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「北朝鮮制裁継続」のトランプ政権、目的は対中封じ込め?

当ウェブサイトでは以前から、トランプ氏の発言の「一貫性のなさ」を取り上げて来ています。この点私は、トランプ政権の方針を見極めるためには、トランプ氏の羽毛布団よりも軽い「発言」よりも、トランプ政権の「行動」で見る方が重要だと考えています。

トランプ氏の発言巡り混乱する英米メディア

6月12日に米朝首脳会談が行われて以降のトランプ氏の発言を追いかけていくと、総じて北朝鮮核問題が解決したと高らかに宣言する内容が目立ちます。その典型的な発言が、米朝首脳会談の翌日にトランプ氏が発した、次のツイートです。

Before taking office people were assuming that we were going to War with North Korea. President Obama said that North Korea was our biggest and most dangerous problem. No longer – sleep well tonight!(2018年6月13日 19:01付 ツイッターより)

これを私自身の文責で、あえて意訳すると、次のとおりです。

(トランプ氏が)大統領に就任する前、人々は北朝鮮との戦争を覚悟していた。オバマ(前)大統領は北朝鮮がわが国の最大にして最も危険な問題だと主張していた。しかし、解決した。マクラを高くしてぐっすり眠れ!

要するに、「北朝鮮初の核戦争が生じるおそれはなくなった」と、意気揚々と宣言した格好です(※もっとも、「マクラを高くして」、のくだりは原文に含まれておらず、私の意訳ですが…)。その後、トランプ氏は米韓合同軍事演習の中止を表明。米国は「朝鮮戦争の終戦」を演じようとしているかに見えます。

英米メディアも困惑

WSJ社説がトランプ政権を批判

こうしたトランプ氏の発言や姿勢に危機感を持ったのでしょうか、1週間前の米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)に、こんな社説が掲載されました。

A Troops for Nukes Trade?(米国夏時間2018/06/17(日) 15:33付=日本時間2018/06/18(月) 04:33付 WSJより)

タイトルにある “Troops” とは 駐韓米軍のことであり、また、 “Nukes” とは、 “nuclear weapons” 、すなわち(北朝鮮が開発している)「核兵器」のことです。

当ウェブサイトでは先週、『【夕刊】米韓同盟の消滅が見えてきた』のなかで、ドナルド・J・トランプ米大統領が米韓合同軍事演習の中止を表明した際に、「北朝鮮を挑発することを防ぐ」と述べた、という点を紹介しました。

WSJの社説はこの点について、いわば、「北朝鮮を挑発しないために、駐韓米軍(troops)と北朝鮮の核を引き換えにするのではないか」との懸念を示したうえで、次のようにトランプ政権の姿勢を批判しています。

If Mr. Trump wants to remove provocations from the peninsula, how about asking Kim to pull North Korean forces back from the Demilitarized Zone and take Seoul out of artillery range? That would justify the exercise cancellation as a goodwill offer.(トランプ氏が朝鮮半島から刺激を除去することを望んでいるのだとしたら、なぜ金正恩に対して、ソウルを射程に収めた砲門を38度線非武装地帯から撤去させないのか?合同演習を中止するなら、その程度の交換条件は必要だろう。)

すなわち北朝鮮の核開発という脅威は何も去っていませんし、北朝鮮が砲門をソウルに向けている問題も解決していません。それなのに、一方的に米韓合同軍事演習を中止してしまったトランプ氏の姿勢に、WSJは疑義を呈しているのです。

「発言がブレまくるトランプ政権」?

ただ、この社説が公表されてから1週間が経過しましたが、何となくトランプ政権の姿勢が見えてきた気がします。それは、シンガポールでの米朝首脳会談から2週間弱が経過した先週金曜日、トランプ氏が北朝鮮制裁を1年間継続することを表明したからです。

これについては不思議なことに、米国のメディアはあまり報じておらず、大きく報じているのは、主にBBCやテレグラフなどの英国メディアです。

Trump says North Korea still ‘extraordinary threat’(2018/06/23付 BBCより)
Donald Trump says North Korea still poses ‘extraordinary threat’ as he extends sanctions for a year(2018/06/23 2:03付 Telegraphより)

これらの報道を読むと、あきらかに混乱が見て取れます。たとえばBBCの場合は

US President Donald Trump has renewed sanctions on North Korea, citing an “extraordinary threat” from its nuclear weapons – just 10 days after saying there was no risk from Pyongyang.(ドナルド・トランプ米大統領は北朝鮮の核兵器を『異常な脅威だ』と述べたうえで、北朝鮮に対する制裁を継続すると述べた。彼自身、北朝鮮のリスクが除去されたと宣言してから、わずか10日しか経過していないにも関わらず、だ。)

としていますし、テレグラフも

President Donald Trump on Friday cited “an unusual and extraordinary threat” from North Korea’s nuclear arsenal to extend sanctions on Kim Jong-un’s regime. (ドナルド・トランプ大統領は金曜日、北朝鮮の核兵器は『異例で非常に強い脅威だ』としたうえで、金正恩体制への制裁を延長すると発表した。)(テレグラフ)

と述べ、いずれも「トランプ氏自身が前言を撤回したのではないか」というニュアンスで報じています。

私自身もトランプ氏の発言をリアルタイムで聞いていましたが、正直、北朝鮮問題に限らず、中国との通商問題や在韓米軍撤収問題などを巡り、この人物の発言はブレまくりであり、同氏の意図を正確に理解するのは、なかなか骨が折れる問題です。

トランプ氏は「発言」より「行動」

米国の「真の狙い」とは中国封じ込め

ただ、私自身は正直、トランプ氏の意図については、「発言」を通じて理解するのではなく、「行動」を通じて理解すべきだと考えています。

英米メディアがトランプ氏の発言や行動の意図を巡り、混乱しているのはそのとおりかもしれませんが、トランプ氏の「発言」を無視し、実際にトランプ政権が取っている「行動」だけをつなぎ合わせてみると、どうも米国の戦略が、「一本の線」で繋がるように思えてならないのです。

あくまでも私自身の主観的な解釈も交えながら申し上げるならば、「米国の東アジア・インド太平洋戦略の抜本的な見直し」であり、「中国の台頭というリスクへの対処」にあります。米国にとっては、アジア太平洋地域の同盟国は日本、オーストラリア、ニュージーランドであり、潜在的な敵対国は中国、ロシアです。

古今東西、いかなる国であっても、同盟国との関係を強化しつつ、敵対国をできるだけ絞り込んで対決するのが定石です。その際、同盟国も「もっとも強い関係」にあるという相手国もあれば、「単に敵対していない」という状況の相手国もあるでしょう。

米国にとっては、最も重要な同盟国は日本であり、次いでオーストラリア、ニュージーランド、インドなどが続きます。また、トランプ政権はもしかすると、在任中にあわよくば台湾との関係を改善し、国交回復と軍事同盟締結を狙っているのかもしれません。

一方、米国にとっての最大の「仮想敵国」は中国ですが、それと同時に、中国に味方をする可能性がある国(ロシア、北朝鮮、韓国、ASEAN、パキスタン、イランなど)については、個別に分断を図り、少なくとも米国の国益を損ねない状態に持っていく必要があります。

ロシア、北朝鮮、韓国を中国から「分断」?

そういえば、日本のメディアはあまり注目していませんが、今月初旬、WSJは「トランプ氏がロシアのG7復帰を呼びかけた」と報じています。

Donald Trump’s Call for Russia to Rejoin G-7 Jolts Start of Summit(米国夏時間2018/06/08(金) 18:21付=日本時間2018/06/09(土) 07:21付 WSJより)

もっとも、この構想については、今年のG7議長国であるカナダのトルドー首相は記者会見で、「現時点でのロシアのG7復帰については考えていない」とシンプルに答えており、ほかのG6諸国からはまったく支持されていないことがわかります。

しかし、こうした「唐突感」のあるトランプ氏の言動は、「中国とロシアの分断」にあるのだとすれば、合理的にすっきりと説明が付くように思えるのです。なぜなら、G7への復帰を提案されて、ロシアのプーチン大統領にとっても悪い気はしないはずだからです。

6月12日の米朝首脳会談も、北朝鮮を中国から「分断する」という「効果」があった、という見方もできるでしょう。

もちろん、金正恩には「背に腹」は変えられない、という事情もあり、その分断工作が単純に成功したとまでは言えません(『【昼刊】金正恩訪中の2つの目的と日本批判の真意』参照)。しかし、米朝両国が「対話ムード」に変わったことで、間違いなく中国のポジションは悪化しているはずです。

さらに、米韓軍事演習の中断にしても、「米国が北朝鮮を自陣営に取り込むことができれば割に合う」という判断があるのかもしれません。さらに、仮に朝鮮戦争が「終戦」すれば、理屈の上では米軍を朝鮮半島に置いておく必要がなくなります。

ずばり仮説を申し上げるならば、米国の目的は中国の孤立化にあり、その中間段階として、米国が朝鮮半島の「非武装中立化」を目論んでいる、という可能性があると思うのです。

「悪いことは言わない、およしなさい」

誤解しないでいただきたいのは、以上の仮説は、私が「そうなってほしい」と思って書いたのではない、という点です。私自身、米国が北朝鮮を自陣営に取り込もうとしているのではないかと疑っていますが、これについては『危なっかしい米国の北朝鮮外交』で申し上げたとおり、

悪いことは言わないから、およしなさい

と申し上げたい気持ちでいっぱいです。

もちろん、私自身は、日本と米国は同盟国であり続けるべきだと考えていますし、米国が中国と対決姿勢を取ること自体は、うまくやれば、日本の国益にも資することだと思います。なぜなら、日本は米国とは価値を共有していますが、中国とは価値を共有していないからです。

米国が韓国を「切り捨てる」という動きを見せていることは事実ですし、また、韓国という国が「近代国家としての価値」を理解していない以上、日本や米国から切り捨てられるのは仕方がない話だと思いますが、だからといって、「韓国の代わりに北朝鮮をチーム海洋に加える」というのは無理筋です。

現在、米中関係や米韓関係が急激に悪化していることは事実であり、米中関係・米韓関係の悪化が米国にとっての日本の相対的な重要性を高める方向に動くことも間違いありません。しかし、その過程で北朝鮮を取り込もうとする動きが出ることについては、慎重に見る必要があると思います。

いずれにせよ、先週金曜日時点で、トランプ政権は北朝鮮に対する経済制裁を解除するつもりがないことを明らかにしました。このこと自体は歓迎すべきであり、北朝鮮に対する最大限の圧力を継続しなければならないことは指摘するまでもありません。

しかし、トランプ氏という発言がブレまくる人物の方針を見極めることは、決してたやすいことではないというのも事実である、という点については、今後も注意点であるといえるでしょう。

新宿会計士:

View Comments (2)

  • おはようございます。
    トランプ氏はかなり意図的に発言していると思いますので、何か裏があると思います。言葉をそのまま信じるのは危険だと思います。中国の時も習近平を褒めつつも結局関税をかける、今金正恩を褒めても、これで米朝関係が良くなると油断すると危ないと思います。
    アメリカは北朝鮮を取り込むなどは考えていないと思います。米軍再編を考えると、やはり日本ー台湾ラインが中国封じ込め、そして米軍自身は南シナ海にもっと兵力を割きたいのではないかと思います。韓国に配置している軍はグアムに移転して、西大西洋からインド洋全体に睨みを効かせたい、この融和ムードを利用してそのような展開に持ち込みたいのではないでしょうか。

    対北朝鮮は空爆がメインで米国は陸上戦に参加する意思はないと思います。米国にとっては陸上戦は韓国軍(北朝鮮に比べ圧倒的に近代化された軍ですから、通常なら問題なく勝てるはずですが)に任せたいでしょう。在韓米軍は対中国としては意味がありますが、対北朝鮮では前線に近すぎて縮小したいと思います。ちなみに日本の岩国基地にオスプレイが配備されていますが、オスプレイはちょうど岩国ー平壌を往復できるそうです。

  • トランプの本質は文在寅と変わらないポピュリスト政治家でしかなく、発言には一切の整合性とか実現可能性はないと考えるべきでしょう。
    それをなんとか現実に即した落としどころにまとめる実務家がいるかどうかの違いはありますが。
    (韓国の場合取り巻きも同類なので、完全に終わっています)

    韓国へのネットミームに「理由は聞くな どうせ大したことは言っていない」というのがありますが、トランプの場合
    「なぜかとか考えるな どうせ大した理由は考えていない」と言うべきでしょうね。