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「韓国政府相手取った徴用工訴訟」は歓迎すべき?まさか!

ここ数日、当ウェブサイト『新宿会計士の政治経済評論』でときどき触れているのですが、複数の日本メディアの報道によれば、韓国で本日、自称元徴用工やその遺族ら合計1100人が、韓国政府を相手取って損害賠償を求める訴えを起こすのだそうです。不思議なことに、私が見たところ、現時点でこれに関する報道は韓国メディアには見当たりませんが、また大々的に取り上げるのでしょうか?ただ、私個人的には今回の訴訟が日韓関係の正常化に寄与するものであるとはまったく考えていません。むしろ、以前からの持論どおり、注目点は12月24日(あるいは26日)以降、韓国側が日本企業に対する強制執行を実施するかどうかだと思います。

本日の予定:韓国政府相手取った徴用工訴訟?

日経やFNNなどの報道によると、『「日韓海底トンネル?お断りします」苦境に立つ韓国経済・他』などで取り上げたとおり、韓国では本日、自称元徴用工やその遺族ら合計1100人が、韓国政府を相手取って、1人あたり約1000万円の損害賠償を求める訴えを起こすそうです。

現時点で私が確認できた情報源としては、次のようなものがあります。

報道しているのは日経電子版、FNNプライム、そして産経系の『zakzak』ですが、

ただ、不思議なことに、韓国メディア(中央日報、朝鮮日報、聯合ニュース、ハンギョレ新聞など)をひととおり見てみたのですが、「本日訴訟を起こす」とされているにも関わらず、これに関連する報道を見つけることができませんでした。

どうして韓国メディアがこの報道を「無視」しているのか、よくわかりません。いや、そもそもなぜ、韓国国内の動きをであるにも関わらず、日本のメディアがこれを取り上げているのか、という疑問もわきます。韓国にとってよっぽど都合が悪いということでしょうか?

これについては、もう少し状況をチェックする必要がありそうです。

訴訟を歓迎すべき?まさか!

ところで、今回の訴訟を巡って、先ほど挙げたリンクのうち、zakzakの記事には、次のようなくだりがありました。

教育研究者の藤岡信勝氏は「今回の提訴は、日本政府の主張に沿った形で、『当然』の動きだ。これまでの一連の韓国の裁判所の判断が、いかに筋違いで、逆に日本側に理があるかが、これで明確になった。韓国司法が最終的に韓国政府の支払いを命じることにもなれば、韓国国内は混乱するだろう。今後に注目だ」と語った。

はて、そうですかね?

私は、事態はそこまで単純ではないと思います。

もちろん、1965年の日韓請求権協定で韓国側の企業や個人が日本の政府、企業、個人に対する請求権を失っています。ただし、個人請求権は消滅していませんので、「正論」だけを述べるのであれば、韓国の個人は1945年8月15日以前のあらゆる権利を韓国政府に対して求めるのが筋でしょう。

zakzakの記事に記述されていた、藤岡信勝氏の見解は、この「正論」だけに基づくものであり、これはこれで確かに正当な主張です。

しかし、私はそもそも論として、10月30日の「徴用工判決」によって、日韓関係は新たな次元に突入したと考えています。極論を言えば、韓国はすでに、国家として日本との基本条約を破棄する意思を示したという言い方ができるのです。

つまり、現在の日韓関係は、「崖っぷち」に立たされている状態にあります。この状態で、韓国が日本企業に対する強制執行に踏み切るとしたら、それは、いわば崖っぷちに立たされている日韓関係を崖に向けて蹴り落とすようなものです。

このように考えていけば、この訴訟が起こされようが、起こされまいが、日韓関係が破綻の危機にあるという事実にはまったく変わりがないのです。

徴用工判決のそもそものおかしさ

この徴用工判決がいかにおかしなものであるかについては、当ウェブサイト『新宿会計士の政治経済評論』では以前から何度も報告して来ました。まず、日韓請求権協定の記載上、戦時賠償等の問題は、日韓両国間では完全かつ最終的に解決されたと明示されています。

少々読み辛いのですが、日韓請求権協定の原文を確認しておきましょう。

日韓請求権協定第2条第1項(PDFファイルの8ページ目)

両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、一九五一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。

日韓請求権協定第2条第3項(PDFファイルの9ページ目)

2の規定に従うことを条件として、一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であつてこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるものに対する措置並びに一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権であつて同日以前に生じた事由に基づくものに関しては、いかなる主張もすることができないものとする。

(※「2の規定」とは:1945年8月15日から日韓請求権協定締結時点における日韓両国の請求権等。これは終戦と関係がないので、「完全かつ最終的に解決され、いかなる主張もできない」という項目から除外されているものです。)

分かりやすく言えば、「この日韓請求権協定によって韓国の個人が日本政府や日本企業などに対して持っている損害賠償その他あらゆる請求権の問題は両国間では完全かつ最終的に解決されていて、日本政府や日本企業などにに対して請求できないよ」、という条文です。

そして、裁判所が勝手に条約に文句を付けることなどできません。

たとえば、日本の裁判所が「ウラジオストクは日本の領土だからロシアはウラジオストクを日本に引き渡せ」とする判決を下したとしても、そんな判決、国際法の前では役に立ちませんし、日本が全世界からバカにされるのが関の山でしょう。

韓国の裁判所がやっているのは、これとまったく同じことです。

そして、韓国政府は「三権分立のもと、韓国政府としてはそれを尊重せざるを得ない」などと述べていますが、そのまえに司法が外交に介入している時点で、韓国においては三権分立の原則が破壊されているのです。

むしろ注目は12月24日、あるいは26日以降

さて、その意味では、本日韓国政府を相手取って訴訟が実施されるという話題は、1つの「ネタ」としては面白いものですが、私は大して意味を感じていません。

それよりも、10月30日の判決を受けて、原告側は新日鐵住金に対し、「この日までに回答がなければ強制執行に踏み切る」と通告しているのが、12月24日です(といっても、その後の休日が続くため、韓国側の代理人が動けるのは事実上、26日以降ということです)。

  • 12月21日(金)…12月24日直前の最終営業日
  • 12月24日(月)…韓国の原告側代理人が「この日までに回答せよ」と通告している日付(日本は振替休日)
  • 12月25日(火)…韓国でクリスマスの休日
  • 12月26日(水)…徴用工判決で動きが生じる可能性がある、最初の営業日

そういえば、12月26日といえば、『日米両国にケンカを売る韓国、次の決行日は12月26日か?』でも触れたとおり、韓国と北朝鮮が南北鉄道連結の着工式を予定している日でもあります。

12月26日に韓国が日米両方にケンカを売り、これを受けて早ければ年内(12月28日まで)、遅くとも来年早々には、日本政府や米国政府が韓国に対し何らかの措置を講じるのかもしれません。

果たして、どうなるのでしょうか。

新宿会計士:

View Comments (14)

  • >極論を言えば、韓国はすでに、国家として日本との基本条約を破棄する意思を

    そろそろ日韓関係破綻後(断交とはいっていない)も視野に入れる時期に差し掛かってきましたね。
    そして、韓国ではやたら日本の「戦争できる国」「軍事大国化」
    また、ネットでは「日本による韓国への再侵略」が話題になっています。
    私が考えている極論は
    日韓関係崩壊後は国連憲章の「敵国条項」の朝鮮・韓国の恣意的解釈と運用による日本の敵国認定、
    朝韓連携で軍事的に日本を圧迫。
    外交による「敵国条項」の公論化、国際化。
    最終的には朝鮮半島の非核化の拒否へ繋がるのではないかということです。(米朝合意破綻と朝鮮核保有の正当化)

  • ・ジンバブエの白人農地の強制収用
    ・ベネズエラの石油施設の国有化
    と、現代の失敗国家の最初の一歩が、強制収用です。

    ジンバブエもベネズエラも、強制収用という、欧米人が具体的な被害を受けて初めて関心が高まりました。
    差押え対象のポスコ株は、新日鉄住金の持ち分を除いても、保有者の50%以上が外国人保有です。
    直接の被害はなくとも、株価の下落で損害が発生すれば、自然と外国人投資家等には伝わります。
    日本政府が最大限の抗議するよりも、強制執行のほうがはるかに効果的に世界に伝わると思います。
    失敗国家マニアとしては、韓国政府相手の裁判がどうなろうと興味はなく、外国企業の資産を強制収用した上で、韓国政府自身が「植民地支配の賠償を勝ち取った」と大々的な勝利宣言をしてほしいと切に願っています。

  • < 更新ありがとうございます。

    < 報道ないってことは、地下で徴用工訴訟のストップを、政府サイドがしかけたか、明日以後か。どちらでもいいし、韓国内でやっておくれ。

    < それよりも、日本企業に対して『実力行使』するかどうかの方が気になるし、アチラが動けばコチラも対応しやすい。しかし自称無理矢理連れて来られた老人1,100人か(笑)。嘘つきの、がめつい奴がそんだけ居る、という事実。おっそろしい国だよ。

    < 26日からしばらく、愉しみに見守っています。(笑)

  • 毎々の執筆、ありがとうございます。

    今回の徴用工による韓国政府への裁判、はたして結果は出るのでしょうか。
    なんとなくですが、以前の裁判での様に開廷されずに放置する様な気もしますが、
    万が一(笑)開廷して裁判が進んだ場合、その判決と論理には大変興味があります。

    正しい判断がなされれば、韓国政府の敗訴となるでしょうし、
    もしくは時効(訴訟却下)か韓国政府に非は無いとなるか。

    まぁ、でもやっぱり結論出さないような気がします。
    (文大統領が逮捕されてから開廷になる…デジャブですね)

    失礼いたしました。

    • 三権分立が機能していない韓国のことですから、まともな裁判にはならないでしょうね。

      自称徴用工裁判の判決は、対新日鐵住金の場合は、日韓基本条約に配慮して「慰謝料」名目だったのに、対三菱重工業では「損害賠償請求権は消滅していない」として被告に「賠償」を命じました。大法院の判決の根拠が一貫していません。

      被告が韓国政府になった場合、これまでの大法院の判例を下敷きにしようにも、一貫性がないのでどうしようもありません。それにどうせ韓国の司法界のことですから、論理性も一貫性も関係ないと思います。

      もし私が担当の裁判官なら、対三菱重工業の判例を下敷きにして、

      日韓基本条約は不法な日韓併合を前提にしているので無効。
      無効な条約を前提に、徴用工への賠償責任を韓国政府に求める原告の主張は無効。
      賠償請求は日本企業に求めるべき。
      よって原告の訴えを棄却する。

      とかいって門前払いにします。こうしておけば「日本が悪い」と言ったことになりますので、国民情緒をなだめつつ韓国政府に重荷を負わせなくて済みます。

      • 韓国政府は「三権分立のもと、韓国政府としてはそれを尊重せざるを得ない」などと述べていますが・・・・『韓国の司法は韓国の行政府(特に大統領府)の下僕である』というのはよく知られている事実ですよね。
        よく言うよ、全く(呆)

    • >>徴用工問題か否かは別にしてこの手の韓国への訴訟は何度か(特に日韓基本条約のことがばれた後)あったんですが、結局全部次の大統領に丸投げするという形で棚上げされ続けてきているんですよ。(今回の徴用工でなぜ日本の企業に請求権が発生する事態となったのかもこの丸投げの結果)まぁ興味があれば下の例を参考に。

      https://web.archive.org/web/20081219113557/https://www.47news.jp/CN/200812/CN2008121601000914.html
      https://japanese.joins.com/article/j_article.php?aid=119225
      https://japanese.joins.com/article/j_article.php?aid=152640

      全体の流れについてならこれが分かりやすいですね。

      https://youtu.be/bNFazqFtzGE

      >>なので、もしこの判決が今日でたとしても問題の棚上げあるいは擦り付けに終始すると簡単に予測できますので、この韓国政府への訴訟は何ら面白いことにはならないでしょうね。

  • 韓国政府は「三権分立のもと、韓国政府としてはそれを尊重せざるを得ない」などと述べていますが・・・・『韓国の司法は韓国の行政府(特に大統領府)の下僕である』というのはよく知られている事実です。
    よく言うよ、全く(呆)

  •  この訴訟は原告敗訴でしょうね。
     韓国政府が敗訴することは国が傾きますから絶対にないと思います。基本的に屁理屈とダブルスタンダードは得意技なので、裁判所がどのような屁理屈をこねて原告敗訴に持っていくかだけに小生は関心があります。

     それよりも新日鉄住金の差し押さえが本当にあるのかどうかが気になります。これも得意技なのですが、最初に勇ましいことを言っておきながら、何もしない、ヒヨるなんてことが良くありますから。

     駄文にて失礼します

  • 「Pingback: 『韓国政府相手取った徴用工訴訟」』の影響 – 脱特亜論」

    素晴らしい!

    一粒の麦が地に落ちて死ぬ前に、多くの実を結びそおぅっ

  • 韓国の請求権時効についての判例は、

    ①韓国政府への賠償請求については、「消滅時効が成立している」
    ②日本企業への慰謝料請求については、「消滅時効の認定は、信義誠実の原則に反する権利乱用である〔時効という概念は適用されない〕」だったと思います。

    今回の1100人訴訟も、韓国内では解決できず、結局は、上記の①②の過程を経て、日本企業に降りかかって来そうな予感がします。

    *****

    たぶん、こんな不毛なやり取りは、「韓国の常識は、世界の非常識」と、かの国が自覚しない限り終わらないと思います。

    そのためには、ICJの判決などによって、国際社会から「韓国の認識はおかしい」と指摘される必要があるのではないでしょうか?

    *****

    一連の騒動の原因のひとつに、「かの国の最高裁判事によって、『建国する心情で書かれた判決』」があります。

    この判決は、国家のスクラップ&ビルドを実現するためのスタートボタンだったのかもしれません。

    だからこそ、同盟国との関係においても、口先では未来志向としゃべるけれども、主体的な試みもなく、崩れるに任せるままなのではないのでしょうか?

    かの国では、ビルド〔建国〕のためのスクラップ〔国家解体〕は必要不可欠な手順なんですよね。きっと。

  • しかし、気になるのが共同通信の下記の記事。日本外務省の金杉憲治アジア大洋州局長、韓国外務省の金容吉・東北アジア局長らが今週末に局長級協議をソウルで行うと言うだけの内容。

    「徴用工判決対処巡り、日韓協議へ」
    共同通信12/20(木) 11:26配信
    https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181220-00000078-kyodonews-int

    24日の直前に日本の外務省は何をしようとしているのか?嫌な予感がします。

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