本日の「夕刊」は、昨日の米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)に掲載された記事を読んで抱いた、「やり場のない雑感」です。キリスト教会の善意は理解しますが、それによって北朝鮮の核放棄を達成することはできません。これをどう考えれば良いのでしょうか?
キリスト教と北朝鮮支援
米国で北朝鮮に対する関心高まる
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)をはじめとする米国のメディアを読んでいると、最近、「ある国」に関する話題が非常に増えていることに気付きます。
その国とは、「北朝鮮」です。
やはり、国民を飢えさせながら核・ミサイル開発に邁進する、この北朝鮮という国は、外国から見たら異常というほかありません。米国人も、「自国にミサイルが届くかもしれない」という脅威とともに、この異常な国を、複雑な目で眺めているのでしょう。
最近では、北朝鮮の英語表記 “North Korea” を略した「NK」という表現についても、一般化しつつあります。とくにニューズ・サイトの読者コメント欄などで、頻繁に見かけます。それだけ北朝鮮に関心を持つ米国人が増えている証拠といえるかもしれません。
ところで、北朝鮮に対して関心が高まっていること自体、私たち日本人にとっては好ましい話です。なぜなら、日本が同盟を組む相手国である米国で、北朝鮮の脅威が強く意識されること自体、極東の安全保障に米国を強く引き止める効果があるからです。
ただ、米国の「関心の持ち方」は、単なる「脅威」一辺倒ではありません。
WSJのレポート:キリスト教関係者と北朝鮮
こうした中、キリスト教国である米国らしく、WSJに昨日、こんな記事が掲載されました。
The Last Americans in North Korea: Christian Missionaries(米国夏時間2018/03/19(月) 14:23付=日本時間2018/03/20(火) 03:23付 WSJより)
タイトルを直訳すれば、『北朝鮮に残る最後のアメリカ人:キリスト教の宣教師』といったところでしょうか?
記事の冒頭には、支援用の食糧缶(FOOD FOR RELIEF)が写されています。国際社会が北朝鮮に対する厳しい経済制裁に踏み切りつつあることで、北朝鮮では幼い子供たちを含め、弱者が飢えに苦しんでいます。WSJは、こうした窮状を見かねて、危険を顧みず、自ら北朝鮮に出掛けるキリスト教会関係者の行動を取り上げているのです。
ただ、こうした活動は、米国内でも必ずしも理解が得られているわけではありません。WSJによると、ノースカロライナ州でキリスト教会の支援隊に属するクリスチャン・ライス(Christian Rice)氏は、北朝鮮の孤児院に七面鳥や大豆などの食料を支援する活動を行っていることについて、支援者から次のような疑念を突きつけられたそうです。
If North Korea can build the bomb, why can’t it feed its own people?(爆弾を製造する能力のある北朝鮮が、どうして自国民を飢えさせているのか?)
まったくの正論でしょう。
ただ、それでもライス氏をはじめとする人道グループに属する人々は、北朝鮮の支援を続けているのだそうです。実際、WSJによれば、北朝鮮に対する人道支援の額も、近年、急減していると指摘。その背景には、金正恩(きん・しょうおん)によるミサイル開発への制裁などもあるとしています。
いつも犠牲になるのは、一番弱い人たち
WSJの記事には、支援された食糧を食べる子供たちの写真が掲載されていますが、私自身、幼い子供を持つ人間の1人として、非常に悲しい気持ちになります。
おそらく、国際社会の支援は十分であはりません。こうした中、国連児童基金(ユニセフ)も1月に、「5歳未満の幼児約6万人が深刻な栄養失調状態にある」とする推計を発表しています。
北朝鮮で幼児6万人が飢餓に直面 ユニセフが推定、制裁で援助遅れ(2018.1.31 10:24付 産経ニュースより)
犠牲になるのは、いつも一番弱い人たちなのです。
もちろん、米国内でもこのキリスト教ミッション団の活動に対しては「偽善だ」、「人道支援によって北朝鮮の核放棄を達成することはできない」といった批判の声があることは事実でしょう。実際、私だってそう思います。
しかし、WSJの記事は、キリスト教ミッション団の活動を通じて、困窮する北朝鮮の弱者の姿を淡々と切り取っているものです。私はジャーナリストではありませんから、こうした惨状を、北朝鮮の現地に出掛けて直接、知ることはできません。
その意味で、批判を覚悟でこの記事を掲載してくれたWSJには感謝したいと思いますし、あえて「人道支援は何も成果をもたらさない」といった「わかり切った批判」をすることは控えたいと思います。
北朝鮮問題の「本質」とは?
ただ、誤解してはならないのは、北朝鮮がこのような窮状に陥った最大の原因が、北朝鮮自身にある、という点です。いや、もう少し正確には、金正恩を含めた北朝鮮の歴代独裁者の問題でしょう。彼らが核・ミサイル開発を続けて来たことで、国際社会に脅威を与えつつ、国内の弱者を苦しめているのです。
その意味で私は、「北朝鮮の子供たちが可哀そうだから北朝鮮への経済制裁を緩めるべきだ」、と主張するつもりはありません。弱者が困窮している映像を世界に流し、制裁を緩めさせようとするのは、独裁者の常套手段だからです。
なにより、いつも当ウェブサイトで申し上げているとおり、古今東西、「国」の目的は、たった2つしかありません。それは、「国民の生命と財産を守ること」と、「国民が豊かで文化的に暮らしていけること」、です。この2つの目的に照らして、北朝鮮はどうでしょうか?
北朝鮮は、自国民の生命も財産も守ろうとしませんし、国民は赤貧洗うがごとき生活を余儀なくされています。そのように考えていくならば、やはり、北朝鮮という国自体、「間違った国」なのです。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ただし、北朝鮮に暮らす人々が飢えと人権侵害に苦しんでいることは確かですが、現実問題として、現在の私たち日本人にできることは、非常に限られています。
それに、私たち日本人の中には、「核開発」や「日本人拉致問題」などの問題が解決すれば、決して関わりたくない国だと思う人も多いでしょう。
しかし、それと同時に、北朝鮮が日本に対して、日本に不法侵入して日本人を拉致してみたり、日本の国土で泥棒を働いてみたり、と、さまざまな形で関わろうとして来ていることは事実です。その意味で、本当に厄介な国が存在しているものです。
ただ、北朝鮮とどう関わっていくかという問題は、私たち日本にとって、究極的には、国際社会とどう関わっていくかという問題と同じです。少なくとも「北朝鮮が核武装しても良い」、「日本人拉致事件は解決しなくても良い」といった無責任な姿勢では許されません。
こうしたなか、これまでの当ウェブサイトにおける議論を振り返ってみて、1つ気付いた点があります。それは、
「日本と朝鮮半島の、本当の理想的な関わり方」
というテーマについて、あまり論じて来なかった、という点です。
これまで、「朝鮮半島は将来どうなるのか」(例えば『朝鮮半島の将来シナリオ・2018年3月版』など)、「日本における韓国との関わり方の議論のまとめ」(例えば『滅亡に向かう韓国との関係をマネージする』など)といったテーマで記事を執筆してきたことはあるのですが、いずれの記事も「現状から考えたらこうなる」といった「現実主義的な視点」に立脚するあまり、理想論を疎かにして来たという反省があります。
折しも、5月までに米朝首脳会談が行われるとされています。当ウェブサイトでは近日中に、「理想的な日本と朝鮮半島の付き合い方」について、いちど議論しておきたいと思います。引き続き、当ウェブサイトにおける議論に、どうかご期待ください。
View Comments (3)
北朝鮮の指導者の生に対する執着が強すぎるのではないかな。核爆弾を持つということは、他国から攻められて自分の生命が無くなることを恐れているからだと思う。国民が助かるなら自分の生命などどうでもいいなんて指導者だったらそもそも核爆弾を持たないし、日本を含む他国の援助も得られただろう。核爆弾は放棄して、現指導者は全員引退、日本の信託統治になってもいいから北朝鮮国民を助けてくれといわれたら、日本だって援助せざるを得ない。北朝鮮国民の数からいって、日本はとっても困ると思うけど、仕方がないよね。そこまでいくと、政治も経済もドラスチックに変えられるから、日本から工場をもっていったりすればちゃんと商売ができてご飯をいっぱい食べられるようになる可能性がある。もちろん、何十年も軍事政権でやってきたので、商売の基本から教えないといけないと思うけど。最終的には今の現役世代が引退して、新しく教育を受けた世代ががんばれる30年ぐらいの月日はかかるけど、立ち直ることはできると思うよ。
キリスト教の人は援助はするけど、被援助者は援助されるだけで独立できないからね。いつまでも援助するかという話になる。そのうち援助慣れして独立できなくなったらどうするかという問題もある。自分たちで独立して生計を営むことができるのがよいのではと思う。
< 夕刊の発信ありがとうございます。
< キリスト教団体の人道的支援は、餓死寸前の子供達を助けるという危険な地域と交渉し、配給するという頭の下がる行いです。しかしアフリカの最底辺最赤貧国ならともかく(実際、困窮国ワーストでしょうが)、なぜ30〜40年もの長きに渡り、年何万人も餓死者が出るのでしょうか。金王朝三代で、工業も農業も漁業もあらゆるタダでさえ乏しい生産物や、資産を金一族と一握りの労働党幹部と、軍事力に注ぎ込んだからですね。一つ例を挙げると、在日朝鮮人の帰還事業でも『病気になったら医療費は無料だ』と言ってた。これは子供ながら聞き覚えがある。そりゃ付ける薬も無い、ベッドも無いでは無料だろ(笑)。
< そんな『棄民』状態に捨てられ、働きは絞りとられ、それでも不平言えば良くて地方強化所送り、体制批判すれば山奥の労働強化所で死ぬまで出れないか処刑。こんな非道を米国人らは、本当に理解しているのだろうか。核装備という『目の前の危機』は理解不能の人も多いでしょう。
< キリスト教系人道主義団体が、施すことはあの体制を維持する事に繋がらないか。餓死させよ、と言っているのではない。私は集めた浄財が、すべて子供達に行き渡っているとは思えない。寧ろ援助金は里親制度等、救い出す方がマシではないか。ロクな育ち方出来ないなら、その方がいい。日本人の子供達もキリスト教系団体に助けられた時代がある。しかし、そんなものは終戦から長く見ても10年間です。すぐ国家として助ける側に回った。このまま与え続けるのは、決して周辺国には望ましい事ではありません。
< 『理想的な日本と朝鮮半島とのつきあい方について』私の現状の意見を申しますと、南北がどうなるか変数が多すぎるので、難しいです。でも私の考え方は、「無理して仲良く振る舞う必要は無い」です。韓国は北に吸収されようが、中国の属国になろうが反日はやめない。保守政党が政権とっても同じ。北朝鮮は、金正恩が倒れて韓国と統一、或いは中国の傀儡で独立しても、国民は世界知らず、世界オンチ、今の5歳以下を教育して、つまり30年ぐらいはかかる。
日本としては、解放されても難民が押し寄せない程度の付き合い、リスクは韓国に押し付ければいい。
< 失礼します。
いつも知的好奇心を刺激する記事の配信有難うございます。
理想的な日本と朝鮮半島の付き合い方に対する当方の見解です。
以下駄文にて皆様の知的好奇心のお役に立てれば幸いです。
>【古今東西】、「国」の目的は、たった2つしかありません。それは、「国民の生命と財産を守ること」と、「国民が豊かで文化的に暮らしていけること」、です。この2つの目的に照らして、北朝鮮はどうでしょうか?
>北朝鮮は、自国民の生命も財産も守ろうとしませんし、国民は赤貧洗うがごとき生活を余儀なくされています。そのように考えていくならば、やはり、北朝鮮という国自体、「間違った国」なのです。
管理人様の文章に関しましては日本に限定した文章なら間違いではありません。
仁徳天皇の御世から日本の支配階級は民草に対して管理人様の書かれた通り接してきたと思います。
しかしそれは海によって外部から大量の人間の流入が難しい日本限定でのケースです。
古今東西に適用範囲を広げるなら、以下の通り少し語句を変える必要があると思います。
「主権者の生命と財産を守ること」と、「主権者が豊かで文化的に暮らしていけること」です。
この場合の主権者は王(皇帝)とその一族であったり、(ローマ等)市民であったりします。
勿論近代国民国家の場合は主権者=国民です。
北朝鮮の主権者はどうでしょうか?
明らかに主権者は金正恩とその一族・取り巻きです。一般の人間は主権がありません。
実態は専制国家なのです。
但し国名は息を吐くように嘘を書いてますので。
朝鮮「民主主義」「人民」「共和国」
ですから。
当然アメリカの人たちは支配者も一般人も人間が神の下の平等のような「絶対平等観に基づく」統治をイメージします。
日本人も同様と思います。日本人も人間観を絶対平等観に基づいているのは1000年以上の歴史を持ちます。
でないと万葉集に防人の歌が天皇の御歌と同列で載りません。
絶対平等観に基づくフィルタで北朝鮮を見ればWSJの様な「困惑が当然出る」と思います。
当方思うに、朝鮮半島は「人間・国家間において絶対的不平等による朱子学的秩序に基づいた」関係で成り立ちます。下位側の価値など鴻毛より軽いものです。
当方が消極的ながら誅韓論を主張するのは上記関係にてわが国が秩序の上位に立つためには、力の誇示と
力を実際に振るわれる恐怖を相手に与えることが「必須」と思われるからです。
こういった分析が本当に正しいか日米上層部で分析し、必要なら両国民に啓蒙が必要でしょう。
もしこのように北朝鮮が専制国家である分析が正しいときに何をすべきかは、他ならぬ日本国憲法が前文で明らかにしています。
-以下憲法前文抜粋
平和を維持し、「専制」と隷従、圧迫と偏狭を「地上から永遠に除去」しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。
-ここまで
どうすべきか明らかと思うのですが。
以上です。長文失礼しました。