X

カナダの元外交官を拘束した無法国家・中国と対峙する諸国

カナダが中国企業のCFOの身柄を拘束してから2週間近くが経過しましたが、昨日、中国がカナダの元外交官を拘束したと報じられたのだそうです。中国当局によるこの措置は、明らかに、ファーウェイCFO拘束に対する報復措置と見るべきでしょう。一方、米国メディアの報道によれば、同CFOは保釈が認められたのだそうですが、この保釈が元外交官逮捕と関係があるのかどうかは現時点でわかりません。ただし、中国が「気に入らないことがあれば報復する」という意味での「無法国家」であるという事実を、全世界が認識するという意味では、ちょうど良い事例だといえるでしょう。

中国、カナダの元外交官を拘束

中国でカナダの元外交官の身柄が拘束されたようです。

カナダ政府:元外交官が中国で拘束された事件を「憂慮」(2018年12月12日 7:54 JST付 Bloombergより)

ブルームバーグの報道によれば、拘束されたのはシンクタンク「国際危機グループ(ICG)」に勤務する元カナダ外交官のマイケル・コブリグ氏で、報道されたのは11日だそうです。

これに先立ち、カナダは米国の要請に基づき、今月1日に華為(ファーウェイ)の創業者の娘で同社CFOと務める孟晩舟(もう・ばんしゅう、Meng Wanzhou)氏の身柄を拘束しています。

ブルームバーグはコブリグ氏の拘束が孟晩舟氏の逮捕と関係があるかどうかについては「まだ不明」だとしていますが、私には「明らかに関係がある」と思えてなりません。

私がこの事件の第一報を見た瞬間に思い出したのは、2010年9月23日に中国河北省でフジタの従業員ら4人が拘束された事件です。これは明らかに、尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件で日本の当局が中国人船長を逮捕したことに対する対抗措置でした。

2010年のときは、菅直人首相(当時)が那覇地検に責任を押し付ける形で中国人船長の釈放を超法規的に決定(※)。中国人船長は中国に送還され、それとバーターで10月9日までに、拘束されていたすべてのフジタの関係者が釈放されました。

(※なお、この時の菅直人元首相ら首相官邸の意思決定に対しては言いたいことがたくさんあるのですが、敢えて本稿では触れません。いつか機会があれば、当時の手元メモとともに紹介したいと思います。)

中国当局には、このときの「日本を脅して船長を釈放させた」という、悪い意味での「成功体験」を引きずっているのかもしれません。

実際、ブルームバーグの記事によれば、中国当局者は孟氏の逮捕に激しい憤りを表明しており、「報復のリスク」について警告する声も挙がっていたそうです。このことからも、今回の拘束事件にはカナダ政府を揺さぶる狙いがあると見て間違いないでしょう。

ジャスティン・トルドー首相のお手並み拝見、といったところでしょうか。

ファーウェイCFO保釈との関係は?

こうしたなか、もう1つ、気になる記事があります。

次のウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の記事によれば、カナダで拘束されていた孟晩舟氏の保釈が、条件付きではありますが、認められたそうです。

Huawei’s Meng Wanzhou Granted Bail by Canadian Judge(2018/12/11 7:26 p.m. ET付 WSJオンラインより)

保釈金は1000万カナダドル(約750万米ドル)で、保釈期限は来年2月までとされています。もっとも、WSJによれば、保釈が認められたといっても、同氏の行動範囲はバンクーバー周辺などに限られ、常に監視が付くなどの制約はあるそうです。

このカナダの元外交官の拘束とファーウェイ創業者の娘の保釈に関係があるのかどうかはわかりません。

日本の2010年における中国人船長逮捕の際は、菅直人首相ら官邸側が那覇地検に圧力を掛け、超法規的措置として中国人船長を釈放したのですが、カナダの場合はあくまでも「釈放」ではなく「保釈」であり、しかも決定したのはバンクーバー地裁の判事です。

このことから、現時点で考える限り、あくまでもカナダの地裁が下した判断は、中国によるカナダ元外交官の拘束とは無関係という可能性が高いと見るべきでしょう。

「無法国家・中国」を印象付けるだけ

そもそもファーウェイCFO逮捕は、カナダ当局が法を適正に執行したものであるのに対し、元外交官拘束事件については、中国が法を無視して政治の世界で対抗措置を発動したものである、と見られても不思議ではありません。

その意味で、今回の中国当局の措置は、中国が法律を無視した「無法国家」であることを、内外に向けて強く印象付ける効果しかなかったのではないかと思います。

ただ、そもそも論ですが、今回のファーウェイCFO逮捕事件については、そもそも現時点で全容が見えていません。

あくまでも報道ベースで判断するならば、容疑は米国によるイラン制裁に関して銀行取引上、虚偽の申告を行ったことであり、逮捕された直接の要因は米国がカナダに対して同氏の逮捕を要請したためだとされていますが、果たして米国側の狙いがそれだけなのか、よくわかりません。

もっと踏み込んで、あえて私の憶測で申し上げると、米国政府としては、ファーウェイが中国政府(あるいは中国共産党)と密接なつながりを持っているとの証拠を掴んでいるのではないでしょうか?そして、同CFOの身柄拘束は、米中貿易戦争の一環であると見るべきではないでしょうか?

もちろん、確認できない内容について憶測でモノを申し上げるのは、本来ならば適切ではありません。ファーウェイが中国共産党の「別働隊」として、世界中の情報を盗み、中国にかき集めようとしている、というのは、私自身の憶測に過ぎません。

いずれにせよ、あまりにも大きすぎる動きは、リアルタイムで進行しているときには、却って見えづらいものです。本件についても西側の「法治国家」と中国という「無法国家」の対決と見れば、すっきりと理解できるように思えてなりません。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

なお、全世界を「法治国家」と「無法国家」に分けるならば、日本は間違いなく「法治国家」の範疇に入っていますし、中国は間違いなく「無法国家」の範疇に入っています。

法治国家とは、米国、カナダ、日本、オーストラリア、英国、ニュージーランドなどです。

これに対し、無法国家とは、中国、韓国、北朝鮮がこれに該当することは明白ですが、最近だと、デモで簡単に原則を捻じ曲げているフランスや、中国製品の明確な排除を打ち出さないドイツなどが、その同類に成り果てつつあるのかもしれません。

新宿会計士:

View Comments (17)

  • 米中冷戦の局地戦ですね。せいぜい、日本が代理戦争に巻き込まれないように祈るばかりです。

  • < 更新ありがとうございます。

    < 米中貿易戦争の半代理戦争ですかね。ファーウェイと中国政府なんて、そもそもズブズブなんでしょ?そのCFOの孟氏をカナダで拘束。米国からの要請とはいえ、まさか何もないところに煙りは立ちません(と思いたい)。

    < カナダの元外交官マイケル・コブリグ氏を拘束したのは明らかに対抗上。中国はそんな事平気、なーんにも気にしてない。ただの報復です。フジタの社員と同じです。菅の阿呆が超法規とやらのウルトラC使いましたが、正直言って舐められたね。

    < 中国は自分の事しか考えてない。大中華思想か知らんが、あんなのが世界の覇権を握ろうとするとは、私も低レベルだが、ムカつきます。

    < しかし、マトモな自由度のある法治国家って少ないですね。言われる通り、日、英、米、加、豪、NZ、瑞西、瑞典、フィンランド、ノルウェー、デンマーク、、ぐらいか。あ〜〜良かった日本人で!

  • 全世界を「法治国家と無法国家」に分ける考え方には、異論があります。
    対立の構図を「一般大衆 vs. エリート層」と見る考え方です。
    https://ta9as1.web.fc2.com/FrankfurterSchule.html
    「一般大衆 vs. エリート層」と見る考え方によれば、自由主義陣営諸国の中に「国民の敵」がのさばっている理由も説明できます。
    そして、日本国内で「国民の敵」がのさばっているように、「世界」という場所でも「一般大衆の敵」がのさばっていると考えれば、「『世界』は『無法』に肩入れせず『法治』に軍配を上げる」と楽観視することはできないのです。

  • 会計士様、毎日楽しく読ませて頂いております。
    しかしながらこの部分、

    >なお、全世界を「法治国家」と「無法国家」に分けるならば、日本は間違いなく「法治国家」の範疇に入っていますし、

    だと良いのですが・・・

    ゴーンさん事件の行方によっては、日本も「法治国家」の範疇から外れる可能性も、、、(怖)
    可能でしたらゴーンさんの罪状(もっかのところは容疑)を解説頂けませんか。

    • 「人質司法」の善悪、東京地検特捜部の法の恣意的悪用に関して言えば、日本は真っ黒だと思いますよ。

      ただゴーン容疑者の場合は、だいたい、いちいち何かするのに弁護士に合法かどうか確認している時点で、違法と合法の境界線上でタップダンスを踊っていたのは間違いない事実なので再逮捕に同情する気は失せますが・・・。

      • 人質司法ですね。でも法律を作って無罪判決がでたら無条件で拘束日数1日あたり100万円もらえるならいいと思います。1年拘束されると3億6千万円。もう一生働かなくてよいですよ。警察も検察も慎重になるでしょうね。無理な捜査や無理な起訴はなくなります。弁護士も力が入りますよ。弁護士費用をいっぱいもらえそうですから。ちょっとでも無罪の可能性がある事件だと、弁護団ができてしまいそう。

  •  サムソン、LG共にスマホを中国で生産しています。特にLGはスマホを外注する形にしています。これらのスマホにも同様に情報を盗み出す機能が搭載されているかも知れません。小生の韓国スマホはサムソンの安価品ですので情報の抜き取りは可能かもしれませんが、抜き取られて困るような情報もないため「どうぞご勝手に」といったところでしょうか(笑)。

     噂によるとこのCFOは中国と香港のパスポートを複数所持していたそうです。世界的な大企業のCFOが複数のパスポートを持てばアメリカから目を付けられるのは当然でしょう。しかも報復までされるとはカナダもなめられたもんですね。

     駄文にて失礼します

  • 中国は弱いものいじめが得意ですね。困難な事態のときにその人の性格がでるといいますが、中国という国家も同じ。ところで孟晩舟は釈放されたみたいです。中国に逃げてもらった方がカナダは助かりますね。アメリカも面倒な裁判をするより逃げてもらったらファーウェイが違法集団だと宣伝できますから。ファーウェイの製品を排除する正当な理由ができるわけですから。もし孟晩舟が中国に逃げたら、それはアメリカの陰謀ですね。だって、簡単には逃げられないはずですから。わざと逃がす。中国政府はどうするでしょうか。特殊部隊を派遣して孟晩舟を逃がせば他国の主権を堂々と侵害するわけですから。アメリカは待ってましたとばかりに中国を叩くのでは。恐ろしいワナをアメリカはしかけたのではと思います。中国もこれがワナであるとはわかっているでしょうが、それでも手をだすかですね。

  • 中国は、「目には目を!」的な報復政治なんですね。
    ある意味、わかりやすいんだけど、怖いですね。

    だけど、今までの報復政治の積み重ねにより、世界中の対抗勢力を抑止できてるのならば、効果は抜群だということなのですね。

    抑止力との観点から、考えると、「報復能力の有無」が2国間の行動に大きく影響する事になります。

    日本は、軍を持たないせいで、近隣諸国から軽んじられ、アメリカからの各種圧力にも甘んじざるをえない状態です。

    日本が普通の国になるためには、自衛隊の専守防衛の基本は崩さずとも、憲法改正は必須であり、場合によっては、「自発的には使わない核」の保有も必要なのかもしれません。

    *****

    米中関税合戦は、中国がタネ切れで折れかけてますが、西側同盟国への八つ当たりとかは勘弁して欲しいですね。

    *****

    先月に引き続き、お約束の配信時間でしたね。
    2019/01/01 01:01 配信予定の「新春特大号」も楽しみにしてます。

    • 米国は、東芝COCOM事件以来、味を占めましたよねえ。
      最近でもMUFGに北朝鮮ネタで恫喝していますし。

  • いつも知的好奇心を刺激する記事の配信有り難うございます。

    優秀な国は一つの行為に複数のメッセージを込めています。
    古くて有名なのは墜落した米国のステルス戦闘機に中国がアクセスして、その後にアメリカがベオグラードの中国大使館を誤爆(笑)した事等です。

    と言うことで当方が今回の事象を邪推してみます(笑)

    何故元外交官か?

    HUAWEIの逮捕されたCFOが元外交官と同じ位置付けだからと思います。

    つまり、公で手を振っているスパイと言う事です。

    まあHUAWEIが中国の情報覇権の尖兵であることは社名でまるわかりなのですが(笑)

    その様に考えるとカナダへの要求だけでなく他のメッセージが見えて来ます。

    中国の国益の為に動く人間へ「中国政府がきちんと守るぞ」と言うメッセージです。

    当方は中国と日本はこの件では利益は相対すると思いますが、中国のこの姿勢は高く評価します。

    北朝鮮に拉致されて放っている何処かの日本や韓国よりも中国の国民をまもろうとする姿勢は国家として遥かにマトモではないでしょうか?

    日本政府は当方にこんなこと言われたくなかったら韓国への脱北者から日本人拉致者に関して欠かさず聞き取りを行い、拉致者のリストはきちんとメンテナンスするべきです。

    我が国を良くする為には、相手の行為を見て良い所は取り入れ、自らの改善に繋げたいモノです。

    以上です。駄文失礼しました。