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「外国との通貨スワップを見せつける」というのも制裁のうち

韓国メディア『中央日報』(日本語版)に、本日、「日本が韓国への対抗措置として、韓国のTPPへの加入を拒否する」との話題が報じられています。徴用工判決問題を巡る日本側の対抗措置については、今月に入り、とくに報道が増えてきた気がしますが、その一方で、今年4月以降は日本の側に政治的なイベントが目白押しとなりますし、表立って大々的な対抗措置を取り辛い状況が生じつつあることは間違いないでしょう。こうしたなかで、日本の韓国に対する懲罰については、もう少し巧妙に実施する必要があるのではないでしょうか。

中央日報「TPP加入拒否」

韓国メディア『中央日報』(日本語版)に、興味深い記事が出ていました。

韓国への対抗措置に一つずつ言及する日本…「TPP加入拒否も」(2019年03月22日13時54分付 中央日報日本語版より)

中央日報によると、産経新聞が「韓国が環太平洋パートナーシップ協定(TPP)加入を拒否していることを検討している」と報じたとしています。ただ、私自身、該当する記事を産経ニュースに発見できなかったので、以下の記述は中央日報からの孫引きです。

  • 産経新聞は22日、韓国がTPP加入を希望する場合、日本政府はこれを拒否することを検討していると報じた
  • TPPは日本やメキシコなど6ヵ国で先行して発効し、今年1月には第1回TPP委員会が東京で開催されている
  • 産経によるとTPPの新規加盟にあたっては事前にすべての参加国と非公式協議を行ったうえで加入交渉開始の要請が可能だが、一国でも反対すれば新規加入は認められず、日本はこの過程で韓国の介入に反対するということだ
  • 韓国はTPP加入について数年間「検討中」という立場を維持しているが、日本とメキシコを除く9ヵ国とは二国間自由貿易協定(FTA)を締結済みだ

私自身が産経ニュースの原文を確認したわけではありませんが、このような報道がなされていたとして、その内容が本当なのかどうかなどを含め、私にはなんとも申し上げられませんが、この程度のことは検討されていて然るべきでしょう。

今まで報じられた対抗措置

実際、ここ1~2ヵ月の間は、日韓メディア、あるいは政治家らが何らかの対抗措置に言及していることも事実です。

たとえば、『【速報】時事通信「日本政府が韓国に対抗措置を検討」と報道』で紹介したとおり、時事通信は3月9日付で「徴用工訴訟で日本政府が関税引き上げなどを検討している」などと報じ、あわせて日本政府が100件前後の対抗措置をリストアップしていると報じています。

また、『【速報】共同通信が「仲裁委員会提案へ準備」と報じる』で紹介したとおり、共同通信は徴用工訴訟を巡り、「日本政府は韓国に対して仲裁委員会の開催提案に向けた準備を検討している」、などと報じました。

両記事はそれぞれ内容に矛盾もあり、また、とくに時事通信の記事は、「関税の引き上げは基本的に政府が独断で実行できるとは限らない」という、法治国家としての基本的な視点が欠落しているなど、非常に問題があるものです。

また、『【速報】麻生太郎総理が関税、送金停止、ビザ発給停止に言及』で紹介したとおり、麻生太郎総理(※副総理兼財相)は韓国に対する対抗措置として、送金停止やビザ発給停止などの可能性に言及しています。

もちろん、これも「そのような措置を具体的に検討している」という意味ではありませんが、かかる措置に日韓両国のメディアが大いに反応し、「今すぐ日本が韓国人に対するビザの発給を取りやめるに違いない」、といった主張が、一部のネットサイトで見られたことも事実です。

本当に対抗措置となるのか?

ただ、こうしたさまざまな措置が報じられていることは事実ですが、冷静になって振り返ってみると、韓国に対する「対抗措置」として機能するものと、そうでないものが混在しているように思えてなりません。

たとえば、先ほどの中央日報の記事についても、このこと自体が今さら「対抗措置として機能するかどうか」という点についても微妙です。

というのも、記事の本文に触れられていたとおり、韓国は既に、日本やメキシコを除く各国とFTAを発効させているとのことであり、経済的にはTPPに加入しようがしまいが、あまり変わらない、という評価もできるからです。

(※もっとも、TPPには対中包囲網という性格もあるため、ここから韓国を明確に排除することで、韓国は「自由民主主義国家同盟」のメンバーではないということを全世界に見せつける、という意義ならば期待できると思いますが…。)

また、それら以外にも、今までに報じられたさまざまな「対抗措置」については、報道され過ぎるがあまり、却って対抗措置となっていないケースも出て来たのではないでしょうか。

たとえば、私自身も2月頃、『外為法第48条の研究:韓国に対するモノの流れの制限とは?』のなかで、外為法上「軍事転用可能」として指定されている物資については、政府の一存で韓国に対する輸出を止めることができると申し上げました。

ただ、各メディアが「自民党はフッ酸の禁輸措置を検討している」などと大々的に報じてしまったため、ある方からは、「おそらく韓国側の半導体メーカーも、もう対策を進めていて、フッ酸の在庫を積み増しているのではないか」とのご指摘を頂きました。

私もこの点には同意します。

韓国に対する懲罰は「通貨スワップの推進」?

このように考えていくと、日本政府が本当に100件前後の対抗措置を検討していたとしても、そうした事実がリークされてしまうことにより、韓国の民間企業も対抗措置を予想して対策を進めてしまうため、日本政府が本当に対抗措置を検討していたとしても、その効果は半減してしまうかもしれません。

ただ、日韓請求権協定第3条に基づく仲裁委員会の組織自体、いまだに実現していないわけですから、外から見る限り、日本政府の動きもスピード感に欠けるような印象を抱かざるを得ません。

こうしたなか、先ほどの中央日報の記事の末尾には、こんな記述があります。

実際、日本の政界・財界で有事の際に韓国に通貨スワップ支援をしない案などが浮上している理由だ。

私に言わせれば、この期に及んで日本が韓国と通貨スワップ協定を結んでくれると勘違いしていること自体、理解に苦しみますが、それはさておき、通貨スワップ協定自体が韓国に懲罰を与えるためのツールとしては有益だ、という証拠かもしれません。

あえて批判を覚悟で申し上げるならば、「持ち上げて、落とす」ために、日本はわざと通貨スワップ協定の協議の再開を匂わせる、というのは1つの妙手(?)かもしれません。

おりしも日本はインドとの間で750億ドル分の通貨スワップ協定を締結しましたし(『日印通貨スワップ協定成立の意味と予想される某隣国の反応』参照)、また、中国との間では日本円で3.4兆円分の為替スワップを締結しています(『【速報】やはり中国とのスワップは「為替スワップ」だった!』参照)。

「東アジアの通貨安全網構築」などと言いながら、日本はベトナムやマレーシアなど、現在は通貨スワップ協定が存在していない相手国との通貨スワップ協定を推進し、「韓国以外の」アジア諸国との間で通貨スワップ、為替スワップ網を構築するのです。

ただし、本気で韓国との通貨スワップの再開をするのではなく、あくまでも「匂わせる」だけで良いと思います。そのようにすることで、仮に韓国が通貨危機に巻き込まれそうになったときに、日本が今度こそ支援しないという姿勢を示すことで、韓国に対する懲罰効果を最大にすることができるからです。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「対韓対抗措置」については報道ばかりが先行するわりに、遅々として具体化していないことについては、やはり、外務省の抵抗が予想以上に強い、という雰囲気を感じずにはいられません。

また、わが国としても、4月の統一地方選、5月1日のご譲位・改元、6月のG20会合、7月の参院選など、ビッグ・イベントを数多く抱える中で、あまり腰を落ち着けて大々的なことをやる環境ではない、という事情もあるのでしょうか。

いずれにせよ、「対韓制裁措置」を巡っては、数日単位ではなく、数ヵ月、あるいは1年、2年という単位で、腰を落ち着けてじっくりと見守る必要があるのかもしれません。

新宿会計士:

View Comments (14)

  • 匂わせると、ハゲ鷹ファンド等が手を出さず、為替が安定するのではありませんか?来たる危機が訪れる時、日本は決して助けないとアピールする方が良くないですか?

  • 前もこの話題の時に同じことを書いたような気がしますが
    韓国とのスワップなんて匂わせるだけで安倍政権の支持率が下がるでしょうから無理でしょう
    これは上げて落とす作戦ですと公表できるわけもないので
    支持率を下げてまで政府はやろうとしないと思います
    面白いですけど

  • どうも元ソースは産経は産経でも、夕刊フジのzakzakの様ですな。
    >http://www-origin.zakzak.co.jp/
    「日本、韓国のTPP加入「拒否」へ 「元徴用工」への異常判決に対抗措置」
    とありますわw

  • <米国が対北朝鮮制裁の強化に出るも「力不足」である理由は?>の記事でもコメント差し上げたのですが、今回の中国に対するアメリカの覚悟は見事です。
    アメリカ政府はもとより、軍部、議会、一丸となって、事に当たっています。アメリカの国益の前に、企業や個人の利益を押さえ付ける。
    うらやましいですね。日本も国益を守るために、韓国に対してこれだけのことができないものですかね。

  • 一説には対応策は100項目位もある由。
    いっそ、各項目に発動予定日を付して公表してはどうなんでしょう?
    3日に1件としても1年間くらいのスケジュール表が埋まります。
    最初の項目はフッ化水素禁輸、最後の項目は大使館閉鎖でしょうか?
    韓国が謝罪するまで、粛々と消化して行けば良いと思います。

    • 同感、それいいですね(笑)

      > 各省庁から集めた100件以上の「対抗措置」リストも存在することが分かった。
      「TPP加入拒否」もこのリストに含まれていると推定される<

      私はこの『対抗措置100』のリストを、是非、見てみたい(笑)

      日頃、メディアで国際政治が専門だ、とか言っている自称専門家たちは、こんなときこそ、リスナーのために、ちゃんと予想して言ってくれないといけないですよね。

      でも、まあ、日頃、他人が既に出版してる本や、海外で出版された情報誌に掲載された韓国情報で得た知識を、裏も取らずに、ただテレビやラジオやユーチューブで、喋ってるだけの、ただの提灯コメンテーター達には、ちょっと無理な要求かな(笑)

      本当は、こういうときこそ、ビシッと「政府が予定してる経済制裁はこのような事だ!」と100個は無理でも、50個ぐらいはスラスラと空で言えるような人が本物の評論家なんだけどな。

      「おはよう寺ちゃん」とか「飯田浩司のOK COZY UP」とか「虎ノ門ニュース」とかで、日頃、偉そうに韓国について語っている、自称専門家のコメンテーターのうち、何人が30個言えるだろうか(笑)

      たぶん2~3人だろうな(笑)

  • 更新ありがとうございます。

    韓国に希望を与えておいて、落とす。これって航空機爆撃やミサイル攻撃でも昔からある手ですね。通常投弾よりも高い上空に上がって、目標に反動を付けて叩きつける。与えるダメージが遥かに大きいとか。

    でも、それをやるからには攻撃側も反撃を喰うリスクが長くなります。また何かの拍子に、爆弾・ミサイルが本体から離れなくなって味方諸共爆死することになる。

    だから韓国との通貨スワップ等、アイツラに匂わす必要無い。むしろASEANで結んでない国に300億ドルずつぐらい取極したらどうでしょう。韓ちゃんから『日本が結ぶ気なら、我々も検討しても良い』なーんて、ド厚かましく水面下で言って来る可能性は高い。

    その時に記者会見して『韓国から通貨スワップの申し入れがあったが、返済に不安があるから断るつもりだ』と麻生副総理、出番ですよッ。ビシッと決めて下さい。

  • 持ち上げて落とす?
    サシで飲んだ帰りに、腕組んで一緒に歩いてホテルの前まで来たら、突然キライって言う女みたいでイヤだな。他のアジアの国と結んでお前とは結んでやらないと言うのも子供っぽい性悪女のすること。お里が知れる。
    頼まれたらただイヤですと断る。それだけでいい。どうでもいい相手の頼みごとを断るに理由は必要はない。

    • 同感です。
      持ち上げて落とす、が意味があるのは、それが相手に与えるダメージで相手が改心する可能性がある場合のみです。
      相手が韓国の場合、「恥をかかされた」と更に逆上し余計なトラブルが増えるだけでしょう。
      変なことは考えず、水道の蛇口を閉めるがごとく、黙々と閉めるところを閉めていくべきと思います。

  • サイト主様はとことん日本人なんだと思いますね。
    日本人を相手にした場合の心理戦を朝鮮人にも適用してしまうのでしょう。
    朝鮮人を相手に、上げて落とすような小細工は意味がありません。
    直球ど真ん中を突いても、通じるかどうか怪しいくらいです。