昨日は「ホワイト国削除問題」の陰に隠れてしまってあまり注目されていないのですが、中国の人民元(オフショア)や韓国の通貨・ウォンなどが米ドルに対して大きく売られていて、とくに韓国ウォンは昨夜、2年半ぶりに、1ドル=1200ウォンの「大台」を超えました。現時点で韓国ウォンの下落が一時的なのか、「トレンド」となったのかはわかりませんが、1つのアイデアとして、消極的金融制裁という可能性を考察しておく価値はありそうです。
「節目」となる1200ウォン超え
昨日は「ホワイト国からの削除」に話題を持って行かれたようなフシがあったのですが、もう1つ、非常に重要な事象が発生しています。
外為市場で韓国の通貨・ウォンが、「節目」となる1ドル=1200ウォンの大台を超えたのです。
きっかけは『トランプ政権の追加関税措置受けたアジア通貨下落』でも述べたとおり、ドナルド・J・トランプ米大統領が中国に対する追加関税を9月に発動すると発表したことにありますが、昨日はその後も韓国ウォンはじりじりと売られ続け、日本時間の昨日午前0時時点で1ドル=1200ウォンを超えていました。
米WSJのクオートによれば、1ドル=1205.58ウォンで、韓国銀行のデータと照らし合わせれば、これは2017年1月10日につけた1ドル=1205.5ウォンと並ぶウォン安水準です。
ためしに、2008年8月1日以降の米ドル・韓国ウォンの為替相場の変動を眺めておきましょう。
図表 USDKRWの推移
(【出所】韓国銀行)
リーマン・ブラザーズの経営破綻に端を発するグローバル金融危機の際、2008年11月24日には1ドル=1509ウォン、その翌年3月9日には1ドル=1567.7ウォンにまで売られましたが、その後、韓国ウォンは持ち直し、1ドル=1200ウォンの水準を割り込みます。
少なくとも韓国銀行のデータによれば、その後、1200ウォンの水準を超えたのは、ユーロ圏債務危機が騒がれていた2010年5月を除けば、2016年2月と2017年1月に、瞬間風速的に1200ウォンを超えたくらいであり、それ以外の時期はおおむね1ドル=1000~1200ウォンで推移しています。
今回、「心理的節目」である1ドル=1200ウォンを超えたのが一時的な現象なのか、それともトレンドとしてウォンがさらに売られ、そこからキャピタルフライト(資本逃避)につながっていくのかはわかりません。来週以降の外為市場の展開次第でしょう。
しかし、日本の「ホワイト国外し」にばかり注目が集まっているわりに、同国の通貨市場にはあまり焦点が当たっていないのが、何となく不気味でもあるのです。
「金融制裁」
一方、『韓国の金融当局、日本の制裁を気にしはじめた?』で報告しましたが、韓国の崔鍾球(さい・しょうきゅう)金融委員長が、本日にも国内の銀行の業界団体会長や銀行経営者らに「招集」をかけて会議を行う予定だ、と報じられています。
ちなみに崔鍾球氏といえば、7月上旬の段階では「日本からカネを借りなくても困らない」などと強気の発言をした人物でもありますが、なぜ唐突に(しかも今ごろになって)金融機関関係者らを集めているのか、よくわかりません。
もしかして日本が韓国に対する何らかの金融制裁に踏み切ることを恐れているからでしょうか。
ただ、この点、『日本が韓国への「単独金融制裁」に踏み切れない理由』で申し上げたとおり、もともと韓国が外国から借りているおカネに占める日本の金融機関の与信割合は低く、平常時であれば、日本の金融機関が貸し剥がしを行っても、韓国はよその国から借りれば済む、という状況にあります。
しかし、その議論では、あくまでも「平常時」、つまり「国際的な資本市場が正常に機能している場合は」、という前提がつきます。
リーマン・ブラザーズの経営破綻(2008年9月)や東日本大震災(2011年3月)、ブレグジット(2016年6月)のような金融市場の混乱が生じたときに乗じて、日本の金融機関が韓国から「貸し剥がし」を行えば、韓国は国を挙げて資金繰り難に陥る、という可能性も、否定できないのです。
結果的に「消極的制裁」に?
さて、当ウェブサイトではこれまでに何度か議論してきたとおり、一般に経済制裁は、「ヒト、モノ、カネ、情報の流れ」を制限することが基本であり、その意味で、次の7つのパターンが考えられます。
- ①日本から相手国へのヒトの流れの制限
- ②日本から相手国へのモノの流れの制限
- ③日本から相手国へのカネの流れの制限
- ④相手国から日本へのヒトの流れの制限
- ⑤相手国から日本へのモノの流れの制限
- ⑥相手国から日本へのカネの流れの制限
- ⑦情報の流れの制限
ただし、①、⑥、⑦については、現在の日本の法律では実施できないものであったり、実施しても対して意味がないものであったりするため、現実には②~⑤の4つのパターンが経済制裁の基本とならざるを得ません。
ただし、『過去記事を訂正し、改めて外為法の金融制裁を解説します』などで報告したとおり、③については、外為法の規定は使い勝手が悪く、なかなか「韓国に対する経済制裁だ」という名目でこれを発動するのは困難です。
しかし、なにも経済制裁の在り方は、「積極的な経済制裁」に限られません。
「日本がわざと韓国と通貨スワップを締結せず、韓国以外の国と通貨スワップを締結する」、といった行動を取れば、それはそれで結果的に③に似た経済効果を実現することにつながるかもしれないのです。
いや、もっといえば、金融市場参加者に対し、「韓国が困った状態になったとしても、今度ばかりは日本は韓国を助けないつもりだぞ」、と思わせることができれば、上記③以上の効果を発揮することができるかもしれません。
たとえば、「日台通貨スワップ」を締結すれば、それは日台金融協力を象徴するような意味合いとなりますし、日系金融機関が多く進出している香港との間で「日港為替スワップ」を締結する、というのも、選択肢としては面白いでしょう。
また、日本は米国や欧州中央銀行(ECB)などとのあいだで金額・期間無制限の為替スワップ協定を保持しているのに加え、オーストラリアやシンガポールとの為替スワップ協定を保持していますが、ニュージーランドや非ユーロ圏のデンマーク、ノルウェーといった諸国とも為替スワップを結んでも良いかもしれません。
さらに、ASEAN諸国のなかで、現在、日本との通貨スワップ協定を保持していない国(たとえばベトナムやマレーシア、カンボジアなど)とのあいだで新たに通貨スワップ協定を締結し、それを華々しく発表すれば、それはそれで「日本は韓国と通貨スワップを結ばない」という点が浮き彫りになるでしょう。
あるいは、こんな面倒なことをしなくても、副総理兼財相である麻生太郎総理あたりがヒトコト、「通貨スワップは相手国との信頼が前提ですから、信頼できない相手国との通貨スワップは結びません」、などと「失言」をするだけでも、金融市場参加者に対する強烈なメッセージになり得るのではないでしょうか。
その意味で、麻生総理の記者会見の席上、どこかの社の記者が麻生総理に「通貨スワップを結ぶ条件は何ですか?」などと尋ねてほしいところです。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
いずれにせよ、週明けの為替相場については、韓国の通貨市場の脆弱性が出て来るのかどうかという意味でも、注目に値する話題であることは間違いなさそうです。
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ソウル江南区が2日、日本政府のホワイトリスト(輸出審査優待国)
の排除措置に対する抗議を示すとして、江南の通りにある万国旗の
中から、日本国旗を撤去することにした。
http://blog.livedoor.jp/kaikaihanno/archives/55657546.html
⇒ こういうことやるから、馬鹿にされてウオンが売られるんだよ。
真面目に対策しないと経済死ぬぞ(無理を承知で言っております)。
具体的な「対抗措置」の二つ目ですねw
レーダー照射を指摘された時に威嚇低空飛行だと論点をずらしたように、安全保障上の輸出管理適正化だというのを経済制裁だと論点をはぐらかす。横流しなどの不適切な問題から目をそらし、いつものように「日本が悪い」に問題をすり替えてしまう。自分でついたウソが脳内で呪文のように再生され、やがて揺るぎない真実と社会に流布される。
文大統領は自身の失政による経済不調を日本に責任転嫁する気満々だ。運動家の経験値だけはさすがで、扇動の手腕は確かである。大衆は集団的な憑依状態にすらある。感情的な不買運動や訪日観光の自粛など、右往左往のパニック状態で、それをまた政府とマスコミが煽る。
韓「日の丸降ろしてやったニダ」
日「笑い死にさせるつもり?」
韓「日本を白組から追放してやるニダ」
日「どうやって困ればいいの?」
金融は効果的なツールです。
今回のホワイト国除外で結果的に金融引き締めになっていると思います。
https://www.jetro.go.jp/world/qa/04J-120104.html
書類が整わないと信用状が発行できないためです。
割と早い時期に金融と連動していることを韓国は実感するのではないでしょうか。
椿三十郎様へ
私もそう思います。
勿論真っ当な取引に関しては従来通り何も変わらないと言う事なのでしょうが、韓国の事ですから、輸出数量・価格の水増しや期日の誤魔化しなどで不当な信用枠を得ていた可能性もあります。
従来は右から左にハンコを押して貰っていたのが、今後は経産省がじっくり見ますよというだけでも、蛇口が半分閉まったくらいの効果はあるでしょう。
門外漢殿
非ホワイトは信用状が使えないのではないかと思っています。
邦銀はホワイト前提じゃないと貿易小切手に裏書などしないのではないかと思うからです。
裏書すると小切手は手形級の信頼度になります。お堅い邦銀がそのリスクを背負うとは思えません。
これが当たっていると売る方は円建てのキャッシュが条件となり支払いは公海上に出たところで振り込み。
保存がきかないフッ化水素などは大変な手間になると思います。
貿易保険もどうするのか興味がありますね。
椿三十郎様へ
ホワイト国と信用状の関係は、以下に詳しく解説があります。
↓
https://note.mu/okanenomanual/n/n88004a38a504
門外漢殿
はい。金融庁は何もしないと思います。
経産省が非ホワイトにした場合、邦銀がどのように対処するかを考え私案を投稿しました。
安保上の問題であると断言しているのに、邦銀は困ったところに出された時のことを考えるのではないかと。
韓国側が開示報告義務を果たさない現状ですので経産省ですら出荷判定は容易ではありません。
政府は金融での対処は考えていないと公言しましたので,邦銀が判断しなければなりません。
どうなるか楽しみです。
この件はあと30日もたてばぼちぼち判明しますね。
コメントをいただき誠にありがとうございました。
新宿会計士様、記事の更新有難うございます。
韓国が為替で溺れかけているこの時期を逃すことのないように、麻生大臣のポロリに期待したいです。
>「通貨スワップは相手国との信頼が前提ですから、信頼できない相手国との通貨スワップは結びません」、など
是非ともお願いしたいですね!
北朝鮮と一緒になるにはウォン安の方がいいんじゃないかとMoonさんのお考えですかね。
更新ありがとうございます。
ドルウォンが1,170〜1,180をウロウロしてると思ってたら、アッと言う間に1,192突破(笑)。昨日は1,200ラクラク越えで、暴落でしたねー(棒読み)。
これは二の矢になります。麻生副総理、一言「リップサービス」お願いします(大笑)。
日銀とか財務省筋から
「日本は現状では韓国に対する金融制裁を行う予定はない」
とさかんに発言すべきですねw
イヤって程、言ってあげればきっと韓国の不安も取り除けますよ(棒)
市場関係者もひょっとすると・・・なんて疑心暗鬼にならずにすみます。
かつて枝野氏が官房長官だった時の名文句、
「ただちに人体や健康に影響を及ぼす数値ではない」流にいうなら、
「ただちに金融制裁を行う状況ではない」ってことですね。
ウォン安の進行と同時に、円高が進みウォン円は、8月に入って2日で、9.2ウォン円から8.85ウォン円まで下落しました。4%近く下がってる事になり、より韓国が、日本からの調達コストが上がり、観光客にもマイナス要因になるでしょう。
しばらくこのトレンドが、続きそうな感じで、週明けからの動きが、注目ですね。
韓国は対抗策を考えてる詐欺をしているのであれば、暇がないくらいに矢を放つ事は、結果としてロビー活動にも影響を与えられるのではないかと期待します。要はボロがボロボロ出るのではないかと。但し、あまり露骨にやると日本が批判される可能性があるので、各位仰るように、先回りしてスワップは無いよ、とか、信頼に基づく様々な韓国に対するサポートは政治、経済含めて難しくなってくるよ、と匂わせる事を矢継ぎ早に出して欲しいものです。
いつも面白く拝読しております。
些末な点で恐縮ですが、記事後半「麻生総理」とありますが、正しくは「麻生大臣」等でしょうか。
それは元総理ってことでわざと言ってはず。
よし様
失礼ながら。
その件、もう何度も会計士さんは説明されてます。麻生氏は「総理」ですよ。それで良いんです。
日本の政界では、総理大臣は引退しても「総理」と呼ばれるのが慣例です。
皆さま
そうだったんですね。
知りませんでした、ありがとうございます。
「麻の草履」をなぜか連想した、そうですわたしがヘンなおじさんです
いろいろと話題を振りまいているれいわ新選組の山本太郎ですが多少のことには目をつむり、未だに国益のために韓国と仲良くせよとの論調です
山本太郎、「韓国死ね」と叫ぶ聴衆に「冷静になろうぜ」「文化的交流があれば気持ちも変わるかも」
2019.8.2
https://news.careerconnection.jp/?p=76145
竹島あげればいい、とか言っちゃう山本太郎さんですが、竹島取られたら国益に大ダメージと思うんですがね
この人、目的のためならマナーもルールも破るところがありすぎ
陛下に手紙渡すとかさあ
サイト内記事の 韓国で猛威を振るった「KIKOオプション」を思い出しました。
「ウォン安・ドル高になれば儲かるポジション」を構築してた韓国輸出入業者は
意外と両手をあげて喜んでいたりとかするのかなと。
現地でそんな記事が出たりすれば興味深いと思ったりもします。
凄い自慢しそうな国民性だし(笑)