「日本は世界最悪の借金大国」…周回遅れの国の借金論

日本は世界最悪の借金大国だ―――。こんな、極めて周回遅れの議論が出てきました。スタンダードな経済学の知見からも著しく逸脱しているだけでなく、対外純資産が史上最高額で世界最大の債権国である日本が「借金大国」だと言われても困惑する限りですが、ただ、これに対する一般読者のごく常識的な反応を見ていると、SNSの可能性を確信するには十分です。

国の借金論は一見するとわかりやすい

【総論】「国の借金」説は、どこがどう誤っているのか』などを含め、当ウェブサイトではこれまでに何十回、何百回となく取り上げて来た論点のひとつが、「国の借金」論です。

これは、「日本には国の借金がたくさんある」、「だからこのままでは持続できずに財政破綻する」、などとして、財政再建と増税が必要だと主張する言説です。

当たり前ですが、こんな考え方、スタンダードな経済学からは著しく逸脱しています。国家財政が破綻するかどうかは、「国の借金(?)」とやらの絶対額だけで決まるものではないからです。

ただ、SNSがここまで普及したにもかかわらず、こうした言説を信じ込む人がいまだに一定数存在するのは、こうした主張が「わかりやすい」からでしょう。

たとえば、「借金がたくさんあったらいずれ返せなくなる」という主張は、感覚的には正しいかの錯覚を覚えますし、実際、「山ほどおカネを借りて返せなくなった結果、自己破産などに追い込まれた」という事例は、世の中にはいくらでもあります。

また、「未成年の子供がネットゲームで親のクレジットカードを使い勝手に課金して大変な額の請求が来た」などのトラブルが続出するためでしょうか、最近の小学校では「経済教育」にも力を入れているらしく、借金の怖さを教えているようです(子供に借金の怖さを教えること自体は、著者自身も賛成です)。

国家債務の特徴…個人債務と同一視できない理由

ただ、「個人の借金」と「国家債務」を意図的に混同させ、こうした「おカネをたくさん借りたら返せなくなるぞ」という小学生でも理解できる恐怖心を「今の日本国の財政状態」にまで敷衍(ふえん)する話法は、いかがなものかと思います。

そもそも国家債務はいくつかの点において、個人債務とはまったく異なるからです。

  • 国債が自国通貨建ての場合、国債と通貨の信用力はほぼ等しくなる
  • 国家は永続するため、国内に資金がある限り、半永久的な借り換えが可能
  • その国の経済が成長すれば、実質的な債務負担は軽くなる

日本の場合、国債(JGBs)はすべて自国通貨である円建てで発行されており、いわば、日本国という主権国家の信用を裏付けとしているという点において、日本円と日本国債はまったく同一です。極端な話、国会さえ許せば、JGBを日銀に引き受けさせることも可能であり、基本、「デフォルト」はしません。

また、そんな極端な事例を考えなくても、諸外国のように、普通に「借換(ロール)」をしていけば、増税などしなくても残高を維持することができます。世の中には「国の借金はすべて増税して税金で返さなければならない」と勘違いしている人もいるのですが、これは大きな間違いです。

GDP比率が問題?なら経済成長すれば良い

さらに、世の中には「日本は公的債務残高GDP比率が200%を超えている」などと述べる人もいるのですが、(それの何が問題なのかはわかりませんが)もしそれが問題だというのであれば、債務を減らすのではなくGDPを増やせば済む話です。

公的債務残高GDP比率=公的債務残高÷GDP

上記の計算式において、かりに公的債務残高が1200兆円、GDPが600兆円だったとすれば、公的債務残高GDP比率は200%と求まります。

しかし、仮に公的債務残高が1500兆円に増えたとしても、GDPが2倍の1200兆円に拡大すれば、公的債務残高GDP比率は125%に下がりますし、公的債務残高が1800兆円に増えたとしてもGDPが1800兆円以上に拡大すれば、公的債務残高GDP比率は100%以下に下がります。

これが「経済成長による債務の弁済」です。

国家にはこの手が使えるわけです。

資金循環上、日本は国債発行が「むしろ足りていない」

なにより重要なことは、「現実の数字」を見ることです。

自国通貨建て国債の発行可能額は、GDP比率ではなく、一国の資金循環構造で決定されます。

というよりも、先日の『最新版資金循環で見る「国債発行残高が足りない日本」』などでも説明したとおり、資金循環統計に照らせば、現在の日本は国債発行残高が「多すぎる」のではなく、むしろ「少なすぎる」という問題が生じていることは明らかだからです。

資金循環構造を再掲しておきましょう(図表)。

図表 日本の資金循環構造(2024年9月末時点、残高、速報値)

(【出所】日銀『物価、資金循環、短観、国際収支、BIS関連統計データの一括ダウンロード』サイトのデータをもとに作成)

この図表からわかるのは、現在の日本が国債の発行余力をかなり残している、という点でしょう。

そもそも家計部門(図表の右上)が保有している金融資産が2179兆円、うち現金預金が1116兆円・保険年金資産が540兆円であり、これらの資金が機関投資家(預金取扱機関、保険・年金基金、社会保障基金など)に流入しています。

(※ちなみに家計が保有している資産としては、金融資産以外にも土地・建物などの不動産、自動車や大型家電、PCなどの耐久財、宝飾品・美術品などがあるのですが、これらの資産価値は資金循環統計では出てきません。)

そして、これらの家計・企業資産が機関投資家(銀行等の預金取扱機関や保険・年金基金、社会保障基金など)に流入する結果、これら機関投資家は預かった資金を何らかの資産で運用せざるを得ず、その余資の運用先として、企業向けの貸出金、株式などと並び、日本国債があるのです。

というか、むしろ日本国債の発行残高は、資金需要に対し、足りていません。なぜなら、「海外」部門に巨額の資産が積み上がってしまっているからです(具体的には、対外証券投資や対外直接投資など)。

「世界最悪の借金大国ニッポン」

こうした数字、理論をこれまで当ウェブサイトにて嫌というほど滔々と説明して来たつもりなのですが、残念ながら、「国の借金」論者さんの多くはスタンダードな経済学を理解せず、公的債務残高GDP比率が200%以上だ、という一点張りを続けています。

また、「国の借金」論が大好きな某ウェブ評論サイトの編集長氏は、山手線の駅名を冠した怪しい自称会計士のXアカウント(@shinjukuacc)をブロックしているそうです(ブロックしておきながら自分のウェブサイトにポストを引用するのはいかがなものかと思いますが…)。

まるでカルト宗教の関係者のようですね。

さて、こうした文脈で取り上げておきたいのが、ウェブ評論サイト『現代ビジネス』が24日付で配信したこんな記事です。

世界最悪の借金大国ニッポン この国はもうダメなのか? 私たちが迫られる「究極の選択」

―――2025/01/24 06:04付 Yahoo!ニュースより【現代ビジネス配信】

主張内容は、記事タイトルのまんまです。冒頭の記述は、こんな具合です。

  • 我が国の財政運営は、このままではこの先、何かのきっかけで、いつ何どき、行き詰まってもおかしくない状態にすでに陥っている
  • しかも、1,104兆円(2024年度末の普通国債残高の見込み)という天文学的ともいえる借金の大きさと、歴史上かつて体験したことのない厳しい人口減少がもたらす国力の低下を鑑みれば、ついに「行き詰まった」ときに起こる事態は、我が国自身が第二次世界大戦の敗戦直後に経験した苛烈な国内債務調整に匹敵するものにならざるを得ない

…。

読者コメント欄に希望を見る

対外純資産が史上最高額で世界最大の債権国である日本が「借金大国」だと言われても困惑する限りですが、ただ、ここで注目しておきたいのは、「記事の内容そのもの」ではありません。

Yahoo!ニュースの読者コメントです。

非常に興味深いことに、読者コメント欄を眺めていて気付くのは、記事への賛同意見の少なさです。

いくつか目に付いたコメントを、できるだけ文意を変えない範囲で当ウェブサイト風の用語にアレンジすると、こんな趣旨の指摘が相次いでいるのです。

  • 国の借金が国民1人あたりいくらだ、国債発行額が過去最高だ、などと言われるが、他国とは状況が全く違う。日本は世界に資産を保有しているし、「国の借金」は「国民に対する借金」でもある。最悪、日銀引き受けという手段もある
  • 問題は「国の債務残高が増えること」ではなく、「債務残高がGDP対比で大きくなること」。減税により経済成長を喚起すればGDPが増えて債務残高GDP比率が下がる
  • 国の借金や財政赤字を問題視するなら、なぜ予算の無駄を問題視しないのか
  • 日本政府の「借金」はたしかに巨額だが、一方で巨額の資産も持っており、資産と負債のバランスはとくに悪くない

…。

こうした認識が一般読者に広まっているのは、本当に良いことです。

著者自身も10年弱、当ウェブサイトの運営を通じて「国の借金論」の間違いを主張し続けて来たつもりですが(それ以前のブログ時代から通算すれば15年くらいにはなるでしょうか?)、世の中が少しずつ、しかし着実に、良い方向に変わっていることを実感します。

結局のところ、財務官僚という「国民に選ばれたわけでもない者たち」が徴税権と予算権を握ることで増長し、政治家を間接的にコントロールしつつ、スタンダードな経済学から著しく逸脱する増税原理主義を推し進めたことが現代日本の惨状でもあります。

これを変えていけるのは民主主義であり、SNSは民主主義の可能性をさらに高めるものでもあります。

周回遅れの「国の借金」論についた常識的な読者コメントを見ていると、それが確信に変わるのです。

本文は以上です。

読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。

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読者コメント一覧

  1. 元雑用係 より:

    景気の好循環への財政出動や減税に極めて渋い状況が続いている中での、政策金利の話。
    今日は日銀会合の日ですが、臆面も無く「日銀、利上げへ」なんてマスゴミ記事が並んでいます。事前リークは御法度、なんてルールは毎度毎度ガン無視です。
    まあ、報道通りにならないこともありますけどね。

    先月の会合後の資料を見ても、全ての日銀審議委員が物価上昇見通しを「弱い」と見込んでいるにもかかわらず、利上げをするんだそうですね。(会合の翌週に公表される文書の末尾に各委員の物価見通しのドットチャートが付いてます。文書名忘れた。)
    毎回昼前には発表があるのですが、この時点でまだ発表されていないようですね。少し遅いです。

    15時からの日銀総裁の会見を前回は見ていたのですが、マスコミ記者の質問が利上げを誘導したい質問ばかりなんですよね。なんでそんな意図を持つようになってしまったのやら。
    こんなところからもマスコミと財務省とのつながりを勘ぐってしまうんですよね。

    今日の定例会見のライブ配信は15:30~とのこと。

    日銀公式BOJチャネル
    https://youtu.be/qdOxmQrPBbI

  2. 匿名 より:

    身内にどうしようもないザイム真理教がおります。
    国の借金はけしからん!と日頃からうるさいくせして国債を買っているトンチンカンっぷり、呆れ果てるばかりです…

    1. 匿名 より:

      つまり、日本の国債は信用出来て人気だということです。
      であるなら、大量に国債が発行されたら信用できない海外の国債から日本の国債に乗り換える人や機関が大量に出る。つまり、外国国債の価格が下がって利率が上がって、外国国債を大量に持つ(海外の)銀行は大ダメージ。外国の国債の書いても減って、日本初の世界金融恐慌、なんてことも。

      1. 匿名 より:

        基本的なお金の動きを大半の国民は知らない(知ろうとしなかった)中で、さらに経済素人のキャスターやコメンテーターが「財政難で日本は大変」とTVで流すと。「そうなんだ・・・・増税は未来の子供のためにも必要なんだ」と思いこまされていました。SNSのおかけでやっと騙されてたことに気がつきました。
        これ財務省は虚偽の流風で罪に問われないのでしょうか?

    2. 匿名 より:

      また、最近yahooニュースで財政破綻論を講じるニュースが出てきましたね。共同通信なんか典型的な財務省のプロパガンダ確定のような報道のしかたですから。
      フジの次は嘘ばかり報道する新聞各社が国民からのターゲットになるのはわからないのでしょうかね。

  3. 柴Q より:

    財務省
    人の不幸は
    蜜の味

  4. 農民 より:

     信念を元にした自著があまりにも貶されているのを確認したら、反論の追加投稿があっても良さそうなのですが、この手の記事でそういった流れをみたことがありません。ましてやその相手を説き伏せたことなど。
     一方通行メディアの時代では投げっぱなしが成立し、読者側は”手段として反論できない”状態でしたし、そもそも記事になるくらいだから正しいのだろうという暗黙の了解があったかと思いますが、現在ではこれほどまでに反発が即時可視化されてしまう。そして著者側の”論理として反論できない”が成立してしまう。反論できるはずなのにしないのだから。
     いくら双方向メディアを否定したところで既にそれが存在している以上、一歩通行メディアに引き籠もったところで、論理の一方的押し付けは既に不可能になっていますね。

     当該記事の正しさを論じられると同時に、メディアのありかたや現在の環境も垣間見えるのが面白いなと思います。

    1. 雪だんご より:

      個人的には、未だに「日本は借金大国なんだー!経済破綻するんだー!!」と
      叫んでお金を貰っている人達は”その路線以外仕事を貰えない”人達なのだと
      推測しています。もちろん反論なんか絶対に受け付けないし最初から聞かない。

      そんな人生で良いのか?と思ってしまいますが、お金が貰えなくて
      くいっぱぐれてしまうよりはマシなんでしょうね、きっと。

  5. けいざいオンチ より:

    >現在の日本は国債発行残高が「多すぎる」のではなく、むしろ「少なすぎる」⇒ ひょっとして円安なのはこのせい?

  6. 愛知県東部在住 より:

    そもそも、通貨発行権と徴税権をという二大特権を有する国家の財政と、個人の家計や民間企業の借金を同列に考えるという、財務省の思考回路そのものがアホすぎるのです。

    ましてやブログ主様の仰るとおり、年数%の名目GDPの成長の実行を継続できれば、現在のレベルの国債残高は相対的に減少していきます。加えて基礎的財政収支(PB)の黒字化なんて喚いているのは、世界広しといえども、日本とドイツぐらいじゃないでしょうか。アメリカなんてずっと真っ赤っかですよ。

    この高校生でもわかる理屈が、既成のオールドメディアには何故か理解できないというところが今の日本の末期的症状を、如実に物語っているのではないでしょうか?

  7. カズ より:

    >周回遅れの「国の借金」論

    「国の借金論」が、実しやかに蔓延ったのは、
    『財務省の誤指導(ゴシドウ)』によるたまもの。

  8. foo より:

    >世界最悪の借金大国ニッポン この国はもうダメなのか? 私たちが迫られる「究極の選択」

    面白い問いかけです。しかし、この国はもうダメなのか? の問いかけは成立しません。
    ダメなのか?ではなく、既に思考が停止しておりますから、ダメも何もありません。
    座して死を待つ。言葉通りの結果を手にするだけであります。

    自民公明が掲げた「令和7年度予算編成大綱」は、国の借金論が絶大な支持を集める中にあっては必要のない与太話です。失政のネタにしかなりません。ここは笑うところです。

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