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安倍総理歓待する中国の気持ち悪さと日中スワップ巡る誤解

中国での安倍総理に対する歓待ぶりが、私の目から見て、正直申し上げて「気持ち悪い」と思います。中国は日本から見て間違いなく「友好国」たる資格がない国ですが、その中国が全力で日本に擦り寄ってきているのを見ると、やはり不安になります。ただ、愛国のあまり、現実を見ずに、たとえば日中通貨スワップ協定に対してシンプルに「反対」と唱える姿勢は、正しくありません。

安倍総理が中国で歓待

中国の気持ち悪い擦り寄り

正直に言うと「気持ち悪い」と思います。

安倍晋三総理大臣は昨日から中国を公式訪問中ですが、中国側の歓待ぶりが露骨です。

習近平(しゅう・きんぺい)国家主席といえば、数年前までは安倍総理に対し、「尖閣領有権問題が存在すると認めなければ首脳会談に応じない」と言い放っていた人物でもあります。しかも、尖閣諸島周辺海域への中国船の侵入事案も、いまだに日常的に発生しています。

そんな国が、安倍総理を下にも置かない歓迎ぶりを示しています。外国メディアからの引用で恐縮ですが、韓国メディア『中央日報』(日本語版)は、安倍総理が中国のナンバー1~3、つまり習近平、李克強、栗戦書(りつ・せんしょ)の各氏の全員と会談する予定だと報じています。

習主席とは1回、李首相とは2回食事…安倍氏、中国ナンバー1・2・3全員と会談(2018年10月26日07時21分付 中央日報日本語版より)

中央日報が注目するのは、その点だけではありません。2泊3日の訪中期間中、

  • 習近平主席と1回(26日の夕食会)
  • 李克強首相と2回(25日の非公式晩餐会、26日の昼食会)

と、要人との食事を3回もこなすという点にも言及しています。

中央日報は「習主席が安倍総理をいかに歓待しているかをよく示している」と述べていますが、正直、あれだけ日本を侮辱するようなことをやっておいて、トランプ政権が仕掛ける「米中貿易戦争」に苦しんでいるからといって、ここにきて猛烈に擦り寄る中国の姿勢には、浅ましさしか感じません。

安倍総理訪中に注目する韓国も浅ましい?

そういえば、昨年12月に文在寅(ぶん・ざいいん)韓国大統領が中国を「国賓として訪問」した際には、3泊4日の訪中期間中、中国指導部との会食はたった2回(習近平主席との晩餐会と陳敏爾・重慶市党書記との昼食会)で、あとは「ひとりメシ」だったことを思い出してしまいます。

文在寅大統領が訪中で「一人飯」? 大統領府「冷遇じゃない」 韓国飼い慣らす手口か(2017.12.15 19:29付 産経ニュースより)

この「ひとりメシ」とは、本当に文在寅氏が1人で食事をした、という意味ではありません。しかし、産経報道が事実なら、中国滞在期間中であるにも関わらず、10回も食事をする機会がありながら、そのうち8回は、中国要人と食事ができなかった、という点は重要です。

ちなみに韓国は日本の安倍総理に対しても、同じことをやっています。安倍総理は2015年11月2日に訪韓し、日韓首脳会談に臨みましたが、その際、朴槿恵(ぼく・きんけい)大統領(当時)は安倍総理に昼食を提供しませんでした。

【ソウルからヨボセヨ】/「焼肉を食べに行きます」と安倍首相 朴槿恵大統領もてなすことできず…(2015.11.5 06:57付 産経ニュースより)

このとき、安倍総理はソウル駐在の日本人財界人らと市内の焼肉屋で食事をし、さっさと飛行機に乗って日本に帰ってきたのです(※もっとも、次の産経ニュースによれば、韓国大統領側は安倍総理に昼食を提案していたという情報もありますが…)。

見送られた朴大統領との昼食会 安倍首相が蹴っていた…「おもてなし」がなかった裏側(2015.11.6 11:31付 産経ニュースより)

産経が日中スワップ批判

産経「日中スワップは米国の信頼損ねる」

一方、今回の安倍総理の訪中については、産経新聞編集委員の田村秀男氏が、「日中通貨スワップは日米の信頼を損なう」とする警告を発しています。

日中通貨スワップは日米の信頼損なう 編集委員 田村秀男(2018.10.26 01:00付 産経ニュースより)

私の文責で田村編集委員の主張を要約すると、次のとおりです。

  • 安倍総理は3兆円規模の日中通貨スワップ協定に応じる見通しだが、これは窮地に立つ習近平国家主席を側面支援することになりかねない
  • 中国の3.1兆ドル(約348兆円)という外貨準備も対外債務を差し引くと実質マイナスであり、これに米国が貿易制裁で追い打ちを掛けている
  • 日中スワップは銀行や企業が人民元を調達する手段であり、利益になるとする財務省や日銀の説明は「日中友好」演出のための印象操作だ
  • しかも日中スワップは日本はドルと直ちに交換できる円を対中供給するおのであり、日本の対中金融協力はトランプ米政権の対中貿易制裁の効果を薄める

ただ、残念ながら、田村氏の日中スワップに関する理解は浅いと言わざるを得ません。

日中スワップは「日本にも」メリットあり

当ウェブサイトでは開設当初から通貨スワップ協定などに深い関心を払ってきており、通貨スワップについては先日も『通貨スワップと為替スワップについて、改めて確認してみる』でまとめて議論したばかりです。

そして、中国市場で日本の銀行が「パンダ債」を発行したという事実を、田村氏は見落としています。

私が把握しているだけで、まずは今年1月に、日本の銀行2行が合計15億元分発行しています(内訳は、みずほ銀行(MHBK)が5億元、三菱東京UFJ銀行(BTMU、現「三菱UFJ銀行」)が発行登録30億元で10億元)。

もちろん、15億元という金額はメガバンクの資金調達としては非常に少なく、円換算してせいぜい300億円足らずです。しかし、あれから10ヵ月弱が経過していますが、邦銀のパンダ債発行残高はさらに増えている可能性があります。

そして、私に言わせれば、邦銀がパンダ債を発行するとは正気の沙汰とは思えません。なぜなら、中国本土といえば金融市場が未発達、未成熟であり、かつ、中国人民銀行が何をやらかすかわからない場所だからです。

こうしたなか、万が一にでも中国市場でパニックが発生し(あるいは中国人民銀行が邦銀に嫌がらせをし)、邦銀が中国本土市場で人民元の借換債の調達ができなくなってしまえば、パンダ債のデフォルト(テクニカル・デフォルト)が発生します。

とくにMHBKやBTMUのように、本邦G-SIBsの一角を占めているような金融機関にテクニカル・デフォルトが発生すれば、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)のクレジット・イベントに該当しかねないなど、日本の金融市場はパニックになりかねません。

その意味で私は、まことに不本意ではありますが、今回の日中通貨スワップには「日本側にこそメリットがある」、と判断しているのです。

実質は為替スワップで、中国支援の意味は乏しい

また、田村氏がいうように、確かに今回の日中通貨スワップの規模は3兆円で、これは2013年に失効した日中通貨スワップと比べて10倍と巨額です。しかし、私が以前から申し上げているとおり、中国が本気で通貨防衛をしなければならなくなれば、3兆円ごときで買い支えできる規模ではありません。

そして、円がドルとすぐに交換できる通貨だということも事実ですが、3兆円をドル換算すれば、1ドル=110円と仮定すれば273億ドル弱に過ぎません。まさに「焼け石に水」です。

それよりも、3兆円換算の人民元を日銀が手に入れられるというメリットの方が、はるかに大きいです。日銀は人民元市場が凍結してしまった際に、日中通貨スワップ協定を発動してこの人民元を邦銀に融資し、邦銀を救済することができるからです。

(その意味で、日本にとってこのスワップは「通貨スワップ」ではなく「為替スワップ」に近いように思えます。)

それに、当ウェブサイトでの従来の主張をくどいほど繰り返しておきますが、今回の「3兆円スワップ」の意味を私なりに解釈すると、

パンダ債を発行しても良いが、日本の当局が助けられるのは3兆円分までだよ

という意味です。要するに、「それ以上発行するなよ」、というメッセージだと考えれば良いでしょう。

愛国的な姿勢は大事だが…

田村編集委員の議論は、「通貨スワップ」という国際金融協力の分野に属するものであるにも関わらず、国際金融、金融規制の視点が欠落しており、「編集委員の文章」としては非常に粗さが目立つ気がします。ただ、それでも私は、同氏の文章の、最後の下りについては全面的に同意します。

中国市場の拡大に貢献すれば日本の企業や経済全体のプラスになる、という「日中友好」時代はとっくに終わった。今は、中国のマネーパワーが軍事と結びついて日本、アジア、さらに米国の脅威となっている。トランプ政権が前政権までの対中融和策を捨て、膨張する中国の封じ込めに転じたのは当然で、経済、安全保障を含め日本やアジアの利益にもかなうはずだ。

私は別に「中国を攻め滅ぼすべきだ」とまでは思いませんが、それでも、台頭する中国が平和主義ではなく、軍国主義・覇権主義を前面に押し出していることについては十分な警戒が必要でしょう。何より、結果的に中国の覇権主義に加担するような日中協力の在り方は、避けねばなりません。

ただ、安倍総理は2012年12月に就任して以来、一貫して中国封じ込め、セキュリティ・ダイヤモンド構想に従って動いて来ました。今回の訪中でも、安倍総理がこうした方針から逸脱することはないと信じたいところです。

新宿会計士:

View Comments (7)

  • 有能なら何一つ与えず帰せ、無能ならば歓待せよ、忘れちゃった習さん?
    困った時の〝用日〟

  • 新宿会計士 様

    日中通貨スワップについてどうしても分からないことがあります。 ブログ主さんは ”中国市場でパニックが発生した場合に人民元の借換債の調達ができなくなってしまえば、パンダ債のデフォルト(テクニカル・デフォルト)が発生します”と仰いますが、そんな場合には中国ならいろんな理由をつけて契約が
    あろうが元との交換に応じないではないでしょうか ? 況してや意図的に借換を拒否した場合には猶更です。もし限度額を邦銀に知らしめるならば3兆円は巨大すぎます。せいぜい1000億で充分ではないでしょうか ? 財務省が邦銀にパンダ債を抑制するつもりなら邦銀の頭取連中を集めて指導すれば解決できます。
    寧ろ3兆円までいざというときには問題ないとしてしてもっとパンダ債を増やすのではないでしょうか?
    田村氏ほどの人が邦銀がパンダ債を発行していることを知らないことはないと思うのです。
    私としても今回のスワップはどうしても腑に落ちないのです。
    トランプ氏と常に連絡を取り合っている安倍総理が安易に敵に塩を送るようなまねは絶対にしないと思います。 だとすると考えうるのは、”資本取引規制解除”だと思います。つまり企業が中国内で利益が
    出てもその利益を本国に送れないことが一番の問題です。この規制解除をさせるための高等手段というか
    トラップなのではないかと思うと疑問が氷解するのです。
    私ごときが推察できる程度の戦略なら、ずるい中国がだまされるわけはないですからそのからくりは不明ですが、これが段階的にでも可能になれば中国共産党は崩壊の道を歩むと思うと少しは気分が明るくなります。

    • unagimo3 様

      いつもコメントありがとうございます。

      >ブログ主さんは ”中国市場でパニックが発生した場合に人民元の借換債の調達ができなくなってしまえば、パンダ債のデフォルト(テクニカル・デフォルト)が発生します”と仰いますが、そんな場合には中国ならいろんな理由をつけて契約があろうが元との交換に応じないではないでしょうか

      鋭いご指摘だと思います。当然、そのリスクはあるでしょうね。中国の資本市場は非常に前近代的で何が起こるかわかりませんからね。

      引き続きご愛読並びにお気軽なコメントを賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。

  • さすがに会計士さんだけあって経済のネタ面白いです。
    中国韓国アメリカ絡めての株の話ありましたら少し解説お願いします。

  • < 産経の田村秀男記者は、モノの見方が偏っているようですね。どうしたら日中がスワップしたり、経済関係を修復したりすると、日米関係にヒビが入るような発言をするんでしょう?この方はちょっと独断的と言うか視界が狭いと言うか見方が偏り過ぎ。今どき新聞記者なんて花形職業じゃないもんネ~。

    < 物書きで食べて行こうという人で、スジの良い人は、少なくともジャーナリストなんか目指しません。だから、朝日はじめ各新聞社には、、、と言う方しか入社しないんでしょう(笑)。

    < 日韓でもそうですが、2国間の話では済まない時代です。日中も日米もしかり、多国間(と言っても日本からすると、中心になるのはせいぜいG7+中+露+ASEAN+印+隣りだから韓、台ぐらいですか)のトータルで考えるべきです。今すぐAIIBや一帯一路に入るとなった訳でもない。安倍首相も『主敵』と見て、中国には警戒レーダーをフル回転でしょう。

    < 中国の安倍首相への歓待ぶりは異常です。こういうのが日本人と中国人の違いかな。常に敵視していた国と、コロッと手のひら返し。真似できませんわ、日本人には。3兆円規模のスワップ、日本のバカ銀行の為とはいえ、それぐらいならいいんじゃないですか。それ以上はダメよ。 以上。

  • ブログ主様の
    「円がドルとすぐに交換できる通貨だということも事実ですが、3兆円をドル換算すれば、1ドル=110円と仮定すれば273億ドル弱に過ぎません。まさに「焼け石に水」です。」、とのご主張に同意します。

    中国との通貨スワップについて懸念される方が多数いることも理解できます。
    人民元の下落、暴落に円が防衛手段として使われ、結果として日本が中国を助けることは納得できないのも当然と思います。

    しかしながら、人民元の下落、暴落が発生すると間違いなく超安定通貨である円が買われ円高になると思います。
    その際、中国が3兆円の円を売ってドルを買えば、気持ち程度に円高が阻止できればとは思いますが、結局「焼け石に水」でしょう。

    この際、人民元の下落、暴落に備えて、
    さらに厳しい状況に陥る可能性があるソフトカレンシー通貨の周辺国(但し、韓国を除く)との円建ての通貨スワップを可能な限り新規締結し、あるいは増額して締結国を金融システムを守ってあげる必要があるのではないかと思います。
    そのことが円高を阻止し国益につながるのではないかと思います。
    米国から為替介入の疑いをかけられても堂々と反論できると思います。

  • 安倍首相のことですから、今回の訪中の内容は米国と調整済みだと思いますよ。
    右手で握手、左手にナイフ。外交の基本だと思います。アメリカは今中国相手に握手をやめ、ナイフを右手に持ち替えるぞ、と脅している状況。しかし、いつ右手で握手するかわかりません。大国は独自の理論で動きます。大国同士の戦争がいかに危険かよくわかっていますから。いかに同盟国でも迂闊に大国に追随すると手痛い目にあいます。中国・ロシアは日米関係を壊さない範囲で最大限日本の利益を確保する様、独自の外交力を発揮して欲しいです。あと、中東も。

    中国への警戒はよくわかります。しかし、あの人口と経済規模は無視できません。日本は産業力があっても「規格」では欧米に主導権を握られることが多いです。電気自動車の充電器のコネクターにしてもドイツと日本では規格が違うと聞きました。中国と組めば日本の規格を一気に世界のスタンダードに持って行くことができるでしょう。当然中国も主導権を握りたがるでしょうが、日本がどこまでそれを抑えてリードできるか、警戒も必要ですが、それ以上に交渉力やリーダーシップを磨くべき時代に入ってきたと思います。日本は米国に対しても握手だけでなく左手にはナイフも持っておかなくては、今後の世界の荒波を乗り切ることはできません。

    そして、擦り寄る中国の気持ち悪さ=中国の強さでもあります。中国のプライドが傷つかない範囲であれば、過去のことはなかったかのうような態度をとる、日本人には理解しがたいでしょうが、大陸で常に戦争を経験している国は過去のことを気にしていては国益が守れません。中国のようにプライドが高い国でも、今のプライドが守られれば、国益のため過去の敵とも簡単にくっつきます。独仏の関係を見れば、欧州もおそらく大差ないでしょう。そして完全に相手を信用することはない。そこを読み間違えて、いつまでも続く蜜月、などと勘違いすれば痛い目に会うでしょう。

    今回の安倍首相の中国訪問については、経済では協力姿勢を見せつつ、東・南シナ海ではお互いにナイフをチラチラ見せていますし、一帯一路への協力もかなり限定的とみてよい話ぶりですし、昔の様な日中蜜月、なんてことはもうないでしょう。経済関係では米国へ少しプレッシャーをかけつつ、でも中国には越えられない一線をしっかり示した、そんな印象を受けたのは私だけでしょうか。