WSJ「ドイツ銀行の米国事業にトラブル」報道に嫌な予感

米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)がドイツ銀行の米国事業に「トラブルが生じた」と報じています。これが金融市場の暴落などの前触れでなければ良いのですが、どうも嫌な予感がしてなりません。そこで、少しマニアックで恐縮ですが、金融商品会計とバーゼル規制という、本来の私自身の専門分野と、金融危機の関係について議論しておきたいと思います。

ドイツ銀行巡る報道

ドイツ銀行に「トラブル」――WSJ

私のポリシーで、政治家、国家公務員、都道府県知事・市町村長らの「公人」や、ジャーナリストなどの「言論人」、政党、官庁、新聞社、テレビ局などの「社会的権力者」については、実名でバシバシ批判して良いと思っています。

しかし、それ以外の個別企業に対する批判は、できるだけ控えています。最近、上場廃止の危機があった某総合電機大手企業や、今世紀初めに集団食中毒事件を起こした某乳製品企業などについても、実名を挙げないようにしていたつもりです。

(※もっとも、ビジネスマンの方からすれば、実名を隠してもバレバレだと思いますが…)

しかし、本日はその禁を破り、企業の実名を挙げてみたいと思います。その企業とは、「ドイツ銀行」(Deutschebank)です。

というのも、日本時間のさきほど、米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が、「ドイツ銀行の米国事業部門が米FRBによって『困った状況』(troubled condition)と認定された」、と大々的に報じているからです。

Deutsche Bank’s U.S. Operations Deemed ‘Troubled’ by Fed(米国夏時間2018/05/31(木) 08:05付=日本時間2018/05/31(木) 21:05付 WSJより)

WSJの書き出しは、あくまでも「事情に詳しい関係者の話(according to people familiar with the matter)」として、

The Federal Reserve has designated Deutsche Bank AG’s sprawling U.S. business in “troubled condition,” a rare censure for a major financial institution that contributed to constraints on its operations,

と報じています。FRBは米国の中央銀行ですが、それと同時に米国の銀行を監督する主体でもあります。その前提知識を持ったうえで、この文章を意訳すれば、

FRBはドイツ銀行AGが米国で広く展開しているビジネスが『困った状況』になったと認定した。大手の金融機関にこのような認定が行われるのは異例のことだ。

といったところでしょうか。

WSJによれば、この関係者は、ドイツ銀行に対するFRBによる「トラブル認定」がなされたのは1年前のことであり、かつ、この決定は外部に公表されないものだそうです。いわば、内部評定制度のようなものですが、これが外部に流出したとなれば、再びドイツ銀行に対する経営不安報道が流れかねません。

IFRS金融商品会計破壊事件

ところで、日本では「国際財務報告基準」(国際会計基準、IFRS)といえば「国際的に通用する会計基準だ」として持てはやされていますが、私はこのIFRSについてはインチキ会計基準だと考えています。

リーマン・ブラザーズの経営破綻に端を発する金融危機(日本語で「リーマン・ショック」)の直後、2008年10月31日の英フィナンシャル・タイムズ(FT)に、こんな記事が掲載されました。

Accounting changes aid Deutsche Bank profits(2008/10/31付 FTより)

これによると、本来であれば「リーマン・ショック」の直後に金融市場の流動性が損なわれていて、時価が暴落しているはずのトレーディング商品を、「時価会計が適用されない区分」に変更したことにより、ドイツ銀行が8.45億ユーロの減損逃れをしたと報じているのです。

該当するFTの記事を抜粋しておきましょう(あえて訳は付しません)。

Deutsche reclassified almost €25bn ($32.4bn) of assets as loans that it will now hold until maturity, including €7.1bn of funded leveraged finance loans – which the bank had intended should be sold on – and €9.7bn in asset-backed commercial paper conduits. / Through the shifts, Deutsche – which announced €1.2bn of write­downs – avoided a further €845m of writedowns on some assets. The changes helped the bank raise net income by €536m and meant Deutsche booked a quarterly net income of €414m.(下線部は引用者による加工)

記事の中でユーロを米ドル表示している下りがありますが、為替レートについては当時のままであり、記事については変更していません。

ここで “reclassify” という単語が出て来ますが、これは金融商品会計の専門用語で「区分変更」という意味です。要するに、時価会計・P/L処理が適用される区分(日本基準でいう売買目的有価証券)から、時価会計が適用されない区分(貸付金・債権)に変更したのです。

これは、いわば欧州の金融機関にだけ認められた大がかりな「粉飾決算」です。しかも、このようなことを国内金融機関に容認したアンゲラ・メルケル独首相が、いまだに政治責任を取らず、ドイツの首相の座に居座っているということ自体、私には信じられません。

いずれにせよ、ドイツは『【速報】イタリアのユーロ離脱不安が招くリスク回避』でも少しだけ触れましたが、ユーロ圏危機の実質的な原因を作った国であり、また、欧州を長期停滞にぶち込んだ犯人でもあります。

そのような国のドイツ銀行が、歪んだIFRSという会計基準で損失逃れをやったという事実については、きちんと認識しておく必要がありそうです。

CoCo債の利払い停止と金融パニック

実は、ドイツ銀行を巡っては、数年前も「CoCo債」と呼ばれる債券(正しくはAT1証券)の利払が停止するとの噂から、金融市場にちょっとした衝撃が走ったことがありました。

Deutsche Bank CoCo bonds trading surges as crisis deepens(2016/09/28付 Reutersより)

この「CoCo債」とは、金融機関に適用される「バーゼルⅢ規制」上の自己資本の一部である「その他Tier1資本」(Additional Tier 1)への算入が認められる証券のことです。

資本算入が認められる要件が、「自己資本比率(CET1比率)が5.125%を割り込みそうになった場合などに、利払いの停止が行われるものであること」、というものであり、仮にCoCo債の利払が停止されれば、「ドイツ銀行のCET1比率が低下している」との観測を招きかねません。

このため、バーゼル規制の意図とは裏腹に、実際には大規模な銀行のAT1の利払が停止した瞬間、再び金融危機が広まってしまいかねないのです(といっても、この点については金融規制ウォッチャーである私自身の私見です)。

欧州がきなくさい!

怪しいIFRSに警戒せよ

ところで、IFRSという言葉は、最近、頻繁に目にするようになりました。もともとは欧州を中心に開発されてきた会計基準の体系だったのですが、今や、米国を除くほぼ全世界(とくに欧州)で使われるようになっている、極めて怪しい会計基準です。

IFRSとは「International Financial Reporting Standards」の略で、日本語に正しく訳せば「国際財務報告基準」です。しかし、日本の金融庁はこれを「国際会計基準」と誤訳しており、日本国内ではこの誤訳が正式名称となっています。

しかも、日本国内でIFRSを発音する時には、監査法人系の人間は勘違いして「いふぁーす」と呼んでいます。この「いふぁーす」とは、私が知る限り、某大手監査法人の人間が言い出したものですが、英語に「いふぁーす」という発音は存在しません。

「アいふぁーす」という発音が「アイ●ァック」(I *uck)を連想させるということで禁止になり、変わって「いふぁーす」という意味不明の発音が開発されたという噂があるのですが、真相は定かではありません。

ちなみに私はこれを、敢えて「アイエファーレス」と発音しています。出版社の方に対しても、会計業界の方に対しても、「『いふぁーす』という発音は間違っていますのでやめてください」と常々申し上げているのですが、この「いふぁーす」という間の抜けた発音がスタンダードとなっています。

それはそうとして、このIFRSを採用する日本企業の数が増えている理由は、おそらく、「のれんの償却が不要であること」、ただこの1点に尽きます。要するに、M&A好きな企業にとっては、日本の会計基準(JP-GAAP)だと発生してしまう「のれんの償却負担」を回避することができるのです。

しかし、欧州の大規模銀行がインチキ会計基準であるIFRSで再び金融危機の引き金を引くようであれば、今度こそ日本はIFRSを非合法化すべきです。場合によっては金融庁も解体されるべきでしょう。

欧州は政治、金融両面で破綻の危機にある

欧州といえば、中東あたりからの移民を大量に受け入れ、社会の崩壊が急激に進行しているとの話を聞きます。実際、フランスの首都・パリを歩いていても、すれ違う人のおよそ半数以上はアフリカ系の人々や、イスラム教徒です(※あくまでも私の主観です)。

安価な労働力をこき使う目的で、ドイツがトルコなどから移民を受け入れたのが走りだとされていますが、私の実感だと、欧州中心部(とくにドイツとフランス)は、こうした「安価な労働力としての移民」の人口が激増しています。もう「異なる文化を受け入れる」という次元ではありません。文明崩壊のレベルです。

一方、金融規制の専門家という立場から見れば、ユーロ圏には「周辺国債のデフォルト・リスク」、「ユーロ加盟国の離脱リスク」、「域内金融機関の経営破綻リスク」など、いくつものリスクを抱えています(とくに、緊縮財政原理主義のドイツが諸悪の根源です)。

その意味で私は、南北朝鮮や中国の次に崩壊するのは欧州連合(EU)だと考えています。その崩壊がどのような形になるのかは、現時点ではよくわかりませんが、少なくとも20年以内には、金融制度、社会の両面から深刻な状態に陥ることは間違いないと見ています。

日本は欧州の事例を他山の石としつつ、欧州の轍を踏まないよう、今のうちに移民労働の規制などを行うとともに、行き過ぎた緊縮財政については見直しを行うべきだと思うのです。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 招き猫 より:

    知り得ない情報ありがとうございます。
    バブル崩壊、ITバブル崩壊、リーマンショック、東北大震災、民主党政権の頃ですが株式市場は大変でした。実際半値八掛二割引きも実体験しました。売られるときは業績内容のいい会社でも容赦ないです。
    広い知識と読み解く力が弱いので半人前、ほどほどで行こうと思います。
    そういえばこんなところでもという観光地でもないのに中国語?韓国語?聞かれます。最近見かけた中国人の若者二人ドラッグストアーで買っただろう袋下げて自転車で私の近所で借りてるアパートだか住宅に消えて行きました。身なりは今の日本の若者風で乗っていた自転車も私の乗ってるのより新しくてカッコいいい自転車、なんで東京でもないこんな田舎なにと気になりました。軽井沢行けば必ずいるし桜やバラの花の綺麗な時期になると東京でも観光地でもないところにもネットの口コミ調べて来るんだか出現してます。韓国や中国が崩壊したらと思うと>>>こわっ

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