韓国国債金利負担増:本当のリスクは民間資金需要圧迫

韓国の国債金利上昇で、韓国政府の利払い負担が急増している、といった話題が出てきました。国会予算政策処が14日にまとめた報告書によれば、2011年から20年に毎年16~17兆ウォン台だった国債金利負担が、今年は18.8兆ウォンに、来年は22.9兆ウォンに増えるのだそうです。また、26年には30.9兆ウォンに達するとの試算もあるそうです。ただ、韓国経済の本当のリスクは国債金利負担ではなく、国債金利上昇で民間金利負担も押し上げられることにあります。

韓国の債券市場の利回り上昇

当ウェブサイトでは『韓国債券市場の大混乱:いま韓国で何が起きているのか』などでも繰り返し指摘しているとおり、現在、韓国の金利市場の状況が怪しくなってきています。金利市場、つまり「おカネを借りるための市場」では、どの年限でも金利が一様に上昇しているからです。

韓国銀行の利上げの影響でしょうか、韓国銀行のデータに基づけば、翌日物コール金利は現在、3%前後の水準であり、それ以外の金利は一様にそれ以上に上昇しています。

たとえば韓国の1年物、3年物国債の利回りは4%前後ですし、金融債は5%前後、社債は「ダブルAマイナス」級で5%超、「トリプルBマイナス」の場合は12%近くにまで上昇していることが、それぞれ確認できます(図表)。

図表 韓国の債券市場

(【出所】韓国銀行データより著者作成)

韓国メディアがこれまで報じてきた、韓国電力の社債発行による「クラウディング・アウト」、韓国の生保会社の「コールスキップ」報道に端を発する混乱、「レゴランドABCPデフォルト」騒動などの混乱も、結局のところは韓国銀行のやや強引な利上げが原因なのかもしれません。

韓国紙「国債金利負担上昇」

こうしたなか、韓国メディア『中央日報』(日本語版)には今朝、こんな記事が出ていました。

韓国、国の債務も金利で苦痛…利子だけで来年23兆ウォン

―――2022.11.15 09:40付 中央日報日本語版より

中央日報によると、「今後韓国政府が背負わなければならない国の債務の利子負担が雪だるま式に増える見通し」となったのだそうです。

具体的には、国会の予算政策処が14日にまとめた『2023年度予算案総括分析』と題する報告書で、国の債務にともなう利子支出費用は、今年、18兆8000億ウォンに増えるのだそうです。

この金額、11年~20年にかけての毎年16~17兆ウォン台を維持していたのだそうですが、昨年は19兆2000億ウォンに増えており、今年は少し減るものの、来年以降は利上げの影響が本格化。

23年に22兆9000億ウォンに増えるのを皮切りに、24年には25兆8000億うぉん、25年に28兆5000億ウォン、そして26年には30兆9000億ウォンに達するのだそうです。たった4年で利子負担が12兆1000億ウォン増える計算ですね。

これについて中央日報は、「国債平均調達金利の上昇」を理由に挙げます。2020年に1.39%だった調達金利は21年に1.79%、今年8月末には2.95%にまで上昇し、「世界的な金利引き上げ基調により今年末と来年はさらに上がると予想される」、などとしています。

韓国国債のデフォルトは回避可能だが…

ただ、韓国の場合、本当に怖いのは国債金利負担の上昇ではありません。

韓国の国債は基本的に、ごく一部を除いて自国通貨建てで発行されており、また、戦争などの混乱時を除けば、自国通貨建ての国債のデフォルトという事例はほとんど存在しないからです。

普段から当ウェブサイトで指摘しているとおり、国債がデフォルトするためには、次の3つの条件を同時に満たすことが必要です。

国債デフォルトの3要件
  • ①国内投資家が国債を引き受けてくれないこと
  • ②海外投資家が国債を引き受けてくれないこと
  • ③中央銀行が国債を引き受けてくれないこと

(【出所】著者作成)

このうち韓国の場合、②の条件については怪しいところです。なぜなら、韓国の通貨・ウォンは国際的に通用する通貨であるとは言い難く、外貨準備の組入通貨などとしてもウォンの地位は極めて低いため、外国人投資家がウォン建ての国債を買い支えてくれるという保証はないからです。

ただ、①と②の条件が満たされてしまったとしても、最悪③の条件を満たさなければ、韓国国債のデフォルトは発生しません。この点については心配する必要はないのです。要するに、韓国銀行が国債を引き受ければ、韓国国債のデフォルトは回避可能です。

本当のリスクはクラウディング・アウト

しかし、韓国の場合、本当に心配しなければならないのは、「クラウディング・アウト」の論点でしょう。

先ほどの図表でも確認したとおり、すでに韓国の金利水準は、オーバーナイトコール金利、国債利回りなどがいずれも上昇し始めており、これに伴って金融債や一般事業債などの利回りも押し上げられ始めています。

中央銀行が金融を引き締めるなかで、韓国政府が発行した国債の残高の圧縮が進まなければ、資金需要に比べて資金供給が枯渇するという状況が出現し、一般企業や家計などの債務調達環境がよりいっそう悪化しかねません。

その意味では、韓国の一般市場金利がジリジリと上昇しているという状況が、韓国経済にどんな影響を与えるかについては、純粋に経済評論という立場からも興味ないし関心を持たざるを得ない論点のひとつであることは間違いないでしょう。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. sqsq より:

    BBB-といえば「ジャンク債」
    12%弱の高利とはいえ、買う人がいるんだ?

    1. より:

      一応、S&Pのレーティングでは、BB以下の格付けを「投機的」としています。一般にジャンク債と言われるのは、格付けB以下の債券だろうと思います。
      https://disclosure.spglobal.com/ratings/jp/regulatory/delegate/getPDF?articleId=2753061&type=COMMENTS&subType=RATING%20DEFINITION

      とはいえ、12%程度の利率となると、ジャンク債並みではありますね。
      まあ、そういうのを狙いたがる人もいますから。私は御免ですけど。

  2. 豆鉄砲 より:

    利払いに追いかけられて少子化も加速するでしょうね。韓国は30年後には消滅するのでは?

  3. 古いほうの愛読者 より:

    韓国の財政は,文在寅政権時のバラマキ政策の後始末で,しばらく大変なのは確かでしょう。ただ,中央日報の記事は,経済危機だと大袈裟にあおりたてるタイプにものが多く,本当に危機かどうかは怪しいところがあります。国債利払い18兆8000億ウォンなんて,韓国経済から見たら微々たる額の気がします。民間企業の社債発行も,あと半年くらい我慢すれば,環境が大幅に改善すると思います。住宅ローンで破産する人が出るのは,韓国でもアメリカでも日本でも同じです。多少,割合(人数)に差はありますが。
    金利上昇の話ですが,上昇してないのは日本や中国など,特殊な国だけです。韓国だけの問題ではありません。日本なんか,国内の債券は下落していないので,外債の暴落で,しっかり損をしています。
    上のコメントのBBB-債の話ですが,そういうジャンク債を商売にしている投資銀行等も多いです。破産確率を考えながら,高金利債に分散投資するわけです。

  4. 匿名 より:

    24年には25兆8000億 うぉん (৹˃ᗝ˂৹)ですね!

  5. どみそ より:

    「日本政府は借金だらけ。韓国政府の借金は少ない~」と いうのが 唯一の自慢だったんですけど。
    民間債務山ほど。国家財政も急落中。
    国債格付けが 見直しになったら ガラガラと。

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