日本が韓国を世界貿易機関(WTO)に対して訴えていた件の1つである「福島県など8県の水産物の禁輸措置」を巡り、残念ながら、WTOで逆転敗訴判決が下されたようです。今回のWTO判決にはいろいろと意味不明な部分も多々あるのですが、敗訴は敗訴であり、受け入れなければなりません。ただし、今回の訴訟の経緯そのものを改めて振り返ってみると、日韓関係が従来の「密室の道徳外交」から脱却し、単なる普通の二ヵ国間関係に変化するための、さまざまなフリクションの1つに過ぎず、日韓関係の悪化を食い止めるほどの力はないと見るべきでしょう。
「逆転敗訴」の衝撃
韓国が福島県など日本の8県の水産物を規制している問題を受けて、世界貿易機関(WTO)は現地時間の11日、韓国の措置を妥当とする最終判決を下しました。
Appellate Body issues report regarding Korean restrictions on Japanese food imports(2019/04/11付 WTOホームページより)
といっても、WTOのホームページに掲載されている最終判決は非常にわかり辛いのですが、ごく簡単にいえば、「韓国が日本の製品の輸入を禁止した措置自体についてはWTOルールから逸脱するものではない」というものであり、実際、日経は「日本が逆転敗訴」と報じています。
韓国の水産物の輸入規制、日本が逆転敗訴 WTO最終審(2019/4/12 1:05付 日本経済新聞電子版より)
ただし、WTO報告書を眺めてみても、べつに韓国の措置がWTOルールに「整合している」という判断を下したわけではなく、今ひとつ、何が言いたいのかよくわからない、釈然としないものが残ります。
一方で、韓国メディア『中央日報』(日本語版)は、嬉々として、これを「勝訴」と報じています。
福島水産物輸入禁止、引き続き維持へ…韓国、予想を覆しWTOで勝訴(2019年04月12日06時47分付 中央日報日本語版より)
そのうえで中央日報は
「WTOの判定により、2013年9月福島県を含む8県(福島・茨木・群馬・宮城・岩手・栃木・千葉・青森)で水揚げ・加工された28魚種の水産物に対して下された輸入禁止措置は今後も維持することができる見込みだ」
と述べています。
東京五輪の妨害という邪悪な意図
ただし、今回のWTO敗訴が日本経済にとって何らかの打撃となるのかといえば、そこも微妙でしょう。
まず、韓国が唐突に、2013年9月に「福島県などの8県の水産物禁輸」という措置を導入したのは、その「時期」が重要なポイントです。
覚えていらっしゃる方もいるかもしれませんが、ちょうどアルゼンチンの首都・ブエノスアイレスで、同年9月7日に安倍晋三総理大臣がみずから国際オリンピック委員会(IOC)総会で、東京五輪招致のプレゼンテーションを実施しました。
IOC総会における安倍総理プレゼンテーション(2013/09/07付 首相官邸HPより)
実は、韓国が福島県などの水産物の禁輸措置を決めたのが、その前日だったのです。
韓国が福島など8県の水産物禁輸へ、菅長官「科学的根拠に基づく対応を」(2013年9月6日 09:46)
韓国が禁輸措置を決めたのは、青森、岩手、宮城、福島、茨城、栃木、群馬、千葉という8県の水産物ですが、これに内陸県である栃木、群馬が含まれている時点で、科学的根拠を欠いていることは明らかであり、韓国政府の目的が東京五輪の招致妨害にあったことは明白です。
しかし、結果はご存じのとおり、東京五輪の招致に成功し、韓国の邪悪な試みは失敗に終わりました。
したがって、今回の韓国のWTO提訴は、いわば、日本が従来の韓国との「密室の道徳外交」から脱却した象徴的な事件でもあったのです。
日韓関係の後退は止められない
ところで、先ほども申しあげたとおり、今回のWTO判決については、不可解な点が多数あることは事実です。実際、日経もこれを「玉虫色」と呼んで批判しているのですが、WTOが科学的見地からの検証を避けたことは、WTOの汚点となるおそれもあります。
韓国の水産物規制容認 WTO一転「玉虫色」判決(2019/4/12 6:01付 日本経済新聞電子版より)
ただし、今回の敗訴は日本にとって手痛いものだったかもしれませんが、それと同時に、今回のWTO敗訴によって日韓関係の悪化に歯止めがかかるのかといえば、そんなことはないでしょう。
まず、日本が韓国をWTO提訴しているのは、今回の件だけではありません。
『「ステンレス条鋼WTO提訴」は日韓関係を根底から変える?』でも紹介したとおり、たとえば日本は現在、日本製のステンレス棒鋼や空気圧伝送用バルブに対する、韓国によるアンチダンピング課税を不当として、韓国を提訴しています。
従来の日韓関係であれば、日韓間で何らかの争いが発生したとしても、日韓間は「道徳な優位(?)」に立つ韓国の顔を立てる形で、密室で話し合い、玉虫色の決着を図ってきたはずです。
それが、福島県の件を含め、WTOだけでも3本の訴訟が進行しているというのは、日韓関係が明らかに変質しつつある証拠ではないでしょうか。
それだけではありません。
日本は2017年1月に入り、韓国との間で日韓通貨スワップ協定の再開交渉や日韓ハイレベル経済対話を打ち切りましたし、昨年12月20日のレーダー照射問題を受け、日韓の防衛協力も縮小されつつあります(『日本の「韓国外し」は急速に進むのか?安保から見た日韓関係』参照)。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
もっとも、日本は法治国家であり、条約や国際的な約束、判決などを守る国ですので、韓国による今回の水産物禁輸措置について、これ以上文句を付けることはできません。
しかし、これも考え様であって、日韓関係が急速に縮小する過程で、さまざまな事件が発生するのは当然のことでもありますし、なかには本件のように、日本にとってかなり不利・不本意な形で決着するケースだってあるでしょう。
むしろ、今回の敗訴は日韓関係が「普通の二ヵ国間関係」に脱皮していくなかで生じる、数々のフリクションの1つに過ぎず、「日韓関係が後退する」という流れを止めるほどの力などないと見るべきではないでしょうか。
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最近のWTOは韓国に有利な判決が多いのですが、何か理由があるんでしょうかね?
米国議会みたいに韓国に汚染されているのでしょうか?
上で紹介されてる日経の記事では
近年、WTOの紛争解決機能は著しく低下している。上級委員の定員7人のうち4人が欠員となっているのが一因で、米国が欠員補充を拒否し続けている。さらに米国は上級委員会が個別の紛争案件の解決に不要な法的判断をし、「行き過ぎた解釈をしている」と強調。今回の韓国との紛争案件で上級委員会が「慎重姿勢」を示した背景には、こうした「米国の不満も微妙に影響している」(通商筋)との声も聞かれる。
匿名さんへ
お返事ありがとうございます。
>今回の韓国との紛争案件で上級委員会が「慎重姿勢」を示した背景には、こうした「米国の不満も微妙に影響している」(通商筋)との声も聞かれる。
慎重姿勢なら、日本の韓国制裁も強めにいっても大丈夫そうですね。
それとも、韓国だけえこひいきするのか・・・
国際機関では日本は悪者ですからね。何とかしてほしいものです。
この委員会っていうのがたった3人で・・インド、米国、チャイナでした。2019年12月以降はチャイナ一人だけです。不公正貿易の権化チャイナ出身て・・笑えますね。
実は私も、ものは考えようで、時々は痛い目に遭わないと、我が国の政府機関や議員は、ボケナスから覚めないと思った次第です。とは言え、これ幸いと、韓国が福島県はじめ8県に不利益をもたらすような言動を増幅させないか心配です。なにせ連中は性根がくさっていますから。
ボケナスどもはこれに懲りて、すっかり萎縮してますます何もしなくなるかもしれませんよ。
仕事してほしいわぁ。
阿野煮鱒様
当たって欲しく無いですが、予想されたことが当たりそうで恐ろしい(汗)
報道が間違い!
8県じゃない。東日本8都県ジャロ!!
河野大臣のTwitterを見て下さい。日本は負けていません。対抗処置が却下されただけです。
敗訴と伝えたマスコミがけしからん!
情報ありがとうござます。
引用してしまいます。
日本産食品は科学的に安全であり、韓国の安全基準を十分クリアしているとしたWTOパネルの事実認定が、上級委員会でも維持された。他方、韓国が是正措置を取らなければ日本が対抗措置をとれるとした判断が取り消されたのは残念。今後は韓国との二国間協議を通じ、輸入禁止の撤廃を働きかけていく。
なるほどですね。
別に韓国有利の裁定ってわけじゃなくて、単に実際的な影響力の落ちたWTOが直接的な制裁処置を許可するのに及び腰になっただけ、ってわけですね。言うなればWTOの事なかれ主義化というべきか。
国際社会に韓国の非常識さが広まって公の場でルールに基づいて不公正を叩く、ってプランだとこの仲裁機関の弱体化は制裁の大義を確立する障害になると憂慮すべきか、あるいは余計な横槍を入れられる心配をしなくて済むと歓迎すべきか、いまいち判断しかねますね
日本人には、嫌いな者や苦手な人は敬して遠ざけるがありますが、なんせ彼の国の人は「嫌がらせするために余計に近づく」習性なので厄介。嫌なら来なきゃいいのに、寿司が美味しいとかさんざん食べたあげくに「わさびテロだ」と騒ぐ。いわゆる近づく反日。
これをネタにオリンピックの頃にまた一騒動やらかしそうな気がします。タイミングに合わせて再度の放射能キャンペーンとか、徴用工だ慰安婦だの声が大ききなりそう。ホント、うんざりだわ。
私は、これが気になります。韓国、総合ニュースで、
日本大使館武官 韓国国防部と韓米日防衛会議協議=交流再開か
4/11(木) 18:04配信
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190411-00000062-yonh-kr
ドッキリしてよく読んでみたら、これは韓国側の願望のようだ。
まさか『日本と韓国の軍事交流が再開』ではないだろうし、そうならないことを信じてます。
まずは結果は受け入れることで日本の矜持を見せることですね。こんなものは紙屑だと言った中国政府との違いを鮮明にする良い機会。だが法律は人間が作り運用するもの。自ずと限界があるというのは一理ある。理由が曖昧なところは今一度はっきりさせなければならないでしょう。
判決にあやふやなところがあっては後世にしめしがつかなくなる。それで悪法が蔓延る。まずWTOの関係者からチェックしたらいかがか。公平公正な判断がなされたのか、信頼に足りるメンバーなのか否かは最重要事項でしょう。なぜならユネスコの件がありました。そこに歪みがあれば強力な是正措置を求めるべき。遠回りだが仕方ない。
留意したいのはいつかとんでもないスキャダルに発展しないとも限らないこと。国際機関は空気からして魑魅魍魎の匂いがする。これが国際社会であり、形を変えた利権争いがあるのでしょう。日本人はとても大人しいのでだいたい呑み込まれているように見えるよ。
どうか河野太郎外務大臣のTwitterを見て下さい。
真実と報道があまりにもかけ離れていますよ。
とある神奈川県民 様へ
日経辺りも、WTOで負けたが交渉で何とかしよう、という論調です。
この交渉と言うのが曲者で、WTOで言い分を通すためと称して、漁業交渉やTPP・戦時労働者判決などで譲歩するのではないかと危惧しています。
例えWTOで敗訴(では無いと言うご指摘有難し)しても、頭を下げて韓国に輸出しなければならないことは無いと思います。
ここは無視・放置で、日本としては裁定に従う=韓国には売ってやらないと言うことで良いと思います。
そのうち韓国から「輸入してやるから・・・」という協議申し入れがあるでしょう。
兎に角韓国との交渉は全てチキンレースなので、こちらから歩み寄るなんてことは絶対に避けなければなりません。
更新ありがとうございます。
>3 他方で,上級委員会は,韓国が輸入制限措置を強化した際の手続に瑕疵があったことについては,パネルの判断を支持し,WTO協定に非整合的であるとの判断をしたことは評価しています。
とあるので、まあ全面敗訴でないとはかろうじて言えるでしょう。
しかし、前日までの日本の報道に、基本的に敗訴を想定したものがほとんどなかったという点です。たぶん、政治かも外務省関係者も、敗訴をほとんど想定していなかったのではないかと思うのです。
外国がらみの話は、思わず陰謀論に走ってしまいたくなるほど、こういう展開が多いような気がします。
日経新聞に下記のような情報が出ています。
>近年、WTOの紛争解決機能は著しく低下している。上級委員の定員7人のうち4人が欠員となっているのが一因で、米国が欠員補充を拒否し続けている。さらに米国は上級委員会が個別の紛争案件の解決に不要な法的判断をし、「行き過ぎた解釈をしている」と強調。今回の韓国との紛争案件で上級委員会が「慎重姿勢」を示した背景には、こうした「米国の不満も微妙に影響している」(通商筋)との声も聞かれる。
政治家も外務省も、上記のようなことはもちろん予てより把握していたでしょう。けれどもそれが報道に反映されることはなかった。
WTOとICJはまったく別物で類推するのも無意味ですが、それを承知でもなお、ICJ提訴については「敗訴の可能性」を徹底的につぶす努力をしておくべきでしょう。けっして楽観してはいけません。韓国がもし応じてきた場合にはですが。
>国際司法裁判所(ICJ)に訴える手もあるが、その場合、韓国側が応じなければよいのだが、実際に裁判となった場合はコストも時間もかかるうえ、日本にとり必ず有利な展開となるか分からない。
上記は外務省出身の自民党議員松川るい氏の発言です。外務省特有の事なかれ主義的ニュアンスも感じられますが、まあ、その背後には日本に向かって常に吹き続けている強風のような「口にされない何か」があるような気がしてなりません。
誤植です。すみません。
×しかし、前日までの日本の報道に、基本的に敗訴を想定したものがほとんどなかったという点です。
○しかし、前日までの日本の報道に、基本的に敗訴を想定したものがほとんどなかったという点が問題です。
国際機関って変なことするのが多い。WTO IOC ユネスコ コクレン人権委員会とか 安保理 IWC IMF etc・・ICJだって どんな決定を出すか分かったもんじゃない。外務書や政府はICJ提訴を伝家の宝刀の如くもったいぶってるけど アブナイアブナイ。