国の滅亡と国家のデフォルト

最近は「時事ネタ」が続いてしまっています。昨今もいろいろと興味深いニュースなどが次々と出てきていて、それはそれで気になるところなのですが、ただ、本日は普段とやや趣向を変えて、もう少し「深い話」を議論していきたいと思います。それは、「国の債務不履行」(デフォルト)について、です。新聞などを読んでいて、経済や金融、通貨について、よく分からなくなることがありますが、それは記事を執筆している新聞記者自身がよく理解していないからです。本日は、私の専門分野の一つである「金融と通貨」という観点から、この「国の債務不履行」を議論してみましょう。

国家の滅亡

歴史上、多くの国家が栄え、また、滅びてきました。ただ、国が亡びる原因は、究極的には、ただの二つしかありません。一つは、軍事的に攻め滅ぼされる場合、もう一つは、経済的に行き詰って滅亡する場合です(図表1)。

図表1 国が滅びる原因
要因概要具体例
軍事的理由外国から軍事的に攻め滅ぼされる場合や内乱により政府が転覆する場合などがあるモンゴル帝国の侵略により中国の宋やイランのホルズム朝が滅ぼされた
経済的理由天変地異・悪天候により飢饉が発生する場合や放漫財政で国庫が空になる場合などがある古代文明の滅亡は自然環境の破壊により社会の持続ができなくなったためであるとの説もある

ただし、食糧生産技術が未熟だった古代を除けば、純粋に経済的理由だけで滅亡した国は多くありません。たいていの場合は、国家は軍事面、経済面の両方の理由によって滅亡しています。たとえば、国や国民が経済的に困窮すれば社会の不満が高まりますし、そうなれば内乱が起きるかもしれません。さらには、社会不安が生じていれば外国に侵略されやすくなりますし、あるいは逆に、経済がしっかりしている国は、外国から攻められても反撃し、国をしっかりと守り切る場合もあります。

このように考えていくと、やはり「軍事力」と「経済力」をセットで考えなければならないことは間違いなさそうです。

経済破綻とは?

さて、一国の経済が破綻する場合とは、どのようなパターンがあるのでしょうか?

もちろん、天変地異(悪天候、火山噴火、地震など)や疫病によって食糧生産が滞るような場合も考えられます。ただ、現代社会では、医療も食糧生産の技術も大きく向上しているため、本日の私の議論では、「経済・金融面での破綻」

国家も債務不履行となる

ギリシャは2010年に発生した債務危機以来、常に国家破綻の危機に瀕しています。2012年3月には「秩序あるデフォルト」と称して、ギリシャ国債の「棒引き」が行われました。欧州連合(EU)、欧州中央銀行(ECB)、国際通貨基金(IMF)は、これらについては「デフォルトではない」と強弁していますが、経済学的に見れば明らかにデフォルトの一種です。

それだけではありません。

歴史上、国家であっても債務不履行(デフォルト)を発生させた事例は枚挙に暇がありません(図表2)。

図表2 国家のデフォルト(1945年以降)
年代デフォルト国備考
1945年ドイツ、日本日本の場合は戦時中に急膨張した債務の支払が不可能な状況となり、1946年の預金封鎖による新円切り替えにより、円建ての旧国内債務は事実上デフォルトした。ただし、日本の対外債務についてはデフォルトしておらず、このことは現在に至る日本国債に対する高い信認の維持に寄与している
1998年ロシアアジア通貨危機による金融市場の混乱と世界経済の減速を遠因として、外貨建ての対外債務がデフォルトし、通貨・ルーブルも暴落した
2001年アルゼンチン国内政治の不安定さやドルペッグの崩壊などを反映し、アルゼンチン政府は2001年12月に対外債務の利払を放棄してデフォルトした
2012年ギリシャ共通通貨・ユーロ建てで発行されたギリシャ国債は、ギリシャが国際社会から第2次救済を受ける条件としてギリシャ政府と民間債権者の債務公館により、額面の53.5%が削減されるデフォルト状態となった。なお、ギリシャは19世紀以来、5回のデフォルトを繰り返している
2014年アルゼンチン2001年のデフォルト時の債務再編に応じなかった債権者らが米国の裁判所に対して返済を訴えていた件で、アルゼンチン政府の敗訴が確定。リストラクチャリング債についてもデフォルトとなった。なお、アルゼンチンは第2次世界大戦後、もっとも多くデフォルトした国でもある

(【出所】2015年3月発行の拙著を一部改変して転用)

「国家の経済破綻」とは?

ただ、ここで重要な点が一つあります。

国債がデフォルトした事例について、よくよく調べてみると、戦争に敗北した場合などの混乱期を除けば、国債がデフォルトするときとは、その国債が「自国通貨以外の通貨で発行されているとき」に限定されています。

図表1に列挙した事例の中でも、終戦後の日本国債・ドイツ国債の(実質的)デフォルト事例を除けば、デフォルトした国債は、いずれも外貨建てか共通通貨建てで発行されたものに限定されていることがお分かり頂けるでしょう。しかも、図表1では、便宜上、ドイツや日本を「国債がデフォルトした事例」に挙げていますが、日本の場合は「新円切り替え」により通貨価値の大幅な切り捨てを伴った財政再建が行われたというものであるため、厳密にいえば「デフォルト」ではありません。

よく「日本の国の借金は1000兆円を超えていて、国民一人当たり800万円だ」だとか、「日本の国の借金はGDPの2倍だから、日本はいつか財政破綻するに違いない!」だとか、そういった財務省あたりが垂れ流すプロパガンダを大真面目に繰り返しているような人もいます(しかも、そういう言説を信じる人は、意外と経済紙の記者や金融業界に多い気がします)。

しかし、歴史的事実に照らしても、戦争などで国が破滅するなどしない限りは、「自分の国の通貨で発行されている国債がデフォルトする」という事態は、まず発生しないと考えて良いでしょう(余談ですが「インフレにより貨幣価値が暴落すれば、実質的にデフォルトしたのと同じような効果が生じるのだ」、という考え方もありますが、これは最近話題の「シムズ理論」と呼ばれるものと究極的には同じでもあります)。

その意味で、国家がデフォルトする条件については、「外国から」「外貨で」お金を借りているときに、お金を返すことができなくなることだと整理して良いでしょう(図表3)。

図表3 「国家の経済破綻」の3要素とは?
条件事例債務不履行時の影響
①資金調達主体お金を借りているのが中央政府や中央銀行、大企業などであること債務不履行が発生した時に甚大な社会的影響が発生する
②資金調達方法資本市場などを通じ債券などの形で外国投資家から借りていること外国市場から借りるため、債務不履行時には市場から締め出される
③通貨外貨・共通通貨建てで借りていること外貨・共通通貨の場合は、いざというときにお金を「刷る」ことができない

論点①誰が借りているのか?

次に、図表2に示した「3つの要素」を一つずつ確認していきましょう。まずは「誰が借りているのか」、という点です。ポイントは、

国家であってもデフォルトすることがある―。

という点です。図表1で見た、アルゼンチンやロシア、ギリシャなどの例は、いずれも中央政府が借りていたお金(国債)の利子や元本の支払いができなくなった事例です。いずれの事例も、最終的には深刻な結果をもたらしました。

ただ、国家以外の経済主体がお金を借りている場合でも、深刻な事態が生じることがあります。たとえば、中央銀行や民間の金融機関、あるいはその国を代表する大企業が外貨でお金を借りているような場合です(図表4)。

図表4 外貨調達の主体
主体影響
中央政府・中央銀行債務不履行時には「ソブリンのデフォルト」として認定される
地方政府債務不履行時には、ソブリン・デフォルトに準じた事態とみなされることもある
民間の金融機関民間企業であっても金融機関が経営破綻すればその国の金融システム全体に影響が及ぶ
その国を代表する大企業売上高がその国のGDPの2割を占める大企業が経営破綻すれば、国民経済が破綻する恐れもある

たとえば、中央政府や中央銀行がデフォルトをすれば、その国の経済全体が大混乱に陥ることは間違いありません。しかし、デフォルトしたのがその国の地方政府だった場合、中央政府ほどではないにせよ、その国に対する信認が傷つくこともあります。

さらに、民間の金融機関がデフォルトした場合には、その国の金融システム全体が大混乱に陥る可能性があります。実際、リーマン・ブラザーズが経営破綻した時には、連鎖破綻リスクが警戒され、米国どころか、それこそ世界全体の金融システムが大混乱に陥りました(詳しくは『ボルカー・ルールと「トランプ7原則」』もご参照ください)。

そして、私が最近、強く意識しているのは、「その国を代表する大企業」がデフォルトした場合の話です。日本だと某電機大手が現在、粉飾決算疑惑で実質債務超過状態に陥り、経営も「風前のともしび」状態にあるようですが、某隣国の場合は「サムスン」なる会社が売上高ベースで韓国の名目GDPの2割を超えているようです。

つまり、その国の中央政府だけでなく、銀行や企業などが債務不履行を起こせば、その国全体が外貨でお金を借りることができなくなる、という事態に陥りかねないのです。

論点②どう借りているのか?

次に、お金を「どう借りているのか」という点も重要です。

例えば、日本のように、政府が巨額の外貨準備を持っている国が、日本国内の企業に対して、その外貨準備からお金を借していたとしたら、政府が融資を打ち切らない限り、お金を借り続けることができます(といっても、日本企業の場合は、そもそも日本円自体が国際的なハード・カレンシーであるため、わざわざ外貨で資金調達をするニーズはほとんどありませんが…)。

あるいは逆に、民間企業など外貨を豊富に保有しているような場合は、国家が強制的に外貨を「巻き上げる」こともできるかもしれません。実際、中国の場合は、国内の企業が輸出で稼いだ代金(外貨)を、国内に送金する際には強制的に人民元に両替させています(詳しくは『為替介入を考える』の中の『独特な中国の為替介入』あたりをご参照ください)

ただ、アルゼンチンやロシア、あるいはギリシャなどの場合は、国内の企業や金融機関から外貨を「強制的に巻き上げる」ということができません。このため、これらの国は、どうしても海外の投資家からお金を借りるしかないのです。

論点③どの通貨で借りるのか?

そして、一番重要な論点が、「どの通貨で借りるのか」、という点です。

日本の場合、確かに日本国債の発行残高は1000兆円の大台を超えて、さらに膨れ上がっていますが、日本政府は「日本円」でしかお金を借りていません。また、米国の場合も、米国債の発行残高は10兆ドルを優に超えており、米国も立派な「借金大国」(?)ではありますが、米国政府も「米ドル」でしかお金を借りていません。

よく日本では「国内の経済主体(家計など)が貯蓄超過であるため、究極的には国民が政府にお金を貸しているから安全なのだ」、という議論も聞こえますが、こうした議論は半分正しく、半分誤っています。

一番重要な点は、日本政府も米国政府も、「自国通貨だけで」お金を借りている、という点です。

一方、どんな「金持ち国家」であっても、自国通貨以外の通貨でお金を借りている場合には、「イザ」というときにお金を返すことができないことがあります。その典型的な事例はユーロ圏ですが、先ほどから列挙しているアルゼンチンやロシアが米ドル建てでお金を借りる時も同様です(図表5)。

図表5 どの通貨で借りるか?
パターン具体例政府にお金が足りなくなった場合
自国通貨で借りる日本政府が日本円建てで日本国債を発行、米国政府が米ドル建てで米国債を発行、など国会が許せば法律を変えるなどして、中央銀行に国債を引き受けさせることができる
外国通貨で借りるアルゼンチン政府が米ドル建てで国債を発行、インドネシア政府が円ドル建てで国債を発行、などどんなに国内法を変えたところで、外国の中央銀行に対して国債を引き受けさせることはできない
共通通貨で借りるドイツがユーロ建てで国債を発行、ギリシャがユーロ建てで国債を発行、などどんなに国内法を変えたところで、欧州中央銀行(ECB)に対して国債を引き受けさせることはできない

実は、これが一番重要な点です。

なぜ外貨建ての国債が必要なのか?

では、なぜ外貨建てで国債を調達するのが必要なのでしょうか?

アルゼンチンにしてもロシアにしても、自分の国の通貨は「ハード・カレンシー」ではありませんから、国際的な市場でモノを売買するためには、どうしても米ドルなどの「ハード・カレンシー」が必要です。このため、国際的な資本市場で、民間の投資家などからお金を借りることになります。この「国際的な資本市場で」、「外貨で借りる」、という点がポイントです。この場合、お金を借りた国は、国内法ではなく外国の法律に従わなければなりません。

アルゼンチンがどれだけ国内法を変更したとしても、米ドル建ての債券の債権放棄を強制することなどできません(実際、2014年に同国はそうしようとしましたが、米国の裁判所はそれを認めませんでした)。このため、アルゼンチンがどれだけ国内法を変えようが、米ドル建ての国債を弁済しなければ、アルゼンチンは国際的な資本市場から締め出されるのがオチです。つまり、たとえ国家であったとしても、市場に逆らうことはできないのです。

一方、日本政府は米ドル建てで国債を発行していません。これは、日本の通貨「円」が国際的なハード・カレンシーであるという事情もあり、別に日本政府として、日本円以外の通貨でお金を借りる必要などないからです(余談ですが、一部の政府系金融機関が米ドル建てで資金調達しようとしているようですが、国会ないしは財務省がしっかり仕事をして、外貨建ての債務を調達しないように、取締りをしてもらいたいものです)。

このため、日本政府の場合は、国際的な債券市場やいい加減な格付業者の格付とは無関係に、非常に低い金利で日本国内の債券市場からお金を調達することができるのです。

国家破綻の予備軍は?

ところで、外国の資本市場から外貨建てで債券を調達すると、たとえ国家であっても、信用がなくなればお金を再調達することができなくなり、債務不履行(デフォルト)することがあります。

その典型的な事例は、ユーロ圏各国です。

自国通貨と共通通貨の違い

私たちの国・日本は、自国独自の通貨「日本円」を利用しており、国債は全て円建てで調達されています。よく「日本国債は政府が国民から借金をしているので、お父さんがお母さんからお金を借りているようなものだ」と表現されることもありますが(客観的な統計上、これはこれで、間違いない事実です)、「日本国債がデフォルトしないもう一つの理由」は、日本政府が日本円でお金を借りているからです。

もちろん、「財政法第5条」の規定があるので、政府が発行した新発国債を日本銀行が購入することは禁止されています。しかし、日本政府も日本銀行も、いずれも最終的には「日本国」の主権に属しているため、政府がどうしても市場からお金を借りることができなくなったとしても、国会で財政法第5条を廃止すれば、日本銀行引受新発国債を発行することが可能です(ただし、時の政権が国会で多数を占めている、という前提条件で、ですが…)。

しかし、共通通貨の場合、たとえばギリシャ議会が全会一致で可決しても、ユーロを発行している欧州中央銀行(ECB)にギリシャ国債を無理やり引き受けさせることはできません。なぜなら、ECBはギリシャ共和国の主権の支配下にないからです。

同様に、アルゼンチンの時もロシアの時も、政府が命令したところで、米ドル建ての国債の猶予を行うことはできませんでした。これも当たり前ですね。「米ドル」という通貨を支配しているのは、アルゼンチンでもロシアでもなく、アメリカ合衆国なのですから。

先進国ではユーロ圏、EM諸国ではあちこちで!

ユーロ圏では、特に「PIIGS」と呼ばれる諸国が、2010年から2014年頃にかけて、ユーロという共通通貨を導入したことで国家破綻の危機に瀕しました。そして、この「ユーロ危機」は、現在のユーロという仕組みの欠陥が是正されない限り、これから何度も何度も何度も何度も繰り返すことになります。

一方、米国や日本、英国などの「単一通貨国」かつ「ハード・カレンシー」国では、少なくとも政府債務が不履行を起こす可能性は極めて低いといえます。さらに、自分の国の通貨が信用されているため、多少の貿易赤字を積み上げたところで、全く問題にならないのです。

しかし、「単一通貨国」であっても、自国通貨が外国から信頼されていない「ソフト・カレンシー」国では、これからも通貨危機が発生することは間違いないでしょう。

いずれにせよ、「国家であっても破綻する」という、歴史上は当たり前の話であっても、議論の仕方を間違えると、大変なことになります。私は、この「国がデフォルトする」という論点については、今後も精力的に議論していきたいと思います。

※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。

やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。

※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。

※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。

当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました

自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。

【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました

日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。
関連記事・スポンサーリンク・広告