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【夕刊】「安倍訪韓」に関する分析の現時点のマトメ

本日も「夕刊」です。ここ数日、安倍晋三・内閣総理大臣が韓国・平昌(へいしょう)に出掛けるという話題を提供していますが、ここらで私なりに考え方をまとめておきたいと思います。

保守論客よ、思考停止に陥るな!

「安倍訪韓」は何が不自然なのか?

既報のとおり、安倍総理は今週水曜日、韓国・平昌(へいしょう)で2月9日に行われる五輪開会式に参加する意思を示しました。

私自身の見解については、『【速報】安倍総理の平昌参加を支持しない』、『平昌五輪:安倍総理は政治利用されるのか?』という2本の記事ですでに述べたとおりですが、簡単に言えば、「外交の悪手中の悪手」だというものです。

安倍総理は1月24日に首相官邸で記者会見を行い、今回の訪問では

首脳会談を行い、日韓の慰安婦合意について日本の立場をしっかりと伝えていきたいと思いますし、北朝鮮の脅威に対応していくために、日韓米でしっかりと連携していく必要性、最大限まで高めた圧力を維持していく必要性について伝えていきたい

と述べています。

しかし、自然に考えたら、韓国に対して日本の立場や日米韓で連携していく必要性を伝えるだけであれば、それこそ安倍総理ご自身が出掛ける必要はありません。次の産経ニュースの報道を読むと、赤池誠章参議院議員は、それこそ「スポーツ庁長官が行けばいい」と発言しています。

【平昌五輪】/自民党会議で巻き起こった「安倍首相訪韓反対」大合唱の一部始終 「文在寅大統領の対北融和政策を支持するのか」(2018.1.24 20:37付 産経ニュースより)

これにつて、仮に今回の訪問でスポーツ以外の目的(日韓合意や北朝鮮の脅威を伝える目的)が含まれた場合、スポーツ庁長官で済むということはありませんが、それにしても麻生太郎副総理や河野太郎外相が行けば済む話です。

つまり、どうにも不自然極まりない行動です。

保守論客の間でも見解分かれる

これについて、保守論客の間でも、どうも見解が分かれています。

大きく分けて、「実は今回の行動は安倍総理なりに熟考した判断であり、支持できる」とする議論と、「安倍総理が自ら決断したのではなく、自民党内の『媚韓派』や米国などの圧力があった」とする議論です。

前者の代表格といえば、産経新聞の阿比留瑠比氏です。

阿比留氏は安倍総理の方針表明直後に、「リスクを取ったぎりぎりの決断だった」が「日韓合意を終わったことにさせない」ために出席を決めた、とする分析を執筆しています。

安倍晋三首相の平昌五輪開会式出席、リスクを取ったぎりぎりの決断 「慰安婦の日韓合意を終わったことにさせない」(2018.1.24 05:00付 産経ニュースより)

私はこれについて、「かなりの無理がある」と申し上げましたが、今になって読み返しても、阿比留氏の主張がまったく理解できません。阿比留氏は記事のなかで、

五輪開会式に出席する各国の首脳は、ごく限られている。その中で、日米の首脳がそろって日韓合意の履行と北朝鮮への圧力堅持を要求すれば、韓国に対する強いメッセージとなる。

などと述べていますが、現在の韓国大統領である文在寅(ぶん・ざいいん)氏が、その「強いメッセージ」とやらを受け止める人物ではないことくらい、どうしてわからないのでしょうか?

陰謀論を持ち出すのは分析の放棄

一方で、保守論客の間では、今回の訪問について、「実は安倍総理は韓国に行きたくなかったのだが、何らかの事情で韓国に行かざるを得なくなったのだ」、とする分析もあります。

その「何らかの事情」については、たとえば、

  • 米国の要請(あるいは圧力)があったためではないか?
  • 二階俊博・自民党幹事長ら「媚韓派」の暗躍のためではないか?

といった、「圧力」「陰謀」説も、まことしやかに流れているのです。

もちろん、二階俊博氏が公明党などと共に、安倍総理に対し、平昌五輪に参加すべきだと伝えて来たことは事実です。また、米国のマイク・ペンス副大統領が平昌に参加するわけですから、米国側から安倍総理に対し、平昌への参加を促す意見があったと考えても不自然ではありません。

しかし、安倍総理が訪韓の意思を示した産経ニュースの記事を改めて読み返すと、やはり今回の訪韓を最終的に決断したのが、安倍総理自身であることを、私は確信するのです。

安倍晋三首相「対北朝鮮圧力の最大化も文在寅大統領に明確に伝える」「韓国の対北人道支援再開は間違ったメッセージになる」 インタビュー詳報(2018.1.24 05:00付 産経ニュースより)

安倍総理は産経新聞に対し、訪韓を巡って次のように語っています。

強い批判があるのは事実です。そうした気持ちになることは十分に理解できます。他方、アジアにおける平昌五輪を成功させるために、協力をしなければならない。そうした日本の立場を明確に示したい。何をすべきかを熟慮して判断し、実行するのは政権を担う者の責任です」(下線部は引用者による加工)

このように考えていくと、本当に米国や自民党内の「圧力」があったのかもしれませんが、最終的に決断したのは安倍総理自身であると考えるのが自然な流れでしょう。

ここで、陰謀論を持ち出して、「安倍総理は本当は行きたくないのだが、誰かの意思により、強制的に韓国に行かされているに違いない」などと考えるのは、分析の放棄であり、思考停止に陥りかねないものです。

大きな流れで捉えるべき

朝鮮半島を巡る米中のせめぎ合い

ここ数日の記事で申し上げているとおり、私自身のスタンスは、

現段階で判断する限り、安倍総理の訪韓は悪手中の悪手だが、何か裏があるのかもしれないから、現段階でこれが間違っていると断言することは避けたいが、それと同時に拙速に、無理やり『安倍総理の訪韓の意義』を決めつけることもしたくない

というものです。

ただ、1つだけ間違いないことがあるとすれば、朝鮮半島を巡って、米中(+日)の綱引きが激しくなっていることは、指摘しておく価値があるでしょう。

米国のウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)はここ数日、北朝鮮に関していくつもの記事を掲載しているのですが、これらの報道を眺めると、何となく点が線で繋がってくるような気がします。

U.S. Urges China to Kick Out North Korea’s Money Men(米国時間2018/01/24 14:50付 WSJオンラインより)
North Korean Tanker Seen Flouting Sanctions, Japan Says(米国時間2018/01/24 13:06付 WSJオンラインより)
U.S. Aircraft Carrier Expected to Visit Vietnam for First Time Since War(米国時間2018/01/25 07:10付 WSJオンラインより)

ここに示した記事は一例ですが、順番に、

  1. 米国政府が中国に対し、北朝鮮の資金調達担当者を中国から追放するように求めている
  2. ドミニカ船籍のタンカーが南シナ海で北朝鮮のタンカーに原油を積み替えていることがわかった
  3. 米国の空母がベトナム戦後初めてベトナムに立ち寄ることになった

という報道です。

いずれも広い意味では、北朝鮮や中国を巡る米国の動きと理解することができます。

このうち、「南シナ海でのタンカー」の話題は、わが国でも報じられたので、すでに知っているという方もいらっしゃるでしょう。しかし、それ以外の報道については、いずれも「初耳」だという方が多いのではないでしょうか?

中国から見た北朝鮮の核開発

この一見するとバラバラな記事を見て気付くのは、米国(と日本)の一貫した姿勢です。

これに対し、北朝鮮が核開発を進めていることは事実ですが、これに対する中国の姿勢は一定しません。

習近平(しゅう・きんぺい)政権としては、今後5年間で一帯一路構想をさらに強く推し進めようとしていますが、どうもうまくいっていません。一例を挙げれば、一帯一路構想の資金調達を行う国際開発銀行(MDB)であるアジアインフラ投資銀行(AIIB)には、日本政府と米国政府が参加していません。

一方で、中国は南シナ海や東シナ海での領土的野心を剥き出しにしていますが、米海軍がベトナムに立ち寄るという事実自体、中国に対する極めて強い牽制であることは間違いありません。

北朝鮮の核開発は、中国にとっては日米両国の目が北朝鮮に向いてくれるといういみで好都合ですが、北朝鮮が本当に核開発に成功すれば、中・長期的には中国自身にとっても脅威をもたらしかねません。

このように考えていけば、1つの仮説が成り立ちます。

それは、「韓国の平昌五輪を機に、韓国を踏み台にして、日米両国が中朝両国を揺さぶる」、というシナリオです。

自然に見たらどう考えても「悪手中の悪手」である平昌訪韓を安倍総理が決断したのであれば、それは日米の韓国に対する「最終通告」であるとともに、その「最終通告」は中国と北朝鮮に対して向けられたものでもある、と考えるしかないと思います。

無理くりの解釈は避けたいが…

あえて無理くりに解釈するならば、安倍総理の今回の訪韓には、米国と歩調を合わせたうえで、韓国、北朝鮮、中国をあわせて牽制するという目的がある」――。

現段階で私にできる分析としては、これが限界です。

こうした私の仮説は、非常に苦しいものですし、できることならば私自身は無理くりの解釈を避けたいと思います。

ただ、もしかすると安倍総理自身が、私たち日本国民には見えていない、「何か非常に大きなこと」を考えているという可能性はゼロではありません。

これについては少し時間を掛けて、じっくりと見極めてみたいと思います。

新宿会計士:

View Comments (6)

  • 更新ありがとうございます。

    会計士さんが書かれていることに私も同意します。安倍首相が平昌に行くことについて、公表されている以外の理由があるか否かについては現段階ではわからないとしか言いようがありません。首相の発言には唐突感がありますし、どう見ても不自然であることは確かですが。

    私は、この記事の後半に書かれているアメリカの動きが非常に気になります。挙げておられる3点に加えて、本日早朝、トランプ大統領がダボス会議で突然TPP復帰の意向を示したとのニュースが入ってきました。これはけっこう重要なニュースだと思います。ここに来てのこの動きは、明らかに対中国牽制という意味があるでしょうし、対韓国への何らかのアピールを含んでいる可能性も高いと思います。
    https://www.nikkei.com/

    韓国釜山で最近米原潜の入港拒否があったらしいこと、北朝鮮を忖度した言論統制が始まっていること、そして、ここにきて金正恩が南北統一を口にし始めたということなどを総合すると、韓国という国が今極めて怪しい状態になってきていることは間違いありません。

    青瓦台と北朝鮮が呼応していることは明らかですが、これについても、裏での連携があるのか、単に南が北を忖度しているだけなのか、飛び交う多くの情報は双方を示唆していて判断しにくい状況です。文在寅がどこまでも無能な大統領なのか、それとも裏面ではかなり狡猾であるのかということでもあります。

    このような状況であれば、意図やイメージ云々よりも、まずは危機管理の面で安倍首相自らが危地に乗り込むという判断はどうなのかということですが・・・・・・もしかしたら、トップにしかできない決断を、即応的に下す必要が生じる可能性を見越してのことなのかもしれません。

    鈴沖氏や青山繁晴氏からの情報を待ち遠しく感じます。

  • 私は以下の長谷川幸洋氏の解釈が正しいような気がしています。

    http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54237

    韓国の日韓合意の新解釈に対する日本の立場は既に外相、官房長官、総理の各レベルで公表していることです。このことは日本の中では既に終わった話で、後は単なる韓国の国内問題でしかありません。

    安倍総理の訪韓の際して「安倍総理が訪韓するのは韓国に間違ったメッセージを与える」と声を大きくして叫び続けることは、逆に韓国の日韓合意の新解釈に対する日本の立場が揺らいでいる印象操作に使われて、かつ、本来の在韓邦人に対する協力依頼の扱いが相対的に小さくなってしまいます。

    私も訪韓しない方が良いとは思いますが、安倍総理は訪韓すると決断しました。ならば周囲は、この訪韓が日本の国益に最大限繋がるように考えることが良いと思います。アメリカをバックに有事における在韓邦人の避難協力を迫ったときに、断れば韓国の日米側からの離反を際立たせて、協力すると約束すれば韓国の国内世論や北との融和に悪影響が出ます。どちらに答えを出そうが困るのは韓国側だと思います。

  • < 本日も夕刊の配信ありがとうございます。
    < 安倍首相の訪韓について、まだ真意が不明というか、スッキリしませんね。新宿会計士様仰る通り、『訪韓は日米が韓国に対する最終通告であると共に、中国、北朝鮮にも向けられた最終通告だ』というのは、非常に近いというかアタリだと思います。安倍首相とペンス副大統領、特に安倍氏が強行に面と向かって文に言う。
    < このところ、韓国政府の反日離米は酷くなる一方です。南北五輪統一出場に留まらず、南北宥和会談にまで勝手に至っている。その間も弾頭小型化に北は全力上げている。親北朝鮮の文大統領は、真っしぐらに突き進んでいる。もう何も周りが言っても聞かない状態でしょうね。安倍首相は、五輪で文大統領と会談、日米韓の枠組み出て行くかハッキリしろと、もう1点が慰安婦合意履行の即時実行求める事。
    < どちらも、イエスかノーかすぐに言えッでしょう。曖昧な返事ならひっくり返して帰るだけ。但し約束破りは韓国。あとは日米ですべて決める。中、北と通牒してる韓国は無視、敵性国ということです。もう既に米国もアキラメで、釜山で原潜の入港断られたりして怒り心頭でしょう。
    < 文大統領が日韓会談を避けるなら、在日韓国大使退去処分(韓国紙に日本に対する内政干渉発言)、観光ビザプログラム短縮7日間に、外務省安全情報の引き上げから行なって貰いましょう。
    < 失礼しました。

  • ブログ主の言う通り不可思議だよ。阿比留さんとかの記事読んだけど腑に落ちないもん。長谷川さんの記事が割と説得力あるけど「安倍首相が訪韓する」理由の説明としては、イマイチ弱いんだよなぁ。ちなみに安倍首相の訪韓は決定事項じゃないからね。諸般の事情が許さなくて行けなくなることに1ペリカ。

  • うーん、韓国が国家崩壊を起こしそうだからそれを防ぐ為に行くのか、もしくは日米による南朝鮮共同統治関連とか、もしくは日米で韓国でクーデターを直前で引き起こしてその政権の正統性とか何かを付ける為に行くのかよく解んないね。
    一番ありえない事で北朝鮮による朝鮮半島統一を日米が認め中国から寝返りさせるとかも考えられるから当日までは我慢かなぁ、ただ安倍首相行くのはやっぱ暗殺やテロから見てお勧めできないっす。

    会計士様誤字です。したのカッコの部分訂正された方がいいかと。
    〉「これにつて」、仮に今回の訪問でスポーツ以外の目的(日韓合意や北朝鮮の脅威を伝える目的)が含まれた場合、スポーツ庁長官で済むということはありませんが、それにしても麻生太郎副総理や河野太郎外相が行けば済む話です。

  • トランプ大統領が通商法201条に基づく緊急輸入制限を発動する文書に署名したと報道されました。緊急輸入制限は中国が世界的に優位な太陽電池と、韓国が強い大型洗濯機を対象としたもので、平昌五輪直前の2/7に発動するそうです。安倍総理が訪韓するのは、丁度この直後です。安倍総理の訪韓は、この動きに連動する形で予定されたと考えられるかも知れません。韓国が北朝鮮への人道支援を進めるなら、アメリカだけでなく日本も韓国へ何らかの制裁を発動するという流れになるのかもしれないですね。