かんぽ生命の保険不正販売疑惑を巡り、NHKが日本郵政グループの「圧力」を受けて番組の「続編」の放送をとりやめていた疑いが出ています。こうしたなか、昨日は国会内で野党が開いた「合同ヒアリング」後の会見で、日本郵政上級副社長(元総務省事務次官)の鈴木康雄氏がNHKに対し「まるで暴力団」「ばかじゃねぇの」などと強い怒りをあらわにしました。おおやけの場で大企業の経営者が特定組織に対し「ばかじゃねぇの」などと発言すること自体異例ですが、個人的には、これを契機にNHK改革の必要性に関する議論が深まることを期待したいと思います。
2019/10/04 13:22追記
文中で「保障」と記載すべきところが「保証」になっている箇所がありましたので、修正しております。
かんぽ生命の中間報告書
かんぽ生命保険が販売した生命保険契約を巡り、さまざまな不正が発覚した問題を巡り、同社は9月30日付で中間報告を発表しました。
日本郵政グループにおけるご契約調査の中間報告及び今後の取組について(2019年09月30日付 株式会社かんぽ生命保険HPより)
これによると、社外の弁護士が組織する「特別調査委員会」の検証報告の結果、調査対象となる約18.3万件の契約のうち、調査報告書までに間に合った6.8万件について、そのうち約10%に相当する6,327件の不正が発覚したとしています。
その主な事例としては、次のようなものがあります。
A:引受謝絶事案
保険契約を解約し、新規に保険契約を申し込んだが、新規の契約をかんぽ生命側が謝絶し、結果として保障がない状態になってしまった事案(調査対象1.8万件)
B:支払謝絶事案
保険契約解約後に新規に加入した保険契約について、加入時の告知が正しく行われなかったとして保険契約が解除され、保険金が支払われなかった事案(調査対象0.3万件)
C:より合理的な提案が可能だった事案
本来なら特約部分の変更のみで保険加入者の意向に沿った保障内容に変更できたはずなのに、基本契約まで変更させたことで保険料が増えてしまった事案(調査対象2.6万件)
D:予定利率が低下し、保障内容の変動がないなどの事案
保険契約解約後に新しく加入した保険が、予定利率が下がっただけで保障内容、保障期間がまったく同じものだったなどの事案(調査対象1.5万件)
E:保障期間の重複が生じた事案
保険契約を解約し、新規に契約したものの、新旧の保険の保障期間が重複し、結果的に保険料を二重払いしたような事案(調査対象7.5万件)
F:保障期間の空白が生じた事案
保険契約を解約し、新規に契約したものの、新旧の保険の保障期間がずれていたため、結果的に保障期間の空白が生じたような事案(調査対象約4.6万件)
このA~Fを集計したものが、次のとおりです。
図表 かんぽ生命の不適切事案
類型 | 調査対象 | 調査着手件数 | 問題事案数 |
---|---|---|---|
A | 1.8万件 | 6,751件 | 266件 |
B | 0.3万件 | 305件 | 49件 |
C | 2.6万件 | 8,857件 | 76件 |
D | 1.5万件 | 4,817件 | 135件 |
E | 7.5万件 | 32,959件 | 5,449件 |
F | 4.6万件 | 14,331件 | 352件 |
合計 | 18.3万件 | 68,020件 | 6,327件 |
(【出所】かんぽ生命プレスリリース等より著者作成)
そして、現時点において最も多いのは事例E(保険料が二重払いとなるケース)だそうですが、これはあくまでも「中間報告」であって、今後、さらに問題事案数が増えることも想定されます。
ただし、かんぽ生命はすでに民営化済みであり、この事案はあくまでも「株式会社かんぽ生命保険」という私企業の話ですので、同社が公表した内容以上のことについて当ウェブサイトとして何らかのツッコミをすることは控えたいと思います。
NHKは暴力団と一緒
さて、昨日はこのかんぽ生命保険の保険販売を巡り、国会で「野党合同ヒアリング」が行われたそうです。
「合同ヒアリング」は日本の野党が大好きな(そして何も意味がない)政治パフォーマンスの一種だと思いますが、それよりもヒアリング後に日本郵政上級副社長(元総務省事務次官)の鈴木康雄氏が記者団に対し、「NHKは暴力団と一緒」と批判したのだそうです。
郵政副社長「NHKは暴力団と一緒」 番組の取材手法で(2019.10.3 19:29付 産経ニュースより)
「NHKはまるで暴力団」日本郵政副社長が記者団に発言(2019年10月3日13時34分付 朝日新聞デジタル日本語版より)
産経と朝日の報道内容を総合すれば、鈴木氏の発言と事実の経緯等は次のとおりです。
- NHKの番組『クローズアップ現代+』の昨年4月の放送内容に日本郵政グループが抗議した問題を巡り、鈴木氏はNHKの取材手法を「暴力団と一緒」と批判した
- 同番組は続編に向けて情報提供を募る動画を昨年7月にネット上で公表したが、続編はかんぽ生命の不正販売問題が広がったあとの今年7月まで報道されなかった
- 鈴木氏はNHK側から「取材を受けてくれるなら(情報提供を呼び掛ける)動画を消す」と言われたと説明し、「殴っておいて、これ以上殴ってほしくないならもうやめてやる、俺の言うことを聞け」(と言っているようなものであり)「暴力団と一緒」「ばかじゃねぇの」などと不満を述べた
おおやけの場で「ばかじゃねぇの」などという発言が出るのは尋常ではありません。
NHKの取材と番組報道について
ただ、このNHKの番組については、さまざまな波紋が広がっているようです。
というのも、先ほどの鈴木氏の発言などに関するやりとりにも説明がありましたが、NHKは当初、§飼う年4月にかんぽ生命の不正販売問題を報じて以降、日本郵政グループからの要請を受けて続編番組の放送を延期したからです。
鈴木氏の発言に先立つ今月1日、高市早苗総務相はこの問題について、「国民や視聴者にNHKから適切に説明をしてもらうべき案件だ」と述べたのだとか。
高市総務相、NHKに説明求める かんぽ生命問題巡る会長「厳重注意」で(2019年10月1日 17時56分付 毎日新聞デジタル日本語版より)
しかし、NHKの上田良一会長は3日の定例記者会見で、続編の放送を見送った理由は「かんぽ生命からの圧力ではなく、たんに取材が不十分だったからだ」と述べたそうです。
NHK会長、続編見送り「取材不十分」=かんぽ報道、圧力を否定(2019年10月03日19時16分付 時事通信より)
どうもいまひとつすっきりしません。
実際、NHKが報じた「かんぽ生命の保険販売にさまざまな問題があった」という件については中間報告が出ているわけですし、普段「報道機関」として「報道の自由」を騙っている組織ならば、自分たちが取材した内容に基づいて堂々と情報発信すれば良いのです。
鈴木氏がNHKに対して「暴力団」だの「ばかじゃねぇの」だのと発言しているのを見ると、かんぽ生命側でNHKの取材姿勢に対する強い不満があったことは間違いないと思います。
ただ、その一方で、日本郵政グループは上場したとはいえ、依然として総務省との人的なつながりがあると見て、NHK側がかんぽ生命の抗議に対し、何らかの「忖度(そんたく)」をした可能性は否定できません。
当然、監督官庁である総務省との関わりを意識していても不思議ではありません。このように考えていくならば、今回の「NHK対日本郵政」という争いも、「旧郵政省の系譜にある組織同士の内紛」という側面があるように思えてならないのです。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ところで、NHKは結局のところ、経済競争ではなく法律によって存続を保証された利権団体に過ぎません(NHKの財務上の問題点については、『NHKこそ「みなさまの敵」 財務的には超優良企業』などでも財務諸表分析を示していますので、ぜひ、ご参照ください)。
かんぽ生命自体はもはや民間企業になったのですから、同社の不正事案については粛々と調査を進めるべきです。
しかし、NHKの場合は「公共放送」を騙っていて、民間企業でも国営企業でもないという中途半端な位置付けにあります。そして、受信料をかき集めるときには公共性をタテに、番組放送については独立性をタテにして、それぞれ、やりたい放題にやっているという問題点があります。
NHKは今回の放送延期疑惑を巡り、きちんと説明すべきですが、どうせNHKには説明などできないでしょう。なぜなら、彼らは外部からの批判に対し、極端に弱い組織だからです(『韓国、財務省、NHK、共産党の共通点は議論の拒否』参照)。
その意味では、ウェブ評論家の立場としては、旧郵政省系の内紛を契機にしてNHKの在り方そのものに対する社会的議論が深まることを深く期待したいと思います。
View Comments (8)
結局、うまい汁を吸い合っているような印象です。民意や国益などそっちのけで。
双方似たり寄ったりではないでしょうか。
いつも楽しく拝見しております。
保険業界に身を置く立場として、かんぽ生命の取り組みは興味深く注視しております。
ところで何点か誤植がありますので僭越ながら指摘いたします。
主な事例として紹介してあるなかにACDの3か所に「保証」と記載された部分があります。
今回の内容でいえば「保障」となります。
これからも知的好奇心を刺激する内容を楽しみにしております。
転勤族 様
コメント大変ありがとうございます。
早速確認し、修正いたします。
今後とも当ウェブサイトのご愛読並びにお気軽なコメントを賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
何親等かの数え方になりますが、旧逓信省の方がぴったりかも。
管理人さん、不満だ~不満だ~不満だよ~
>「株式会社かんぽ生命保険」という私企業の話ですので、同社が公表した内容以上のことについて当ウェブサイトとして何らかのツッコミをすることは控えたいと思います・・・<
もっともです、管理人さんの言われる事は、確かにもっともです。
ですけど、このサイトぐらいですから、私が世間に対して文句をたれる事ができるのはこのサイトぐらいしかないのです。
他の政治・経済サイトで、自由に意見が書き込めるサイトは少ない。
だから・・・ご迷惑承知で言わせてください。
NHKもろくでもない会社ですが、それを「ヤクザと同じだ」と非難する「かんぽ生命」も、お年寄りをターゲットにアブク銭を稼いでるハイエナ企業じゃないですか。
やってることは「オレオレ詐欺」と一緒、反社勢力同類の「かんぽ生命」が、NHKを「ヤクザ」と非難する図は、まさに「目くそが鼻くそを非難する」の図。
もう呆れ返るほど笑える構図になっている。
もう日本はどうしちまったんでしょう😭
まるで社会全体が、病気になってるみたいです。
まともな人は、いないのですか?
どこかに、ちゃんとした、まっとうな人間は存在してるのですか?
もう昼間っから酒でも飲まないとやってられない気分になりました(笑)
実は、サムスン関連で、実にガッカリする酷いニュースがありました。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191004-00080049-chosun-kr
サムスン電子のイ・ジェヨン副会長が、4日に「イ・ゴンヒと日本の友人たち」という親睦会をやるそうです。
「イ・ゴンヒ」というのはサムスンの創業者で、日本の友人たちというのは、京セラ・村田製作所・TDKなど日本を代表する電子部品メーカー9社の社長たちだそうです。
サムスンと日本電子部品メーカーの社長9人が集まって、お互いウィンウィンの関係を深める親睦会をソウルの繁華街でやってるって話です。
全く、山本太郎と愉快な仲間たちじゃあるまいし、この日韓関係が大変なときに、何を乳くりあっとるんでしょうか、この能天気な用日派グループと愉快な売国派どもは、ふざけてるのか、たいがいにしろと言いたい。
これじゃ、我が日本は全くフッ化水素を輸出規制してませんって全世界に宣言してるようなもんじゃないですか❗
全く有権者を舐めとるとしか言いようがない。
私はね、サムスンを追い込むために、対韓輸出規制を宣言した安倍政権に期待して投票したんですよ。
日韓売国用日半導体産業連合が、仲良くソウルのキャバクラで親睦会を開かれる日韓関係を望んで安倍政権に投票した訳じゃないです。
私のような有権者は日本に大勢いるはずなんです、それを京セラの社長や村田製作所の社長は、まるで私たちの神経を逆撫でするような酒盛りをソウルの高級クラブでやっとるわけですか❗
もうやってられませんな、本当に最近のニュースは酷すぎる。
カニ太郎様
激しく同意です。
以前、フッ化水素が「再輸出品」に名目を買えただけではないか、というご意見からいろいろ調べました。
間違いないようです。経産省は強硬姿勢を国民に猿芝居で見せただけですね。
馬淵睦夫氏の指摘する通り、トランプ大統領はディープステートの戦いを着々と進めていますが、そのディープステートに取り込まれた日本の政治、産業界はトランプ大統領に協力するようなふりをして、実際はディープステートの言うがままなのでしょう。
経産省は外務省とは違う、と喜んだ私がばかでした。同じ穴の貉でした。
つまり、カニ太郎さんの言う通り、輸出管理強化もGSOMIA破棄も、サムスンなどの株価にも全く影響せず、と言うことは、フッ化水素は今まで通り輸出されることは国際金融や機関投資家にはダダ漏れ。経産省の単なる猿芝居。輸出管理強化なんて全くやっていないに等しい。
ウォン相場が1200あたりでうろうろしているのも演出、つまり経済破綻も当面ない。アホらしい。
ソウルのキャバクラで懇親会しているぐらいですから。
>全く有権者を舐めとるとしか言いようがない。
私はね、サムスンを追い込むために、対韓輸出規制を宣言した安倍政権に期待して投票したんですよ。
ホント、その通りです。
個人的には、消費税増税、など消費の冷え込みに向かう政策の推進、カジノ計画、国を挙げての株式投資の勧め、外国人労働者の受け入れ拡大、フランスで大失敗しているにもかかわらず水道法を改正して運営権を売却、種子法廃止など、いずれの施策も国際金融の意向に合致する。
つまり安倍首相も所詮はマセソンファイブの末裔。つまり国際金融の傀儡。在日特権、ビザなし渡航、通名と通名報道、パチンコ利権、不法就労、スパイ防止法などには手を付けない、外国人労働者枠を広げてEUと同じ混乱を更に進めるだけだ、と諦めつつあります。
単なる猿芝居にこの一年踊らされたのか、とがっかりです。
日本郵政 鈴木氏の「暴力団と一緒」という発言に、より大きな違和感を覚えました。暴力団を引き合いに出すにはちょっと唐突な感じがします。
この件でNHKが問題視されているのは、日本郵政の抗議によって続編番組の放送を延期したことで、公共放送の自主性について懸念が持たれることです。そんな簡単に外圧に屈するようでは、そうならないようにという大義名分で国税ではなく受信料を徴収している意味がありません。
https://www.nhk.or.jp/faq-corner/1nhk/01/01-01-02.html
一方で、かんぽ生命保険についてはまだ調査中ではありますが、具体的に問題点が浮上してきています。そんな中で日本郵政がNHKを非難するのは、かなりもやもやします。
以下のリンク先の見解では、続編番組の制作に取り掛かった頃は総務省でNHKによるネット同時配信の検討が進められていた時期と重なるとのこと。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/67506
うがった見方をすれば、N国党の「集金人の一部が暴力団関係者」という主張にのっただけなのでは、と疑わしく思えてきます。
せっかくなので、参考までにまとめておいた時系列を上げておきます。
昨年4月
NHK 「クローズアップ現代+」かんぽ生命保険の不適切な営業実態
昨年7月
NHK 情報提供を呼びかける動画をツイッターに投稿
日本郵政 抗議し削除を求めた(上田良一会長宛)
NHK番組の幹部 日本郵政に事情を説明「番組制作と経営は分離」
昨年8月
日本郵政 ガバナンスの問題、釈明を求める文書(上田良一会長宛)
NHK 動画を削除し、続編の放送もいったん延期
昨年9月
総務省「放送を巡る諸課題に関する研究会」第二次取りまとめ
→ NHKのネット同時配信について認める内容(ガバナンス改革必要)
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu07_02000153.html
昨年10月
日本郵政 NHKのガバナンス体制の検証を求める書面(NHK経営委員会宛)
石原進NHK経営委員長 「番組幹部の発言に誤りがあった」上田会長を注意
昨年11月
NHK上田会長 事実上の謝罪文書を日本郵政側に送付
今年3月
放送法の改正案が閣議決定、国会に提出
今年5月
放送法の改正案 可決成立
今年7月末
NHK 「クローズアップ現代+」続編の放送