人民元経済圏に取り込まれるロシア:人民元相場に関心
ロシアのメディア『タス通信』が現地時間の月曜日、ルーブルが人民元とユーロに対して急落したとわざわざ報じました。対米ドルではなく対人民元でのレートを報じたという点がポイントです。ロシアの主力銀行がドル決済網から排除され、必然的に中国の銀行などをコルレス銀行として使わざるを得ないなかで、ロシアが徐々に人民元経済圏に組み込まれつつある証拠に見えてなりません。
目次
戦争開始以降のルーブルの為替変動の激しさ
いつの間にか、ロシアの通貨・ルーブルの価値が再び下落し始めたようです。
国際決済銀行(BIS)の為替データによれば、ルーブルの対米ドル相場(USDRUB)はウクライナ戦争勃発直後の2022年3月11日に史上最安値となる1ドル=120.38ルーブルを記録。
その後はロシア中央銀行による緊急利上げ(9.5%→20%)や資本規制などの影響もあり、ルーブルは同年5月21日以降、断続的に1ドル=60ルーブルの大台を割り込む高値水準となるなど、極端な動きを見せたのです(ちなみに1ドル=60ルーブル台を割り込むのは2018年4月以来4年ぶりでした)。
ところが、昨年の秋口に1ドル=60ルーブル台を再び突破して以降、再びルーブルがジリジリと売られ始め、12月以降は70ルーブル台を超えることも増え、今年2月以降は70ルーブル台がほぼ定着。4月に入り80ルーブル台、そして7月に90ルーブル台、8月には瞬間的に100ルーブル台を付けています。
BISデータは9月25日時点のものまでしかありませんが、これを過去20年分グラフ化するだけでも、とくにウクライナ戦争開始以降の値動きの激しさがわかるでしょう(図表1)。
図表1 USDRUB
(【出所】The Bank for International Settlements, “Download BIS statistics in a single file”, US dollar exchange rates (daily, vertical time axis) をもとに著者作成)
政策金利は明らかにルーブル防衛:国民生活もおそらく厳しいはず
ちなみにロシアの政策金利も足元で上昇を続けており、同じくBISのデータによると、8月15日に緊急で8.5%から12%へと一気に3.5%ポイントも引き上げられたほか、9月18日にもさらに1%ポイント引き上げられて、9月20日時点では13%表示されています(図表2)。
図表2 政策金利米露比較
(【出所】The Bank for International Settlements, “Download BIS statistics in a single file”, Policy rates (daily, vertical time axis) をもとに著者作成)
このうちとくに8月の利上げについては通貨安を受けた通貨防衛によるものと考えられますが(『ロシア中央銀行が大幅利上げ=ルーブル防衛で政府圧力』等参照)、この大幅な利上げにより、ロシア国民の生活はさらに厳しいものとならざるを得ないでしょう。
ちなみに日本でも、経済学の素人を中心に、「円安を防ぐために日銀は利上げをすべき」などと寝言を述べる者たちが後を絶ちませんが(『日本人の年収を外貨建で議論しても無意味な理由』等参照)、通貨安を食い止めるためには利上げが手っ取り早いことは間違いありません。
ただ、利上げをすればするほど、それだけ企業などの民間の経済活動が低調になりますし、経済が低迷すれば雇用にも悪影響が生じ、国民生活は困窮していくでしょう。
いずれにせよ、ロシアの直近の利上げにも関わらず、足元では再び1ドル=100ルーブルの大台に乗せるかどうかの攻防も行われているらしく、WSJのマーケット欄等を閲覧すると、週明け早々に1ドル=99ルーブルを挟んだ微妙な値動きが続いているようです。
ロシアのメディアの「取り上げ方」
ただ、本稿でロシアの為替相場に注目した理由は、じつはそこではありません。この話題に関するロシア国内のメディアの取り上げ方がユニークだったからです。
Yuan up above 13.5 rubles on Moscow Exchange, euro exceeds 104 rubles
―――2023/10/02 13:57付 タス通信英語版より
ロシアのメディア『タス通信』は月曜日、ルーブルが(対ドルではなく)対ユーロ、対人民元で大きく下落したと速報的に報じているのです。
人民元に対し、ルーブルが8月15日以来再び1元=13.5ルーブルの大台を突破し、ユーロに対しても9月14日以来再び1ユーロ=104ルーブル台に上昇した、というのがこの記事の記載です。時刻ごとに対人民元、対ユーロの相場が掲載されています。
ちなみに同じくBISデータからルーブルの対ユーロ、対人民元相場を計算すると、図表3の通りです。
図表3-1 CNYRUB
図表3-2 EURRUB
(【出所】The Bank for International Settlements, “Download BIS statistics in a single file”, US dollar exchange rates (daily, vertical time axis) をもとに著者作成)
ロシアは人民元経済圏に取り込まれつつある?
どちらのグラフも正直、図表1で確認したUSDRUBと形状的にはあまり変わりません。べつにルーブルが対人民元、対ユーロの双方で最安値を更新したというわけではなく、ただそれぞれの節目を突破したというだけの話です。
しかし、この報じ方で気になるのは、人民元という、国際的な通貨市場ではとうてい「メジャー通貨」とは呼べない通貨に対する為替相場を大々的に取り上げている点でしょう。それだけ、ロシアの外為市場が人民元と密接な関係を持ってきた、ということを示唆しているからです。
というよりも、ロシア自体が現在、人民元経済圏に取り込まれつつある、という可能性があります。
以前からしばしば指摘している通り、ロシアのウクライナ侵攻を受け、ロシアの主力銀行は国際的な銀行送金システムであるSWIFTNetから排除されてしまったためか、SWIFTが公表する『RMBトラッカー』のデータで見ても、ルーブルは国際送金通貨としての上位20位に入って来なくなってしまいました。
想像するに、ロシアの主力銀行は現在、国際的な送金網に直接参加することはできないため、貿易決済に当たって、現実的には中国の銀行をコルレス銀行とし、人民元を介して行わざるを得ないのではないでしょうか。
だから人民元に対するルーブルの相場が気になるのではないか――。
タス通信の記事からは、そのような姿が見えてくるのです。
人民元の利用が思うほど増えていない理由
ただし、そのわりに人民元の国際送金におけるシェアが日本円のそれを超えたというデータはありませんが、これも現在のロシアが国際的な金融制裁を喰らっているという事実との整合性はあります。
具体的には、国際送金の世界において、金額的に重要性を占めているのは主に大口の資本取引であると考えられますが、ロシアの政府や企業が国際的な債券市場から排除されてしまったなかで、ロシア関連取引はロットの小さなものとならざるを得ず、人民元の使用もさほど増えていないのが実情、という仮説です。
こうした仮説が正しいのかどうかはよくわかりませんが、少なくとも金融面と通商・貿易面から見たら、ロシアはおもに西側諸国からおカネを借りることもできず、モノを買うこともできなくなっていることは事実です。
たとえば昨日の『日本のロシア向け中古車輸出が前月比で3分の1に激減』でも取り上げたとおり、日本政府が7月末に発表した対ロシア輸出規制の強化に伴い、8月におけるロシア向けの中古乗用車の輸出は前月比3分の1に激減したことが明らかとなっています。
その意味で、経済的側面から見てロシアがこの状態にあとどれだけ耐えられるかについては、ウクライナ戦争の動向を予想するうえでの重要な論点のひとつであることは間違いないでしょう。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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>ロシアの政府や企業が国際的な債券市場から排除されてしまったなかで、ロシア関連取引はロットの小さなものとならざるを得ず、人民元の使用もさほど増えていないのが実情
同じ強権国家、人民の福利厚生など念頭の外で、権力者の意向がすべての究極のミーイズム国家同士ですから、ウィンーウィンの関係なんて甘い考えなど全くないでしょう。人民元経済圏に組み込まれるなど、プーチンとっては死んでもイヤのはず、
だったらやることはひとつ。愛国心の発露を口実に、人民に耐乏生活を強い、巨額の戦費を捻出する。何せ1億4千万以上もの民。しかも、しばらく好調だった経済環境下で栄養もそこそこ足りてるから、当分は搾ってもアブラは採れる。
プーチンの戦争はいろいろな部門で悪影響を与えている。西側諸国が永続的なウクライナ支援を決めた今、核兵器の投入以外戦争の終結は見えない。だけど核兵器を使用すれば西側諸国からの核の報復は避けられない。それは、人類の終焉を意味するものだからロシアが勝つことはない。絶対勝てはしない。人民元に組み込まれたとしても中国の台湾侵攻や他国侵略が現実になればまた情勢は変わる。日本政府は来るべき時に備え準備を怠ってはならない。
ウクライナ侵略でロシア経済はかなり疲弊してきたようですね。
戦争の長期化はロシアに有利という説もありますが、これ以上の国力の消耗は中国やロシア周辺諸国との力関係を大きく変化させると思います。
この調子ですと、ロシア帝国の復活を目論んだプーチンの夢は、ロシア帝国以前のタタールによる支配時代にまで戻ってしまいそうです。今回の支配者はモンゴル人では無く中国人ですが。