早期解散が吉なのに、なぜか解散誘発恐れる立憲民主党
これまでにおける当ウェブサイトの試算に基づけば、立憲民主党は次回の衆議院議員総選挙で議席を減らす可能性が高いと考えられるものの、解散総選挙の時期が早まれば早まるほど、減少する議席を少なくすることができます。日本維新の会の浸透が間に合わないからです。もちろん、立憲民主党自身、最終的には遅かれ早かれ最大野党としての地位を喪失する可能性が濃厚ですが、その時期を可能な限り遅らせる選択肢は「早期解散総選挙」です。ところが、時事通信の報道によると、立憲民主党は内閣不信任案の提出に腰が引けているというのです。「解散を誘発するかもしれない」からです。意味がわかりません。
目次
選挙を数字で読んでみる
今朝の『新聞業界の未来も選挙動向も「数字と理論」で予測可能』などでも引用しましたが、最近の当ウェブサイトにおける独自の論点として、「数字で読む選挙動向」というものがあります。
これは、2021年の衆議院議員総選挙で、各政党の候補者が小選挙区で得た得票をもとに、その得票の一部が他党に廻ってしまった場合に、選挙結果がどう変わったかを検証した「実験」です。
これは、「政党Aと政党Bがともに候補を公認している選挙区で、政党Aの公認候補から政党Bの公認候補に票がX票移転した場合、政党Aと政党Bの総選挙区の獲得議席はどう変わるか」を実証実験したものです。
このXが5,000票だった場合と20,000票だった場合に分け、自民党、立憲民主党、日本維新の会の3政党について実証実験した結果が、次の図表のとおりです。
図表 2021年衆院選・小選挙区における得票数移動と各政党の獲得議席一覧
ケース | X=5,000票 | X=20,000票 |
ケース①自→立 | 自187→155(▲32議席) 立*57→*88(+31議席) 維*16→*17(+*1議席) | 自187→102(▲85議席) 立*57→143(+86議席) 維*16→*15(▲*1議席) |
ケース②自→維 | 自187→181(▲*6議席) 立*57→*61(+*4議席) 維*16→*18(+*2議席) | 自187→163(▲24議席) 立*57→*71(+14議席) 維*16→*26(+10議席) |
ケース③立→維 | 自187→190(+*3議席) 立*57→*53(▲*4議席) 維*16→*17(+*1議席) | 自187→196(+*9議席) 立*57→*45(▲12議席) 維*16→*19(+*3議席) |
ケース④立→自 | 自187→213(+26議席) 立*57→*31(▲26議席) 維*16→*15(▲*1議席) | 自187→242(+55議席) 立*57→**5(▲52議席) 維*16→*14(▲*2議席) |
ケース⑤維→自 | 自187→192(+*5議席) 立*57→*53(▲*4議席) 維*16→*15(▲*1議席) | 自187→210(+23議席) 立*57→*45(▲12議席) 維*16→**6(▲10議席) |
ケース⑥維→立 | 自187→184(▲*3議席) 立*57→*61(+*4議席) 維*16→*15(▲*1議席) | 自187→173(▲14議席) 立*57→*75(+18議席) 維*16→*13(▲*3議席) |
(【出所】著者作成)
ケース①でわかる、自民党は意外と薄氷の勝利
この6つのケースだと、やはり影響が大きいのは、自民党と立憲民主党の両党間での票の移転(つまりケース①とケース④)です。どちらもたった5,000票で、勢力が大きく変わってしまうからです。
2021年総選挙での各政党の比例代表における獲得議席は、自民党が72議席、立憲民主党が39議席、日本維新の会が25議席でしたが、こちらの比例代表での議席数がまったく変動しなかったと仮定しても、各政党の勢力図は大きく塗り替えられます。
たとえばケース①(自→立)だと、Xが5,000票でも自民党は32議席減らし、立憲民主党は31議席上積みします。自民党は公明党(32議席)と合わせて、辛うじて過半数である233議席超を維持することになります。
ケース①(自→立):X=5,000票の場合
- 自259→227(▲32議席)
- 立*96→127(+31議席)
- 維*41→*42(+*1議席)
また、このケース①について、Xを20,000票に書き換えてあげると、自民党の獲得議席総数は174議席にとどまり、182議席を獲得する立憲民主党と議席数が逆転してしまいます。
ただし、この場合であっても立憲民主党は過半数に届きませんので、自民、立憲民主の両党は、公明党だけでなく、日本維新の会や国民民主党、日本共産党などを巻き込んだ連立工作を活発化させざるを得なくなるでしょう。
ケース①(自→立):X=20,000票の場合
- 自259→174(▲85議席)
- 立*96→182(+86議席)
- 維*41→*40(▲*1議席)
ケース④でわかる、立憲民主党もやはり薄氷の勝利
このケース①とは逆に、ケース④、つまり立憲民主党候補がX票減らし、自民党候補がX票増えた場合、やはり立憲民主党は大敗します。たとえばXが5,000票だったとしたときも、立憲民主党は26議席減り、自民党が26議席増えます(なぜか日本維新の会も1議席減ります)。
ケース④(立→自):X=5,000票の場合
- 自259→285(+26議席)
- 立*96→*70(▲26議席)
- 維*41→*40(▲*1議席)
この場合、自民党の獲得議席は単独でも285議席にも達し、過半数(233議席)どころか、連立相手の公明党(32議席)と合わせて319議席となり、3分の2(311議席)をも上回ります。
また、Xが20,000票だった場合に至っては、自民党は314議席と単独で3分の2を上回り、単独で皆生発議も可能になるだけでなく、公明党との連立解消も視野に入ってきます(※ただし現実の連立解消は参院の都合も勘案する必要がありますが…)。
ケース④(立→自):X=20,000票の場合
- 自259→314(+55議席)
- 立*96→*44(▲52議席)
- 維*41→*39(▲*2議席)
その一方で立憲民主党の勢力は44議席と現在の半分以下に激減し、日本維新の会との「最大野党」としての地位逆転まであとわずか、というわけです。
日本維新の会の浸透速度次第だが…
もちろん、小選挙区は「地盤」がすべてですので、自民党の岩盤支持層が失われていたり、立憲民主党に「逆風」が吹いていたりするにせよ、「いきなり全選挙区で自民党ないし立憲民主党の候補が20,000票を失い、それが他党(日本維新の会など)に行く」というのは、シナリオとしては少し非現実的ではあります。
ただ、上記試算はあくまでも2021年の総選挙結果で実施したものに過ぎず、現実には日本維新の会が全選挙区での候補者擁立を急いでいる最中でもあります。
2021年の小選挙区当選者のうち、2位との得票差が10,000票以内だった候補者は、自民党が29人、立憲民主党が32人でしたので、もし日本維新の会がこの「得票差10,000票以内」の選挙区に効率的に「刺客」を送り込めば、下手をすると61議席前後が影響を受けるかもしれません。
ただし、先日より繰り返している通り、正直、「日本維新の会の伸長」という観点だけで見るならば、自民党や立憲民主党などの既存政党にとっては、選挙が早ければ早いほど有利です。両党ともに、維新の伸長を伸ばすことができる(かもしれない)からです。
立憲民主党の泉健太代表は、次回選挙で同党の獲得議席が150議席以下だった場合には辞任する考えを示しているそうですが(『自民、立民ともに「早期解散総選挙」で利害は一致する』等参照)、泉代表のクビという要素を考えなければ、立憲民主党にとっては早く解散してくれた方が間違いなく有利です。
不信任案提出に腰が引ける立憲民主党
こうした前提条件を知っていると、時事通信が5日付で配信したこんな記事を読むと、どうも違和感を禁じ得ません。
内閣不信任、悩む立民 解散誘発を懸念、賛否交錯
―――2023/06/05 07:05付 Yahoo!ニュースより【時事通信配信】
時事通信は今国会の会期末が21日に迫るなかで、立憲民主党が「内閣不信任決議案を提出するか決めかねている」、と報じました。
なぜ「決めかねている」のかといえば、不信任案を提出すれば(自民との)「対決姿勢をアピールする機会」になる一方、実際に衆院解散を誘発しかねないとの懸念があるからだそうです。
意味がわかりません。
立憲民主党にとっては、今後数年で党勢が回復する見込みはないのですから(失礼!)、現有の97議席という同党の勢力が減るのを少しでも防ぐのであれば、1日も早い解散総選挙が同党にとっては有利であるはずだからです。
ただ、時事通信によると、立憲民主党の内部では「賛否は交錯しており」、「執行部は慎重に判断する」との姿勢を維持しているのだとか。
この点、解散に慎重にならざるを得ない要因は、立憲民主党の党内に、いちおうないわけではありません。時事通信はベテランの間で「内閣不信任案を出さない選択肢はない」との見方があるとしつつも、「日本維新の会との選挙協力が難しくなってきた」ことを要因として挙げます。
ただ、これも理由になっていません。
立憲民主党との協力が厳しいのであればこそ、「最大野党」としての地位を死守するためには、なおさらここで解散総選挙に打って出る必要があるからです。
時事通信が報じた「立憲民主党の党内の雰囲気」が事実だとすれば、ちょっと立憲民主党の考え方が甘すぎると言わざるを得ないでしょう。
結局は時間の問題
ただし、「早期解散総選挙」なら立憲民主党は議席をある程度は維持すると思われるものの、結局は党勢の退潮を先送りするだけの効果しかありません。『最大野党の地位喪失危機?立民若手が緊急提言するも…』などでも議論したとおり、下手をすればあと1~3回の選挙で消えゆく運命にあるからです。
もしも立憲民主党が「最大野党」の地位を失うことがあれば、自分たちがこれまで日本維新の会に対してやってきた、「最大野党としての地位を悪用した嫌がらせ」と同じことをやられるかもしれませんし、国会での露出が減れば、その分、メディアの露出も減り、存在感を失って消滅する運命にあるからです。
日本維新の会が日本の「最大野党」の地位を獲得することが、果たして日本にとって本当に良いことなのかどうかはわかりませんが、少なくとも立憲民主党が最大野党の地位を失うことは、日本の政治シーンが大きく変化することにつながることだけは間違いないと思う次第です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。
ツイート @新宿会計士をフォロー
読者コメント一覧
※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。
やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。
※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。
※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。
当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。
コメントを残す
【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました
自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
立憲現職連中が選挙自体をビビってんじゃないすか?
あげく”「(自民の)更なる敵失」期待”なんかでフリーズしちゃっとる、とか??
最大野党がタノムは己が政策よりセンテンススプリングキャノン???
日本維新については大阪維新以上に”タマリ水”多く汲んぢまってソウですから、タイミングで付和雷同的拡大はアルかもですがソーナルと逆に一過性でオワリとナルやも
きっしーがヨユーカマシテルのも”大勢は消去法で自民!”とかフンデルからかも!?
連中のこの態度が正当化されるのは「もう少しすれば提案した政策が奏功して国民の評価・支持を得られるのに」という場合のみ。もちろんそんな行動は一切していないので、「結局政局だけじゃねぇか」と思われて当然です。維新、国民あたりは、次の選挙が楽しみなくらいなんじゃないかしら?
てか内閣不信任なんて必要ないなら出すなよ……むしろ自民支持者が岸田内閣に嫌気が差して不信任出したいくらいだろうに。
原理原則を守らない外交、現状を無視した増税路線、身内の不始末etc…
G7広島サミットが成功裏に終わったことを考慮しても、不信任案を出したいのは自民党支持者だと本当に思います。ってか、自分はすぐにでも出して欲しい。
立憲民主党は、こういう日本国民の望むものをことごとく無視する(反対の事をする)性質があるので不信任案は出さないんじゃないかな。
普段は頓珍漢な不信任案出す癖に、こういう時はダンマリ決め込んで、ホント役立たずな野党だな、と思う。早く消えてなくなって欲しい。立憲民主党。
>この場合であっても立憲民主党は過半数に届きませんので
ここの部分読んで、次の選挙では自民党にお灸をすえてもいいのかな?
っ思っちゃったのです♪
でも、すぐに民主党政権のことを思い出したのです♪
軽い気持ちで変なとこに入れるとしっぺ返しがくるのを思い出したのです♪
((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
自民⇄立憲は少ないとして
自民・立憲→維新・国民はそれなりに多いと思うんです。
自民へのお灸が過ぎると、立憲も沈んでいるにも関わらず
相対的に浮かび上がるかもしれません。
ここに公明の件はが加わると。
((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
>日本維新の会が日本の「最大野党」の地位を獲得することが、果たして日本にとって本当に良いことなのかどうかはわかりませんが、
確かにそうなのかもしれませんが、私は、少なくとも立憲民主党が野党第一党よりかは、はるかにましなのではないかと思います。ね、蓮舫さん1番じゃないといけないのですか?2番手で良いですよね。そっか3番手かな?がんばれ国民民主。
個人的には、維新が増えて「三すくみ」になればよいかと思っています。
自民=30
維新=30
国民=30
極左=10(共産党や立憲民主党など)
その時その時の政治テーマに応じて、各党が独自提案し、その内容に応じて連立の組み方を変えて与党を編成すればよいのです。
有権者としては、まともな政策が実施されることが大事なのであって、ある政党が勝ち続けることが大事なのではありませんからね。
たしかに周りから見ていると
早期に選挙あったほうがダメージが小さいのに
と不思議に感じます。
私は最初は、
今は食器棚の後ろに隠れるように大人しくして
そのうち、モリカケ以上のでっちあげネタ仕込んでと
思っているのかな?と思いました。
ただ、最近別の理由ではと思います。
それは立憲民主党の面々も
早期に選挙やったほうがダメージが少ないと
わかってはいても、自分がそれを言い出すと
当然現有議席から減った責任を押し付けられるからと
黙っているのでは?と思います。
なんせ卑怯にかけては格別の能力を発揮なさる
人たちのようですから、現有議席より減った結果を
「オレが仕切ってたら前より増えた」と
好き勝手主張し合うありさまが目に浮かびそうです(^^)
泉健太はいずれ負けんだ♪( ´ω`)
どこぞのスポンサーから「岸田内閣は我々に有益だから追い詰めるな」と言われてるんじゃないですか冗談抜きに?
秘書官問題とか、安倍さんや菅さんの時ならそれこそ年単位で内閣への嫌がらせに使ってましたし。
私も、どこぞの韓流スポンサー説に賛成です。
THE小西議員(以下、略称:ザコニシ)問題も
これまで政権取れそうになくても
あちらの用日には立憲が必要と
大目に見られた横暴な態度が
総理の岸田さんが半島とウッシッシ
してくれるなら用済みでお払い箱に
なったのだと感じます。
引用の時事にあるとおり
>> 背景には、次期衆院選の準備の遅れがある。全289小選挙区のうち200人以上とした擁立目標に対し、現状は約140人にとどまる
に尽きるのでは。準備不足、残りの選挙区で候補者を立て支援組織や系列地方議会議員をまとめ浸透を図り臨戦態勢をとるには時間がかかる。個々の議員が自前の選挙マシーン(個人後援会組織)を持つ自民党(候補者)との違い。
あー参議院にも解散があって欲しい。
任期中無風だからやりたい放題だよ…
>立憲民主党が 「内閣不信任決議案を提出するか決めかねている」、 と報じました。
→決議案の提出は「固辞される前提での『奢るよ発言』」のようなものなんですものね。
我が選挙区から出る候補者の顔が目に浮かぶと、党派を問わずげんなりします。もし維新か国民から誰か出ればどんな奴か凝視して、どれかに入れるかな。 うちの選挙区からは議員に代わってChatGPTにやって貰いますので悪しからず。