北朝鮮の日本人拉致犯罪に対する、共同通信の筋違いな分析

本日は、大手メディアの1つである共同通信が数日前に報じた1本の記事を題材に、「報道記事を批判的に読む」、あるいは「情報を正しく読む」ことの重要さについて考えてみたいと思います。

メディア・リテラシーの重要性

「メディア・リテラシー」とは、「新聞、テレビなどのマス・メディアの報道をそのまま鵜呑みにするのではなく、ある程度、自分の頭で理解しながら批判的に読む能力」のことです。といっても、別にすべての記事を「批判」する必要はありません。優れた記事に出会えば、素直にそれを「優れている」と考えれば良い話です。

ただ、私がこのように申し上げると、「普通の人はジャーナリストじゃないし、物書きでもないのに、どうやっ裏取りし、正しい情報とウソの情報をえり分ければ良いの?」という疑問を頂くことがあります。この点については、多くの方が疑問に思っている点でもあるはずです。

これに関する1つの答えは、「今自分が読んでいる記事は『事実』なのか、それとも『意見』なのか」と意識しながら読むことです。

たとえば、「2018年7月24日午前7時頃、新宿区の路上で『新宿会計士』と名乗る男性が刃物で刺されて死亡した」というニュースがあったとします。これは、「いつ、どこで、誰が、何を、どうした」という「客観的事実」です。

また、このニュースの続きに「『新宿会計士』はいい加減なことばかり書いたウェブサイトを運営しているため、恨みを抱いたマス・メディア産業関係者による犯行と思われる」という文章があったとすれば、これは「主観的意見」(あるいは単なる憶測)です。

このうち「客観的事実」の部分でウソをつかれると、私たち一般読者としては、このニュースが「ウソだ」と見抜くことが困難です。この点については、先ほどの「普通の人はジャーナリストじゃない以上、裏取りなどできない」という疑問はその通りでしょう。

しかし、「主観的意見」の部分に関していえば、いい加減なことが書かれていたとしても、私たちの一般常識で判断することができるはずです。たとえば、先ほどのニュースの事例でも、「マス・メディア産業関係者による犯行」という証拠がない以上、「勝手にそう決めつける根拠は?」とツッコミを入れることができます。

さらに、「客観的事実」の部分についても、複数のメディアの報道を眺めるという癖を付けることで、ある程度は騙されるのを防ぐことができます。たとえば、報じたメディアが朝日新聞だけだった場合には、眉に唾をつけて読む、という具合です。

共同通信の不見識

事実と意見の峻別の大切さを知る好例

いずれにせよ、ニュースを読んでいると、「客観的事実」と「主観的意見」を混ぜ込んだ報道記事はたくさんあります。また、「誰それがこう発言した」という情報自体、1つの「客観的事実」ですが、それと同時に、「発言された内容が事実である」とは限りません。

以上を踏まえて、「まことに不見識極まりない記事」の実例を紹介したいと思います。

北朝鮮「新たな入国者いない」/田中実さんと金田龍光さんのみ(2018/7/21 16:34付 共同通信より)

共同通信によると、北朝鮮が6月12日前後に日本政府関係者に対し、「神戸市のラーメン店の元店員である田中実さん(失踪当時28)と金田龍光さん(同26)の2人以外に新たな入国者はいない」と伝えていたことが判明したのだそうです。そのうえで、共同通信は

北朝鮮は米国や韓国と対話姿勢に転じた後も、拉致問題については再三「解決済み」と訴えているが、具体的な主張内容が明らかになったのは初めて。拉致問題の進展は現時点では厳しい情勢で、日朝首脳会談を目指す安倍首相は難しいかじ取りを迫られる。

と結論付けていますが、果たしてこの記事はどう読むべきなのでしょうか?

事実認定の段階でおかしい

「2人以外に新たな入国者はいない」という情報が記事の核心ですが、まず、これは「正確な事実」であるかどうかはわかりません。というのも、

  • ①北朝鮮側が日本政府関係者に明らかにした
  • ②日本政府関係者が共同通信に明らかにした
  • ③共同通信が記事にした

という、3つの段階を踏んでいるという点を忘れてはなりません。①の段階(北朝鮮→日本政府)で北朝鮮がウソをついているかもしれませんし、②の段階(日本政府→共同通信)の段階でウソをついているかもしれません。さらに、③の段階(共同通信の報道)がウソであるという可能性もあります。

つまり、情報の伝達ラインが長すぎて、そもそも情報としての価値自体に疑問符が付くのです。

私に言わせれば、②③の段階でウソが存在していなかったとしても、①の段階(つまり北朝鮮当局者の発言)がそもそもウソである可能性が極めて高いと思います。つまり、北朝鮮が「新たな入国者はこの2人だ」と述べたということ自体は事実だとしても、北朝鮮が「そもそもウソをついた」という可能性です。

共同通信の見解は完全なる蛇足

いずれにせよ、常識的に記事を読んでいけば、

  • 情報の伝達ラインが長すぎること
  • 北朝鮮側の発言を客観的事実として取り扱っていること

という2つの点で、共同通信の記事には、「事実を報道する」という基本的な姿勢において、明らかに極めて重大な問題をはらんでいます。

それだけではありません。記事の末尾にある、

  • 拉致問題の進展は現時点では厳しい情勢
  • 日朝首脳会談を目指す安倍首相は難しいかじ取りを迫られる

という情報は、共同通信が勝手に付け加えたものです。この「拉致問題の進展は現時点では厳しい情勢」という情報、「安倍総理が難しい舵取りを迫られている」とう情報は、いずれも、共同通信の記者による主観的な思い込みであり、事実ではありません。

共同通信は日本人拉致事件が解決して欲しくないとでも思っているのでしょうか?不見識にもほどがあります。

北朝鮮が考えるべき問題

拉致事件の解決に必要なもの

日本人拉致事件は明らかな国際犯罪であり、重大な人権侵害であることは言を俟たない点ですが、それと同時に、「拉致事件の解決」には、「すべての拉致事件の被害者が無事に帰国すること」と、「拉致事件の全容が解明され、実行犯が処罰されること」の2点が必要です。

それなのに、日本政府は現在、「北朝鮮との交渉を通じて拉致被害者を取り戻す」という方針を取っています。いわば、実行犯である北朝鮮の側に、「全容を解明し、実行犯を処罰したうえで、被害者を日本に返してください」とお願いしているわけです。

日本政府、あるいは日本国民は、これを恥ずかしいと思わないのでしょうか?

通常の国家であれば、拉致事件が判明した時点で、北朝鮮に対して軍事侵攻し、拉致事件の最高責任者(とくに金正日)の身柄を拘束したうえで、日本の警察と軍が強制捜査を実施すべきでしたし、それができないにしても、金正日を国際指名手配すべきでした。

(※もっとも、金正日(きん・しょうじつ)は2011年12月に死んだため、今この瞬間、北朝鮮に軍事侵攻して拘束する最高責任者とは、さしずめ金正日の後継者である金正恩(きん・しょうおん)あたりでしょうか。)

日本国民こそ反省すべき

では、なぜ日本政府が、この「国家として当たり前の対応」をしなかったのでしょうか?それどころか、なぜ小泉純一郎元首相は拉致事件をなあなあで済ませ、国交正常化と北朝鮮に対する莫大な経済支援を行おうとしていたのでしょうか?

この点、「日本という国を北朝鮮に売り渡そうと外務官僚の失態である」、などと、外務省だけを悪者に仕立て上げることは簡単です。あるいは、朝日新聞や日本共産党といった「国民の敵」に責任転嫁することも簡単かもしれません。

しかし、日本国憲法第9条が第1項で「国権の発動たる戦争」を禁止し、第2項で「国の交戦権」を認めないとしているため、現実の法制度では北朝鮮に自衛隊を派遣することすらできません。国内法でできないことを、どうやって対外的に説明すれば良いというのでしょうか?

しかも、日本が現実に北朝鮮に自衛隊を派遣しようとしたら、その瞬間、中国、ロシア、韓国などがいっせいに日本を批判することは間違いありません。場合によっては、中国とロシアが国連安保理で対日制裁を申し立てる可能性すらあります。

このように考えれば、日本人拉致事件も、国連常任理事国入りをはじめとしたさまざまな国家目標の達成が実現していないのも、根源的には憲法第9条第2項という問題を放置し続けた日本国民の責任であると断言して間違いありません。

安倍政権はできることをやっている

以上を踏まえたうえで、それでも私の目から見て、安倍政権は現在の日本にできることをやっています。

その1つが、経済制裁であり、金融制裁です。

どんな凶悪なテロ集団でっても、資金源を絶てば干上がりますし、活動ができなくなります。北朝鮮は国家というよりもテロ集団ですが、そんな北朝鮮であっても、外国為替法などの法制度にもとづいて在日資産を凍結すれば、それだけで活動はかなり制約されます。

要するに、軍事的に攻撃することが困難である分、経済、金融面で攻撃すれば良い、ということです。

それだけではありません。日本は国連の内外で、国際社会を動かし、北朝鮮に対する国際的な制裁を強化しています。たとえば、中東諸国や東南アジア諸国、欧州諸国などで、北朝鮮の労働者を締め出す動きが加速していますが、これなども北朝鮮の資金源を絶つという方向に動いています。

実際、北朝鮮が今年3月に、韓国を通じて米国側に米朝首脳会談の開催を要求したのも、日本が主導した国際的な金融制裁がかなり効いている証拠と見るべきでしょう。

それを考えるのは北朝鮮の側

そうなってくると、北朝鮮としては日本に対し、「経済・金融制裁を緩和して欲しい」と痛切に感じているのではないでしょうか?そうであるならば、「日本国民にとって納得ができるように拉致問題が解決すること」を考える義務があるのは、日本の側ではありません。北朝鮮の側です。

日本は北朝鮮に対し、核兵器をはじめとする、各種の大量破壊兵器の破棄に加え、制裁緩和の条件の必要条件として、「日本国民にとって納得ができるように拉致問題が解決すること」を突きつければ良いのです。

共同通信的なロジックだと、「そんなことを言っても北朝鮮側は日本人拉致事件など存在しないと言っているから、日本の方でもう少し、北朝鮮が拉致問題を解決できるよう、考えてあげる必要がある」、となるかもしれませんが、これは誤りです。

「日本人拉致事件の解決のために、何をすれば日本国民が納得してくれるか」を考える責任があるのは、日本政府・安倍政権ではありません。北朝鮮政府・金正恩の側です。このことについては、決して誤解してはなりません。

まとめますと、共同通信のように、北朝鮮の言い分をそのまま垂れ流したうえで、あたかもこれが「安倍政権にとっての危機だ」と言い放つような記事を配信するメディアは有害です。ただ、こんな有害なメディアであっても、情報を受け取る私たち日本国民の側が、記事を批判的に読むようにすれば、無害化できます。

私が当ウェブサイトを通じて訴えかけたい、「情報を正しく読む」という技法の重要さは、まさにこの点にあるのだと思います。

本文は以上です。

読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。

にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ

このエントリーをはてなブックマークに追加    

読者コメント一覧

  1. めがねのおやじ より:

    < 更新ありがとうございます。
    < 田中実さんと金田龍光さんは、拉致被害者としてはかなり古い事案であり、失礼ながら親兄弟、親戚、知人の情報がほとんどなく、そこに付け込まれて拉致された方です。

    < 残っている写真も同じポーズだけ。如何に身内が少なく、北朝鮮及び在日朝鮮人らが周到に狙っていたか、分かります。酷い奴らです。田中実さんを拉致した主犯または従犯は、なんと勤めるラーメン屋の大将です。在日朝鮮人で、身寄りが居ない田中さんに、『海外旅行行かへんか?』と言葉巧みに誘い、パスポート取らせて送り込みました。パスポートは偽造して使われたでしょう。田中さんの名前を出したのは、既に大変失礼ながら、亡くなられたか、身寄りが少ない為、比較的交渉が軽く済む、と判断したか。

    < そのため、横田めぐみさんや有本香さんらに比べ、『有名』ではありません。そのお二人をわざわざ北朝鮮が名指ししてきた事は、北が墓穴を掘る第一歩だと思う。

    < 共同通信は、まともな事実をまず報道せよ。勿論、当時は生まれてない世代だろうが、安倍首相の責任だ、難しくなったなど、人ごとで日本人被害者の事を絶対書くな。
    以上。

  2. むるむる より:

    同胞である日本人が拐われていて更に年端も行かない子供や女性までさらっているのを他人事のように言い、攫われた被害国を批判して拉致した国を擁護など狂気の沙汰です。
    貴方方のようなマスゴミは北朝鮮に赴いて強制労働でもして来ては如何でしょうか?
    それともご自身の身内が拉致されなければ当事者意識は芽生えないのでしょうか?子や家族を持つ人なら二度と会えなくなる苦しみは十二分に想像がつくと思うのですがね。それとも身内を売ってでも出世欲や金銭、権力などの欲望が勝るグズなのでしょうか?まぁ屑だからこの様な論調を書かれるんでしょうね。

    会計士様前々から思っていたのですが定期的にコメント欄に沸くアンチがいますが出来うる限り反応を示さないでください。こう言ったアンチは論破されたりするだけで極端な行動に走る物なので、些細な事から逆恨みし殺害事件に発展しましたなどここの記事を楽しみにしている読者としては最悪の極みです。
    私も極端な意見や物差しを持つものではありますがどうかコメント欄は基本的に放置して眺めるだけにしてください。本日の記事の前半で殺人事件を例にした内容を書かれていたので以前起きた事件を彷彿させられてしまい怖いのです。

  3. りょうちん より:

    >「今自分が読んでいる記事は『事実』なのか、それとも『意見』なのか」と意識しながら読むことです。

    これに加えて、『誰が』意見を言っているのかも考慮に入れるとモアベターよ~(昭和か)。

    共同通信は、2件しかない北朝鮮に支局を置く西側報道機関のひとつ。
    10年前から開設していますが、おそらく現在の経済制裁の基準からすると真っ黒な国際犯罪になる上納金を納めているでしょう。
    http://tskeightkun.blog.fc2.com/blog-entry-3072.html
    ただし、法の不遡及という観点から、過去のことは責任は問えませんが未だに閉めないのはどうかと思います。

※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。

やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。

※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。

※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。

当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました

自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。

【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました

日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。
関連記事・スポンサーリンク・広告