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政府、慰安婦財団解散に現時点では抗議だけ その真の狙いは?

日韓新時代へ:慰安婦財団解散に踏み切った韓国政府の蛮勇』で報告したとおり、韓国政府はいわゆる「慰安婦財団」を解散すると正式発表しました。しかし、これに対して先ほど、河野太郎外相が記者会見に応じたものの、韓国に対する具体的な対抗措置(たとえば、経済制裁など)については、いっさい盛り込まれていません。これについて、いったいどう解釈すべきでしょうか?

河野外相がさっそく反応

先ほど、『日韓新時代へ:慰安婦財団解散に踏み切った韓国政府の蛮勇』で速報しましたが、韓国政府は本日午前、いわゆる「慰安婦財団」の解散に向けた手続きを開始することを公式発表しました。

私自身はこの動きを、韓国政府が2015年12月の日韓合意を転覆する動きだと理解しています。10月30日の「徴用工判決」も日韓関係深刻な影響を与えるものですが、今回の動きは韓国政府自身が決断したという意味で、より一層、深刻な出来事だと考えているのです。

これについて、河野太郎外相はさっそく、先ほど外務省で会見に応じました。

河野外務大臣臨時会見記録(平成30年11月21日(水曜日)13時00分 於:本省大臣接見室前)(2018/11/21付 外務省HPより)

河野外相の冒頭発言を箇条書きにすると、次のとおりです。

  • 本日韓国政府が「和解・癒やし財団」の解散に関する方針を発表したものと承知をしているが、今般の発表は日韓合意に照らして問題であり、日本として到底受け入れられない
  • 日韓合意は外相間で協議を行い、直後に首脳間でも確認し、韓国政府としての確約を取り付けたものであり、たとえ政権が変わったとしても責任を持って実施されるべきものである
  • この合意は国際社会からも高く評価されたものであり、合意の着実な実施は、我が国はもとより、国際社会に対する責務でもある
  • 日本はこの日韓合意のもとで約束した措置をすべて実施してきており、国際社会が韓国側による合意の実施を注視している状況である
  • 日本としては、引き続き韓国側に日韓合意の着実な実施を求めていく
  • 以上の日本の立場につきましては、先ほど秋葉次官から李洙勲在京韓国大使に対し、しっかりと申し入れを行った
  • なお、この財団はこれまで合意時点での生存者47名のうち、34名に対し、また死亡者199名のうち、58名の遺族に対し、資金を支給しており、多くの元慰安婦の方々の評価を得ていることについては、付け加える

これをどう見るべきでしょうか?

日本政府の反応は2時間以内、確かに迅速だが…

まず、日本政府の動きは非常に迅速です。

当ウェブサイトでも先ほど、「速報」として韓国メディアの記事を引用しましたが、韓国メディア(日本語版)第一報が出てきたのは11時半であるにも関わらず、河野外相は13時に、さっそくこれに反応しているからです。わずか2時間以内に反応するとは、非常に迅速です。

ただ、河野外相の会見では、肝心なことが抜けています。

それは、「日本政府が何らかの対抗措置を取るかどうか」、です。

河野外相の冒頭発言に加え、その後の記者とのやりとりを見ても、日本政府が韓国政府に対し、大使を経由して申し入れを行ったという下りはありますが、肝心の「日本政府による対抗措置」については述べられていません。

私は先ほど、「ヒト、モノ、カネの往来の制限を中心に、日本政府は対抗措置を取るべきだ」と申し上げましたが、河野外相の発言では、この点については明らかにされなかった格好です(※もっとも、菅義偉官房長官などから、後日、何らかの対抗措置が発表される可能性はありますが…)。

仮説①「毒まんじゅう」

それでは、果たして日本政府は本件についてどう考えているのでしょうか?

もちろん、私自身も日韓関係が「日米韓3ヵ国連携」などの制約を受けているという点については理解しているつもりですし、一時の感情で国益全体を損なうようなことがあってはならないのも間違いありません。

その意味で、河野外相が韓国に対する対抗措置について、まったく言及しなかったことについては、正直、日本国民の1人として軽く失望を覚えています。

ただ、ここで1つの仮説を持ち出しておきたいと思います。それは、かなり以前に私自身が当ウェブサイトでも提示した、「毒まんじゅう」仮説です。

この「毒まんじゅう仮説」とは、2015年12月の日韓合意自体、「韓国はどうせ約束を破る国だから、わざと韓国が実行しない約束を締結して、韓国に約束を破らせよう」とする狙いがあった、という考え方です。

実際、河野外相も主張するとおり、「慰安婦に関する日韓合意」自体、日本側は合意を100%履行済みであるのに対して、韓国側がまったく履行していないという事実を見ると、こうした仮説も、あながち荒唐無稽とはいえません。

ということは、私の「毒まんじゅう仮説」が正しければ、日本政府の狙いは、「韓国に約束を履行させる」ことではありません。もっと別のところにあると見るべきでしょう。それはずばり、韓国を自由民主主義陣営から切り離すことです(正直、ここまで踏み込んだ仮説を提示するのも気が引けるのですが…)。

仮説②「徴用工制裁」「セカンダリー制裁」と同時に

また、仮説はもう1つあります。それが、「徴用工制裁」や「セカンダリー制裁」と同時に制裁を課す、という考え方です。

「徴用工制裁」とは、韓国政府が10月30日の「徴用工判決」を放置していることに対して、近日中に日本政府が対抗措置を打ち出す際に、今回の慰安婦財団解散の件とあわせて制裁を課す、という考え方です。

また、「セカンダリー制裁」とは、北朝鮮を陰に陽に支援する韓国に対し、日本政府が米国政府と歩調を合わせ、北朝鮮制裁の一環として韓国にも制裁を課す、という考え方です。

いずれの仮説も、「慰安婦財団」を単体として切り出すのではなく、そのほかのさまざまな問題との合わせ技で、韓国に対して厳しいペナルティを課す、というものであり、これはこれであり得る話だと思います。

慰安婦問題は徹底的に戦え

ただし、私は「ビジネスマン」である以前に、日本人であり、日本国民です。

安倍政権が慰安婦問題の真相究明を放置していることについては、非常に大きな問題だと思います。

慰安婦問題とは、

①1941年12月8日から1945年8月15日の間、②日本軍が組織としての意思決定に基づき、③朝鮮半島で少女20万人を誘拐し、④戦場に強制連行して性的奴隷として使役した問題

のことであり、現実に日本を除く全世界で、「戦時性奴隷(wartime sexslaves)」という単語が独り歩きしています。要するに、この大ウソが、全世界では真実だと受け止められているのです。

昨日の『慰安婦財団と国連強制失踪委 もう「厳重抗議」段階ではない』でも紹介しましたが、国際社会では、あたかも日本がこの「戦時性奴隷」問題を解決せず、放置しているかのように受け止められていますし、この問題を放置すれば、過去・現在・未来に及ぶすべての日本人の名誉と尊厳が傷つけられます。

もちろん、傷ついている被害者は日本人、傷つけている加害者は韓国と中国と北朝鮮です。

そして、「日本軍に強制連行された」というウソを全世界にばら撒いている自称元慰安婦らに、日本国民の血税から拠出された10億円が支払われたという事実を、私たち日本国民は、もっと重く見るべきです。

「たかが10億円で慰安婦問題が解決したならば安いものだ」という意見があることは私も知っていますし、日本の100兆円という国家予算の規模からして、10億円が微々たる額だという点も事実です。

しかし、「朝日新聞社と韓国政府と韓国国民と自称元慰安婦が捏造したウソに対して、日本国民の血税が支払われた」という事実は、軽々しく「大した問題ではない」と述べるべきではありません。金額の多寡ではなく、「日本国民の血税がウソに支払われた」という事実が大事なのです。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

もちろん、日本政府としては慰安婦財団解散に限らず、日韓関係をトータルにマネージし、日本の国益を棄損しないように努めていただく必要があります。その意味で、本件についても他の問題と同様に、強い関心を持ってチェックし続けていきたいと思うのです。

新宿会計士:

View Comments (26)

  • 外務省のページを見てきました。新聞記事よりもニュアンスが伝わってきます。ご紹介ありがとうございました。

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    【河野外務大臣】李洙勲(イ・スフン)大使からも合意を破棄することはない,再交渉を求めることはないという韓国側の立場について明確なご発言がありました。(後略)
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    日韓政府共に合意は有効であるという認識ならば「財団の解散は事実上の合意破棄!」という非難を出しにくいですね。抑制されたトーンで「引き続き韓国側に日韓合意の着実な実施を求めてまいります」と言うしかない。

    一方で韓国内では御用メディアに「事実上の合意破棄」と書かせて韓国民の溜飲を下げ、政権支持率を上げることができる。今のところ韓国が優位な状況だと思います。

    私は、米国がセカンダリー・サンクション発動を決意するまで日本は独自制裁をするなと言われていると見ているので、今後かなりの期間、報復はお預け状態になると思います。11月29日の出稼ぎ労働者判決で、日本国内の対韓感情は一層悪化するでしょうが、日本政府の対応はこれまでの発言の繰り返しになるでしょう。

    そろそろ米国に「お前の言うことを聞いて合意したのにこのザマだぜ! お前が何とかしろよ!」と言う段階じゃないかと思います。軽くいなされるとは思いますが、それでも言うだけは言わないと。

  • いつも興味深く拝読させて頂いております。
    今回の件に関しては「とうとうやったな」という認識ですね。ホント、ある意味いい時代に生まれたものです。

    さて、現時点での我が国の対応ですが、遺憾砲が限界なのかな、と思います。というのも、やはりアメリカさんが気になるわけで。オバマが半ば強引に結ばせた合意ですから、ある程度はアメリカさんも絡んでくるのかな、と。彼の国と違ってアメリカさんは政権が変わったからと言って前にやった事を反故にするような事はしないでしょうから。
    しかしトランプとしても対中に力を注ぎたい、というのもあるでしょうから、表でか裏でかはわかりませんが近々日本と話し合って、日米の行動を決めるんじゃないでしょうか。ま、もう見捨てる方向だとは思いますが。

  • 読者コメント欄をお借りして、追記です。
    安倍晋三総理大臣も本件についてコメントしています。
    http://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/actions/201811/21bura.html

    「3年前の日韓合意は最終的かつ不可逆的な解決であります。日本は国際社会の一員としてこの約束を誠実に履行してきました。/国際約束が守られないのであれば、国と国との関係が成り立たなくなってしまいます。韓国には国際社会の一員として責任ある対応を望みたいと思います。」

    はい。見事に「遺憾砲」だけですね。

  • 阿野煮鱒様

    日本「韓国への経済制裁に踏み切りたい!」
    米国「待て待て、オレのメンツ潰すな、先走りは許さない」
    日本「あんたのチョッカイでここまでこじれたんじゃないか!」
    米国「やる時は、日米共同でやろう」…

    こんな感じでしょうか?

    でも、米国がセカンダリー制裁に踏み切る時期はまだ遠いと思われます。

    「韓国、もう単独行動はするな」 米国務長官、面と向かって不満表出
    https://japanese.joins.com/article/349/247349.html?servcode=A00&sectcode=A20&cloc=jp|main|ranking
    中央日報 2018年11月21日11時05分

    米国は単独行動をする韓国に怒りをぶつけていますが、完全にぶち切れていません。

    どうしようもないと判断したなら、言う事もなくなるはずです。

    でも、河野外相や菅官房長官は韓国に対して言い続けて欲しいと思っています。

    そうしないと、韓国は舐めまくり、日本国民は離れていくと思います。

    • はい、私もワーキンググループの件は「米国はまだまだ韓国の手綱を取るつもり」と見ています。
      https://shinjukuacc.com/20181121-04/comment-page-1/#comment-16469
      まだまだ先は長いです。

      米国は今は中国のことで忙しいので、北朝鮮が大人しくしている限り様子見でしょう。
      北朝鮮が暴れ出した場合でも、韓国がミカン支援くらいで大人しければ、韓国への制裁はありません。
      北が暴れ出し、かつ韓国が露骨な制裁破りを行って初めて韓国が制裁対象に昇格します。
      こういう好条件(?)は中々揃わないと思います。

      正直なところ、気を長くして待つのが辛いです。どうしようもないんですけどね。

      • アメリカは「勝手に統一」まで見守るんじゃ無いですかね?
        後は半島に経済封鎖圧力を加えつつ、自爆、暴発まで更に見守ると言う・・・
        もしそうなら、日中露の真ん中で鬱陶しい状態が相当長く続くと思われ、アメリカは高見の見物を決め込むのでは無いでしょうか。

      • 阿野煮鱒 様

        米国が韓国の手綱を取り続けたとしても、韓国を文政権のままにし続けるかは解りませんけどね。

        米韓ワーキンググループの韓国側トップの李度勲、
        >2012~2014年には北核外交企画団長を務め、北朝鮮による3回目の核実験(13年2月)に対する北朝鮮制裁業務を担った
        こういう外務官僚筋の、言い換えれば文政権と切り離せる人物です。

        米国が外交上韓国(の保守政権)に甘いのは、あくまで日本が対北政策で拉致問題を切り離さない分、そういうしがらみの無い韓国が主導になって東アジアの対北外交をまとめて欲しい、という希望があったからで、親北を顕にする政権にはそう甘くないと思います。
        文在寅を傀儡化、そこまで行かなくとも親北政策を取らない保障が出て来れば、これまた話は別ですが…

  •  鈴置さんが文在寅大統領を「言うだけ番長」と言ってますが、日本もたいして変わらないです。結局はな何ら対策が取れず日本の悪口を言い続けられ、韓国の子供達はどんどん洗脳され、小生のように韓国に住む人間は肩身の狭い思いをしながら生活してい行かねばならなくなります。全くもって韓国人の気質を理解していないです。とにかく甲乙をはっきりさせないと、いつまで経っても韓国は日本下げ続け、金を請求し続けます。彼らは謝罪など望んでおりません。慰安婦問題で発生する莫大な金が欲しいんです。日本に比べどれだけ詐欺や誣告が多い国か。詐欺や誣告を平気できる理由は楽して儲けたいからです。韓国人は国民の半分以上が奴隷として搾取されていました。自国民を奴隷にする世界でも珍しい国家です。その奴隷に「一生懸命やれ」と行言ったところで、どうせ搾取されているのだから必死にやる必要はないと思うのは当然のことだと小生は思います。
     小生は韓国に対する感情をどうにか抑えておりますが、我慢の限界が近づいております。

     駄文にて失礼します

  • 怒りを表明するのは大切ですが、政府がまだ動く段階ではありません。冷静に考えると、徴用工は日本の民間に被害が及ぶ意味で適時対応は必要ですが、慰安婦は実害はありません。日本政府は外堀を埋めていく余裕があります。文大統領は日本だけでなく、世界から信用されていません。
    この怒りは、韓国の立場を代弁する政治家とマスコミとそのスポンサーに言論をもってぶつけましょう。

  • 慰安婦で戦うとして相手は土俵に乗るのでしょうか?
    現実を前提とすると「一度認めただろ?」で終わりだと思います。

    一部の制裁を実施する事で、相手が徴用工に対して日本に有利な扱いに舵を切る可能性はどのくらいあるのでしょうか?

    今後も今までのように付き合っていく事を前提にすると、韓国内でクーデターでも起こらない限り、現実的には日本人が一方的に泣くしかない状況になってしまっているのだと思います。
    現状は、既に「自由民主主義陣営から切り離すこと」を前提にしないと何も進まない状況なのではないでしょうか。

    「切り離すこと」の可能性をある程度高く考えているなら、現時点の「遺憾砲」はやむを得ないと思います。

    日本政府並びに日本人は、台湾を含めた新アチソンラインを覚悟すべき段階に来ているような気が個人的にはしています。

    「未来志向は無理」という明確な意思表示を、韓国側からこれだけ送られ続けているのですから。。。

  • もしかしたら、韓国問題は国民の関心事ではあっても政府の関心事ではないかもしれませんね。

    ロシアと北方領土返還と平和条約の交渉を控えており、米国との経済関係は微妙な状態にあり、深刻な米中対立の中で日本の立ち位置を定め、憲法改正を進めなければならず、消費税率引き上げに対する対策が必要で、と忙しい中で、無能な韓国の嫌がらせごときに一々付き合っている暇はない、いずれ機が熟す、ということかもしれません。

    国民感情が悪化して内閣支持率に影響が出てきたら、朝日新聞が尻馬に乗って「弱腰晋三、勝てる戦を何故やらぬ」と囃し立てるかもしれません。(元ネタはデマらしいです)

  • 海外新聞社のアジア・ニュースの見出しや記事内容には「Sex Slaves」の文字が溢れてる・・・。
    「comfort women:慰安婦」は「Sex Slaves」の湾曲した表現だとまで書いている記事まであった。
    記事を書いているのは、「Jihye Lee」とか「Choe Sang-Hun」とか半島系の名前ばかり。。。
    これがSouth Koreaの戦略の一つだとしたら、悲しいけれど相手の勝利かもしれない。
    抗議だけではなく、会見の都度、ねつ造記事についての説明を行ってほしい!

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