対韓外交で必要なのは「配慮」ではなく「決断」

昨日に続き韓国ネタです。朴槿恵(ぼく・きんけい)政権が窮地に立たされていますが、これに関連して、日本が何に気をつけなければならないのかを考えてみたいと思います。戦後の日韓関係において不幸だったことは、日本が韓国に対して「配慮する」という外交カルチャーです。日本がわざわざ、韓国のために「配慮」してあげたことで、日韓関係が良くなったかと言われると、事実はその真逆だったのです。本日は、朴政権が「退陣」を余儀なくされる可能性などをベースに、日本が「対韓配慮外交」から脱却し、「決断」できるかどうかについて、小論を提示したいと思います。

独立系ウェブサイトの強みと弱み

最初に、少し本論と関係のない話を述べておきたいと思います。

私がこの「ビジネス評論サイト」を運営しているのは、日本の既存のマス・メディア(新聞やテレビ)が専門知識の裏付けもなしに間違った情報を垂れ流している状況を何とかしたいという思いが強いからです。しかし、私自身は「金融規制の専門家」ではありますが、ジャーナリストではなく、やはり議論の構築は報道発表をベースにせざるを得ません。これが「独立系ウェブサイトの弱み」です。

しかし、インターネットが普及したおかげでしょうか、日本政府や日本銀行などから日々公表される「報道発表」「統計」だけを集めても、割と正確な情報を得ることができるのも事実です。また、少しだけウェブの知識があれば、外国のウェブサイトから統計を取ってくることも可能です。

さらに、報道機関(新聞やテレビ)の報道も、その多くは「一次データ」(記者・レポーターらが現地から報道する内容)ではなく、「記者クラブ」という腐敗した制度を通じて官庁から入手する報道発表であり、いまや、インターネットさえあれば、私たち一般社会人であっても、マス・メディアの記者らとほぼ同等の情報に接することができる時代です。

そうであるならば、「独立系ビジネス評論サイト」である当ウェブサイトでも、「専門知識についてもっと知りたい!」という社会的ニーズにも応えることができる部分があるはずです。そして、その分野の一つが、私自身の専門分野である金融規制の知識を生かした、専門的なニュース解説なのだと信じています。

日韓関係を巡るキーワードは「配慮」

戦後の日韓関係を一言で表現する単語があるとすれば、それは、「配慮(はいりょ)」です。これは、「韓国の国民感情に配慮する」、「過去の歴史問題に配慮する」、などの使われ方をする単語ですが、実は、この「配慮」こそが、日韓関係を決定的に悪くしている犯人ではないかと、私は考えています。

いくつか例を挙げましょう。代表例としては「日韓スワップ」と「慰安婦問題」ですが、古くは「歴史教科書問題」や「首相の靖国参拝自粛」などの論点があります。

「日韓スワップは日本にもメリット」は大嘘

財務省のウェブサイトによれば、日韓両国財相は今年8月27日に行われた「日韓財相対話」で、韓国の副総理兼企画財政部長官である柳一鎬(りゅう・いっこう)氏が日本の麻生太郎副総理兼財務大臣に対し、

「二国間の経済協力を強化すること、及び、その証として双方同額の新しい通貨スワップ取極を締結すること」

を提案したのだそうです。日韓スワップ自体が事実上の韓国に対する経済支援であるという点については、私自身がこのウェブサイトで過去に何回も繰り返してきた主張ですので、ここでは敢えて繰り返しません。しかし、ここでのポイントは、「日韓通貨スワップの再開を韓国側から提案した」という事実です。

考えてみれば、これは、実はとても大きな変化です。なぜならば、韓国国内では、

「韓日スワップは韓日双方にとってメリットがある」

と信じ込まれているからです(ちなみに「韓日」は「日韓」を韓国側から表現したものです)。平たく言えば、「日本にとってもメリットがある『韓日スワップ』の再開を、韓国政府側から言い出すとは、けしからん!」、というロジックですね。この「韓日スワップは日本にもメリットがある」という主張は、たとえば、次の「朝鮮日報」の記事でも繰り返されています。

韓日 サプライズで通貨スワップ再開へ=韓国側が提案(2016/08/28 07:06付 朝鮮日報日本語版より)

ただし、韓国メディアの主張による「日本へのメリット」の根拠は、いまいちよくわかりません。朝鮮日報の記事では

韓国にとって通貨スワップは、1990年代に見舞われたアジア通貨危機のような事態に備えるという意味で有益だ。日本にとっても円の地位を高めるのに役立つとされる。

と記載されていますが、「日韓通貨スワップは円の地位を高めるのに役立つ」という下りについては、全くもって意味不明です。

また、「日韓スワップの日本へのメリット」を主張しているのは、実は韓国政府・韓国メディアだけではなく、日本の財務省も同様です。たとえば、過去に『専門知識解説:「日韓通貨スワップ協定」』で触れたとおり、財務省の山崎達雄国際局長は

  1. 韓国の金融破綻を未然に防ぐことができるため、韓国と取引している日本企業にもメリットがある
  2. 通貨スワップを締結しておくだけで、日韓の為替相場の安定にも効果がある

といった主張をしています。

いずれも「通貨スワップが日本にもメリットがある」という説明になっていません。特に(1)の主張については、韓国という外貨流出リスクがある国と好き好んで取引している日本企業を、通貨スワップという「日本国民の損失になるかもしれない協定」で支援しているということと、全く同義です。いわば、「民間企業がリスク管理を疎かにする」という意味でのモラル・ハザードを誘発しているわけであり、このようなロジックを財務省の幹部が発言することは大きな問題です。

韓国の国民感情が納得しない?

「韓日スワップは韓国だけでなく日本にもメリットがある」―。

韓国側のメディアなり、韓国政府なりがこのような主張をすることは勝手ですが、なぜ日本の財務省がわざわざ、「日本側にもメリットがある」という論拠をでっち上げるのでしょうか?

その理由は、おそらく、「霞ヶ関」特有の「相手国(この場合は韓国)に対する配慮」にあります。日韓通貨スワップ協定は、明らかに、外貨不足に陥りやすい韓国を一方的に助けるためのものです。しかし、そのように「正直に」言ってしまうと、韓国国内で国民感情が反発し、日韓スワップの締結ができなくなるかもしれません。

私に言わせれば、韓国を助けるための通貨スワップを韓国国民が拒絶するなら勝手にすれば良いと思うのですが、もしかして財務省の人事評価制度上、外国との新たな協定を締結すれば「加点」されるシステムでもあるのでしょうか?仮にそうだとしたら、そんな役所、日本にとって有害でしかありません。

いずれにせよ、「日韓スワップは日本側にもメリットがある」などと「日本の財務省が」言い出すことは大きな問題ですが、こうした主張が出てくる理由の一つは、「日韓スワップは日本側にもメリットがある」ということにしておかないと、韓国の世論が納得しないからである、と考えると、説得力があると思います。

慰安婦合意も同様

日本による「無用な配慮」がなされている例は、他にもあります。それが「慰安婦合意」です。

既に多くの方がご存知の通り、慰安婦問題とは朝日新聞社と植村隆が捏造した完全な虚偽に基づく問題であり、それを韓国が国民、政府を挙げて「日本軍が朝鮮半島で20万人の少女を強制連行した」と大がかりなウソに仕上げて、世界中で日本国民を傷つける目的でバラ撒いている与太話です。

しかし、外務省はこの「朝日新聞社と植村隆が捏造した慰安婦問題」を、叩き潰そうと思えば叩き潰せるチャンスが過去に何度もあったにもかかわらず、そうした努力を怠ってきました。そればかりではありません。心ある日本人が、世界中で「慰安婦問題のウソ」と戦っているにもかかわらず、外務省はそれらの日本人を支援するどころか、昨年12月には「日韓外相会談」で岸田文雄外相が

「慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題」

であると失言してしまいました(太字と下線は引用者による加工)。

実際、私自身もFTやWSJの読者投稿欄で、過去に何度も、「慰安婦問題は朝日新聞社の捏造である」という事実を主張したことがあるものの、やはり英米の読者には理解されませんでした。すなわち、欧米社会ではこの「捏造」の方が事実であるかのように流布されてしまっているのです。岸田外相の「軍の関与の下に」という発言も、それに続く「慰安婦基金への10億円の拠出」も、いずれも諸外国から見て、「日本が何かやましいことをやったから韓国に賠償をした」としか見ていません。

「一度だけ謝る」のウソ

日本の首相が「相手国に配慮して」行動したという「悪しき前例」を作った犯人の一人は、中曽根康弘首相(=当時)でしょう。

中曽根首相は昭和57年(1982年)から62年(1987年)までの5年弱、政権を担い、国鉄の分割・民営化や電電公社、各種専売公社の民営化などの事績があります。これに加えて日米同盟は強固になったのも高く評価できます。私は中曽根首相の「不沈空母」発言は、ソ連の崩壊に一定の役割を果たしたと考えています。

ただ、中曽根政権の「負の遺産」もあります。それが、「教科書問題」と「靖国参拝取りやめ」です。中曽根首相は中国共産党指導部の親日派に配慮するため、みずから靖国参拝を中止。また、歴史教科書問題を巡っても、中曽根首相が中韓に配慮して、文部省に修正を要請するなどしたため、その後、「歴史教科書」と「首相の靖国参拝」が政治問題化する火種を自ら作ってしまったのです。

他にも、日本の歴代首相は、韓国側から「一度だけで良いから、過去について謝ってくれ」などと懇願されてきましたが、日本が何も悪いことをしていないのに謝ってしまえば、それは「一度謝れば済む問題」ではなくなります。

宮沢内閣の官房長官だった河野洋平が述べた「従軍慰安婦に関する官房長官談話」も、最初は「韓国に対する配慮」のつもりだったのかもしれませんが、いまやこの「河野談話」自体が、慰安婦問題の強制性の「証拠である」とされてしまっているのです。

過ちは繰り返さないことが大事

では、そこまでして韓国に配慮したことで、日本はどのような「成果」を得たのでしょうか?そして、現在の日韓関係で何が最大の問題なのでしょうか?

対韓配慮の「成果」とは?

日本は過去に、韓国に対してずいぶんと配慮をしてきました。日韓スワップ協定(※ただし2015年2月に失効)や慰安婦問題に関する「日韓合意」などがその典型ですが、いずれも、日本が「思いやり」で韓国に配慮した結果です。その結果、日韓関係は良好なものとなったでしょうか?

答えは「NO」です。

今日、韓国国民の反日感情は、もはや韓国政府にも抑えられなくなっています。在韓日本大使館前に設置された「慰安婦像」は、在外公館の尊厳と静謐の保持を義務付けた「ウィーン条約」に違反していますが、国民感情の反発を恐れるあまり、韓国政府にはその撤去など、到底できない相談です。

そればかりではありません。

韓国国民は、今や国を挙げて、北朝鮮の核開発をはじめとする様々な目先の課題よりも、「反日」の方を重視してしまっているのです。本末転倒も甚だしいと言わざるを得ませんが、これが「現実」なのです。

朝鮮半島をめぐる2つのリスク

さて、朝鮮半島との関係を議論するうえで、避けられないのが「2つのリスク」です。

一つは無法国家・北朝鮮の対処です。北朝鮮は無辜の日本国民を多数、拉致・殺害しましたし、現在でも拉致された被害者の相当数は北朝鮮に拘束されたままです。通常の国であれば、北朝鮮に軍隊を派遣し、容疑者・金正日(きん・しょうじつ、ただし既に死亡)らを拘束するなどしたうえで北朝鮮国内を強制捜索し、日本人被害者らを救出することができます。しかし、残念ながら日本という国家には「国家間の戦争」を禁じた憲法第9条第2項があるため、日本人の生命と財産が危害に晒されていたとしても、その日本人を保護することができません(余談ですが、私が「日本国憲法」を「殺人憲法」と呼ぶゆえんは、この憲法第9条第2項の欠陥にあります)。

もっとも、「北朝鮮リスク」とは、私たち日本国民の意思で除去することは可能です。実は、「北朝鮮リスク」の最も根本的な解決策とは、「日本国民に対する殺人条項」である憲法第9条第2項を、日本国民の意思として撤廃することから始まります。私たち日本国民は、「殺人憲法」である憲法第9条第2項を自力で排除し、無法国家・北朝鮮に対峙しなければならないということは、言うまでもありません。

そして、もう一つのリスクとは、「韓国政府が不安定過ぎること」です。

韓国政府は、過去に日本政府と交わした合意・条約の多くを反故にしてきた前科があります。その多くは、「国内の反日感情を抑えることができなかった」といったものですが、中には「韓国政府・大統領が人気取りのためにわざと日本国民の神経を逆撫でする」といった狼藉も含まれています。朴槿恵大統領の前任者である李明博(り・めいはく)が2012年8月に、韓国が違法占拠するわが国の島根県竹島に不法上陸したことがその典型例です。

しかも、李明博の竹島不法侵入は、日本では民主党の野田佳彦政権下で、2011年10月に日本が韓国に対して700億ドル(!)という桁外れの通貨スワップを締結してから約8か月後の話です。

朴槿恵政権の迷走は新たなリスク

日本がこれから真っ先に考えなければならないことは、朴槿恵政権自体が「長く持たないかもしれない」、というリスクです。

韓国の場合、大統領は任期5年ですが、調べてみると議会で弾劾されるか、自分から辞職しない限りは大統領職を剥奪されることはないようです。しかし、朴槿恵大統領は、辞任しようがしまいが、大きな混乱を避けることができない、という点は間違いありません。参考までに、韓国が「民選大統領」に移行した1988年以降の大統領は、次の通り、既に6代続いています。

氏名(よみがな)【敬称略】在任
盧泰愚(ろ・たいぐ)1988-1993
金泳三(きん・えいさん)1993-1998
金大中(きん・だいちゅう)1998-2003
盧武鉉(ろ・ぶげん)2003-2008
李明博(り・めいはく)2008-2013
朴槿恵(ぼく・きんけい)2013-

ここで仮に朴大統領が自主的に辞任すれば、1988年に民選大統領に移行して以来初の「椿事」です。あるいは、議会で弾劾され、可決されたとしても、前代未聞の事態であることに変わりはありません。なお、民選第4代目の大統領である盧武鉉(ろ・ぶげん)は、在任中に一度、弾劾手続により大統領職権を停止されたことがありますが、最終的には弾劾裁判が棄却されています。

一方、朴大統領の任期は2018年2月まで残っていますが、仮にそこまで「居座った」としても、既に政権は完全なレームダック状態です。議会で重要な法案が通せる状況にもありません。

これからの日本に必要なのは「配慮」ではなく「決断」

私は、「日本の対韓外交は韓国に対する過度な『配慮』により失敗してきた」と見ています。ということは、逆に言えば、「対韓配慮」をやめてしまえば、今までと違った展開が期待できる、ということです。というよりもむしろ、現在の韓国政府は既に「当事者能力」を完全に失ってしまっており、このような状態で韓国に「配慮する」のは、むしろ危険です。

日韓通貨スワップ協定の状況については、今年の8月27日の「日韓財相対話」以降、今のところ日本政府側から何も報道発表がなされていません。しかし、韓国政府はチェンマイ・イニシアティブ・マルチ化協定(CMIM)から400億ドル近い資金を引き出すことが可能であり、これに加えて韓国政府の公式発表を信じるならば、韓国の外貨準備は3800億ドルに達しています。韓国があわせて4200億ドルのドル資金を有している状態で、日本がせいぜい500億ドル程度の通貨スワップ協定を提供しなかったとしても、状況は全く変わらないはずです。

したがって、少なくとも通貨スワップについては、朴槿恵政権の迷走の「顛末」が見えるまでは、供与を控えるべきでしょう。

また、通貨スワップに限らず、これからの日本に求められるのは、「配慮」ではなく「決断」だと思います。

韓国が「司令塔」を失い、漂流しているうちに、今度は北朝鮮が今にも核武装しそうな状況になってしまいました。米国が大統領選で動きづらいことは事実ですが、こうなってしまうと、もはや猶予はありません。日本は米国と共同し、あるいは独自に、北朝鮮の核武装を防ぐために何ができるかを考えなければなりませんが、そこに「韓国との協力」というファクターは排除しなければなりません。

当事者能力を失った韓国政府を相手にせず、韓国の頭ごなしに北朝鮮を抑えに行けるかどうかに、「安倍外交の真価」が問われることになりそうです。

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