韓国の銀行に対しセカンダリー・サンクションの可能性も
米国と日本が、それこそ国を挙げて北朝鮮に対する制裁を行っている中で、米国の同盟国である韓国において、国内の主力銀行が北朝鮮との取引拡大をにらんで専門家の採用が相次いでいる、といった報道がありました。
目次
北朝鮮に傾斜する韓国
韓国の銀行で、北朝鮮専門家の採用相次ぐ
韓国メディア『中央日報』(日本語版)に昨日、かなり衝撃的な記事を発見しました。
経済協力に期待…韓国の銀行が北朝鮮専門家採用へ(2018年07月16日15時49分付 中央日報日本語版より)
韓国の銀行業界において、「北朝鮮専門家」を採用する動きが広まっているのだそうです。たとえば「KB国民銀行」は本社戦略企画部で勤務する北朝鮮専門家を採用すると公表。「KB経営研究所」傘下の北朝鮮金融センターに人材を拡充する計画もあるそうです。
また、IBK企業銀行も北朝鮮経済研究センターで勤務する博士学位所持者を採用するほか、KEBハナ銀行は金融経営研究所で、韓国輸出入銀行も研究センターで、それぞれ研究員を新規採用したとしています。
もちろん、銀行といえども、多くの場合は民間企業ですから、「研究」する分には自由にやれば良い、というのも一面では事実です。しかし、それと同時に銀行は金融システムの一翼を担うことから、どの国でも許認可業とされています。もし銀行本体が北朝鮮に乗っ取られでもしたら、不正送金に加担しかねません。
AML(アンチ・マネロン)の動きに逆行する韓国
この点、日本では近年、本人確認などの金融規制が厳格化されているという事情に加え、メガバンク3行が「G-SIBs」 ((G-SIBsとは:「グローバルな金融システム上重要な銀行」(Global Systemically Important Banks)のこと。金融安定理事会(FSB)が毎年11月頃に、全世界で30程度の銀行・金融機関を指定して公表する。具体的なリストはFSBウェブサイトで閲覧可能。)) に指定されているという事情もあり、とくに国際的な業務展開を行っている銀行の間では、「AML(アンチ・マネー・ロンダリング)」の機能を拡充する動きが続いています。
これは、日本国内では、おもに脱税の取締りやヤクザなどの組織を資金面から締め上げるという目的が重視されていますが、国際的にはISILやタリバンなどのテロ組織、さらには北朝鮮やイランなどの犯罪国家に対する資金源を規制するという動きに主眼が置かれています。
日本の場合、金融規制当局との関係で、「当行は北朝鮮との経済協力の拡大を見越して研究活動を続けています」などと言おうものなら、金融庁から直ちに報告を求められるに違いありません。
ところが、韓国には「G-SIBs」は1行もありません。国際的な金融規制当局の間で、北朝鮮がいかに問題視されているかという「空気」を、韓国自身がまったく理解していないという事情も、このあたりにあるのかもしれません。
ちょっと先走り過ぎじゃないですかね?
中央日報はこうした韓国国内の動きについて、「南北間経済協力の可能性が高まる中、銀行が北朝鮮関連事業の準備を進めている」ものだとしているのですが、どうも先走り過ぎな気がします。というのも、南北経済協力の前に、まずは米朝の緊張関係の緩和が必要だからです。
この点、史上初の米朝首脳会談が6月12日に行われたことは事実ですが、これをもって米朝が和解ムードに入ったと見るのは尚早です。
現在のところ、米国は北朝鮮に対する経済制裁を解除するとはヒトコトも発表していませんし、実際には『ポンペオ長官訪日の詳細を読む』でも詳述したとおり、今月、ポンペオ米国務長官の訪朝直後に、北朝鮮は米国を強く批判する声明を発したほどです。
また、日本政府も、北朝鮮の核開発問題では米国と足並みを完璧にそろえており、かつ、安倍総理、河野外相、菅官房長官らは、日本人拉致事件の完全解決などが図られない限り、北朝鮮に1円たりともカネを払うことはないと明言しています。
それなのに、中央日報によれば、「韓国輸出入銀行」の次長は「最近また南北経済協力の期待感が高まり、人員を増やしている」、「今後も追加採用や銀行内部の人事異動などで規模を拡大していく」と、実に能天気な説明をしたのだとか。
現在のところ、これらの銀行や関連会社が採用している「北朝鮮専門家」とは、「北朝鮮について研究した韓国人」のことだと思うのですが、これらの人材の中に北朝鮮の工作員が紛れていたら、いったいどうするつもりなのでしょうか?
とくに、中央日報が紹介している、大学教授らによる次のようなコメントを読むと、暗澹たる気持ちになります。
- 「専門家は銀行の北朝鮮専門家採用が本格化していくと見込んでいる」
- 「最近、金融機関から『今が北朝鮮専門家を採用すべき時期か』という質問をよく受ける」
- 「金融機関の中でも経済協力再開時にすぐに北朝鮮に行って営業を始める必要がある銀行が大きな関心を見せている」
文在寅(ぶん・ざいいん)韓国大統領自身が親北派と目されている点については仕方がないにしても、金融機関関係者までが親北に染まってしまっていて、他人事ながらも、思わず「本当に大丈夫か?」と不安になってしまうからです。
セカンダリー・サンクション
具体的に何が問題になるのか?
ところで、これらの動きはあくまでも韓国国内の話であり、北朝鮮に対して韓国の銀行からカネが流れたとしても、それは一見すると、韓国政府が規制すべき話であり、日本政府にはあまり関係がないように見えます。
しかし、話はそう単純ではありません。金融の世界でよくでてくる考え方が、「セカンダリー・サンクション」、あるいは「二次的制裁」です。これは、たとえばテロ組織などと付き合いのある銀行が金融規制当局から制裁を喰らうというもので、マカオの「バンコ・デルタ・アジア(BDA)」の事例が有名です。
これは、マカオに拠点を置くBDAに対し、2005年9月に米財務省が、北朝鮮の資金洗浄(マネー・ロンダリング)に関与した疑いが強い金融機関に指定(詳細は米財務省のページに残っています)。これを受けて、マカオ特別行政区政府がBDAの北朝鮮関連口座を凍結したという事件です。
直接、口座凍結を行ったのは、BDAの監督当局であるマカオ特別行政区政府ですが、きっかけは米財務省による「マネロン最懸念」指定であり、これによりBDAは米国のすべての銀行との取引を禁止されました。
ただし、この事件は北朝鮮当局がBDAのすべての資金をロシア極東部の商業銀行に移管したことで、いちおうの解決を見ています。
バンコ・デルタ・アジア、北朝鮮関連資金を送金=マカオ政府(2007年6月15日 07:42付 ロイターより)
しかし、米国のマネロン制裁は強力であり、かつてパレスチナのテロ組織などに資金援助を行っていると認定されたシリアの銀行に対しても、BDAと同じ制裁措置が課されたことがあります。それだけ、米国はテロ資金に関して厳しい措置を取るということであり、この意思については甘く見るべきではありません。
丹東銀行の事例
こうしたBDAなどに対する制裁措置は、決して「過去のもの」ではありません。昨年秋に、中国の丹東銀行に対しても同様の経済制裁が科せられました。
米財務省、トランプ米大統領歴訪控え「北朝鮮資金洗浄」で丹東銀行を制裁(2017-11-04 07:21付 ハンギョレ新聞日本語版より)
といっても、丹東銀行は中国・丹東地区にある小規模な商業銀行であり、BDAなどと違って米ドルによる取引を大々的に行っているわけではありません。とくに、地域柄、北朝鮮は丹東銀行との取引において、米ドルではなく人民元で決済しているであろうことは想像に難くありません。
このため、BDAの事例と異なり、丹東銀行にとっても今回の措置で実質的な影響はさほど大きくないと見るべきでしょう。
外貨依存の韓国の経済・金融システム
しかし、同様の制裁が、韓国の銀行、金融システムに対して課せられるとなれば、話はまったく変わってきます。
まず、韓国という国は、通貨・ウォンの国際的な信認がありません。自国通貨である韓国ウォンは、事実上、韓国国内でしか通用しておらず、韓国の企業が国際的な活動を行うためには、外貨(とくに米ドル、あるいは日本円)がどうしても必要です。
(※余談ですが、そんな韓国の外貨準備高を巡っては、その内訳がかなり怪しいのではないかとする仮説は『【準保存版】韓国の外貨準備統計のウソと通貨スワップ』で述べたとおりなので、ここでは繰り返しません。)
必然的に、韓国の民間銀行、民間企業は、外貨(米ドルや日本円など)で資金を調達する必要が生じて来ます。たとえば、日本の企業から日本円で原料を購入し、韓国国内で加工して中国や米国に米ドルで製品を売り上げる、というった流れです。
そんな経済体質において、主要な銀行がいきなり北朝鮮との取引の研究を強化しはじめれば、どうなるのでしょうか?
現状では、さすがに北朝鮮にダイレクトに送金する、ということはやっていないようですが、金融機関の場合は送金以外にもさまざまな業務を行っています。たとえば、北朝鮮の関係者がその銀行に口座を持っていただけでも、その銀行が米FRBから取引停止処分を喰らう恐れもあります。
このように考えていけば、韓国の銀行の皆さんは、本当にリスクテイカーだなぁ、と思ってしまうのです。
自国通貨の通用度が低い国の悲哀
さて、私などは本業で金融機関の自己資本比率規制や金融商品会計、デリバティブ規制などの事情にも詳しく、必然的に、銀行システムや送金システムなどについても専門分野の1つです。
こうしたなか、日本経済は公称では今や中国に抜かれてしまいましたが、通貨に対する信認、外国為替の店頭取引での通用度、外貨準備の利用通貨など、さまざまな指標において、米ドル、ユーロ、英ポンドなどと並ぶ有力通貨の1つです。
これに対して、中国の場合は人民元、韓国の場合は韓国ウォンを自国通貨として使っていますが、アジアの中では通貨の通用度という意味では、いずれの通貨も日本円の足元にも及びません。その理由は非常に簡単で、中国、韓国ともに、債券市場やスワップ市場などが成熟していないからです。
たとえば、通貨スワップという金融商品がありますが(※通貨スワップといってもBSAではなくCCSの方です)、これらは、エコノミーとして見れば、直物外国為替取引と先物外国為替取引の組合せにベーシス・スワップなどを組み合わせた金融商品である、と見ることができます。
(※余談ですが、通貨スワップと為替スワップなどの厳密な定義・分類については『総論:通貨スワップと為替スワップとは?』あたりをご参照ください。)
ただ、通貨スワップはお互いの通貨においてベーシス・スワップが成立していないと、そもそも取引として成立しません。米ドル・日本円(USD/JPY)やユーロ・日本円(EUR/JPY)などの通貨スワップが存在していても、人民元・韓国ウォン(CNY/KRW)の通貨スワップは存在のしようがないのです。
このように考えていけば、韓国や中国の企業は、自国の通貨で国際的な生産活動を行うことはおろか、為替ヘッジ手段すら限られているというのが実情です。いわば、「おカネ」という最もベーシックな部分を、米国などの外国に握られてしまっている格好です。
逆に言えば、日本や米国が北朝鮮を締め上げる手段は、なにも軍事的手段に限られません。極端な話、中国と韓国のすべての金融機関にセカンダリー・サンクションを適用すれば済む話なのです。
その意味で、やはり中央日報が報じた韓国の銀行の動きは、みずから制裁を喰らいに行っているようにしか見えないのです。もっとも、韓国は他国ですから、私たち日本国民のなかには、「そんなことは知ったことではない」、という感想を持つ人も多いかもしれませんが…。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
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意外性がないせいなのか、一部でしか話題になっていませんが、
http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye3421217.htm
51品目 北朝鮮制裁除外求める、韓国政府が安保理に
北朝鮮制裁をめぐる新たな動きです。韓国政府が「南北軍事ホットラインを再開させるため」として、ガソリンなど51の品目について輸出禁止の対象から除外するよう国連安保理に求め、承認されたことがJNNの取材で分かりました。
韓国政府は11日、国連安保理の北朝鮮制裁委員会に対して51品目のリストを提出し、北朝鮮への輸出禁止の制裁対象から一時的に除外するよう求めていたことがJNNの取材で分かりました。
リストには、軽油やガソリンなど燃料のほか、SUV車やバス、トラックなど自動車も含まれています。これらについて韓国政府は、「南北の軍事当局者の間で連絡を取り合う通信設備を整える目的に限って使う」と説明しています。
このリストについて、安保理の北朝鮮制裁委員会が14日未明までに、制裁除外を承認したことも明らかになりました。安保理理事国のアメリカも含め、反対意見は出なかったということです。
今年4月の南北首脳会談では、南北軍事ホットラインの再開も合意されていました。
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鳴らないホットラインの維持のために制裁の一部解除を韓国が要求というのも驚きです。
一方で瀬取は非難されていますので、これを安保理事国が認めたというのも、どうみても韓国を填め込むための前振りにしか思えないのは私だけでしょうかw