某新聞「カラスの生食」記事に対し厚労省が異例の警告

厚労省の公式ツイッター・アカウントが8日夕方、唐突に、シカ、イノシシ、カモに加えて「カラス」を名指ししたうえで、「ジビエはしっかり加熱しよう」とする警告ツイートを出しました。野生の鳥獣はただでさえウイルスや寄生虫などのリスクがあり、それらを生で食すというのは、極めて危険な行為だからです。ではなぜ、厚労省がこんなツイートを唐突に出したのでしょうか。そのカギはおそらく、某新聞が7日に掲載した「カラスの生食」に関する記事にあると思われます。

厚労省がいきなり不思議なツイートを発信

厚生労働省の公式ツイッター・アカウントは8日夕方、不思議なツイートを発信しました。

「食中毒に注意!」とあり、このツイートから張られたリンクをたどると、厚生労働省ウェブサイトの『ジビエ(野生鳥獣の肉)の衛生管理』というページに飛び、「ジビエは中心部まで火が通るようしっかり加熱して食べましょう!」という注意喚起画像が目に入ります。

厚労省からの「重要なお知らせ」

(【出所】厚生労働省『ジビエ(野生鳥獣の肉)の衛生管理』)

こちらのページだと、こんなことが書かれています。

生または加熱不十分な野生のシカ肉やイノシシ肉を食べると、E型肝炎ウイルス、腸管出血性大腸菌や寄生虫による食中毒のリスクがあります」。

これは衛生管理上、当たり前の話でしょう。

いわゆるジビエ(役所言葉でいう「野生鳥獣肉」)は人間の手により衛生管理されている家畜とは、食品として提供されるまでのプロセスがまったく異なるからです。

厚労省はイノシシやシカなどの野生鳥獣を念頭にしたジビエのガイドラインを公表していますが(『野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)』参照)、このガイドラインには食中毒などを防ぐための鳥獣の狩猟方法や処理方法などに関する詳細が記述されています。

実際、厚労省の平成23~25年度の調査によれば、野生の鳥獣からは寄生虫やE型肝炎ウィルス、細菌などが検出されていることが判明していますが(『野生鳥獣の病原体保有状況調査の結果について』参照)、ジビエには衛生管理に細心の注意が求められることはいうまでもありません。

なぜ「カラス」を挙げているのか

ただ、厚労省の元ツイートを見ると、ハッシュタグで「#シカ」「#イノシシ」「#カモ」とならんで、なぜか「#カラス」というものが含まれています。

これはいったいどうしてでしょうか。

結論的にいえば、某新聞が3月7日付で、「カラス肉の生食文化を紹介する」、といった記事を掲載していたからではないかと思われます。

正直、それを報じた新聞の名称や記事タイトル、記事の記載内容の詳細などを当ウェブサイトで紹介することは避けたいと思います(ただし、3月9日午後2時時点で「カラス ジビエ」などで検索すると、該当する記事がトップに表示されます)。

端的にいえば、極めて非常識な記事です。「その新聞社の記者が野生のカラスの刺身を食べてみた」などとするもので、記事にはその写真なども掲載されているなど、記事をうっかり読んでしまうだけで気持ちが悪くなるかもしれません(※ですので当ウェブサイトではリンクそのものを張りません)。

こうした背景を知れば、厚労省が3月8日付で、わざわざ「#カラス」というハッシュタグをつけてツイートを発信した理由が見えてきます。厚労省としてはおそらく、この新聞記事の影響を受け、マネをする人が出ることを懸念したのではないでしょうか。

記者の専門性欠如:なるほど、新聞が廃れるのも無理はない

少し乱暴な言い方ですが、今回の一件は氷山の一角のようなものであり、著者などは「なるほど、新聞が廃れるのも無理はない」とする感想を持ってしまいます。新聞記者の専門知識の欠如は今に始まった問題ではありませんが、さすがに「カラスの生食」は非常識すぎます。

ただ、幸いなことに、「新聞がその行動を社会的にオーソライズする」という機能は、急速に失われています。ひと昔前であれば「新聞に載った」というのは、それだけで社会的に何らかの「権威」が生じるような事象だったことは間違いありませんが、現在は違います。

正直、新聞が報じた内容を、新聞以外の主体――この場合は官庁(厚労省)ですが、ときには一般企業や一般人など――が「それは違う」と否定するようになったというのは、非常に大きな社会的変化といえるでしょう。

この点、以前の『新聞衰退の原因はスマホではなく新聞業界の自業自得だ』などでも報告したとおり、新聞業界は部数の減少が激しく、仮に毎年217万部のペースで部数が減っていけば、2022年10月1日から起算して遅くとも13.98年後には紙媒体の新聞の発行部数はゼロになります。

しかも、この「13.98年」はあくまでも平均値であって、新聞によってはもっと速いペースで部数が落ち込むこともあるでしょう(あるいは産経新聞社のように「ウェブ戦略で生き残りを賭ける」、というケースもあり得るとは思いますが)。

そんなご時世のもとで、この「厚労省激怒事件」を眺めていると、「なるほど、新聞が凋落するわけだ」と思ってしまうのも無理はないのかもしれません。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 匿名 より:

    寄生虫入りのキムチ?なあに、却って免疫が付く。

    1. KY より:

       当時どれだけこのフレーズが揶揄されたかも某新聞は忘れたからこそまた同じ非常識な記事を平気で書いたんでしょうね。

    2. 匿名 より:

      寄生虫に対して免疫って効果あるのかな
      虫下しを定期摂取する国もあるそうですが

  2. 引っ掛かったオタク@生はいろいろヤバイっしょ より:

    人里から隔絶された山奥のカラスはそれなりに旨いらしいですが、そも食い代が少ない獲物でわざわざ手間かけて捕るほどのモンでもないそうです
    街場の奴ぁダメですよナニ喰っとるか知れたもんじゃない
    鹿肉の寄生虫とかホラーなレントゲン画像有るくらいジビエは下処理から加熱調理大事なんですが…記者と言うほどバカで無しを地でアピールしとんすかね?
    そいや昔は黒部の山奥だと釣りたてのイワナを活きたまま竹筒に入れ酢で満たし栓して腰に吊り日暮れまで活動したあとバラけたイワナを肴に一杯…なんて話もあったそうで

  3. 匿名 より:

    元記事を読んでないけど、鳥獣保護法違反の可能性もたかいのでは?

    1. 引っ掛かったオタク@カラスも狩猟鳥獣 より:

      脊髄反射カキコする前に確認する習慣オススメ

      元記事だけから読むかぎりは狩猟期間に猟区ないしはそれに相当する地域で猟師が捕ってきとるげに受けとれますけんども…新聞記者が書いとる記事じゃけぇ信用ならんかもしれんですのう

    2. 写真まずそうだった より:

      元記事見るとカラス食は伝統文化的なもので、法令的には猟でとったものや有害鳥獣駆除でとったものは自由に処分できる的なことが書いてあった。

      記事のカラスもそういう猟で取ったものなら多分問題ない。ただ、猟で取ったものとは断言されてないので、わざとぼかしてるのかもしれないけど。

      あと、記事中に「生食は危険」的なことも一応は書いてあった。
      ホントに一応。
      「危険だけど消えるのはもったいない」なんて書いているので危険意識皆無。
      その挙げ句に「食べ物への偏見は差別につながる。偏見をなくすことが世界平和につながる」なんて書いてるから、もうアレすぎて……

  4. sqsq より:

    武漢ウィルスみたいなのが日本で発生するぞ。

  5. ビトウ より:

     コメント失礼します。

     コオロギでもカラスでも鳩(法改正しないと駄目かな?)でもドブネズミでも食べたい人はどうぞ。でも生は止めたら?腹壊す程度で済むとは思えないです。
     地球環境がー!食文化がー!と言うなら、海のゴキブリ「ミンククジラ」を沢山食べればいい。毎年人類の3倍以上魚喰ってるそうなので。人類の次に賢い割に加減を知らぬ困った奴です。
     一番環境への負担を減らせるのは人肉ですかね。殺して喰えば、その分他の生物を殺す量も減らせますし。
     人肉の扱いは支那が頗る詳しいから、某新聞は資治通鑑読み込んで、人肉カプセル持参で教えを請えばいい。文革の頃迄平気で食ってたそうだから。
     映画「アクトオブキリング」の支那版を誰か作らないかな?「ルックオブサイエンス」の通州事件版でも可。
     日本国で人肉食べたい人は豚肉で我慢して下さい。臓器移植出来る程度には人間に近いので。

  6. 古いほうの愛読者 より:

    元記事読みました。これを書いた記者も非常識ですが,掲載を許可した上司も一連託生ですね。無知は怖い。本当は,魚の刺身も,確率は低いものの多少危険な食べ物です。
    昔々,支配階級の女性は有毒な鉛を体中に塗って,自分や子供の健康や命を害していました。科学に疎いと,時に自分の命を縮めます。

  7. asimov より:

    更新ありがとうございます。

    T新聞社ですね。
    他社が報じた続報が出ていたので貼っておきます。
    https://news.yahoo.co.jp/articles/7198f9633c056dadcbae5d4f59608a302bfb9804

    取材に対しT新聞社は「記事に書いた通りです」としか答えていません。

    久しぶりに、電子的に東京から失礼します。
    弱そうなので、多用するつもりのない串ですが。
    意味の分かる方は、スマホアプリではなく手動の方が良いようです。
    アプリは七割以上何か仕込まれているようです。

  8. 匿名 より:

    まあユックでも食ってなさいってことで。

    ハシボソガラスは草食性が強いのでそれなりに食えるという話ですね。カラス食って10年前ぐらいに話題になってたような。

  9. 青い鳥 より:

    掲載するなる週刊誌やタブロイドのコラムでやる内容だなと思うが、記事自体はそんなに悪質だとは思わないかな
    それよりも、一応「新聞」に掲載した事がこの新聞社の意識が見えるなと
    記者でなく新聞社としての注意書すらないのを見ると不特定多数の人が読み、真似をするかもという点に意識がいっていないか、真似したところで自己責任だという意識なのだろう
    新聞は社会規範を共有、浸透させる役割もあったと思うが、これではマスコミが批判するSNSなんかと変わらない
    つくづく中の人間の質が落ちたんだなと思わざるを得ない

  10. 同業者 より:

    未知のウイルスは野生動物からやって来ますからね。
    ウイルスの研究者も獣医学者が多いです。
    東京新聞さん、日本国民をモルモットにでもしたいのでしょうか。
    「死ね死ね団」を思い出してしまいました。

  11. 通りすがり より:

    ちょっと昔に話題になった「山賊ダイアリー」というマンガでカラス採って食べてましたね。

    アマゾンの説明より
    「現役猟師、兼マンガ家。岡本健太郎による狩猟&ジビエ喰い実録日誌。ウサギの唐揚げ、カモのロースト、カラスの焼き鳥etc、山グルメ満載!山で迷ったときの心得など…」

    カラスはしっかり焼いて食べてましたw

    山賊ダイアリーは完結しましたが、その後「ソウナンですか?」というサバイバルマンガの原作も手掛けてましたね。

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