「円安ショック」?製造業の経常利益水準が過去最大に

昨日公表された法人企業統計を眺めてみると、2022年9月期における経常利益は、製造業が牽引する格好となり、全産業において9月期としては過去最大でした。また、非製造業に関していえば、必ずしも経常利益は過去最大だったとはいえない一方で、製造業に限定していえば、データが存在する過去と比べて最大に達しました。「悪い円安」論はいったいどこに行ったのでしょうか?

法人企業統計で経常利益が過去最大水準に!

昨日は、法人企業統計が公表されています。

これについて、予想通りというべきでしょうか、製造業を中心に、経常利益が過去最大水準を更新したようです。

公表された数値は2022年7~9月期のもので、データの区分がいくつかあるのですが、本稿では差し当たって、「全産業(金融業、保険業を含む)」、「金融業、保険業以外の業種(季節調整値)」の2つの区分を紹介したいと思います。

法人企業統計調査・データセット一覧
  • 金融業、保険業以外の業種
  • 全産業(金融業、保険業を含む)
  • 金融業、保険業(集約)
  • 銀行業
  • 貸金業、クレジットカード業等非預金信用機関
  • 金融商品取引業(第一種金融商品取引業であって有価証券関連業に限る)
  • その他の金融商品取引業、商品先物取引業
  • 保険業(その他の保険業を除く)(集約)
  • その他の保険業
  • 金融業、保険業以外の業種(季節調整値)

(【出所】『政府統計の総合窓口 e-Stat』。本稿で取り上げるのは下線で示したデータセットに限る)

全産業(金融・保険含む)は9月期としては過去最大

これらの統計をもとに、調査対象会社の「経常利益(当期末)」という区分のデータを取り上げておきます。まずは、「全産業(金融業、保険業を含む)」のデータです(図表1)。

図表1 経常利益(当期末)(金融・保険を含む・全規模)

データが収録されているのが2008年4~6月期以降であるため、データの一部が途切れていますが、これも非常にあからさまなグラフが出来上がりました。

2009年3月期に大きく落ち込んでいる理由はいわゆる「リーマン・ショック」のためだと考えられ、また、2020年6月期・9月期に大きく落ち込んでいる理由はコロナ禍のためと考えて良いでしょう。

ただ、とくに円安が進展し始めて以来、日本企業の経常利益の額は右肩上がりです。

2022年9月期において、6月期と比べて経常利益が落ち込んだ理由はさだかではありませんが、銀行・保険業を中心に金利上昇に伴う運用ポートフォリオのリバランスによって損切りが行われた影響もあるのかもしれません。

しかし、図表1のグラフを、各年9月のデータのみを使って書き換えてみると、興味深いことがわかります(図表2)。

図表2 経常利益(当期末)(金融・保険を含む・全規模)(9月期のみ)

図表2でわかるとおり、9月期の経常利益水準としては、過去最高を更新しています。

金融・保険業以外の全産業に関してはかなり堅調

次に、金融・保険業を除外した全産業についても見ていきましょう(図表3)。

図表3 経常利益(当期末)(金融・保険除く全産業)

こちらはさらに露骨です。

金融・保険業を除外すると、有価証券運用で発生したであろう損失の損切りと思われるフローがないためでしょうか、経常利益は収録されているデータで見る限り、前四半期に続いて過去最高レベルを計上しています。図表3について、9月のみを抽出した図表4だと、さらに明白でしょう。

図表4 経常利益(当期末)(金融・保険除く全産業)(9月期のみ)

製造業の経常利益は過去最大に!

ただし、これを製造業と非製造業にわけると、悲喜こもごもです。

製造業に関していえば、収録されている過去データと比べ、2022年9月期の経常利益は過去最大を更新しています(図表5)。

図表5 経常利益(当期末)(製造業)

2009年3月期と2020年6月期に大きく落ち込んでいる理由は、それぞれリーマンとコロナでしょう(製造業は、とくにリーマン時には経常赤字に転落しています)。

また、例によって9月期のみに絞ってみると、図表6のとおり、2022年9月期の製造業の経常利益は突き抜けていることがわかります。

図表6 経常利益(当期末)(製造業)(9月期のみ)

非製造業はやや低調

一方、好調な製造業に対し、非製造業については、少し風景が異なります(図表7)。

図表7 経常利益(当期末)(非製造業)

これによると、大きく落ち込んだコロナ禍の最中の2020年6月期と比べればずいぶんと回復していますが、それでも過去最大水準だった2019年3月期と比べると、回復は道半ばです。9月期のみに限定したグラフ(図表8)で見ても、状況は似たようなものでしょう。

図表8 経常利益(当期末)(非製造業)(9月期のみ)

いずれにせよ、今回の法人企業統計、経常利益水準は製造業が牽引するかたちで、9月としては過去最高水準に達した格好です。金融・保険業や非製造業が振るわなかった(可能性がある)一方で、製造業は大いに潤ったと断定して間違いないでしょう。

これなど、(良い意味での)「円安ショック」などとでも呼ぶべきなのかもしれません。このあたり、「悪い円安論」を唱えていた方々の見解を、是非ともお伺いしたいものですね。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 雪だんご より:

    現実はこうなのに、「悪い円安」が流行語大賞に選ばれたそうで……

    マスコミの「ネットで余計な知恵つけてんじゃねえよ!うるせーな!」とでも
    言わんばかりの態度は今後も変わらないのでしょうね。やれやれ。

  2. 古いほうの愛読者 より:

    円安になれば,製造業やグローバル企業は儲かるでしょう。韓国も同じ構造のはずですが,半導体価格の下落が効いてしまったようです。あと,日本の場合は,海外の子会社等の利益を日本円で換算したときの利益が為替レート分上昇する,という効果もあります。日本人の給与には無関係ですが。
    金融・保険は外債の損が大きく,生保はコロナ感染者への支払いも重なって大変でしょう。あと,輸入食材を買って国内で食品を販売している企業も大変なはずですが,グローバル企業なら大丈夫かな。

  3. はにわファクトリー より:

    日本経済新聞社が未来を読み間違え続けるのは、眼前の現実が見えていないから、理解できないからです。語感を練り鍛え磨いている、文才文芸に溢れ、広く深い教養を蓄えた日経記者諸君にあっては、まずは高校基礎課程「情報Ⅰ」の学び直し=リスキリングを実践していただき、編集部一体となって部長どのをリモートワークという名の謹慎・窓際席へ再配置=リストラクチャリングしたうえで、職業的半可通・狼少年の誹りにひるむことなく、週末職場ロックアウトを通じた職場の特殊清掃を可及的速やかに実行に移すことを熱心な一読者として希望するものであります。

    1. 価値観が違いすぎる より:

      経済以外では、たまにまともらしいので、「経済」を勉強してもらうのが先かもねー。

  4. カズ より:

    円安で、最終消費段階での価格差が品質差に凌駕されちゃったのでしょうね。
    (消費者心理→品質差>価格差)良いものが安ければ売れない訳はないのかと。

  5. Sky より:

    1票の権利を持つ&ネット情報に疎い&実業界に疎く実業界からの収入を得ていない&可処分時間は豊富にある、これらはTV業界の洗脳対象として最も重要な要素です。
    その対象者にとって刺さる言葉が「悪い円安」ということで、要するにマーケティング用語だということですね。

  6. よし より:

    何でマスゴミがほとんど報じないのか?
    マスゴミだからですね。
    マスゴミの衰退はお隣の下半島ぐらい早いかも。

  7. 元日本共産党員名無し より:

    韓国通貨よりややドルに対して割安なのが上手くいっている様にも思えます。つまり円高の時にはただ円高だったのでは無く韓国より円高で韓国に散々に苦しめられ、韓国側は日本のシェアを奪いながら美酒に酔って居た。中共の元との関係も同様の傾向があった事でしょう。
    つまり円安に振れても中韓に比べて為替高では効果が薄く、円高だとしても中韓の為替が対ドルで円より高いと日本への打撃は軽減されるのでは無いか?
    更に敷衍するならば日本の少子高齢化は深刻な事で国力の衰退は間違いないのですが中韓が脅威的な速度で日本を追い越して極端な少子化(韓国)したり、日本の高齢者層の「厚み」を今後確実に追い越す一人っ子政策の結果の人口のガケ(中共)だったりする事で、案外良い具合に日本のハードランディングをやんわりソフトに包んでくれるのでは無いか?
    日本の政治にはそれはそれで問題もあるが中韓ほどのえげつない苛政になっては居ないので中韓の干渉と軍事力による戦後秩序の変更を許さなければ日本は案外上手くゆくと言う気がしてきました。
    サッカー戦のせいでしょうかね?

  8. クロワッサン より:

    原材料の輸入価格が決まるタイミングと、最終製品を販売したドル売り上げ高を円に換えるタイミングが半年くらいズレるなら、110円台で買った割安な原材料で作られた最終製品の売り上げを140円台で換算出来るので、見かけの利益は増えますね。

    ただ、140円台で買った原材料で作った最終製品の売り上げを130円で換算したら、利益は少なくなりますね。

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