだ」「フッ化水素が消えた原因を調べなければならない」と叫び、明日にはフッ化水素が戻ってくると思って、その場を離れようとしませんでした。ついには彼らはフッ化水素が戻って来る日を夢見ながら餓死してしまいまいした。オワリ。

  • 核兵器10数発分に相当する100kgのU235を入手しようとする場合、理論値ではフッ化水素は約8t必要になります。ただUF6を合成する反応を見てみると、途中で水が生成しています。この水があると、UF6が酸化されてしまい、おそらくガスにならないと思います。
    例えば以下参照https://inis.iaea.org/collection/NCLCollectionStore/_Public/27/056/27056515.pdf
    フッ化水素から水を除去する施設もしくは技術が無いのなら、必要量の少なくとも数倍のフッ化水素を購入して、水が混入してしまったら廃棄するという処理が必要になると思います。もし可能ならば輸出したのがフッ化水素酸かフッ化水素かを調べる方法はないでしょうか。

  • 新宿会計士様
    >核燃料にウランが使われていることは有名ですが、天然のウラン鉱石がそのまま核燃料になるわけではありません。なぜなら、天然ウランの成分は核分裂を起こさないウラン238が99.3%を占めており、核分裂を起こすウラン235は0.7%に過ぎないからです。

    この部分の記述は科学的に不正確ですので、当エントリーの主題からは外れますが説明させて頂きます。

    まずウラン238も核分裂は起こします。

    但し、軽水(通常の水)を減速材とする普通の原子炉で生ずる熱中性子だと核分裂せずに中性子を吸収(して更にβ崩壊)して最終的にプルトニウムになってしまうので、核燃料として使えないだけです。

    実際、重水(その中の水の分子を構成する2個の水素の原子核が通常の陽子1個だけの軽水素ではなく陽子と中性子とが1個ずつから成る重水素であるような水)を減速材として用いるCANDU炉などでは天然ウランのまま核燃料として使用できます。

    またいわゆる水素爆弾もプルトニウム原爆を用いて水素(正確には重水素と三重水素)の核融合に点火するのですが、それらの装置全体(つまりプルトニウム原爆と核融合用の水素ソース等)をウラン238によって覆うことで、水素の核融合反応で発生する高速中性子を用いてケーシング材であるウラン238を核分裂させ、核爆発エネルギーを増大させています。

    ということでウラン238もちゃんと核分裂はするのですが、核分裂を引き起こすのに必要な中性子の速度(つまり運動エネルギー)がウラン235の場合とは異なっており、減速材として最も容易に入手できる通常の軽水を用いる原子炉における中性子の速度ではウラン235しか燃やせない(核分裂させられない)ということに過ぎません。

    また核兵器のための核分裂物質として見ると、水爆(つまり核融合爆弾)でのように高速中性子源が他にある場合にはウラン238を連鎖核分裂させて核爆発に用いることができますが、広島型原爆でのウラン235や現在の原爆のスタンダードであるプルトニウム240等のように最初の核爆発を行わせる核物質としてはウラン238を使うことはできません。