孤立する韓国―日米外相会談レビュー

連休初日にも関わらず、本日2本目の記事配信です。日米中韓の力学に、微妙な(しかし極めて重要な)変動が生じているようです。

米国務長官の日韓訪問

日米外相会談が韓国をスルーした意味

3月16日(木)に行われた、岸田文雄外相とレックス・ティラーソン米国務長官との「日米外相会談」の概要が、外務省のウェブサイトに掲載されています。

時刻時間イベント
14:15~15:351時間20分日米外相会談
(不明)(不明)日米共同記者会見
17:40~18:401時間ワーキング・ディナー

会議の概要は次の通りです(図表2)。

図表2 協議内容
議題細目主な合意内容
日米安全保障2+2閣僚会合日米安保巡る「2+2閣僚会合」の早期開催
沖縄問題普天間飛行場の辺野古移設などを通じた沖縄の負担軽減推進
アジア太平洋情勢北朝鮮北朝鮮の核・ミサイル開発を巡り日米韓で連携、拉致問題を巡り日米で連携
東アジア情勢尖閣諸島問題、南シナ海情勢に関する懸念の共有
その他同盟ネットワーク日米同盟を基軸として、フィリピン・ベトナム島のASEAN諸国やインド、オーストラリア等の有志国との重層的な協力関係を強化する
日米関係両国にとって利益となる経済対話の重要性
気候変動パリ協定を含む気候変動問題への対応

この中で、岸田外相とティラーソン国務長官は、韓国について言及したのは、「北朝鮮の核・ミサイル開発」の下りのみです。そして、日本にとって重要な「拉致問題」、「同盟ネットワーク」などからは、韓国の名は明らかに外されました。特に、岸田外相が

日本は、視野をアジア太平洋からインド洋を経て中東・アフリカまで拡げ、インド太平洋の自由で開かれた海洋秩序を確保することにより、この広大な地域の安定と繁栄を支えていきたい

と述べたくだりでは、ティラーソン長官との間で一致した「重層的な協力関係を強化する相手」とは、「ASEAN諸国」「インド」「オーストラリア」であり、そこに「韓国」という国名はありませんでした。

韓国は「価値を共有しない、単なる隣国」

この岸田氏の発言からうかがい知ることができるのは、明らかに日米両国は韓国を見捨て始めている、という仮説です。

韓国ではこれから大統領選が行われますが、米国は今年2月にジェームズ・マティス国防長官が韓国を訪問した際、高高度ミサイル防衛システム(THAAD)の実戦配備を当初予定の12月から4月に前倒しすることで合意しました。韓国はTHAAD配備を巡り、現在、中国から熾烈な経済制裁を受け始めていますが、韓国が「権力空白期」となるこの2か月間で、米軍としてはTHAADの配備を完了させてしまう狙いがあるでしょう。

そして、日米外相会談で垣間見えた「韓国軽視」の姿勢と併せて考えるならば、日米はこれから韓国を、

「北朝鮮や中国の軍事的な動きを監視する前線基地」

と位置付けることは明確です。そして、韓国は単なる「前線基地」であって、「同盟に値する相手ではない」という姿勢が、これからますます強まるのではないでしょうか?

韓国メディアから垣間見える米国の冷淡な姿勢

そして、こうした日米の「韓国を前線基地とする」という方針は、韓国メディアの報道からも垣間見ることができます。

米国務長官、日本外相と1時間の夕食会、韓国では会談だけ(2017年03月18日09時54分付 中央日報日本語版より)

大手韓国メディアの『中央日報』は日本語版で、共同記者会見の開催や夕食会の有無が「議論を招いている」と報じています。韓国メディアが不満に感じているのは、次の2点です。

  1. 米韓外相会談の前に共同記者会見を開いたこと
  2. 韓国側が提案した夕食会が断られたこと

これをどう捉えるべきでしょうか?

結論は決まっている!

1つ目の論点は、「米国の韓国に対するスタンスは結論が決まっており、ティラーソン氏はこれを韓国に伝えるために訪韓した」、という仮説です。『中央日報』も指摘する通り、記者会見が会談前に実施されるのも異例です。『中央日報』はこの理由について、「ティラーソン氏がメディアへの露出を嫌っているため」であるとしていますが、それが事実だとしても、「外相会談前に共同記者会見が行われる」ことの説明になっていません。

推測するに、これは米国側が、米韓外相会談で「決裂」したとしても問題がないように配慮したというものではないでしょうか?つまり、今回のティラーソン氏の訪韓は「外相会談のため」と称していますが、事実上、前日の日米外相会談で決まった方針を「伝えに来ただけだ」、という仮説です。

どうせ退任する外相と話しても意味がない

次の論点は、ティラーソン氏が尹炳世(いん・へいせい)外交部長官(外相に相当)とのディナーを断った点です。『中央日報』によると、

ティラーソン長官はこの日晩、ナッパー駐韓米国大使代理と食事をし、韓国の動向などについて報告を受けた

としていますが、いわば相手国の外相との夕食を断り、自国の大使(つまり部下)との夕食を優先するということは、明らかにティラーソン氏が現在の韓国政府を相手にしていないという証拠でしょう。

そして、「会談前の記者会見」「夕食を断ったこと」から推測するに、米国は少なくとも、どうせ退任する現行の韓国の政権幹部と「仲良くなる」ことには全く興味がなく、せいぜい、THAADを配備するという形で「韓国を前線基地として利用する」という姿勢で臨んだものだと考えると、一連の行動にも辻褄が合うのです。

どう考えるのか?

メンツをつぶされた岸田外相の「反撃」?

では、一連のティラーソン氏の訪日・訪韓をどう考えるべきでしょうか?

岸田文雄外相としては、日本国内の保守派からの猛烈な反発という政治生命を掛けた、2015年12月28日の尹炳世外交部長官との「日韓慰安婦合意」が、韓国政府側の不誠実な対応により反故にされそうになっていることに対し、「怒り」を抱いても不思議ではありません。

岸田外相の普段の国会答弁からも、おそらく岸田氏は韓国を「価値観を共有する相手」ではなく、単なる「戦略的利益を共有する」だけの隣国だと見ているのでしょう。

韓国は、THAAD配備により中国から猛烈な「仕返し」を受けていますが、どうやら岸田氏は、そんな韓国の窮状に手を貸すほどのお人よしではなさそうです。

どうせ誰がなっても反日

現在の情勢では、韓国の次期大統領は、誰が就任したとしても、どうせ日韓慰安婦合意を反故にすることは間違いありません。そうなれば、日韓軍事協力も間違いなく停滞するでしょうし、場合によっては米国がTHAADなどの「米国を守るための施設」だけ残して、朝鮮半島から撤退するかもしれません。

いずれにせよ、誰が後任大統領に就任しても、どうせ反日なのであれば、今のうちに「取れるものは取っておく」という姿勢は正しいと言えます。THAAD配備と日韓GSOMIAという、日本にとっての「実」を取り、日韓スワップなどの金融・経済支援は一切行わない―。これが正しい日韓関係なのかもしれません。

明日の予告

明日は久しぶりに、私の「専門分野」の一つである、「資金循環統計」を取り上げます。資金循環統計によると、日本の家計金融資産残高はついに1800兆円の大台に乗せました。ただし、冷静に眺めてみると、全ては一つの問題点に行きつきます。それは、「日本の家計が生活防衛をやめないこと」、です。そこで、明日はまず、家計金融資産の問題について、客観的な数値を確認するとともに、私の持論の一つである「消費税法廃止」についても議論してみたいと思います。

どうかお楽しみに!

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