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金正恩の斬首作戦は「韓国が困るからやめてほしい」

昨日の『米軍の「斬首作戦」に金正恩が怯えて「活動萎縮」も?』でお伝えしたとおり、米軍がイランの軍司令官を殺害した件が北朝鮮にもかなりの衝撃を与えているようです。ただ、それと同時に「米軍は金正恩の斬首作戦を実施してはならない」と主張するメディアが登場しました。意外なことですが、それは韓国メディア『中央日報』です。しかも、当ウェブサイトの文責でその主張を要約すれば、「斬首作戦で北朝鮮が混乱すれば韓国が困るからやめてくれ」という、きわめて身勝手かつ無責任なものです。

震えて隠れる金正恩

米軍のドローンが3日、イランの司令官を殺害したことを受けて、北朝鮮の独裁者である金正恩(きん・しょうおん)が怯えているらしい、という話題については、昨日の『米軍の「斬首作戦」に金正恩が怯えて「活動萎縮」も?』で紹介したとおりです。

あらためて振り返っておきますと、この事件は、さまざまな意味で衝撃的なものです。

もちろん、米国がイランで最も尊敬されている司令官の1人であるカセム・ソレイマニ氏を殺害したこと自体が「悪手だ」という指摘もありますし、なかには「文明の衝突」論を持ち出し、「米国対イラン」ではなく、「キリスト教対イスラム教」の戦いだ、などと主張する人もいるようです。

物事にはさまざまな見方がありますから、米・イラン関係を、こうした「文明の衝突」論の枠組みで捉えるのも結構ですが、ただ、個人的に注目したいのは、何といっても米軍の能力の高さです。

イラン司令官殺害:トランプは対イラン開戦を望むのか』でも報告したとおり、ニューヨークタイムズあたりは今回のソレイマニ氏殺害について、「第二次大戦中の山本五十六大将を討ち取って以来の快挙だ」などと述べています。

As Tensions With Iran Escalated, Trump Opted for Most Extreme Measure(2020/01/04付 ニューヨークタイムズより)

いわば、外国で外国要人を無人飛行機がターゲットにして殺害するという、さまざまな面で困難なミッションを成し遂げたという意味ですので、金正恩が怯えないわけなどありません。

2018年6月と2019年3月に、それぞれシンガポールとベトナムでドナルド・J・トランプ米大統領と直接面会した金正恩は、おそらく、米軍によって身体的特徴を把握されているでしょうし、米軍の能力をもってすれば、金正恩の所在地すら把握されている可能性もあります。

状況の整理

2017年12月18日との最大の違い

さて、改めて振り返っておきたいのが、『12月18日が晴天ならば北朝鮮奇襲か?』で議論した「北朝鮮攻撃」です。

「12月18日」とは、昨年の12月18日、ではありません。「2017年12月18日」のことです。

この日は新月で月明かりが乏しく、また、真冬という事情もあり、米軍がレーダーで熱源を探知することで敵基地を把握するというオペレーションが容易であるという事情もあり、「もし米軍による北朝鮮爆撃が行われるならば、一番可能性が高いのは2017年12月18日ではないか」、と議論しました。

もちろん、結果的に米軍による北朝鮮爆撃はなされなかったのですが、その直後、12月22日には北朝鮮制裁を盛り込んだ国連安保理決議第2397号が議決されました。ロシアと中国が賛成に回った背景には、米軍が軍事攻撃を辞さない覚悟を示していたことがあることは否定できないでしょう。

ただし、2017年12月当時だと、山がちな北朝鮮の国土において、金正恩が逃げ隠れできる地下空間なども多く、また、金正恩自身があまり公の場に姿を見せておらず、影武者も多いと見られていたため、金正恩の「斬首作戦」を決行することは非常に難しいのではないか、といった指摘が一般的でした。

しかし、現時点においては、おそらく金正恩の顔は正確に把握されているはずですし、また、この2年あまりの間、米軍の北朝鮮の国土解析もかなり進んでいるはずです。

このため、2017年12月18日当時と現在を比較したときに、最大の違いとは、米軍が金正恩本人の所在地を特定しようと思えばできてしまう状況にある、という点ではないでしょうか。

斬首作戦を本当に実行する、というわけではなく…

誤解していただきたくないのですが、上記の議論は、「米国が今すぐ金正恩の『斬首作戦』を遂行するに違いない」と決めつけるものではありません。重要なポイントは、

やろうと思えばできるかどうか

という点にあるのです。あるいは、

米軍が金正恩排除に踏み切る可能性があると、北朝鮮が思っているかどうか

と言い換えても良いかもしれません。

もちろん、北朝鮮、イランはともに、背後に中国やロシアとの関係を意識しなければなりませんし、米国が北朝鮮とイランの双方を相手に、今すぐ「二正面作戦」を展開すると考えるのは、若干議論が乱暴です。

ただ、イランは北朝鮮情勢を、北朝鮮はイラン情勢を、それぞれ高い関心を持ちながら慎重に注視していることは間違いありません。

このため、仮に米国が対イラン開戦に踏み切った場合は、それだけで北朝鮮を強く牽制する効果が得られますし、同じく米国が北朝鮮に対する攻撃に踏み切った場合も、イランに対しては強いメッセージを与えることになるでしょう。

韓国という無責任国家

中央日報「韓国が困るからやめてくれ」

こうしたなか、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に今朝、こんな記事が掲載されていました。

【時視各角】「金正恩斬首作戦」が危険な理由(2020.01.07 07:54付 中央日報日本語版より)

2000文字弱の記事で、末尾には「ナム・ジョンホ/論説委員」とあります(※漢字がわからないので原文どおりナム・ジョンホ氏と表記しておきます)。

ナム・ジョンホ氏の主張を、あえて当ウェブサイトなりに1行で要約すると、次のとおりです。

米軍が斬首作戦を敢行し、朝鮮半島情勢が混乱に陥れば、韓国が困る。

いったい何がどう困るというのでしょうか。

ナム・ジョンホ氏のロジックは、こうです。

  • ①今回のイラン将軍の処断には成功したが、失敗する可能性も小さくない戦略でもある。
  • ②金正恩が排除されても北朝鮮軍が無力化される保証はなく、むしろ金正恩の死後、15万人の米国人が滞在している韓国を攻撃する可能性がある。
  • ③70年間金氏一家の主体思想に飼い慣らされた北朝鮮住民が韓国側の体制を素直に受け入れるわけがない。

…。

端的にいえば、どれも詭弁としか言いようがありません。

このうち①については、金正恩の斬首作戦に関わらず、いかなる軍事作戦であっても、失敗する可能性は常につきまといます。

というよりも、ありとあらゆる軍事作戦は成功する確率と成功したときの効果から測定される期待値を参考にして決断されるものであり、「失敗するかもしれない」というだけの理由でその作戦を取りやめるべきだ、というのはむちゃくちゃな議論です。

一方の②と③については、論説委員だけあって文章力はそれなりにありますが、それでも「韓国が困るからやめてくれ」というホンネが思わず滲み出てしまっています。

無責任極まりない、韓国の主張

というよりも、ナム・ジョンホ氏に限らず、韓国のメディア、政治家らは、本当に自分たちのことしか考えていない人たちだと思います。なぜなら、北朝鮮という凶悪な国家は、本来であれば「自由・民主主義陣営」に所属している韓国が、同族国家として責任を持って処断しなければならない相手だからです。

韓国は自由・民主主義国家としての恩恵を最大限受けているわけですから、38度線を挟んで隣接する専制国家(しかも同じ朝鮮語を使う国家)が全世界に迷惑をかけまくっているのなら、自分たちの責任で北に軍事侵攻し、事態を収拾すべきです。

ちなみに大韓民国憲法第3条には「大韓民国の領土は韓半島(※朝鮮半島のこと)と付属島嶼とする」と明記されていますので、韓国政府にとって北朝鮮政府は自国領を違法に不法占拠する反逆者の集団であるはずであり、金正恩はその反逆者集団のトップです。

したがって、本来、ナム・ジョンホ氏のような韓国を代表する大手メディアの論説委員というお立場にある方であれば、

  • 韓国国民であって、韓国政府に反逆する金正恩一味を韓国の法律により逮捕し、韓国法により刑事訴追しなければならない
  • 北朝鮮人民も38度線以北に居住する韓国国民に過ぎない。韓国国民が反逆者一味の圧政により虐げられている以上、それを救済するのは我々韓国の責任だ

などと主張すべきところではないでしょうか。

非生産的な反日で溜飲を下げている暇があったら、もっと「38度線以北の韓国国民」を救い出すために何をすべきかを考えるべきでしょう。

つくづく、本当に無責任な民族です。

斬首作戦の意味

さて、金正恩に対する斬首作戦が決行されるかどうかについては、現時点で予断をもって決めつけるべきではありません。

あくまでも個人的な見解ですが、ここで重要なのは、「やろうと思えばいつでもできるようになった」という状態であり、本当にそれをやるかどうかは別問題です。

というよりもむしろ、日本時間の昨日夜、ドナルド・J・トランプ米大統領が「イランの核武装は許さない」とつぶやいたとおり、現状のトランプ政権は、「核開発をする国はこうなる」という末路を示そうとしているようにも思えます。

トランプ政権のこうした姿勢が「適切である」かどうかはともかくとして、イラン情勢は、じつは北朝鮮情勢とセットであると見るのが正解であると考えて間違いなさそうです。

新宿会計士:

View Comments (13)

  • >いわば、外国で外国要人を無人飛行機がターゲットにして殺害するという、さまざまな面で困難なミッションを成し遂げた

    これは誤認ですよ。
    こんなのはもはや今の米軍では「いともたやすく行われるえげつない行為」でしかありません。
    そもそもMQ-9リーパー(死に神の鎌)という名前からして、暗殺用の装備と言ってしまっても構いません。

    オバカ^Hマが公表しただけで、これだけあります。
    https://www.cnn.co.jp/usa/35085252.html
    米、無人機攻撃での民間人犠牲者数を公表

    もちろん実際にはこんなものではないはずですし、戦闘員とされたうち本当に戦闘員だったのかも検証不可能です。

    ドロ-ンを題材にした

    ドローン・オブ・ウォー
    アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場

    は面白いですよ。あともう一件何かあったけど忘れてしまいました。

    • りょうちん 様
      重要なのは、無人攻撃機による攻撃という点ではなく、
      ターゲットのソレイマニが、ただの民兵のかしらではなくて
      非交戦国の公的な立場を持った要人であるという点だと思います。
      交戦状態ではない相手国の要人の生殺与奪を握っていることを誇示するのは、金一族に対して極めて強いメッセージになるかと思います。

      • でも「成功した点」が画期的だというのはわかりますが、かつてカダフィ暗殺のために宣戦布告したわけでもないリビアを空爆したりしていますよ。
        もっともカダフィは偏執的に用心深く、結局正攻法での暗殺は成功しませんでした。

        落合信彦を信じるならw、MI6が元SASのイリーガルを雇って確実に暗殺したのにしれっと影武者だったりしたそうですが。

        私はソレイマニ氏は、相当アメリカをなめていたマヌケだと思っています。
        なんでうかうかとイラクになんか出て行ったのかと。

  • まあ、現代は、こうやって宣戦布告なしに戦争が行われる時代だっていう事でしょ。テロという手段によるゲリラ戦術が世界中で一般化し、これに対し、米国が対テロ戦争を宣言して以来、米国からテロリスト認定されれば、いつでもこういう攻撃が実行され得るということ。まさに、常在戦場、戦争状態と平時との区別がつきにくくなっています。つまり戦争の概念自体が変わってきているという事です。処が我が国では、憲法が放棄するとした戦争の定義が見直された形跡は有りませんし、それ以前に、未だ武力を保有するかしないかですら意見が一致しません。なお日暮れて途遠しの気分です。

  • 確かクリントン大統領時代にも、同じようなことが有りました。
    韓国が、北爆を止めてくれと言って、邪魔しました。
    自分たちに被害が出ることは、受け入れられない国です。
    米韓関係の重要度も下がりましたので、今回は韓国に相談しないでしょう。

  • アメリカにとって北の脅威は
    金正恩ではなく、核でありICBM
    彼を消すことに意味はあまりない
    と考えます
    軍上層部の独走やクーデターの
    ほうがよほど怖い
    金正恩も自分の価値をわかって
    いるように思います
    彼が怖いのは周りの高級官僚や
    軍上層部の裏切りではないか

    実行部隊のトップ暗殺と
    御輿のトップ暗殺を一緒に
    考えてはいけません

  • ごめんなさいねぇ。北朝鮮についても、韓国についても、多分、アメリカは斬首作戦なるものを実施しないと思います。理由?意味がないから。

    こちらに、何度か申し上げているのですが、韓国については、文在寅氏個人を斬首しても、予備軍がうじゃうじゃいるのでキリがない。

    北朝鮮については、金正恩氏は何人いるのか判らない。作戦実施の効果が期待できないからです。
    蛇足ながら、中国の習近平氏についても、何人かいらっしゃると聞いております(笑)。

    イランのソレイマニ氏については、工作員としての個人的能力が高かったようで、彼の殺害により彼の率いる革命軍は結構なダメージを受けたのではないでしょうか。お三人とは比較になりませんわ(笑)。

    >朝鮮半島情勢が混乱に陥れば、韓国が困る。

    それが何か(笑)?10年前のアメリカならともかく、現在のトランプ政権なら、韓国が困ろうが、死のうが、意に介さないと思いますよ。彼の関心は在韓アメリカ人であり、在韓米軍の安全だけです。彼らの安全が確保できれば気にも留めませんよ。

    >自分たちの責任で北に軍事侵攻し、事態を収拾すべきです。

    ムリでぇーす。なぜなら、韓国人の誰一人として、自国の建国に胸を張れないからです。そんな彼らが同族の犯罪を処断することなんてできると思います?

  • (無いとは考えますが) 米国の判断で実行する金正恩氏の斬首作戦は成功しても失敗しても、日本に何かしらの不利益が発生するので、中東情勢と同じで不安しかない。

  • 去年の秋ころまでは,アメリカの経済制裁が効いていて,金正恩氏はかなりあせっていたと思います。ところが中国が救いの手をさしのべてくれたので,アメリカとの講和を急ぐ必要がなくなったように見えます。ただ,中国から「核実験はするな」をクギを刺されていて,ミサイル実験にも制約を課されたと想像できます。対米というより,中国から見放されないように,北朝鮮は今後,ミサイル実験をレッド・ラインを超さない範囲内で行うと思います。長期戦になりそうな気がします。
    トランプ氏より習近平氏のほうが外交能力が高いのでしょうか。
    ミサイル担当高官と前ロシア大使を要職に昇格させたということは,対露外交も順調だということでしょう。金与正氏の昇格も想定内。もう少し,人事の結果が伝わってくると,もう少し精密な分析がきると思います。
    金正恩の斬首作戦の宣伝は,北朝鮮中枢部の分裂を狙って仕掛けたアメリカの揺さぶりで,実行は不可能でしょう。
    トランプ氏のイラン司令官殺害は,明らかに選挙対策であり,しかも,賢明な選択ではなかったと思います。トランプ氏の支持基盤のアメリカ大衆の中には,北朝鮮という国の存在自体を知らない人も多く,北朝鮮のほうを軍事攻撃しても,選挙のポイントにならないと思ったのでしょう。イランだと,アメリカの底辺白人の反イスラム心に訴えることができますから。

  • 更新ありがとうございます。

    イランの尊敬を集めているソレイマニ氏を爆殺するなんて、人によっては「悪手だ」或いは「出来て当然、簡単だ」という意見もありますが、私は『さすが米国、良くやったな』と思います。

    出来る技術があるのと、やってしまう実行力とはかなり違います。世界のイスラム教徒から(一部だが)非難を受けても、イザとなれば排除する。これが大国の凄さ。私は一瞬、山本五十六司令長官より、日本陸軍、満州の関東軍による張作霖爆殺をイメージしましたよ(見たことありませんよ。念の為)。

    北朝鮮の金正恩は震えたでしょう。幾ら頑丈なビル、地下室に居ても、一瞬で殺られる。影武者も既に割れているかも。

    しかし韓国の反応は、イランの件は、あまり米国を喝采しない。何か苦虫を噛み潰したような表情です。『あまり派手にやってくれるな。北に刺激を与えるな』という調子です。

    本来なら友邦の米国に祝辞のメッセージを与えてもおかしくない。ま、韓国には今更日本、米国とも何の同盟もないが(笑)。しかし、米国もイラン、中国、北朝鮮の3カ国方面作戦は無理です。

    でも、「いつでもやれる」というメッセージは強烈です。

  • 米国も中国もロシアも韓国の困ることを平然と行いますね。韓国のしてほしいことをしない日本なんてそれに比べれば大人しいものです。ここのところ皆さんがどうしてそんなに冷たいのか、韓国政府の要人は考えたことがありますか?

    韓国と話し合っても無駄。共感能力も想像力も皆無。自分の約束さえ覚えていられない。韓国を動かすには、ただ脅しあるのみ。

    そう皆さんが思っているのですよ。自国の性情が理解されてよかったですね!

  • テラー(恐怖)により政治目標を達成するという意味では
    原理主義的な意味でアメリカが北に仕掛けたテロ。

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