時代の潮流?日販が出版物コンビニ配送事業から撤退へ

出版を経験するとわかりますが、書籍を欠くというのは、本当に儲からない仕事です。ただ、これは出版社が不当に利益を得ている、というわけではありません。経費が本当にかかるのです。こうしたなか、日販がコンビニ向けの書籍配送から撤退する、という話題が出てきました。時代の流れでしょう。新聞と違い、マンガ本などのように収集需要があるケースもあるため、一概に書籍がなくなるというものでもないとは思いますが、少なくとも今後は「物理的に紙で刊行する」という需要が減っていくことだけは間違いないでしょう。

出版、儲からないです

こう見えても、山手線の駅名を冠した怪しげな自称会計士は、人生のなかで何度か商業出版をしたことがあります。実名、共著も含めれば、これまでに10冊ほど出版しました。

【参考】『数字でみる「強い」日本経済

この少ない経験ではありますが、書籍出版でいえることは、「本を出して大金持ちになる」ということは、基本的には絵空事だ、ということでしょう。

そもそも論として、多くの場合、書籍執筆者の元に入る印税収入は売上高の10%前後であり、なかには8%、5%といった事例もあります。1冊1,000円で書籍が店頭に並び、それが1冊売れたとしても、著者には100円(あるいは80円、50円)しか入らない、というのです。

【参考】『韓国がなくても日本経済はまったく心配ない

なんとも割に合わないビジネスです。

いや、もちろん、書籍を書くのは著者の仕事ですが、それを校正するのに編集者などの労力も投じられていますし、カバーはデザイナーが担当します。1冊の書籍が世に出るまでに、非常に多くの方々の協力がなければならないのです。

このため、書籍の執筆は正直、著者の側から見て、「もっと(取り分を)寄越せ」と言いたい気持ちもないではないものの、それよりも「出版社、儲からなくて申し訳ないなぁ…」、という気持ちが先に立ってしまいます。

1冊1,000円の書籍が初版5,000刷で店頭に並んだとしても、すべて売れて売上高はやっと500万円に過ぎませんし、著者に印税を支払ったうえで、印刷会社に書籍を印刷してもらうのにも、それらを全国の書店に配送するのにも、それぞれコストがかかります。

だからこそ、インターネット社会が到来したことで、出版に係る費用なしにコンテンツを人々に届けられるようになったというのは、革命的な現象なのでしょう。

書籍が売れなくなるはずです。

日販がコンビニ配送から撤退へ

こうしたなかで、日経新聞などいくつかのメディアが先月、ちょっと気になる記事を配信していました。

日販、ファミマとローソンへの書籍配送終了 25年に

―――2023年10月26日 17:54付 日本経済新聞電子版より

出版取次大手の「日本出版販売(日販)」はコンビニのファミリーマート、ローソンの全国約3万店舗に対する雑誌や書籍の配送を、2025年2月で終了する、というのです。

「出版取次事業者」とは、出版社から仕入れた出版物を書店などに卸す業者で、日経新聞によると、コンビニ向けは日販がファミマとローソン、トーハンがセブンイレブンにそれぞれ配送しているのだとか。

今回、日販がコンビニ向け配送から撤収する理由としては、電子書籍の普及で販売が減っていることに加え、物流費高騰などで採算が悪化している、といった事情が挙げられています。また、日販が配送をやめたあとは、トーハンがファミマ、ローソン向けの配送を引き継ぐ方針だ、とも記載されています。

では、具体的にその影響はどの程度なのでしょうか。

出版物コンビニ売上の厳しい現状

これに関しては、読売新聞が10日付で、こんな記事を配信しています。

出版取次の日販、コンビニ雑誌配送を25年初めに取りやめ…書店配送への影響に懸念も

―――2023/11/10 11:41付 Yahoo!ニュースより【読売新聞配信】

読売によると、日販は22年度に約22億円の赤字を出したこともあり、配送ルートの効率化などに取り組んできたそうであり、また、ローソンによれば日販から今年1月頃、取次業務を取り止めたいとの要望を受けていた、と報じられています。

また、日販は読売の取材に対し、「25年2月末をめどにコンビニへの配送から撤退することは事実」と認めたうえで、「スムーズな移行に努めたい」と回答したのだそうです。

ちなみに読売の記事が引用する日販の統計資料『出版物販売額の実態2022』によると、2006年度に4253億円だった国内のコンビニでの出版販売額は、21年度には約1172億円へと激減し、出版物販売額全体に占めるコンビニ販売の割合も約17%から約8%に半減した、などとされています。

まさにこれを「出版不況」と見るのか、あるいはアマゾンなどのが日本の流通システムをガラッと変えている証拠と見るべきでしょうか。

時代の潮流はペーパーレス

もっとも、新聞などと異なり、書籍の場合、まったく売れなくなってしまうというのは、少し考え辛いところです。

収集などの需要があるためです。マンガ本などがその典型でしょう。

世の中で「新聞を収拾しよう」という人はあまり聞いたことがありませんが、書籍については収集し、書架に飾っておきたいと思う人もいるでしょうし、最近だとウェブ会議やウェビナーなどが一般化したこともあり、PCの背景に本棚が映ると、ちょっとカッコよかったりもします。

ただし、時代の流れとしては、コンテンツは紙媒体ではなく、電子化するのが潮流でもあります。

たとえば日本公認会計士協会が刊行する業界誌『会計・監査ジャーナル』は、すでに協会会員向けの書籍送付を原則として終了しており、基本的には電子媒体での提供が一般的です。少なくとも今後は「物理的に紙で刊行する」という需要が減っていくことだけは間違いないでしょう。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 匿名 より:

    読み終えた古雑誌の処分に困るしね

  2. バッカス より:

    チラシという名の印刷物は、出版刊行物よりもっと前に急減していますよね。
    悲鳴にも近い嘆きを、製紙関連、輪転印刷工場から聞いたのはなんだか古い記憶です。
    新聞販売店の広告収入でもあった折込チラシ、本体が消え行く一因でもあるような。

  3. たろうちゃん より:

    当年62才になる。小学校三年時には母から350円貰って、ルパンだのホームズだのロビンソンクルーソーなど良く読んだ。当時は消費税もなく今から比べれば安価に本が読めた。親父もお袋も祖母も働き者だった。みんな鬼籍に入ったが、、新聞も隆盛を誇っていた。インターネットのない時代。だから右だの左だの反日だの社会の趨勢などわからなかった。時代が変わりペーパレスだという。確かに便利ではあるけど昭和の遺物である俺みたいな人間には寂しい限りだ。仕方がないのかねぇ。時代の要請だもの、、

  4. 匿名 より:

    もう書籍専用の配送に合理性が無い事は明白
    通販の荷物も減っていると聞くし、宅配便にしてしまえばOK
    もっとも、それでは書籍卸の存在意義も…

  5. sqsq より:

    「書籍」と言っても要するに週刊誌、漫画雑誌、アダルト雑誌のことだと思うけど。
    1172億円の売上。
    コンビニの全国売上高は2022年に11兆1775億円だからコンビニ売上の約1.05%を書籍類が占めているということ。コンビニ1店舗の日販は50-60万円だから1店舗でだいたい1日5000円~6000円の書籍類売上。運搬費、返本の処理等考えたら大きな損失を出しているだろう。こりゃあやめた方がいい。

  6. さより より:

    これは、日販やトーハンが、独自に各店舗へ配送していたということなのか?
    コンビニ各社の地区倉庫への纏めた配送ではなく。
    近くの書店にも、配送していたというからそうなのだろうけれど。
    これからは、雑誌の出版社も発売日を同じにするとかで、取次店の書店への配送回数を減らすなどの対策をして、出版界全体としての生き残り体制の見直しも必要になるのかな?

    1. 通りすがり より:

      各地区へのまとめ配送でしょう。コンビニ各社の物流センターに一括卸し。
      書店小売店へのルートとは別物です。

      雑誌などはどうしても東京から発送するものが大多数である以上、各地方との発売日の均一化は不可能でしょう。
      コロナ禍前は昔よりも流通が早くなっていた地域もありましたが、コロナ以降また昔のタイムラグが復活してしまいました。雑誌扱いを除く書籍やマルチメディア扱いの流通も併せて流通が遅くなる始末。

      逆にアマゾンは地方から購入しても東京発売日に合わせて送ってくるようになってしまいましたね。

      1. さより より:

        >各地方との発売日の均一化は不可能でしょう。

        これは、出版社の発売日を同じにするという事です。
        また、地方では、1〜2日遅れることは、承知しております。昔、某週間紙を必ず購読していた時、発売日に出張先の広島で買おうとしたら、1日遅くれで届くと言われた時は、非常に残念でした。
        これが、ネットなら何処でも、発売日に読めるのですから、わざわざ、情報を紙で運ぶ必要があるのか?という事になりますね。

        1. カズ より:

          ローカルコンビニでは基本的に二次取次から店舗への直送だったりです。
          物流拠点へのまとめ配送では、発売日の陳列に間に合わないからですね。
          (物流拠点での中継で半日~1日のタイムラグが生じます)

          私のところなんかにも、二次取次から配送のまとめ依頼(2日に一回にして欲しい)があったりはしています。

  7. 匿名 より:

    似非フェミどもがコンビニのエロい本を狙い撃ちにして排除させたことも結構大きいと思うけどな。

  8. 匿名 より:

    コンビニの側も、外から見える一番手前に雑誌を配置する店内レイアウトの変更を進めているらしいです。最近はコンビニで雑誌を手に取ってる人なんて全然見かけないもんなぁ。

    セブンイレブンの新フォーマット店舗 (店内レイアウトの大幅変更) – コンビニウォーカー
    https://cvs.main.jp/pictures/seven_layout_newformat/

  9. 土地家屋調査士 より:

    禁煙中ですが、タバコを買わないとコンビニは全く行かなくなりました。書籍類はスマホで当サイトを拝見すれば、電子版でも必要ないですし。食品類、日用品はスーパー、ホームセンター、ドラッグストアがお得だし。
    コンビニ駐車場の盛況ぶりを見るに、日本国は言われるほどの円安不況ではないな、と感じます。
    コンビニ利用は通販の商品、配達物の受取くらいですけど、地方在住者は地元の店舗を使いたいので、店舗に無い商品に限る、です。

  10. 今回は匿名で より:

    会計士様
    リード文が「書籍を欠く」となっていて残念なのでそこだけ訂正お願いします
    (このコメント掲載不要です)

  11. AuO2 より:

    元書店勤務です。
    本屋は儲からないですね。
    ざっくりとですが、粗利が20%程度なんです。つまり、販売金額1000円だと仕入れ値が800円。売れたとして手元に残るのが200円。
    ここから経費などを引くわけで。
    週刊誌を1冊売って何円残るんだろうという…。
    いろんな業種の利益率で最下位レベルだったと思います。
    この数字からすぐに分かると思いますが、万引き被害が深刻な影響になるわけです。
    1000円の本が1冊盗まれると、4冊売って仕入れ代金と±0、5冊売ってようやく1冊分の利益になるわけです。
    うちの地元の自治体では新刊書店がほぼ絶滅して、もはや1軒しか残ってません。
    そういう私もここ何年か、ほとんど本は買ってないですからね。

    ちなみに、業界用語ですと、書籍は小説とかのもろもろの本で、雑誌はいわゆる週刊誌とか月刊誌とかです(雑誌コードが付いています)、その間の子みたいな物がムックと呼ばれます(雑誌コードとISBNコードの両方が付いていたと思う)。
    私が現役だったのは随分と前のことなので、今も変わってなければですが。

    1. さより より:

      地元書店➕地元出版社
      岩手のイーハトーヴ書店
      https://ihvbookstore.jp/

      地域活性化は、経済面ばかりでは無く、書籍を通した文化の活性化もあり、ですね。

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