「つながらない権利」:労働基準法に休日の定義設けよ

休日に業務連絡をする。休日に電話する。休日にメールを送る。社会人なら、やったことがある、あるいはやられたことがある、という経験を持つ方も多いかもしれません。読売新聞が12日に配信した記事では、「つながらない権利」が取り上げられていました。休日の業務連絡が問題化してからずいぶんと時間が経過しているため、議論自体が周回遅れとの感もありますが、意外と知られていない事実があるとしたら、労働基準法に休日や就労時間の定義が設けられていないことでしょう。

とある新人の日記

僕はまだ、新人だ。会社では怒られてばかりいる。こないだも指導役のA先輩からこっ酷く怒られ、その後も「反省していない」と言われ、メールでも怒られた。

メールの内容は、こうだ。

タイトル:君には失望しました。

本文:いったい何回言ったらわかるんですか。こないだ懇切丁寧に指導したばかりでしょう。どうして同じミスばかりするんですか。こないだ出張に行ったときも、夜、君が業務で分からないところを尋ねに来ると思って、僕は自分の部屋で待っていたんですが、結局君は僕の部屋に来ず、自分の部屋でさっさと寝てしまいましたね。僕が君くらいの新人のときには、寝る時間も惜しんで、仕事の予習をしていたんですよ。どうして君はそういう社会人として当然の事も出来ないんですか。<中略>君には本当に失望しました。

A先輩が言うには、僕が休みの時間に仕事をしないのが問題らしい。

こないだは日曜日の夜、A先輩から携帯に業務上の電話がかかって来て、僕が電話に出られなかったから、月曜日、またこっ酷く怒られた、僕は本当にダメな人間だ…。

Aの行為はいろいろアウトだが…

冒頭のエピソードは、今から約20年前に、実際にあった事例だそうです。

にこのAの行動の問題点は多々あるのですが(たとえば「指導役」という自身が立場を悪用し、相手に休日出勤を強要する、相手を叱責・非難・罵倒する長文の文書をメールで送る、など)、この令和の時代にAのようなことをしたら、まともな企業だと間違いなくパワハラで一発アウトでしょう。

この手の「メールでパワハラ」が許されていたという意味で、平成時代はずいぶんとおおらかだったようです(※「おおらか」という意味では、当時はまだ職場でタバコを吸うこともできましたし、実際、火のついたタバコを手に仕事をしている者たちもいたようです)。

ちなみにこの新人君、べつに仕事ができないというわけではなく、むしろ同期からは、「真面目に業務に取り組んでいる」という評判だったようですが、このAによって神経をすり減らしたためか、会社を1年少々で辞めてしまったそうです。

せめてパワハラの相談窓口があれば良かったのですが、残念ながら、当時はまだ「パワハラ」という概念すら一般的ではありませんでした。

休日の電話連絡、意外とやっていませんか?

もっとも、Aのような行動は論外ですが、一般的な社会人でも意外とやってしまっている可能性があるのが、「休日の電話連絡」でしょう。

労働基準法によると、会社が従業員に対し、業務を命じることができる量は厳しく制限されており、原則として就労日の労働は1日8時間までとされ、業務時間外に労働をさせる場合には割増賃金を支払う義務がありますし、原則として毎週1回以上の休日を与える義務もあります。

休日はその言葉の通り、「就労義務がない日」ですので、その日に業務連絡をすること自体が非常識ですし、休日に電話に出なかったからといって「逆ギレ」するというのはもってのほかです(※そういえば、「休日に仕事の準備をしておきなさい」というAの指示も、労働基準法違反の疑いが濃厚です)。

こうしたなかで、ネット上で少し話題となっているのが、読売新聞が12日付で配信した、こんな話題です。

業務時間外でも職場と連絡取るべきですか?通信発達で労働文化に変化…欧州では「つながらない権利」の法制化進む

―――2023/12/12 05:00付 Yahoo!ニュースより【読売新聞オンラインより】

スマートフォンの普及でいつでも手軽に連絡が取れるような時代が到来したことで、「つながらない権利」が注目されている――。

そんな記事です。

「つながらない権利」自体はやや周回遅れ感も

読売によると、この「つながらない権利」は「働く人々が業務時間外の連絡を拒む権利」のことで、携帯電話のほかにノートPC、通信アプリなどが普及したことで、その重要性が高まっている、などとしています。

また、記事では欧州でもこの「つながらない権利」を法制化する動きが広がっていると記載されており、具体的には、フランスで2016年、世界で初めてこの権利が法制化された、などとしています。

大変失礼ながら、ずいぶんと議論が周回遅れな気がします。「つながらない権利」という概念を定義するのは良いのですが、そもそも論として上司が部下に対し、休日に連絡を取り、電話に出ることを強要すること自体、労基法違反の疑いがあるからです。

この「休日連絡」問題は、Aのようなパワハラがなされていた20年以上前から存在したものでもあります。

労働基準法に「休日」の定義を書き込んだら?

ただ、それと同時に、労働者の権利を守るという意味では、労働基準法に「休日」、あるいは「就労日」「就労時間」の定義を設けるのも良いかもしれません。というのも、意外と知られていませんが、じつは労働基準法には、「休日」が定義されていないからです。

そこで、労働基準法に「第1条の2」を設け、定義としてこんな項目を入れるのはいかがでしょうか。

【私案】労働基準法第1条の2

この法律において「休日」とは、使用者が労働者に就労をさせてはならない日をいう。

2 この法律において「就労時間」とは、使用者が労働者を就労させる時間をいう。

このような定義を設けることで、休日に業務連絡をすること自体を違法行為とすることができるかもしれません。

  • 休日にメールを送ってはならない。
  • 休日に電話をしてはならない。
  • プライベートの電話を業務連絡に使ってはならない。

結局、これも社会全体で意識変革が必要です。

とりあえず、労働基準法を時代に合ったものに変えていくという努力を、国会議員の皆さまにはお願いしたいと思う次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 七味 より:

    休日の業務連絡という話題で、まっさきに思い出したのは、DVなんかの相談の担当者のお話なのです♪

    1件1件が重い上に、担当した被害者と連絡先の交換をすると、夜間や休日にもかかって来るようになるとのことでした♪
    信頼してもらえるのは嬉しい反面、休日も気が休まらない上に、異動してもやっぱりかかって来てしまうとのことだったのです♪

    お話を聞いて、個人の連絡先を教えなくても良いようにするとか、個人としてじゃなくて組織として対応できるようにするとかしないと、担当者の方が潰れてしまうんじゃないかと思ったのです♪

    お題とはちょっと違う話だとは思うけど、ご容赦下さいね♪

    1. 悪徳銀行員 より:

      コメント失礼します。
      私の勤務先にも人事部付の健康相談室があり、保健師さんが常駐してますが、相談内容の大半はメンタルヘルスのようです。
      保健師さん曰く、「信頼されるのはうれしい一方、相談者は同じような内容を繰り返し、通話の拘束時間も長いケースが多いため、心身の負担は大きい」とのこと。
      ある頻度の高い相談者は、人事部に退職の申出をしたそうで、保健師さんは「これで解放される」と内心喜んでいたところ、人事部の説得で思いとどまり、挙げ句再び相談が始まったそうで。
      保健師さん「思いとどまらせるなら、一度自分達が相談に乗ってみろ」
      キレる理由もわかると思いました。

  2. 引きこもり中年 より:

    毎度、ばかばかしいお話しを。
    オジサン社員:「休日に仕事の電話連絡がないとさびしい」
    自分が必要とされているという、自己確認のためでしょうか。

  3. 生え際 より:

    休日の法制化、とてもいい考えですね。

    休日にも仕事用のスマホを手放せない、行楽に向かう途中の車の中で仕事の連絡を受ける、憂鬱な気持ちのまま仕事のことを考えながら観光して帰って、何も記憶に残っていない…なんていう悲しい経験がなくなります。

    問題点としては取引先の窓口、担当者になっている社員が休日の場合に、取引先がそれを把握しているかどうかだと思います。
    他社はお休みだと知らずに連絡をするかもしれませんし、至急の要望であった場合には休暇中の当人が会社に連絡をする必要があるかもしれません。
    全てのスマホなど仕事用の端末を会社支給にして、休日は別の人間が持つようにすれば一応の対処は可能ですが、それが可能かどうか…。

    もし法制化が叶った場合、名刺に個人の定休日を記載したり、それぞれ社員個人がSNSなどで今月の営業日程などを公開するようになるのかもしれなせんね。

    1. 七味 より:

      電話とかメールを代表で受け付けて、社員の出勤状況に応じて、取り次ぐか「本日はおやすみです」って返答するかするシステムを組んだら良いかな?

  4. CRUSH より:

    この手の話で思い出されるのは、法隆寺棟梁の西岡常一と弟子の小川さんの話。

    徒弟制度は労働基準法に馴染まない。
    でも、法律の方が後からできたのにヤメロという。

    見習いは住み込み無給。
    学生なんだから金を払ってもよいくらい。
    一人前になったら暖簾分け。
    道具の研ぎ方から削り方切り方組み方。
    24hrsずっと仕事のことだけを考える毎日。

    僕は、腹を決めて自分のやりたいことかハッキリ見えてる人にとっては素晴らしい環境だと思います。
    でも、法律はそれを禁じる。

    なりそれ。

    むずかしいんですよ、この領域。

    1. こんとん より:

      >CRUSH様
      おっしゃりたいこと判ります。
      私見ですが、残業の問題にしても、休日の仕事の問題にしても、徒弟制度やその他色々にしても本人に自主性があればアリなんじゃないかとも考えています。

      新人さんが強い向上心や成功への意欲で「自主的に」無給でも時間外でも、自己の向上を目指して研鑽するのは本人のためでもあるし、良いんじゃないかもと思います。

      ただ、それをヨシと制度化してしてしまうと必要以上の向上心を持たない社員(決してそれが悪いと言ってるわけじゃないです。コスパ大事ですw)に強制してしまう輩が出るから問題化するかなと。滅私奉公しないのはその志を持たないやつが悪いんだと誤用悪用する上司・企業がでるから法制化はやむを得ない面もあるかなとは思います。

      十人十色で色んな新人・上司・企業があるからバランス取るのは難しいですよね

  5. セクシー○○ より:

    >夜、君が業務で分からないところを尋ねに来ると思って、僕は自分の部屋で・・・

     これは無理です。なんで夜に男の部屋に?女性で美人な先輩なら行きますけど。
    そういう問題じゃないですね。ゴメンナサイm(_ _)m

  6. Masuo より:

    職種と立場によるのかな。。。
    (こんなこと言っているからダメなのか・・・)

    昔は連絡が取れないなんてありえなくて、不安でしょうがなかったですが、年を取ってからはそんなに急な用件ってないよな、と割り切れるようになりました。

    何ならわざと連絡が取れない秘境の温泉とかに行くほどに成長(大人になった?年を取った?)したように思います。そうなっても、特に仕事に支障はありません。

  7. sqsq より:

    この手の話、管理職と非管理職では分けて考えたほうがいいかも。
    非管理職、休日も休憩時間も休んでください。
    管理職だとそうもいかない。
    ある年の正月3日の朝、お雑煮を食べていたら電話がかかってきた。ニューヨークから。アメリカは2日から平常業務。アメリカの2日は日本の3日。
    部下がレポートの提出を忘れているとの由。その足で会社行ました。寒いオフィスでレポート作って送りました。

  8. 三門建介 より:

    自分の職場は介護系でデジタル化が遅れているところです。昨年までは「つながらない権利」以前の状態でした。ペーパーレス化も含んでいろいろ変化が起きています。労基が入らないか少々不安です。

    メールアドレスとLINE WORKSのIDが付与されました。
    出退勤もIT化の為スマホのアプリに社員IDが振られました。

    給与明細の連絡はメールできます。メール内のURLから明細の確認になりました。
    ただ、受信用のメールアドレスは、個人用が望ましいと言っています。

    LINE WORKSのアプリは、個人所有のスマホが望ましいと言っています。
    また、制度導入後の中途の職員はすべて個人のスマホにLINE WORKSを入れる誓約書にサインさせられます。

    出退勤の打刻用の画像は、カードで渡されますが、個人のスマホのアプリでも可能なため推奨は個人のスマホアプリです。うたい文句は、「有休等の申請が自宅からもできる」です。

    個人端末の利用に対しては手当ても出ていません。この春までIT系の管理してたんですが、外されました。自分自身は、数年前から「つながらない権利」が海外で問題になっていたので導入は消極的でした。

    36協定を結んでも問題ありかもしれないと気にしています。他の従業員は地方銀行の支店長経験者が導入したので「問題なしか?」と気にはしていますがそこまでです。最も、定期健康診断期間中に退職の為有休消化している従業員の健康診断を受けさせなかった時点でよくわかっているとは言えないので心配です。

    昔のままが良いわけではないですが、休日のとらえ方を直さないと有休消化もままならないような気がします。

  9. 転勤族 より:

    新入社員時、男性喫煙者は自席喫煙が当たり前で、指導中に煙草の灰を掛けられたこともありました。一般職(と当時呼ばれていた)女子従業員が「男性だけ自席で喫煙出来てズルい」と申し入れていました。

    「日曜は翌週の段取りを考える時間だろ」「ボケっと過ごすお前は本当に頭が足りないな」
    と指導を受け
    「俺が想定した8割程度の出来上がりだから、残業の2割分は出せない」
    「そもそも通常勤務中も8割程度なんだから、2割分は残業代なしで埋め合わせするのが当たり前」
    と勤務管理表を修正されました。

    思えば遠くへ来たもんだ。
    そんな勤務先は健康経営優良法人認定を受けています。

  10. さより より:

    本稿でいう所の、休日と就労時間の定義を労基法で定義すべしの意味が分からないですね。
    労働者とは、労働契約によって就業時間だけ就労義務がある訳で、その時間以外は、全て本人のものなので、自由時間です。
    ですから、労基法には、休日の定義が必要無いのです。
    ある組織と労働契約をしているからと言っても、就労時間だけが労働契約の範囲です。ただし、その組織との労働契約には、就業規則などは必要になりますから、その規則には従わなければならない。そして、就業規則そのものは、公序良俗に反するものを規定してはいけないから、違法な規程はないはずです。
    個人的には、本稿に書いてあるような事が問題になるような職場で働いたこともないし、休日や時間外に電話があった事もない。皆さん、良識のある人達ばかりであったし、そもそも、自分がそうされたら嫌な事は他人にもしないという基本認識がしっかりとあれば、法律や規則で厳しく規程しなくても、何をしてはいけない事かは自分で分かること。ただし、トラブルなどがあれば、自分の仕事の責任範囲として、時間外でも自主的に出勤するでしょうね。当然、残業代は貰えます。
    キンコン西野が、吉本と契約していた時、マネージャーに夜中だろうが休日だろうが、気が向くと電話しまくり、注意してもやめなかったので、吉本からマネジメント契約を解除されたのは、記憶に新しいです。自分が稼いでいるから何をやっても良いと勘違いする輩は、何処にでもいるようですね。

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