都心中古マンション価格急落は「日銀利上」げも影響か
日銀利上げのせいでしょうか、東京都心部などの8月の物件価格が、前月比急落しました。とりわけ価格下落が激しいのは東京都心3区(千代田区、中央区、港区)だそうですが、こうしたなかでウェブ評論サイト『ビジネスジャーナル』に、東京都心部で満を持して開業した麻布台ヒルズが「苦戦」している、などとする論考が配信されています。たしかに「高層ビルで働き住む」というライフスタイルが陳腐化している可能性もあるのですが、やはりそれ以上に気になるのは、タワマンかもしれません。
目次
中古マンション成約価格が急落
「東日本レインズ」といえば、公益財団法人東日本不動産流通機構が運営する不動産の流通情報システムとして知られていますが、同財団が毎月公表しているマーケットデータは、いろいろと参考になります。
同サイトは10日、2024年8月分までのレポートを公表したのですが、これによると、とりわけ上昇を続けていた東京都心部を中心とする首都圏の中古マンション相場は、8月に入り、平米単価が急落しました。とりわけ都心3区(千代田区、中央区、港区)の下落率が大きいようです(図表1)。
図表1-1 中古マンション成約状況(首都圏)
図表1-2 中古マンション成約状況(東京都)
図表1-3 中古マンション成約状況(東京都 都心3区(千代田区、中央区、港区))
(【出所】REINSデータをもとに作成)
ただし地区ごとにばらつきもある…都心3区の下落が激しい
やはり、日銀の利上げが影響したのでしょうか。
この点、地区ごとの中古マンション成約平米単価と前月比の増減率を一覧にしておくと、図表2のとおり、とりわけ都心3区で10%近く価格を下げているほか、城東、城西地区なども大きく下落しているのですが、城東地区はむしろ上昇するなど、地区によっても値動きにバラツキは見られます。
図表2 2024年8月の地区別中古マンション成約平米単価と前月比増減率
地区 | 2024年8月 | 前月比変動率 |
首都圏 | 74.77万円/㎡ | -5.32% |
東京都 | 101.11万円/㎡ | -5.43% |
都心3区(千代田区、中央区、港区) | 180.68万円/㎡ | -9.68% |
城東地区(台東区、江東区、江戸川区、墨田区、葛飾区、足立区、荒川区) | 90.09万円/㎡ | 2.75% |
城南地区(品川区、大田区、目黒区、世田谷区) | 105.19万円/㎡ | -6.20% |
城西地区 (新宿区、渋谷区、杉並区、中野区) | 129.60万円/㎡ | -6.47% |
城北地区 (文京区、豊島区、北区、板橋区、練馬区) | 91.72万円/㎡ | -0.05% |
多摩地区(都区部・島嶼部以外) | 52.59万円/㎡ | -5.74% |
埼玉県 | 42.56万円/㎡ | -3.62% |
千葉県 | 38.77万円/㎡ | -4.79% |
神奈川県 | 58.51万円/㎡ | 1.53% |
(【出所】REINSデータをもとに作成)
東京の不動産市況を巡る私見
このことから、日銀の利上げは、地区によっては過熱していた不動産市況に冷や水をぶっかけた格好となった可能性もある一方、地区によってはそこまでの打撃ではないことから、個人的にはこんな仮説を抱いています。
都心3区(千代田区、港区、中央区)や新宿区、渋谷区といった都心部では、不動産の投機バブルの傾向が生じていた。こうした地域では、日銀利上げによる金融機関ファンディングに対する懸念が生じ、資産価格は直ちに下落した
これに対し城東地区や城北地区、神奈川県といった地域では、下落率は僅少か、むしろ上昇に転じているが、これらの地区・地域ではもともと投機バブルは生じておらず、中古マンションに対しては居住用物件などとしての需要が強かったものと考えられる
ちなみにもちろんこれは当ウェブサイトなりの仮説であり、現時点で証明されている事実ではありません。
ただ、都心3区は2024年7月時点で平米単価が200.04万円/㎡(!)と、史上初の「200万円台」を記録しており、また、平均成約価格も1億1,287万円(!)と、こちらも過去最高値を更新していたことを考えると、やはりどこかで調整は不可避だったのかもしれません。
もっとも、千葉県や埼玉県についてはマイナスとなっていますが、じつはその前の月、つまり2024年7月時点では、3県では神奈川県飲みマイナスで、ほかの2県についてはプラスだったので、それが反落したかたちだ、などということもできるのかもしれません。
これに加え、日銀の政策目標となる金利水準は0.15%ポイント引き上げられたとはいえ、まだ「無担保コールオーバーナイト金利0.25%」(TONA25ベーシス)に過ぎず、諸外国と比べれば十分に低い金利水準でもあります。
このように考えていくと、7月末の日銀利上げは不動産市場にちょっとした「冷や水」を打ったのと同じような効果をもたらした格好だとはいえるものの、このまま東京都心部の不動産価格が下がっていくのかについては微妙なところでしょう。
麻布台ヒルズを手厳しく批判するビジネスジャーナル
もっとも、ウェブ評論サイト『ビジネスジャーナル』が10日配信した記事(11日付で更新)によると、昨年11月に開業した東京・港区の麻布台ヒルズが「人がまばらでガラガラ」だ、とする記事が出てきたのは気になるところです。
麻布台ヒルズ、ガラガラで廃墟化?森ビルの誤算、超高層ビルは時代遅れに
―――2024.09.11 06:00付 Business Journalより
オラガ総研代表取締役の牧野知弘氏の協力で、ビジネス・ジャーナル編集部が執筆した記事だそうですが、なんとも気になるところです。記事でも指摘されている通り、麻布台ヒルズは「森ビルが計画着手から30年以上、総事業費6400億円をかけて開発を進め、満を持してオープンに至った大型商業施設」だからです。
ビジネスジャーナルの指摘によると、この施設は森ビルが1989年に「街づくり協議会」を設立し、多数の権利者との協議を進めたうえで、2019年8月に着工するなど、まさに「計画着手から30年以上の時を経て」、昨年、開業に漕ぎ着けた施設です。
これについては以前の『「新築マンション価格上昇」ペースは急激=東京都心部』などでも述べたとおり、じつはレジデンス部分が東京都心部の新築不動産物件の平均成約単価を引き上げたのではないか、といった可能性も指摘されている物件でもあります。
ただ、ビジネスジャーナルの指摘は、なかなかに手厳しいものです。
「食品店が集まる麻布台ヒルズマーケットや飲食店はとにかく高額な店ばかりで、とても庶民が楽しめるとは思えない」。
これについて牧野氏は、麻布台ヒルズの苦戦について、「(神谷町という)ロケーションがよくないこと」、「(似たような高級ブランド店が立ち並ぶという)開発コンセプトがよくないこと」などを挙げ、なかなかに集客が厳しい現状を解説しています。
ただ、個人的にやはり気になる説明があるとしたら、「超高層ビルを主体とする商業ビル」、「そこに住むというステータス」は、2000年代初頭に開業した六本木ヒルズですでに先行しており、「同じようなコンセプトの商業施設が時代遅れになっている」、とする説明かもしれません。
こうしたなかで、やはり気になるのは、タワーマンションの動向かもしれません。
タワマンは最近、とくに東京、大阪といった大都市の都心部でニョキニョキと生えて来ていて、物件情報サイトなどを見ても、(東京の例でいえば)中央区や江東区などの湾岸エリア、あるいは新宿、渋谷、池袋といった副都心部などにも、たいていはいくつかの開発中の物件を見ることができます。
しかし、先ほどのJBプレスの麻布台ヒルズに関する記事を読んでも、何となく、タワーマンションブームにも終わりが来るのではないか、といった疑問が、ふと頭をもたげてくるのです。
正直、こんなにたくさん、タワーマンションを建てて、本当に大丈夫なのでしょうか。
東京でタワマンに住まざるを得ない理由
ただ、この点については、以前の『昭和の団地と「令和のタワマン」』でも指摘したとおり、現実問題として都心などで子育てをするのに適した物件は、やはり、タワーマンションとならざるを得ないのです。
いや、もう少し正確に述べるならば、子供を2~3人持つ世帯が都心部に住みたいと思うなら、(「都心部」の定義はさまざまですが、)タワーマンション「ぐらいしか」住める物件がないのです。
一般に、4人家族が暮らすのに最低限必要な面積は50㎡だといわれています。とはいえ、これはあくまでも「最低面積」であり、実際に4人が50㎡の物件に暮らすと、かなり狭いと感じるでしょう(公団住宅の昭和の団地だと、50㎡前後、というケースが多かったようですが…)。
このため、4人家族だと、やはり理想をいえば60~70㎡の物件が必要であり、そのような物件、住宅情報サイトでもめったに見つけることができません。
まれに非常に築古の(たとえば建設から40~50年が経過しているなどの)マンションに、希望の広さの物件が見つかることもありますが、築浅でそこそこ便利な場所で60~70㎡、といった物件は、都合よく見つかることの方が少ないです。
ただし、こうした状況の例外が、やはりタワーマンションなのでしょう。
タワマンは1つの建物に多くの世帯が住めるため、土地の余力に乏しい都心部などでは、逆に、かなりの実需があるのではないでしょうか。まとまってファミリータイプの物件が供給されているマンションといえば、やはり、タワマンくらいしかないからです。
しかし、個人的な見立てでは、こうしたタワマンも今は良いかもしれませんが、大規模修繕時期などに差し掛かってくると、日本各地で積立金不足問題が表面化する可能性もあるなど、将来に向けて不安要因もあるのではないでしょうか。
すなわち、平成から令和にかけて大量に出現したタワーマンションも、子育て世代が引退して子供たちが巣立っていくと、もしかしたら過去の団地のように、住民層の高齢化と老朽化の問題が同時に生じてくる可能性もあるからです。
そして、一説によると都心のタワーマンションの価格を押し上げているのはチャイナ・マネーだ、といった説明を聞くこともあるのですが、タワーマンションの所有者に外国人投資家が増えてくれば、もしかするとタワマン老朽化時に、さらに厄介な問題が生じたりしないか、という懸念もないではありません。
また、日銀利上げの影響もあり、「全体の」価格は下がっているのですが、もしかするとタワーマンションではない物件(20階建て以下の中古マンションなど)に関しては、意外と値崩れがしないのではないか―――。
そんな気がする今日この頃です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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「タワマンを建設することが、不動産建築業界にとって正解だった」時代が終わる、少なくても、疑問符がつくようになったので、この業界は次の正解を探している、ということでしょうか。
蛇足ですが、(別にタワマンだけではありませんが)個人所有の老朽化した建物をどうするかが、今後の日本の課題になるのではないでしょうか。
期待(投機)の大きさが実需を上回ってた分だけ、落胆(下落)したのかもですね。
期待の大きさは落胆の大きさに比例します。「山高ければ谷深し」ってことなのかと。
↑あれ?文言の順序がおかしいので訂正し、再投稿します。
期待(投機)の大きさが実需を上回ってた分だけ、落胆(下落)したのかもですね。
落胆の大きさは期待の大きさに比例します。「山高ければ谷深し」ってことなのかと。
タワマンに住むことは現在は一種のステータスと見られていますが、あと数十年後にはどんなことになっているのでしょう。中国の碧桂園がデベロッパーとなったマレーシアの巨大高層マンション+商業複合施設は既にゴーストタウンとなっているそうです。鳴り物入りで開発されたブランドタワマンといえども普通に考えて需要以上に供給されたものは荒廃するのが当たりだと思います。
相場の世界の話ですが、利上げなどの環境の変化に最も敏感なのはレバレッジなどを多用する層です。
てこの原理で資金を何倍にも膨らませて取引するので
少しの変化にも敏感です。
都心部の不動産価格の下落はそういう層の反応でしょう。
実際に住む層にとっては、0.25%は0.25%に過ぎません。少々過大なローンを組んでいてもそこまで家計を圧迫することにはならないでしょう。2%位でも同じことは言えます。
まあ、小バブル崩壊位にはなるかもなとは思います。ただ、今回は前のバブル崩壊に比べイケイケドンドンな貸し付けは少ない感じがします。感覚ですが。
株価が日経平均で数千円単位で下がってても、みんなそこまで悲壮感ありません。
もともと倍になったものが半値になっても元に戻るだけ。お金を借りた投資をしてなければそれくらいの余裕でもって相場をみることができます。
ただ、悲惨なのは、投資のやり始めに急落に出会うことですね。稼いだバッファがないからすぐマイナスになる。
日本の競争力をアップさせるため、解雇規制の緩和の方向のようです。マンション需要の一部になっていたパワーカップルや長期ローンのビジネスモデルが変容する可能性があります。中長期で住宅マーケットがどうなるのか注視しています。