久しぶりに、「金融評論家」らしく、通貨と金融についての専門的な議論を掲載したいと思います。ただし、正確さを心がけつつも、どなたにでも気軽に読んで頂けるよう、できるだけ難しいことばを使わないようにしています。面白いと思っていただければ幸いです。
目次
誰かの借金は誰かの資産
とても貴重なコメント
一昨日、『【夕刊】たかが100億フランに韓国が「狂喜乱舞」する理由』という記事を配信しました。
これは、簡単にいえば、韓国がスイスとの間で最大で100億フラン(約108億米ドル)の現金を、韓国ウォンと交換することができる、という通貨スワップ(BSA)を締結したことを、韓国メディアがそれこそ喜々として報じた、というものです。
ちなみに、100億フランと引き換えにスイスに提供しなければならない通貨は11.2兆ウォンで、2月20日時点の為替相場(1スイス・フラン=1,148.41韓国ウォン)よりは少ない金額です。これでよくスイス当局が韓国とのBSAに応じたものだと感心します。
それはさておき、この記事に対し、読者の方からこんなコメントを頂きました。
「素人なんで素朴に思うのだが、国ってどうしてこんなにお金が必要なのかと。たかが100億フランですが、日本円に換えて現金で持っていたらうちの田舎の家は床がたぶん抜けます。日本の外貨準備高はだいたい100兆円くらいだそうですが、見当がつきません。韓国が外国から借りているお金も20兆円ぐらいのようですが、よくも借りたものです。なんか中国もにたような状態のようですが、中国がお金が用立てられなくてIMFに泣き付いても経済規模がでかすぎて救済できないんじゃないでしょうか。ちょっと5兆ドルほど借りれないかとIMFに言っても無理なんじゃないかな。
思うのだけど、国家ってどこも結構お金が厳しいかんじ。日本は国家が借金でいっぱい。中国は地方政府が借金でいっぱい。韓国は家計や公企業が借金でいっぱい。ドイツはどうもドイツ銀行が不良債権だらけ。完全に健全ですってところはEUの田舎の国ぐらいで、それは国際経済に影響がほとんどなし。なんか、借金が世界中でやたらめったら多いのだけど、これが通常運行なのか?と思う。」
非常に鋭い視点です。
コメント主様は「素人の素朴な疑問」と仰いますが、こうした「気付き」は非常に大切であり、また、本質的なところを深く突いています。まさに、ウェブ評論活動を行っていて、本当に良かったと思う瞬間です。
私自身は「金融評論家」を自称しているため、当ウェブサイトでもしばしば、国家債務について議論してきました(たとえば『国の滅亡と国家のデフォルト』や『またぞろ復活!日韓スワップ再開論に要注意』などをご参照ください)。ただ、冷静に考えてみると、「借金そのもの」について議論したことはありません。
たとえば、「国の借金は1000兆円を超えているが大丈夫か?」といった議論と、その前提となる「そもそも論」を提供することについては、「金融専門の会計士」として、私が社会に貢献できる領域の1つだからです。
そこで本日は改めて「そもそも論」に立ち返り、議論の前半として、「借金そのものの本質」について考えてみたいと思います。
「借金」は「悪いこと」?
「借金」、という言葉があります。
これは小学生でも知っている単語ですが、わかりやすく言えば、「おカネを借りていて、いつかはそれを返さなければならない状態」のことです。
日本語の「借りを作る」という表現もあるとおり(反対語は「貸しを作る」)、この「借」という漢字には、「何か良くないこと」というニュアンスが含まれている節があります。
また、プロ野球の世界では、「借金」は「負け越し」という意味でも使われているようですが、この場合の「借金を返す」とは、試合に勝って負け越しの状態を解消することを指すそうです。逆に「勝ち越し」を「貯金」と呼ぶこともあります(※といっても、私は野球にはそれほど詳しくないので、厳密な「貯金」「借金」の数え方について深く知りたい方は、他のウェブサイトを検索してください)。
つまり、「借金」とは「何か悪いこと、やましいこと、負い目を負っている状態」のことであり、「貯金」とはその反対語、というわけです。
また、日本人には「借金は悪徳」「貯金は美徳」、という考え方を持っている人も多いと聞くことがあります。
「日本語の『借金』という言葉に悪いニュアンスがある」といえば、読者の皆様の間でも、「あぁ、そうだね。」と思う方は多いのではないでしょうか?
「国の借金」という意味不明の概念
そして、この「借金」という俗語を使った問題表現が1つあります。
それは、「国の借金」です。
「国の借金が1000兆円を超えた」と聞くと、「国民1人あたり850万円もの借金を抱えているのと同じだ」、「日本はいつか財政破綻するに違いない」、「だから、消費が落ち込んでも良いから、今すぐにでも消費税率を引き上げなければならない」という短絡的な議論に繋がりがちです。
この「国の借金」という議論、「天下の日経新聞様」が堂々と使っています。
「国の借金」9月末で1080兆円 国民1人あたり852万円(2017/11/10 18:03付 日本経済新聞電子版より)
私たちにとって、852万円という金額は巨額です。
いや、中には「そんなカネ、大したことない」と思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、少なくとも私にとっては、852万円を今すぐ返せ、と言われたら、困ってしまいます。
しかも、これは「国民1人あたり」です。私のように家族がいれば、たとえば3人家族ならば2556万円、4人家族ならば3408万円の「借金」を抱えている、というロジックでしょうか。
この「国の借金」、「国民1人あたり」という報道、いい加減にやめてもらいたいところです。なぜなら、「国の借金」なる概念など、この世に存在しないからです。
正確な概念は、「中央政府の金融負債」です。
そして、「国民1人あたり」で割ってもまったく意味がありません。なぜなら、中央政府自体、経済主体としては日本国民とは全く別に存在していて、国民には第一義的にこれを返す責任など存在しないからです。
財務官僚がこの記事を読めば、
「そんなことはない!国の借金は将来の日本国民が負担しなければならないものだから、1人あたりいくらの負担をしなければならないかという数字には大きな意味がある!」
というウソを平気で言い放つと思いますが、この手のウソに騙されてはなりません。
そもそも論:金融資産と金融負債とは?
金融資産と金融負債は表裏一体の関係
その前に、本日は「そもそも論」として、「金融資産」と「金融負債」について論じておきましょう。
昨年末に出版した拙著からの引用で恐縮ですが、金融商品会計では、金融商品、金融資産、金融負債は一般的に、次のように定義されます。
- 金融商品とは:金融資産と金融負債のこと。
- 金融資産とは:現金と将来の現金収入を発生させる契約上の権利のこと。
- 金融負債とは:将来の現金支出を発生させる契約上の義務のこと。
ここで、「将来の現金支出を発生させる契約上の義務」と書いていますが、要するに、いつかおカネを払わなければならない状態のことであり、「借金」よりも広くて正確な概念です ((厳密に言えば、金融負債は金銭債権と株式・出資金に大別され、株式・出資金は元本を返済する義務がないので、金融商品会計的には「金融負債」ではありません。しかし、ここでは経済学の議論をするつもりなので、この点については割愛します。なお、詳しく知りたい方は、会社法や企業会計の入門書・専門書などを読んで下さい。)) 。
そして、金融資産と金融負債は、いわば、表裏一体の関係にあります。
たとえば、私たち個人が銀行から借りている「住宅ローン」は「銀行に対する金融負債」ですが、銀行側から見れば「個人に対する住宅ローン」です。また、企業が銀行からおカネ(運転資金や設備資金)を借りていれば、それも同様に「銀行に対する金融負債」ですが、銀行から見れば「事業法人に対する金融資産」です。
あるいは、企業が社債を発行すれば、その社債は、企業から見れば「社債権者に対する金融負債」、社債権者から見れば「その企業に対する金融資産」です。
さらにいえば、私たちのサイフに入っている「日本銀行券」とは、「日本銀行に対する金融資産」であり、日銀から見れば「現金保有者に対する金融負債」です(もっとも、現金自体は日銀から見ると無利子の永久債と同じであり、上記の「金融負債」の定義からは若干外れます。これについてはもし余裕があれば、「後編」を執筆する際にでも説明したいと思います)。
つまり、金融資産と金融負債は表裏一体の関係にあり、常に「誰かの金融資産は誰かの金融負債である」という関係が成り立っているのです。
ということは、個人から見た貯金(正確には「現金預金」)とは、中央銀行や金融機関から見た負債(俗語でいう「借金」)です。あるいは俗語で言い換えれば、
「誰かが貯金をするということは、誰かが借金をしている」
ということです。その意味で、「借金は悪」「貯金は善」という思い込みは、前提から誤っているのです。
金融負債のレバレッジ効果
もちろん、おカネを借りて返せなくなる事態は非常に困ります。
たとえば、中小企業だと、銀行からおカネを借りて、従業員に給料を払ったり、仕入先に仕入代金を支払ったりしていますが、売上先が倒産して売上代金が入金されなくなった瞬間、銀行からの借入金が返せなくなって連鎖倒産してしまうことがあります。
しかし、その一方で、十分な収入があって、債務の元利金を十分に返している状態であれば、「借金」をすることは何も問題がありません。それどころか、利益率を高めるという効果が得られます。
- ①売上高=総資産×資産回転率
- ②総資産=負債+資本
- ③利益=売上高-資本コスト
- ④資本コスト=負債×利子率×+資本×株主還元率
という4つの計算式が成り立っていたとします。
このとき、この会社は、総資産の額が多ければ多いほど、売上高を増やすことができます。
たとえば、資本金1億円を投資して資産回転率が100%の業界に参入すれば、①式から、1億円の売上高が期待できます。そして、株主還元率が50%だったとすれば、④式と③式から、利益は5000万円と計算できます(1億円-1億円×50%=5000万円)。
ところで、普通の個人だと、自己資本だけではどうも十分に事業を展開することができません。
そこで、銀行などの金融機関からおカネを1億円借りれば、売上高を一挙に2億円に増やすことができます(①式と②式)。そして、この負債の利子率が20%だったとすれば、④式と③式から、利益を一気に1.3億円にまで増やすことができます(2億円-1億円×50%-1億円×20%=1.3億円)。
いかがでしょうか?
- ⑤おカネをまったく借りないで事業を営んだ時の利益は、5000万円
- ⑥おカネを1億円借りて事業を営んだ時の利益は、1.3億円
⑤と⑥を比べると、総資産の違いは2倍ですが、利益は2.6倍に増えます。つまり、利益は2倍以上になっています。これを一般に「レバレッジ効果」と呼びます(本当は負債コストに税効果を勘案したり、営業経費を勘案したりする必要もありますが、ここでは省略しています)。
このように考えると、
- ⑦おカネを2億円借りて事業を営んだ時の利益は、2.1億円
- ⑧おカネを3億円借りて事業を営んだ時の利益は、2.9億円
と、どんどんと利益水準を高めることができます。
逆に言えば、「負債利子率を事業利益率が上回っている場合」には、その状態が続いている限りは、ドンドンとおカネを借りて事業を拡大すべきなのです。
事業にはリスクがある、個人には寿命がある
ただし、民間企業が行う事業には、常にリスクが伴います。
たとえば、「儲かる」と思って事業を始めたものの、競合他社が新規参入してしまったことで利益率が下がり、思ったほど儲からなかった、というようなケースです。
また、個人で事業を営んだり、住宅を買ったりしておカネを借りた場合には、一般に死ぬまでにおカネを返す必要があります(ただし日本の住宅ローンの場合は団体信用生命保険が存在するため、住宅ローンを返す前に亡くなった場合には保険金が下ります)。
だからこそ、「借り過ぎ」はダメです。
こうした「企業財務分析」は、私たち公認会計士の専門領域の1つですが、たとえば「デット・エクイティ・レシオ」や「レバレッジ・レシオ」などの指標を使って企業経営の健全性や成長性を見るのは、企業財務分析の基本中の基本です。
また、銀行員の皆さんは、個人事業者や中小企業におカネを貸す場合、その経営者の資質を見極めることも重要ですが、その前にスコアリングを行い、経営の健全性を検討しなければなりません。
いずれにせよ、「借金だから自動的に悪」「貯金だから自動的に善」という考え方は、経済の鉄則からして間違っています。
- 「おカネを借りるなら、返せる範囲で借りること」。
- 「おカネを貸す方は、返ってくるかどうかを見極めること」。
これが、事業融資の世界の鉄則です。
国家の金融負債の特徴
国家は通貨発行権限を持っている
では、おカネを借りる主体が企業や個人ではなく、国家だった場合には、どうなるでしょうか?
もちろん、国家であったとしても、おカネを借りたら、きちんと返さなければなりませんし、おカネを踏み倒せば、たとえ相手が国家であったとしても、誰も貸してくれなくなります(といっても、戦争などの混乱期を除きます)。
しかし、国家には、企業や個人にはない、1つの大きな特徴があります。
それは、「国家は貨幣を発行する権限を持っている」、という点です。
もちろん、日本や米国、英国などの場合は、通貨発行権限を持っているのは「政府」ではありません。「中央銀行」です。ですが、これらの国の場合であっても、議会で法律を通せば、通貨発行権限を中央政府に移すこともできます(もちろん、そんなことは絶対にやらないと思いますが…)。
また、中国の場合だと、いちおう、中国政府と中国人民銀行と人民解放軍は別組織ですが、最終的には中国共産党という「絶対権力を持つ独裁者」の支配下にありますので、習近平(しゅう・きんぺい)国家主席の「ツルの一声」で、いくらでも紙幣を刷ることができてしまうのではないでしょうか?
いずれにせよ、中央政府はいくら「借金」を重ねても、自国通貨でおカネを借りている限りは、「絶対に」デフォルトしません。
※米国で議会が債務上限を緩和する法律を通さなかったために、米国ではたびたび、政府の「シャットダウン」が発生していますが、これも結局は議会が承認すれば済む話であり、「おカネを借り過ぎて返せなくなる現象(=デフォルト)」ではありません。
国家が「デフォルトする」例とは?
ただし、この「国家は絶対にデフォルトしない」という鉄則には、1つの重要な前提条件があります。
それは、自国通貨建ての債務であること、すなわちその国が「自国通貨(みずからが発行権限を持っている通貨)でおカネを借りていること」、です。
日本の例で考えてみれば分かりやすいのですが、日本政府は基本的に円建てで債券(国債、財融債、国庫短期証券)を発行しています。私が知る限り、財務省が公表する「国債金利情報」のデータが存在する1974年以降、一部の政府関係機関を除けば、外貨建てで債券を発行した事例はありません。
しかし、世界に目を転じてみると、実際に国債を「返すことができなくなった」(正確に言えば「ロールできなくなった」)例は、枚挙にいとまがありません(図表1)。
図表1 国家の危機
時期 | 国 | 概要 |
---|---|---|
1945年 | ドイツ、日本 | 日本の場合は戦時中に急膨張した債務の支払が不可能な状況となり、1946年の預金封鎖による新円切り替えにより、円建ての旧国内債務は事実上デフォルトした(ただし、日本の対外債務についてはデフォルトしておらず、このことは現在に至る日本国債に対する高い信認の維持に寄与している) |
1997年後半 | タイ、インドネシア、韓国 | いわゆる「アジア通貨危機」。タイ・バーツのドルペッグ破綻を契機に危機が伝播し、なかでもインドネシアと韓国は国際通貨基金(IMF)や日本の支援を余儀なくされた |
1998年8月 | ロシア | アジア通貨危機による金融市場の混乱と世界経済減速を遠因として、外貨建の債務がデフォルトし、通貨・ルーブルも暴落した |
2001年12月 | アルゼンチン | 国内政治の不安定さやドルペッグの崩壊などを反映し、アルゼンチン政府は対外債務の利払を放棄し、デフォルト(2014年にも再度デフォルト) |
2008年10月 | アイスランド | リーマン・ブラザーズの経営破綻を契機とした為替相場の変動により、英国などの市民から多額のおカネを集めていたアイスランドの3大銀行が相次いで経営破綻した危機。ちなみにアイスランドの人口はわずか30万人程度だった |
2012年3月 | ギリシャ | 共通通貨・ユーロで調達したギリシャ国債が事実上デフォルトした事件。欧州連合(EU)、欧州中央銀行(ECB)、国際通貨基金(IMF)の三者はこれを「秩序あるデフォルト」とうそぶく |
2013年3月 | キプロス危機 | ロシアの富裕層などから巨額の預金をかき集めていた国内の金融機関が経営危機に陥り、預金封鎖され、1人10万ユーロを超える預金については銀行の株式と強制交換する措置が取られた |
2014年7月 | アルゼンチン | 2001年に「デフォルト」したアルゼンチンのドル建国債について、債務交換に応じなかった米国のヘッジファンドが米国の地裁に起こした訴訟に敗れ、2014年7月に「第二次デフォルト」に陥った |
(【出所】著者作成)
近年の例でいえば、ギリシャは2012年に、アルゼンチンは2014年に、それぞれデフォルトを発生させていますし、国債のデフォルトではありませんが、地中海の美しい島国・キプロスは2013年に銀行危機を発生させています。
しかし、図表1の例を見ていただいて、わかることが1つ、あります。それは、戦争などの異常事態を除けば、これらの事例はいずれも外貨建てや共通通貨建てで借りたおカネを返すことができなくなったというものばかりであり、平時に自国通貨建てで発行された国債をデフォルトさせた事例は1つもない、ということです。
実は、日本も1990年代後半から2000年代前半にかけて、金融機関が相次いで経営危機に陥りました(いわゆる不良債権問題)。しかし、日本の場合は結局、IMFなどの助けを借りず、自力でこの危機を乗り切りました。
しかし、「デフォルトの常連さん」である、ギリシャやロシア、アルゼンチン、はたまた韓国といった国々は、いずれも共通している特徴があります。それは、自国通貨ではなく、外国通貨でおカネを借りている、という点です。
ということは、逆に言えば、外貨建て・共通通貨建てで巨額の債務を調達している国は、財政破綻、金融破綻、通貨危機に陥りやすい、ということです。
国家破綻の潜在的予備軍
国債がデフォルトするということになれば、その国が対外的な信用を失いますし、国民生活にも深刻な影響が生じることがあります。
また、図表1の事例を見ていただければ、国家が危機に陥るのは、なにも国家がおカネを借りているときには限られません。アイスランド、キプロス、韓国などのように、民間の銀行・金融機関が巨額の外貨借入を行っている場合にも、通貨危機が発生する可能性があるのです。
とくに、銀行などの金融機関がおカネを借りるのと、一般事業会社がおカネを借りるのとでは、大きな違いがあります。銀行が経営破綻すれば、アイスランドやキプロスのように、国民生活が混乱に陥る可能性もあるからです。
ただし、自国通貨建てであっても、政府がおカネを借り過ぎると良くない場合もあります。
たとえば、国内で資金需要が逼迫しているときに政府がおカネを借りれば、金利が上昇し過ぎて産業や雇用に悪影響が生じますし(専門用語で「クラウディング・アウト」と呼びます)、政府の放漫財政を支えるために中央銀行が国債を買い入れれば、悪性インフレが生じる可能性もあるからです。
(※ただし、日本の場合はこうしたケースに該当していませんが、この点については「後編」で説明したいと思います。)
ダメな借金、危険な借金
ここで、敢えて「借金」という言葉を遣い、「ダメな借金」、「危険な借金」の例をまとめておきましょう。
図表2 ダメな借金、危険な借金
債務者 | 借り方 | その理由 |
---|---|---|
個人 | 収入に比べて過大な借金を背負う(住宅ローンや消費者ローンなど) | 働けなくなったり、市中金利が上昇したりすれば、生活が破綻し、返せなくなるかもしれないから |
事業会社 | 事業の収益率や利益率が落ちているのに無理やり借入を増やして事業を拡大する | 事業収益率が低下したら金利負担や元本弁済キャッシュ・アウト・フローに耐えられなくなるかもしれないから |
銀行 | 外貨や共通通貨で借り入れる | 銀行がデフォルトすれば、一国の金融システム全体が揺らぎ、国民生活や産業に間接的な悪影響が生じるから |
国家 | 外貨や共通通貨で借り入れる | 国家がデフォルトすれば、国のあらゆるレベルで悪影響が生じるから |
国家 | 資金需要が逼迫しているときに、自国通貨で多額の資金を借り入れる | 金利が上昇して産業や雇用に悪影響が及び(クラウディング・アウト)、悪性インフレが生じかねないから |
(【出所】著者作成)
つまり、問題は「借金そのもの」なのではありません。おカネを借りるときの「借り方」こそが、問題となるのです。
では、日本の財政は危機的状況にあるのでしょうか?
答えは、「まったく危機的状況にない」、です。
いや、もっと正確に言えば、「日本はもっと国債を発行し、積極的に財政出動しても、まったく問題ない」、です。
財務省やその「ポチ」である日経新聞様が主張するのと真逆の結論になるのですが、その理由について述べると議論が長くなります。
当ウェブサイトにしては珍しいのですが、この問題については、「後編」を近いうちに配信したいと思いますので、どうかご期待ください。
※ただし、私には「前編」だけ執筆してそれっきりになってしまったという「前科」があります(『2017年の日韓観光統計を読む(前編)』がそれです…)。忘れないようにするためには、できるだけ早く「後編」の執筆に取り掛かる必要がありそうですが、もし忘れそうになっていたら、コメント欄で督促してください。
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逆に国家に1円の借金もない状況を考えてみた。つまり国債が全くない。うちの親は確か国債を買っていると思う。で、その理由は確か預金より利子が良かったとかだと思う。うちの親が思うぐらいだから銀行だって思うよね。庶民から預金でお金を吸収し、それで国債を買う。その利子の差が利益になる。国は絶対つぶれないからこの利益は少ないとはいえ確実に儲かる。もし国債がなかったらリスクを負って事業会社に貸し出さないと儲からない。事業会社はいつつぶれるかわからない。そう考えると国債は必要だね。経済規模が大きくなれば預かるお金も増える。そうすると安全な国債がなかったら、それはそれできついことだね。
あと、昔、テレビで国債を印刷しているところが放送された。1億円だったかな。すこし大き目の紙1枚が1億円。1万円札だと大きなサイズだが国債は薄い紙1枚。これ保管や輸送が簡単。我々には関係ない世界だけど「100億円ほど現金で」とお金を動かすとき、お札だとえらく大変だけど国債は現金に近いから誰も文句は言わないし、楽に動かせそう。
そもそも誰も今すぐ金を返せと言ってないですからね
普通に経済が回っている中で
一部の数字を切り出して煽る意味が分からない
わかるのは財務官僚は簿記ができないということぐらいでしょうか
<毎日の更新ありがとうございます。
<日本の財政はまったく危機的状況にない、ということ理解できました。なら、もっと国債を発行して、財政出動すればいいのに。ずっと前は詳しいことは覚えてませんが、「コクサイは安全な資産です」「コクサイを買いましょう」と新聞、テレビで宣伝していたのに、かなり前から見ませんものね。当時は高度成長期、いくら国債発行してもイケイケでやってもOKだったんでしょう。今は財務省はなぜしないのだろう。財務省や日本経済新聞社は『危機だ。国の国民の借金だ』と嘘を事あるごとに触れ回るし。1080兆円か。おかしな事ですよね。
<失礼します。
勉強になります。
東大痴呆学部卒の罪務官僚に簿記3級取得を義務化しろよと、首相官邸にメールしました。
決算書の見方は必要だと思い毎年のように本・雑誌を手に取ります。
今回、必死に頭を酷使して読みました。自分の能力も死ぬまで
アップデートしなければ時代遅れになりますので(会計士にはなれませんが)
会計力?を鍛えるため、是非とも続きをお願いいたします。
日本の政府だけですよね、自分が発行している通貨(=円)を借金するために国債を発行して自国の(=日本の)銀行や証券会社など金融機関や年金組織に買って貰って自国通貨(=円)を調達しているのは。
そもそもアメリカと日本だけなんじゃないかな、自国通貨建てで発行した莫大な国債を世界中(or 日本中)の超大金持ちが欲しがり買ってくれるのは。(ほかに思い付くのはスイスくらいなのだが、スイスのことは...分からん)
日本という国は、今も昔も超先端工業人種の国であり、機械でも部品でも材料でもなんでも作っている(なければ発明して作ってしまう)から自分の国の通貨「円」があればなんでも手に入る。唯一石油だけはドルでなきゃ輸入できないが、その程度のドルは我が国では有り余っているから石油のためにドルの借金などしない。
....超大国にして超大金持ちの今現在の日本。その政府には新たなドルもユーロも必要ない、いるのは自国通貨(円)だけ。ドルもユーロもこれ以上いらないという政府が地球上に日本以外にあるだろうか。ない。
アメリカのドルは基軸通貨、ドルさへあれば世界中なんでも手に入る。だからアメリカ政府が発行するドル借金の借用証書を世界中の超大金持ちがジャンジャン購入する。
日本だけが例外中の例外なんであって(基軸通貨ドルの国アメリカは別枠)、世界中の政府という政府が、自国通貨でない通貨(ドル、円、ユーロ)を借金して手に入れなきゃやっていけないでしょ。
....日米以外の普通の国は、自国通貨だけじゃ国家を維持するための輸入が全くできないしドルやユーロや円を借金できなきゃ外国企業(or 超大金持ちの外人)にお金(莫大な配当金とか給料とか外貨建て国債の元利金とか)をドルやユーロや円で支払えない。