米国防総省、「朝鮮日報は米軍一部撤収報道の撤回を」

昨日、朝鮮日報に「韓国が在韓米軍の防衛費負担の5倍増に応じないならば、トランプ政権が韓国から一個旅団を撤収することを検討している」という記事が掲載されました。これについて、当ウェブサイトでは、昨日の時点では敢えて話題に取り上げなかったのですが、少し事情が変わりました。米国防総省の報道官が朝鮮日報を名指ししたうえで「記事の撤回」を要求したからです。考えてみれば、日米のような先進国において、政府機関がメディアに対し、報道に目くじらを立て「撤回せよ」と要求するのは異例な気がします。

一個師団撤収説

本日は予想どおり、韓国の主に保守的なメディアの間から、『秘密軍事情報の保護に関する日本国政府と大韓民国政府との間の協定』(俗に「日韓GSOMIA」)の終了に関する「悲鳴」にも近い記事が、相次いで掲載されています。

これらの記事については、気になったものをピックアップして、その内容を報告したいと思っているのですが、本稿ではその前に、こんな記事を取り上げておきたいと思います。

Pentagon denies U.S. is considering pulling troops from South Korea(2019/11/21 16:42付 ロイターより)

昨日付のロイターによると、米国防総省(ペンタゴン)のジョナサン・ホフマン報道官は声明文のなかで、「もし韓国が防衛費負担の増額に応じない場合、米国は在韓米軍の兵力を大幅に削減する」とした朝鮮日報の報道を否定したそうです。

ロイターの記事によれば、ホフマン氏は声明文のなかで、

米国防総省が現在、朝鮮半島から何らかの兵力を撤収すると伝えた朝鮮日報の報道のような事実はまったく存在しない(There is absolutely no truth to the Chosun Ilbo report that the U.S. Department of Defense is currently considering removing any troops from the Korean Peninsula)

と、朝鮮日報を名指ししたそうです。

ホフマン氏、記事撤回を要求

おそらく、ロイターが伝えた「朝鮮日報の記事」とは、次のリンクのものでしょう(※日本語版と韓国語版の記事を示しておきます)。

米国、在韓米軍の一部撤収を検討(2019/11/21 09:40付 朝鮮日報日本語版より)
[単独]美、在韓米軍1個旅団の撤退検討(2019/11/21 05:58付 朝鮮日報より【韓国語】)

朝鮮日報はこの記事で、「ワシントンのある外交筋」が19日、米韓防衛費分担金特別協定(SMA)に向けた交渉で、韓国がこれまでの5倍に相当する防衛費負担に応じない場合、トランプ政権は在韓米軍の一個旅団を撤収する方向で検討を行っている、と報じています。

事実だとしたらじつに衝撃的ですが、当ウェブサイトは、昨日の時点では敢えてこの記事を取り上げませんでした。なぜなら、この手の「交渉についてよく知る外交筋によると」、といった、情報源を秘匿した記事は、取り上げ方を間違えると単なる「煽り」になってしまうからです。

しかし、米国防総省が「わざわざ報道を否定した」となれば、話はまた別です。なにか「探られて痛い腹」でもあった、という証拠が濃厚になるからです。しかも、今回の記事が異例なのは、それだけではありません。先ほどのロイターの記事には続きがあって、ホフマン報道官は朝鮮日報を

このようなニューズ記事は単一でかつ匿名の情報源に依存することの危険さと無責任さの象徴だ(News stories such as this expose the dangerous and irresponsible flaws of single anonymous source reporting)

などと強く批判したうえで、

我々は朝鮮日報に対し、ただちにこの記事を撤回することを要求する(We are demanding the Chosun Ilbo immediately retract their story)

と、記事の撤回を求めているのです。

米国にとってよっぽど都合が悪いのか?

考えてみれば、米国政府(あるいは自由主義国の政府機関)が報道機関を名指ししたうえで「単一ソースに基づく危険で無責任な記事」と断定し、「撤回しろ」という声明文を出すのは異例ではないでしょうか。

たとえば、ドナルド・J・トランプ米大統領が日々、ツイッターでCNNやニューヨークタイムズ、ワシントンポストなどのメディアを「フェイク・ニューズ・メディア」と呼んで批判していることは有名ですが、トランプ氏が「撤回しろ」と要求したという話をあまり聞いたことがありません(まったくないわけではないと思いますが…)。

また、日本国内では多くのメディアが(ときとして虚偽の)報道を自由に垂れ流していますが、安倍晋三総理大臣以下、政府関係者がメディアに対して「記事を撤回しろ」と要求した、という話はほとんど聞きません(朝日新聞による長年の慰安婦捏造報道ですら、日本政府は撤回要求をしなかったほどです)。

もちろん、今回は米国政府にとっては「外国メディアの報道である」という点で、「撤回を要求」しやすいという事情もあるかもしれません。

しかし、それにしても特定の報道に目くじらを立てるというのは、何か特殊な事情がある(たとえば米国防総省にとってよっぽど都合が悪い、など)のではないかと疑ってしまいます。

しかも、問題の朝鮮日報の記事が韓国語版に掲載されたのは21日午前6時前のことですが、ロイターの記事は同日の午後4時42分に配信されていることから、ペンタゴンのホフマン報道官が記事を読んで同日中に反応した格好です。

「ウェブ評論家」という立場からすれば、「朝鮮日報の記事が事実であったかどうか」よりも、「米国政府がなぜそこまで、たかが一報道機関の記事に目くじらを立てたのか」という方が、むしろ気になるところなのですが、いかがでしょうか?

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 匿名 より:

    私見ですが、わざと情報を漏らし、後から否定するという手法にも見えます。
    米国による揺さぶりか、観測気球みたいなモノじゃないでしょうか。
    まぁ米国がパーフェクトストームを公言している以上、似たようなことは起きるでしょうが。

    1. 雪国の会計士 より:

      少なくとも県外でざわついた沖縄の件を思い出します。
      少なくとも一個旅団が居なくなり、駐留経費負担が安くなれば、むしろそっちのほうがいいと思っちゃいますね。

      しかも、GSOMIAの期限は今日一杯。

      破棄撤回しにくい雰囲気作り大切ですね。
      今夜は提灯行列出そう。

  2. とおり より:

    ご指摘のとおり、ペンタゴンの反応が鋭敏すぎることが気になります。
    現状を維持しながら撤退を行うのは大変難しいので、平穏な地域の軍を引くのはどこの軍隊組織でもしたくないでしょう。それでも撤退を本格的に検討せざるを得ないのに、タイミングよく動向をバラされたら困るということなのかもしれませんね。
    別の見方として「俺たちは撤退したくなかったんだ」との意思表示を残すこと自体が目的なのかもしれません。

  3. 憶測 より:

    在韓米軍基地を、対中国橋頭堡地として今以上活用する腹積もり。
    表向き国連軍ですし、韓国を守るふりはしないといけない。
    北の核兵器廃絶はカードであり、中国対策を国務省は優先。

    米軍基地は現在でも、建物の造設をしている。
    流石に、中距離ロケットは設置の名目が苦しいが。

  4. G より:

    報道機関の飛ばし記事など特に韓国がらみなら横行してますから、たしかにこれにだけ特異に反応した意味はぜひ深読みしたいところです。

    実際問題ありふれた飛ばしであると無視すれば普通に流れていくだけの話、実際どうなるかは判断出来ない状況です。

    私見ですがわざわざ否定して撤回を求めたことで逆に報道が目立つようになったことから、目立たせることを意図した動きなのかなと思いました。つまりは「機関決定はまだだけど」米軍削減に動く可能性ありと。

    あと、指摘したいのは、例えアメリカが駐留部隊を減らしても50億ドルの要求は変えないでしょうね。アメリカですから。

  5. 匿名 より:

    なんでしょうね
    北朝鮮との今後の交渉で足下を見られるからかしら

  6. マスコミ関係の匿名 より:

    この問題について米国国務省もとてもsensitiveになっているようですね。
    各国大使館ではマスコミやネットで情報を集めて翻訳し本国に送る専門官がいるところがあるそうです。
    某国関係者によると新宿会計士さんのこのサイトもとても人気があるそうで、2名の優秀なコメンテーターも注目しているとか。「ところでおまえのHNは何だ?」と聞かれたので「それは重大な国家機密だ」と答えておきましたWWW

    1. 沖縄の三十路 より:

      国家機密ばれてますやん

  7. りょうちん より:

    まあ、撤回しろというのは相手の誠実性を前提にした信頼の証であって、普通は

    「あいつは完全な嘘つきだ」

    と言明するだけで充分ですよね。トランプ大統領のように。

    国防省という立場から、同盟国の報道機関を悪し様に罵るわけにもいかず、苦肉のコメントといったところでしょうか。
    ガースーなら「韓国に聞いてください」で済ませるでしょうw

  8. 福岡在住者 より:

    北朝鮮との交渉カードである在韓米軍縮小(撤退)情報を漏らした 「交渉についてよく知るワシントンのある外交筋」や ストーカーの様にうるさく付きまとう韓国報道陣への米国務省からの強い警告では?

  9. だんな より:

    GSOMIA破棄が、確定するまでは、秘密ニダ。
    かな。
    私は、信じた派ですので、何とも言えません。

  10. anion より:

    退役軍人などは撤退反対を発言してた筈です。
    ペンタゴンもポストが減る、予算が減る、規制事実化で交渉カードの消滅等不利益があるのでは?

  11. 埼玉の暇人 より:

    米韓の会議、打ち合わせからの情報がどんなルートで漏れているのかを再確認したかったのでしょうね。つまり、50億ドルを韓国が出せない場合は米軍兵力削除は既存の路線なのです。今後各国駐留軍運営は赤字にはしない方向になるわけです。

  12. カズ より:

    在韓米軍の段階的な縮小・撤退が既定路線であるかのように認識されてしまうと、北朝鮮との非核化交渉における交換カードとしてのアドバンテージが無効化されてしまうからではないでしょうか?

    言及したくはないのだけれど、否定せざるを得なかったのかもですね。

    >「このようなニューズ記事は単一でかつ匿名の情報源に依存することの危険さと無責任さの象徴だ」

    これが正論だと思います。
    情報ロンダリングされないうちの随時対応も良かったですね。

  13. 匿名 より:

    こちらの読者の方々はご覧になっていると思いますが、楽韓さんのコメント、秀逸でした。

    「血盟」を巡って韓国では「あれほどの犠牲を払ってアメリカは韓国を守ったのだから、なにをしても大丈夫」という判断になり、アメリカでは「あれほどの血を捧げて守ったのに韓国はなにをしてくれてんだ」という判断になる。

    http://rakukan.net/article/471650142.html

    1. 福岡在住者 より:

      この「血盟」については、韓国軍人OBが「米韓同盟は血盟だ!」などと強気発言をしていたので 私もつい騙されてしまったのですが 事実はどうも違うようです。 下記はZAKZAKですが もっとマジメ(笑)なメディアでも見た事があります。
      https://www.zakzak.co.jp/soc/news/180327/soc1803270006-n1.html

      米軍が与えた最新兵器を放り出し 敵前逃亡を繰り返したそうです。 もし、この韓国人の行動が無かったら国連軍の犠牲者の数はもっと少くなるはずだったようです。
      この辺の「戦闘の総括レポート」は今でも米軍の資料の中にあるらしいです。

  14. 匿名希望 より:

    想像ですが。

    アメリカとしては今後20年に及ぶであろう中国と戦争(現在は冷戦)の
    その戦略の中で、政権が変わるごとに別の国になったかのように約束を破
    る韓国は足を引っ張るだけの「無能な味方」です。

    それよりは北朝鮮・金王朝による独裁政権のほうが比較的ぶれにくいとい
    う点で「半島の交渉相手」としたいところです。

    日韓GSOMIA破棄で「中国と北朝鮮がよろこぶ」とアメリカの高官は
    言ったそうですがその中国と北朝鮮は決して仲がいいわけではありません。
    北朝鮮は中国の支配をものすごく嫌っていますし、中国・北京としては、
    北朝鮮はかつての瀋陽軍区と癒着しており北京からの支配力が及ばずやっ
    かいなところがあります。

    ここで、無力な日本と無能な韓国は置いておいて、アメリカ・中国・北朝
    鮮でパワーバランスの妥協点は取り合えず半島を北朝鮮にまかせることで
    はないでしょうか?

    先ほど日本を無能と述べましたが現状で戦時においてはアメリカに従属し
    て行動する点で主権が十分確立しているわけではない、という意味です。
    韓国については戦後、国家と呼ぶにはまるで値しない、という意味合いが
    あります。

    当面のパワーバランスの妥協点として、半島を北朝鮮主導にまかせること
    となると、当然南朝鮮も北と同様に中途半端にテキトーに経済制裁を科す
    ことになります。韓国への経済焦土化は手順を踏んでされることでしょう。
    (韓国は消滅ですね。)

    北朝鮮による半島統一により、金王朝としては米中間で中立的に振舞おう
    とするのではないでしょうか。もちろんそれは短期的な話ですが。もちろ
    ん中国はそれを絶対に許さないでしょう。旧南挑戦(韓国)の勢力を手先
    に金王朝に揺さぶりをかけるかもしれません。そして北朝鮮はアメリカの
    力を借りながら中国と対等に交渉しようとするのでは。

    東アジアの冷戦構造がある程度決まればしばしの平和が訪れます。しかし
    もちろん、それは余り長くはないでしょうが。
    以上、駄文失礼しました。

    1. 匿名希望 より:

      自己レスです。
      韓国はすでに中国から多大な内部侵略を受けていると思われます。
      ロウソクデモでも中国の工作員(中央統一戦線工作部)がかなり入って
      成功した事例だと耳にしました。

      半島が北朝鮮主導で統一するとしても金王朝を抑え込むためにも旧南朝
      鮮勢力(元韓国左派)を手足として使うと想像します。

      以上、駄文失礼しました。

  15. がぶりえる より:

    輸出管理適正化措置の時、ロイター・ブルームバーグが米国高官のリークで日本・韓国とも混乱が発生しました。その時はリーク元である米国商務省が即火消しに入ったけど結果としては韓国の主張に一部賛同者も現れた状況となってます。
    今回のケースは米国国務省のGSOMIA破棄後の複数シナリオの内の一つのアジェンダが漏れたのでしょう。此のアジェンダに飛びつくのは在韓米軍撤退を禁止した米国下院ですから国防総省としても躍起になって取消しに掛るのは当たり前。
    また米国国務省のアジェンダの流出なぞ未来の作戦計画の一部とは云え前代未聞ですから、今頃躍起になって職員・関連軍人を洗ってるのでしょう。
    想像の域ですが、一つ言えることは米国国防省も情けないといえば情けない限りです。

  16. 大袈裟 より:

    はじめまして!新宿会計士さんの記事とても注目してます。おっしゃるとおりこのアメリカの反応はヘンですね。裏があるのか?そのままうけとるのか?私の拙い意見かきます。まず、そのままうけとるとしたら、これは韓国マスコミにたいする警告です。ジーソミアの件でもそうですが、韓国は軍事に関する考えが甘いというより間違っている。これ以上振り回されたくないが本音だと思います。次に、裏があるとしたらアメリカは朝鮮半島を諦めていない。逆に軍事増強の可能性を訴える。もちろん、韓国に対して訴えるのではなく、中露に対してです。もうひとつ付随していえることは、韓国経由でいままでのように軍事機密がもう流れることはないとメッセージをだしている。なぜなら、マスコミはもちろん韓国のかなりな部分をアメリカが監視する可能性を示唆しているからです。もちろんこれは中国と北朝鮮へのメッセージです。在韓米軍縮小がトランプ大統領の方針ですがアメリカの軍事筋の本音はわかりません。むしろ米軍増強ではないですか?

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